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001.思い出

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 私が子供の頃に暮らしていた場所は田舎だった。
 古き良き昭和の空気が漂う場所。
 そう言えば聞こえはよいが実態は違う。
 過疎が進む田舎だった。
 ショッピングモールなんてオシャレなものは当然のように無い。
 それどころかスーパーマーケットすら無い。
 もちろんコンビニエンスストアも無い。
 あるのは小さな雑貨屋だけだ。
 食料品、衣料品、医薬品、玩具類、……
 謎の品揃えが小さな店に雑多に詰まっていた。
 それをたった一人の老婆が切り盛りしていた。
 そんな状態だから品物の管理なんてことはしない。
 賞味期限が切れた食料品があるのはご愛敬だ。
 「賞味期限が切れていますよ」と客が言えば「ごめんなさいね」と老婆が返す。
 そして老婆は受け取った品物を棚へ返す。
 廃棄処分なんて行動はしない。
 賞味期限に気付かない運の悪い客が買ってくれるのを待つだけだ。
 客も老婆のそんな行動を注意はしない。
 自分ではない運の悪い客がその品物を買うのを待つ。
 そして買ったら笑いものにする。
 悪意ある行動ではあるが、買った方も気にはしない。
 笑い話のネタにして、からかわれることを楽しむ。
 一種の娯楽だ。
 刺激の少ない田舎では、そんな出来事も娯楽になる。

 さて、そんな田舎だが学校があった。
 田舎には数は少ないが子供がいた。
 その子供達が通う場所が必要だから、小学校と中学校を兼ねた小さな学校があった。
 義務教育だから無くすわけにはいかなかったのだろう。
 補助金も出ていて、その学校は辛うじて存続していた。
 けれど、その学校の存続が危ぶまれる年があった。
 その年は一学年に四人の生徒がいた。
 都会の学校に通ったことがある人間なら気付くと思うが、一学年に四人は少ない。
 少なすぎると言っていい。
 しかし、その学校にとっては違った。
 例年なら全校生徒が四人で、一学年には一人いるかどうか、といったところだ。
 一学年に四人は多い。
 多すぎると言っていい。
 奇跡のような年だった。
 だけど、奇跡には代償がある。
 一学年に四人いる代わりに、他の学年には一人もいなかった。
 全校生徒が四人。
 一学年に四人。
 そんな年だった。
 そのままの生徒数で四人が卒業したら、その後は生徒数がゼロになる。
 それでは補助金も出なくなる。
 そうなれば学校は廃校になるしかない。
 そんな状況だった。
 そんな状況だったが、四人の生徒達には関係ない話だった。
 四人はのびのびと学校生活を送っていた。

 安藤アオイ。
 学校で唯一の男の子で、少しワガママ。 

 安藤アンズ。
 アオイの双子の妹で、甘えっ子。

 加藤カエデ。
 気が強くて、おませな女の子。

 佐藤サクラ。
 好奇心が旺盛だけど、臆病な女の子。

 どこにでもいる子供達だが、田舎に暮らしているおかげで純粋で無邪気だった。
 必然的にそうなる環境だったし、それが許される環境でもあった。
 そして、私もその中の一人だった。
 上級生も下級生もいない同級生の四人の絆は強かった。
 イジメも仲間外れも起きない。
 起きるはずがなかった。
 遊ぶときは、みんな一緒。
 イタズラをして叱られるときも、みんな一緒。
 誰かが誕生日のときは、残りのみんなでお祝いする。
 誰かが風邪をひいたら、残りのみんなでお見舞いに行く。
 そんな関係だった。
 そんな子供達の遊び場は、雑貨屋か森だった。
 雑貨屋にはお菓子や玩具が売っていた。
 十円でお菓子が買えた。
 量は少なかったけど、選ぶのが楽しかった。
 玩具は色々あった。
 テレビゲームなんてものは無かった。
 ベーゴマ、メンコ、コマ、……
 あったのはそういったコンセントも電池も必要ない玩具だった。
 珍しいものでは昆虫採集セットなんてものまであった。
 あとから知ったのだが、とある事情で昆虫採集セットは販売禁止になったらしい。
 当時すでに販売禁止だったはずだが、雑貨屋には売っていた。
 賞味期限が切れた食料品が売っていたくらいだから、不思議なことではない。
 子供達は虫取り網や虫かごと一緒に昆虫採集セットを買って森の中へ入っていく。
 そして捕まえた虫を虫かごいっぱいに入れて帰ってくる。
 帰ってきたら、昆虫採集セットの出番だ。
 注射器を使って、防腐剤という名前のただの水を注射して、標本にする。
 あるいは、メスという名前の切れ味の悪い刃物を使って、解剖する。
 もしくは、虫メガネを使って詳しく観察する、と見せかけて太陽光を集めて焦がしたりする。
 無邪気な好奇心ゆえの残酷な行為をしてしまうこともあったが、元気に遊びまわっていた。

 私にとってはよい思い出だ。
 田舎には刺激が少なかった。
 でも、私にとってはよい思い出だ。
 毎日似たようなことの繰り返しだった。
 でも、私にとってはよい思い出だ。
 退屈だと思ったことは無かった。
 刺激が少なく似たようなことの繰り返しだったけど、いつもそうだったわけでは無かった。
 たまには喧嘩をすることもあった。
 いつもと違う出来事が起きることもあった。
 それも含めて、私にとってはよい思い出だ。
 そんなどこにでもある思い出話を、少し語ろうと思う。
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