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018.町での生活(仕事決定)
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「……」
この町はお城のある場所からは離れている。
地図でどの辺りにあるのかまでは知らないけど、周囲に高い建物がないから、そのくらいは分かる。
そんな町の中にあって、その店だけは雰囲気が違った。
なんというか、少しだけお城の雰囲気に近い。
でも、色々と違和感がある。
「白雪姫、あの店がいいの?」
「いえ、そういうわけじゃ……」
モモが尋ねてくるけど、私は曖昧な反応を返す。
「どれ? どの店?」
私が目を引かれていることに気づいたのだろう。
ユズも尋ねてきた。
「あの店なんだけど……」
私は、その店を指し示す。
「あれは、カフェね。食事をするところというよりは、お茶を飲むところよ。それに、ちょっと高いわ」
それがユズの評価だった。
私もだいたい同じ印象だ。
お茶を飲む場所のように見える。
それに、使っている食器が、孤児院で使っていたものより高価だということも分かる。
だけど、私が違和感を感じたのは、そこじゃない。
「……メイド?」
その店では、お城にもいたメイドのような服装をした女性達が働いていた。
でも、少し違う。
スカートの裾が、妙に短いのだ。
本物のメイドは、あんなに短いスカートは穿かない。
それに、やたらと笑顔を振り撒いている。
本物のメイドは、必要以上に笑顔を振り撒いたりはしない。
まるで空気のようにそこにいて、何も言わなくても主人のして欲しいことを察して、主人の日常生活を快適に保つ。
それが、本物のメイドだ。
主人が願えば、笑顔で会話もするけど、不必要に話しかけたりはしない。
「メイド……じゃないのかな」
そもそもこの町にメイドがいることが不自然だ。
いるとしても、お屋敷の中とかじゃないだろうか。
買い物のために町に出ることはあるかも知れないけど、メイドの服装のまま働いているのは不自然だ。
メイド服というものは、主人よりも目立つことは無く、けれどお城にいてもおかしくない程度には上品で、それでいて仕事をするために動きやすい作りになっている。
つまり、それなりに高い服なのだ。
メイドを辞めて町で働くことになった人間が持っているとは考えにくい。
「うーん?」
私が首を傾げていると、モモとユズも店を見始めた。
そんなことをしていたからだろう。
そのお店で働いている女性が、私達に気づいて近づいてきた。
じろじろと見ていて文句でも言われるだろうか。
そう考えて身構えるけど、近づいてきた女性は笑顔だった。
「お嬢ちゃん達、私のお店に興味があるの?」
どうやら、近づいてきた女性は、あの妙なお店のオーナーらしい。
興味というか、なんというか、気になったのは確かだ。
「あのお店って、カフェなんですよね? なんで、メイド……みたいな人達がいるんですか?」
私がそう尋ねると、オーナーさんは、ちょっと意外そうな表情をした後、胸を張って答えてきた。
「メイドカフェだからよ! どう!? 私のメイドカフェは、凄い人気でしょ!!!」
あのお店は、メイドカフェというらしい。
……
意味が分からない。
お城ではお茶の用意はメイドがしていた。
だから、どうして町中にメイドがいるかという疑問を除けば、お茶の用意をメイドがするのは特別でもなんでもない。
なぜ、『カフェ』という名前の前に、わざわざ『メイド』とつけるのだろう。
「確かに流行っていますね。たくさん、お客さんが入っています」
「男ばかりみたいだけど、たしかに繁盛しているわね」
「そうでしょう、そうでしょう!」
モモとユズの感想に、オーナーさんが満足そうにしている。
そして、私の感想を求めるように、こちらに視線を向けてくる。
「そっちのお嬢ちゃんは、納得いかなさそうな顔をしているわね。さっきも、メイド『みたい』な人達がいるって言っていたものね。本物のメイドを見たことがあるのでしょう?」
「……はい」
見たというか、お世話をしてもらっていたというか、どちらにしてもメイドという人達がどういうものか知っているのは事実だ。
「お店で働いている娘達はね、町の人達が想像する『きっとメイドって、こういう素敵な女の子なんだろうな』という理想を体現しているの!」
どうでもいいけど、この人、テンションが高いな。
