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第一話 九月五日(月) 今日も元気!!

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 ぱちっと、目が覚める。

 身を起こし、う~んと伸び。今日も体の調子がいい! 

 がらりと窓を開けて、「おはよー! 今日も元気をありがとう!」と、誰に言うでもなく叫ぶ。まだ、外は完全に明るくなっていないけど、スズメたちも元気だ!

 ジャージへの着替えとトイレを済ませたら、洗顔。

 鏡に映っているのは、金髪ショートヘアの美少女。ただし、猫耳。いや、この世界・・・・では、これが人間の耳なのだけど。

 寝癖を治すついでに、猫のしっぽも、軽くブラッシング。ちなみにこれも、人間のしっぽ・・・・・・

 顔を洗ったら、台所へ行き、ホワイトボードに赤マジックで「アユム ジョギングに行ってきます!」と書き残し、家を出る。

 新聞は……まだ来てないか。少し待っていよう。

 少しすると、向こう側からスクーターが近づいてくる。

「おっはよー! 今日も早いねえ、アユムちゃん」

 猫耳ヘルメットな運転手のお姉さんが、ボクの前で停車し、新聞を一部手渡してくる。

「おはようございます! お姉さんもお疲れ様です!」

「ありがと。じゃ、次のお宅行くから」

 そう言って、彼女は再発進。遠ざかっていく。

 さーて、新聞を家に入れたら、ボクもご近所流そうかな!


 ◆ ◆ ◆


「ただいまー!」

 心地よい疲れとともに、帰宅。

 台所を覗くと、お母さんが料理を作っていて、おじいちゃんが新聞を読んで、おばあちゃんはテレビを見てる。三人とも、猫耳に猫しっぽだ。

「おはよー!」

 元気に挨拶すると、それぞれから「おはよう」と返事が帰ってくる。

「お父さんはお店かな? ハーちゃんは……今日もねぼすけか」

 うんうんと、一人うなずく。

「そういうわけだから、シャワーの前に起こしてきてくれる?」

 お母さんにそう頼まれ、「ラジャー!」と、二階に向かうのでした。


 ◆ ◆ ◆


 ボクの部屋の隣、「ハーシル」というかけ札のドアをノック。……返事なーし。

「入るよー」

 中に入ると、妹のハーちゃんが、すごい寝相で寝息を立てていました。

 頭が、枕と逆だし。どこをどうやったら、そーなるの?

「起きてくっださーい。あっさでっすよ~!」

 シャーッとカーテンを開けると、「うにゃ~、まぶし~!」と、可愛い妹が苦情を言う。

「あと、十分じゅっぷん~」

「ごはん、できちゃうよ? 冷めたら美味しくないよー。さあ、起きる起きる!」

 がばっと布団を剥がすと、「うにゃ~!」と、濁音が混じったような声で悲鳴を上げる。

「くはあ~。おはよー……」

 大あくびをしながら、挨拶するハーちゃん。

「はーい、おはよー。じゃ、ちゃんと起こしたから、ボクはシャワー浴びてくるねー」

 そう言って、彼女の部屋をあとにするのでした。


 ◆ ◆ ◆


 ふー。ロードワーク後のシャワーって、なんでこんなに気持ちいいんだろう。

 ご飯がもうすぐできるから、あんまり悠長に出来ないので、軽く汗を流すだけなのが残念だけど。

 それにしても、自分の体を見て、改めて思う。

 「ほんとに、女の子なんだなあ」って。

 ボクの前世は、こことは違う世界で、人間の耳もこんな感じではなく、丸っこいのが顔の横についていた。しっぽもなし。

 そして、ボクは男の子だった。

 ボクにとっては、前世はただの記憶の一部っていうのかな。今生で女の子であることには、とくに違和感がないんだけど、幼い頃、前世の記憶がなにかの拍子で戻ったときだけは、大変パニックを起こしたらしい。

 それ以来、転生したと公言しているのだけれど、残念ながら、唯一の例外を除き、家族も含めて首を傾げられてしまう始末。

 こんなボクだけど、前世ではとても体が弱く、たいそう早死にしてしまったようだ。

 たしか、覚えている限りだと、十三歳の誕生日を迎える直前だったはず。

 学校も、中学まではなんとか上がったけれど、ほとんど入院生活だった。

 だから、ボクの今生の目標は、ズバリ長生き! とりあえず、念願の十三歳の誕生日を、元気に迎えたい!

 前世では、よくお父さんとお母さんが、「丈夫に産んであげられなくてごめんね」って泣いて謝っていたけれど、誰も悪くないよ。ただ、神様がイジワルなだけだったんだ。

 前世のお父さん、お母さん。そして、お姉ちゃん。ボクこそ、長生きできなくてごめんね。みんな、向こうで元気に暮らせているのかな。ボクはこっちでは、とても元気だよ!

 だから、あまり自分たちを責めないでね。
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