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第七話 九月六日(火) 幽霊なんていない! ……って言い切れないもどかしさ

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 今日も、朝のルーティンとして、世界に「おはよう!」

 うんうん! とっても元気だ! 調子がいい!

 さっそく、ロードワークに出たけど……。郵便受けに、新聞が差さってた。今日は、先を越されちゃったな。なんか残念。

 とりあえず、行ってきーましょ。


 ◆ ◆ ◆


 不審者が出るらしいから、ロードワークは日が出てからにしなさいって、お母さんに怒られちゃった。しゅん。でも、心配してくれてるんだものね。ボクは今、女の子なんだし。

 そのあと、ねぼすけハーちゃんを起こし、朝食をいただいて、今日も元気に登校~!

 そして、一時間目・数学終わり!

「勉強、ムズ~」

 げんなりした様子で、バーシがボクの机にやってきた。

「だるそうだね。ボクは、初めて覚えることだらけで楽しいよ!」

 こちらは、元気ハツラツ! 数学自体は、日本の授業とほとんど同じだと思うけど、ボク、ろくすっぽ通えてなかったからね。

「アユムちゃんは、元気ですねえ。うーん、勉強楽しいって感覚だけは、共有できそうにないわ~」

 ため息吐くと、幸せが逃げちゃうよ?

「よっ。二人とも、何の話?」

 あ、ククシャロコンビも来た。

「勉強がたのしーって話~」

「逆だよ~」

「何かよくわかんないけど、意見が割れてるみたいだねー。あたしゃ、バーシに同意だな」

 えー?

「シャロンは?」

 楽しんでくれた、かな? かな?

「眠気をこらえるのに、必死だったっすよ~」

 ああ、そういえば、そんなキャラでした。昨日の校長先生の話とか、寝てたんだろうなあ……。

「むう~。新しいこと覚えるの、楽しいと思うんだけどなー?」

「あ、話は変わるんだけど」

 うにゅ。バーシに、話題を変えられてしまった。

「西に廃教会あるじゃない? そこ、出る・・んだって! 探検しようよ!」

 おばけのジェスチャーをするバーシ。

「うえ!? あたし、そーゆーのニガテなんだよ~」

「うちは、キョーミあるっすね~」

 おや、今度は凸凹コンビで意見が割れた。

「でも、不審者が最近この辺出るらしいから、ボクとバーシだけだと、さすがに不安なんだよねー」

 ククに視線を送る。

「ぐ……。そー言われるとなあ……。えーい、あたしも女だ! 肚ぁ、くくっちゃる!」

「そーこなくちゃ!」

 バーシが、パチンと指を打ち鳴らす。

 うんうん。ボクも、バーシと二人ぼっちで夜の廃教会とか怖いからねー。色んな意味で。

 というわけで、教会そばを通るバスがあるので、今夜四人で、時間を合わせて乗り合わせようと相成ったわけです。

 ボク自身が、オカルトの体現者だからなー。幽霊なんかいないって、心の底から言えないのがキビシー!


 ◆ ◆ ◆


 バスで目的地に向かっていると、途中のバス停で、ククシャロコンビが乗ってきました。

「ばんわー。いやー……なんか寒気がするなあ」

 自分の、両二の腕をさするクク。まあ、九月の夜だしねー。って、そういうことを、言いたいんじゃないんだろうけど。

「目的地に着いたら、起こしてくださいっすー」

 アイマスクを着けて、寝息を立て始めるシャロン。相変わらずだなー。

 ボクらは猫耳だから、こういうのは目の横に引っ掛ける部分がないので、頭の上を通るようにもバンドを付けて、位置を安定させています。

「例の教会だけどねー、十年以上前かな? 大火事になって、司教様やシスター、子供たちがたくさん犠牲になったんですって。で、それ以来、出る・・ようになったらしいよ~」

 顎の下から、懐中電灯で自分の顔を照らすバーシ。明るい車内でやっても、あまり怖くないよ? ククは、「ひい~っ」って悲鳴あげてるけど。

 肝心のボクはといえば、怖くないって言ったら嘘になるけど、小さい頃から、バーシにこの手の探検・・につきあわされてきたものだから、ある種の慣れがあるというか。

 まー、いつもみたいに、彼女がガッカリする結果で終わるでしょう。

 しかし、バーシ秘蔵の怪談の数々に、ククが尻尾巻いて耳塞ぎながら、「ひい」とか「ぎゃあ」とか怯え倒してるけど、シャロン、よくこの騒音で熟睡できるなー。大したもんだねえなんて、変な感心をしたり。

 そんなことをやっているうちに、目的のバス停に着いたので、眠り姫を起こし、いざ廃教会へ! ……何も起きなきゃいいけど。
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