外から眺めていた私達に声をかけるくらいだから、自分のお店を自慢したくて仕方が無いのかも知れない。
「へぇ、メイドさんって、あんな感じなんだぁ」
「あんなふうにご奉仕されたら、男の人が喜ぶでしょうね」
モモとユズは違和感を感じていないようだ。
つまり、本物のメイドを知らない人達は、メイドをああいうものだと考えているのだろう。
……
メイドはあんなはしたない服を着ないし、あんなに男の人に媚びたりしないんだけどな。
「やっぱり、納得いかない?」
オーナーさんが私に問いかけてきた。
せっかく自分のお店の自慢をしているのに、私が微妙な表情をしているせいで、機嫌を悪くさせてしまっただろうか。
そう思ったのだけど、そういった感じでは無かった。
どちらかと言えば、楽しそうな表情だ。
何かを思いついたように、ぽんっと手を叩く。
「そうだ! なら、お嬢ちゃんが知っているメイドがどんなものか、見せてくれない?」
「見せる?」
見せろと言われても、ここに私のお世話をしてくれていたメイドはいない。
そう疑問に思っていると、オーナーさんが、その方法を教えてくれる。
「実演してみせてよ! よさそうなところがあれば、お店に取り入れたいし!」
「実演……ですか?」
「そう!」
メイドのお仕事なんかしたことがない。
けど、毎日見ていたし、真似事くらいならできるかな。
それに、これはチャンスなんじゃないだろうか。
「わかりました。その代わり、使えそうだと思ったら、私達を雇ってください」
交換条件というやつだ。
少し図々しいかと思ったが、思い切ってそう提案してみる。
私からすれば、ずいぶんと思い切った行動をしたつもりだ。
なにせ、もしこれで相手の気を損ねたら、実演を見てもらうことすらできなくなる可能性があるからだ。
けど、オーナーさんは、あっさりと頷く。
「いいわよ。今日からお願いしていい?」
「あれ?」
なんだか、肩透かしをくらった気分だ。
決死の覚悟のつもりだったんだけど。
「なに? 働きたいんでしょ? 人手が足りないから、こっちはウェルカムよ」
私は、モモとユズと顔を見合わせる。
午前中の足を棒にして働き口を探していたのは、なんだったのだろうか。
けっこう、思いつめてもいたのだけど。
「他の町に二号店を出す予定もあるしね」
オーナーさんは、にっこりと微笑んだ。
この町はお城のある場所からは離れている。
地図でどの辺りにあるのかまでは知らないけど、周囲に高い建物がないから、そのくらいは分かる。
そんな町の中にあって、その店だけは雰囲気が違った。
なんというか、少しだけお城の雰囲気に近い。
でも、色々と違和感がある。
「白雪姫、あの店がいいの?」
「いえ、そういうわけじゃ……」
モモが尋ねてくるけど、私は曖昧な反応を返す。
「どれ? どの店?」
私が目を引かれていることに気づいたのだろう。
ユズも尋ねてきた。
「あの店なんだけど……」
私は、その店を指し示す。
「あれは、カフェね。食事をするところというよりは、お茶を飲むところよ。それに、ちょっと高いわ」
それがユズの評価だった。
私もだいたい同じ印象だ。
お茶を飲む場所のように見える。
それに、使っている食器が、孤児院で使っていたものより高価だということも分かる。
だけど、私が違和感を感じたのは、そこじゃない。
「……メイド?」
その店では、お城にもいたメイドのような服装をした女性達が働いていた。
でも、少し違う。
スカートの裾が、妙に短いのだ。
本物のメイドは、あんなに短いスカートは穿かない。
それに、やたらと笑顔を振り撒いている。
本物のメイドは、必要以上に笑顔を振り撒いたりはしない。
まるで空気のようにそこにいて、何も言わなくても主人のして欲しいことを察して、主人の日常生活を快適に保つ。
それが、本物のメイドだ。
主人が願えば、笑顔で会話もするけど、不必要に話しかけたりはしない。
「メイド……じゃないのかな」
そもそもこの町にメイドがいることが不自然だ。
いるとしても、お屋敷の中とかじゃないだろうか。
買い物のために町に出ることはあるかも知れないけど、メイドの服装のまま働いているのは不自然だ。
メイド服というものは、主人よりも目立つことは無く、けれどお城にいてもおかしくない程度には上品で、それでいて仕事をするために動きやすい作りになっている。
つまり、それなりに高い服なのだ。
メイドを辞めて町で働くことになった人間が持っているとは考えにくい。
「うーん?」
私が首を傾げていると、モモとユズも店を見始めた。
