白雪姫は処女雪を鮮血に染める

かみゅG

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016.町での生活(拠点探し)

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 町に着いたのは夕方だった。
 もうすぐ陽が暮れるという時間だ。
 でも、私はそれどころじゃなかった。
 なにしろ、私にとって町に来るというのは生まれて初めての体験だ。
「ねぇねぇ、モモ! アレは何?」
「あれは、露天商よ。ああやって、外で物を売っているの。もう片付けるところ見たいだけど」
「ねぇねぇ、モモ! いい香りがするわ!」
「夕食時だから、食堂から漂ってきているんだと思う。たぶん、お肉を焼く匂いじゃないかな」
 生まれてから、ずっとお城を出たことが無かった。
 初めて出た後は、ずっと森の中の孤児院だった。
 どちらも、特定の人達だけが暮らす場所だった。
 でも、ここには大勢の人達が、みんな違うことをしている。
 見る物全てが珍しくて、モモにひっきりなしに質問する。
「ねぇねぇ……」
「ちょっと、落ち着きなさい」
 そんなことをしていたら、ユズに止められた。

「もう陽が暮れるんだから、先にすることがあるでしょ。それに、どうせ明日からは飽きるほど見ることになる景色なんだから」
「ご、ごめんなさい」
 諭すように言ってくるけど、イライラしているのが分かる。
 怒られてしまったようだ。
「宿を探さなきゃね。でも、この時間に空いている宿があるかな。もしかしたら、野宿になるかも」
 モモがそんなことを言う。
 もしかして、私が時間を取らせたせいで、宿を探している時間が無くなってしまったのだろうか。
 だとしたら、モモとユズに悪いことをしてしまった。
 私がおろおろしていると、モモが安心させるように微笑んできた。
「あ、気にしないでいいよ、白雪姫。町に着いたのが、遅い時間だったし、野宿になっても春だから暖かいしね」
 野宿か。
 それも初めての体験だ。
 不謹慎かも知れないけど、少し楽しみに感じてしまう。
 星空を見ながら寝るというのも、素敵なのではないだろうか。
 そんな期待をするけど、その期待が叶えられることは無かった。

「心配しなくてもいいわ。知り合いのところに泊めてもらう予定だから」
 ユズがそう教えてくれる。
「そうなの? よかったね、白雪姫」
「……ええ」
「なんで、ちょっと不満そうなのよ?」
 ちょっと残念な気もするけど、野宿にならなくてよかったと、喜ぶべきなのだろう。
「ううん。ありがとう、ユズ。その知り合いって、どんな人?」
 親しい知り合いなんだろうけど、今回は私とモモもいる。
 大勢で押しかけて泊めてくれるのか、少し心配になる。
「私に薬草のことを教えてくれた人よ」
「ユズのお師匠様?」
 モモも知らない相手らしい。
 モモもあまり町に来たことがないのかな。
「まあ、そんなところかな。もうずいぶんな年寄りだから、くたばっていないといいけど」
「もう、そんなことを言っちゃダメだよ」
 モモがユズを嗜めるけど、それだけ親しい間柄ということなのだろう。
 安心してよさそうだ。

 そんなわけで連れてこられたのは、路地裏に入ったところにある一軒の古びたお店だった。
 ユズに薬草のことを教えてくれた人ということだから、薬屋ということなのだろう。
 けど、そんな感じには見えなかった。
 何か別の物を売っていそうだ。
 もし売っているのが薬なのだとしたら、公には言えないような薬を売っていると思う。
 そんなことを想像させるお店だった。
 けれど、ユズは気にした様子も無く、扉を開けて中に入っていく。
 どうやら、場所はここで間違いないようだ。
「ババア、いる?」
 私とモモも、ユズの後について入っていく。
 すると、ちょうど奥から返事が返ってきたところだった。
「うるさい、いるよ! ババアって呼ぶな!」
 その声を聞いた瞬間に、あれ? と思った。
 でも、そういうこともあるかも知れないと思い出てくるのを待っていると、また、あれ? と思った。

 まず見えたのは、白い髪だった。
 お年寄りということだったから、それ自体は不思議じゃない。
 不思議なのは、別のところだった。
「若い」
 隣でモモが呟くのが聞こえた。
 私も同感だ。
 とてもお年寄りには見えない。
 私の母と同じ年代に見える。
「おや、今日は見かけない子がいるね」
 モモの声に気付いたのか、その人物がこちらを見てくる。
 若いという言葉が聞こえたのか、少し機嫌がよさそうだ。
 第一印象は大切だというから、これは良いことなんだろう。
 続けて挨拶すれば、さらに印象が良くなると思うんだけど、私とモモにはその余裕は無かった。
 白い髪と若い見た目というところもそうだけど、その人物には違和感があり過ぎる。
「まるで……」
「……絵本に出てくる魔女みたい」
 具体的には服装だ。
 三角帽子に黒いローブ。
 小さい頃に読んでもらった絵本に出てくる魔女みたいだ。
 絵本ではよく見かける服装だけど、現実にこんな服装を着ている人を見たことが無い。
 私が世間知らずなだけかと思ったけど、モモも驚いているから、そんな服装をしている人はいないのだろう。
 悪い人では無さそうだけど、私は少し不安にな 

「絵本?」
「え?」
 魔女さんが、妙なところで反応した。
 絵本に何かあるのだろうか。
 私が見たのは、ごくごく普通の絵本だ。
 魔女さんが興味を持つような魔術的なものだとか、そういう特別なものじゃない。
 ごくごく普通の絵本だ。
「うん。おとぎ話に出てくる魔女みたいだねぇ」
 モモが私の言葉に同意してくる。
 やっぱり、私が変なことを言っているわけじゃないみたいだ。
「……」
「……」
 なんとなく魔女さんと見つめ合ってしまう。
「?」
 モモが私と魔女さんの様子に首を傾げているけど、私も傾げたい。
 なんだろう。
 なにか、おかしかっただろうか。

 先に視線を逸らしたのは、魔女さんだった。
 私から視線を逸らして、ユズに視線を向ける。
「それで何の用事じゃ? まあ、予想はつくが」
「しばらく泊めて欲しいのよ。この二人も一緒に」
 ユズの言葉を聞いて、魔女さんは改めて私とモモを眺める。
「まあ、いいじゃろ。部屋は好きに使え。じゃが、おぬしらを養う金はないぞ?」
「食費とかは自分達で稼ぐわよ」
「ついでに部屋代も払って欲しいのじゃがな」
「出世払いでね」
 話がついたらしい。
 どうやら、ここに泊まることができるようだ。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
 私とモモは魔女さんにお礼を言う。
 モモは丁寧に頭を下げて。
 私はカーテシーを捧げて。
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