そんなことをしていたからだろう。
そのお店で働いている女性が、私達に気づいて近づいてきた。
じろじろと見ていて文句でも言われるだろうか。
そう考えて身構えるけど、近づいてきた女性は笑顔だった。
「お嬢ちゃん達、私のお店に興味があるの?」
どうやら、近づいてきた女性は、あの妙なお店のオーナーらしい。
興味というか、なんというか、気になったのは確かだ。
「あのお店って、カフェなんですよね? なんで、メイド……みたいな人達がいるんですか?」
私がそう尋ねると、オーナーさんは、ちょっと意外そうな表情をした後、胸を張って答えてきた。
「メイドカフェだからよ! どう!? 私のメイドカフェは、凄い人気でしょ!!!」
あのお店は、メイドカフェというらしい。
……
意味が分からない。
お城ではお茶の用意はメイドがしていた。
だから、どうして町中にメイドがいるかという疑問を除けば、お茶の用意をメイドがするのは特別でもなんでもない。
なぜ、『カフェ』という名前の前に、わざわざ『メイド』とつけるのだろう。
「確かに流行っていますね。たくさん、お客さんが入っています」
「男ばかりみたいだけど、たしかに繁盛しているわね」
「そうでしょう、そうでしょう!」
モモとユズの感想に、オーナーさんが満足そうにしている。
そして、私の感想を求めるように、こちらに視線を向けてくる。
「そっちのお嬢ちゃんは、納得いかなさそうな顔をしているわね。さっきも、メイド『みたい』な人達がいるって言っていたものね。本物のメイドを見たことがあるのでしょう?」
「……はい」
見たというか、お世話をしてもらっていたというか、どちらにしてもメイドという人達がどういうものか知っているのは事実だ。
「お店で働いている娘達はね、町の人達が想像する『きっとメイドって、こういう素敵な女の子なんだろうな』という理想を体現しているの!」
どうでもいいけど、この人、テンションが高いな。
外から眺めていた私達に声をかけるくらいだから、自分のお店を自慢したくて仕方が無いのかも知れない。
「へぇ、メイドさんって、あんな感じなんだぁ」
「あんなふうにご奉仕されたら、男の人が喜ぶでしょうね」
モモとユズは違和感を感じていないようだ。
つまり、本物のメイドを知らない人達は、メイドをああいうものだと考えているのだろう。
……
メイドはあんなはしたない服を着ないし、あんなに男の人に媚びたりしないんだけどな。
「やっぱり、納得いかない?」
オーナーさんが私に問いかけてきた。
せっかく自分のお店の自慢をしているのに、私が微妙な表情をしているせいで、機嫌を悪くさせてしまっただろうか。
そう思ったのだけど、そういった感じでは無かった。
どちらかと言えば、楽しそうな表情だ。
何かを思いついたように、ぽんっと手を叩く。
「そうだ! なら、お嬢ちゃんが知っているメイドがどんなものか、見せてくれない?」
「見せる?」
見せろと言われても、ここに私のお世話をしてくれていたメイドはいない。
そう疑問に思っていると、オーナーさんが、その方法を教えてくれる。
「実演してみせてよ! よさそうなところがあれば、お店に取り入れたいし!」
「実演……ですか?」
「そう!」
メイドのお仕事なんかしたことがない。
けど、毎日見ていたし、真似事くらいならできるかな。
それに、これはチャンスなんじゃないだろうか。
「わかりました。その代わり、使えそうだと思ったら、私達を雇ってください」
交換条件というやつだ。
少し図々しいかと思ったが、思い切ってそう提案してみる。
私からすれば、ずいぶんと思い切った行動をしたつもりだ。
なにせ、もしこれで相手の気を損ねたら、実演を見てもらうことすらできなくなる可能性があるからだ。
けど、オーナーさんは、あっさりと頷く。
「いいわよ。今日からお願いしていい?」
「あれ?」
なんだか、肩透かしをくらった気分だ。
決死の覚悟のつもりだったんだけど。
「なに? 働きたいんでしょ? 人手が足りないから、こっちはウェルカムよ」
私は、モモとユズと顔を見合わせる。
午前中の足を棒にして働き口を探していたのは、なんだったのだろうか。
けっこう、思いつめてもいたのだけど。
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オーナーさんは、にっこりと微笑んだ。
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