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平日7
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イブさんを捜すために私が協力をお願いしたのは、店長さんです。
店長さんはゲイバーを経営していて、とってもお友達が多いのです。
そのお友達ネットワークを活用して、あっという間にイブさんの居場所を突き止めてくれました。
「ありがとうございます。店長さんによろしくお伝えください」
黒塗りのベンツを降りた私は、ここまで連れてきた人にお礼を言います。
この人は店長さんではありません。
店長さんのお友達です。
「手伝わなくて大丈夫か?」
「はい。アレも貸していただきましたし、そこまでお世話になるわけにはいきません」
「わかった。気を付けてな」
黒塗りのベンツが走り去るのを見送ってから、私は周囲を確認します。
ここは街から少し離れた場所です。
目の前には、古びたビルがあります。
廃ビルではありませんが、空いているフロアが多いようです。
店長さんから教えてもらった情報によると、ここにイブさんがいるらしいです。
ですが、イブさんの意思ではありません。
どうやら、無理やり連れて来られたようなのです。
事情はこうです。
最近、イブさんは他校の不良に喧嘩を売られて返り討ちにするという毎日を過ごしていました。
その返り討ちにした相手の一人に、反社会的な職業についている兄がいたようなのです。
その兄が暴力を得意とする仲間を連れて、イブさんを無理やり連れ去ったというわけです。
子供の喧嘩に大人が出てくるような卑怯な手段です。
まったく大人げがありません。
目的は間違いなく、イブさんへの仕返しでしょう。
仕返しの方法が、直接的な暴力か、慰謝料の請求か、それはわかりません。
でも、急いだ方がいいのは確実です。
「……あのビルがいいかな」
私はイブさんが捕まっているビルと、道路を挟んで向かいにあるビルの中に入ります。
そして、非常階段を登っていきます。
エレベーターを使った方が早くて楽なのですが、人目についたら面倒なことになります。
だから、非常階段を使います。
魔女っ子は、人知れず悪を倒すのが鉄則なのです。
「はぁはぁはぁ……ふぅ」
非常階段を一番上まで登った私は扉を開けます。
その扉の先にあるのは、このビルの屋上です。
私は店長さんから借りたアレを素早く組み立てます。
ひさしぶりですが、組み立て方は覚えています。
「よし、できた。さて、イブさんは…………いた」
私はスコープを通して向かいのビルを観察します。
空きフロアが多いので、イブさんがいる場所はすぐに見つかりました。
拘束はされていないようですが、周囲に厳つい顔の男達がいます。
部屋に鍵がかかっているかはわかりませんが、あれでは逃げ出せないでしょう。
いわゆる、軟禁状態というやつです。
でも、直接的な暴力は受けていないようです。
不幸中の幸いです。
問題はどうやって助け出すかです。
警察に通報してもいいのですが、ああいった連中は難癖付けて警察を部屋に入れない可能性があります。
もしくは、警察が部屋に入る前に、イブさんを隠してしまうかも知れません。
だから、警察を入れざるを得ない状況にしようと思います。
「…………」
私はスコープを通して狙いを定めます。
今回は目標に当てることが目的ではないので、狙いは大雑把でいいでしょう。
サイレンサーはついているので、気付かれるまでに時間はあると思います。
私は呼吸を整えて、引き金に指をかけます。
「…………マジカルショット」
パァンッ…………パァンッ…………パァンッ…………パァンッ…………パァンッ…………
一定の間隔でクラッカーのような音が響きます。
スコープの向こう側で、部屋の窓ガラスが割れ、部屋に置いてあったものが砕け散ります。
割れた窓ガラスが道路に落下し、近くにいた人達が騒ぎ始めます。
怪我人はいません。
弾丸は誰にも当てていませんし、下の道路に誰もいないことを確認してから撃っています。
さて、これでミッションは完了です。
私は結果を確認することなく、屋上から降りてビルから外へ出ます。
誰かが通報して、数分で警察が来るはずです。
警察は銃撃現場を隅々まで調査するでしょう。
そのとき、そこにイブさんがいては都合が悪いはずです。
「…………」
私はイブさんが捕まっていたビルの近くの路地裏に隠れます。
しばらく待っていると、言い争う声が聞こえてきました。
「おい、大人しくしろ!」
「うるさい! 離せ!」
イブさんです。
イブさんは男に腕を掴まれ、無理やり引っ張られています。
激しく抵抗していますが、単純な腕力では敵いません。
手助けした方がいいでしょうか。
そう思ったところで、イブさんが男の脛をつま先で蹴ります。
さすがはイブさんです。
弁慶の泣き所は、どんなに屈強の男でも鍛えることができません。
男が痛みに呻いてイブさんの腕を離し、イブさんがその隙に逃げ出します。
男は慌てて追いかけようとしますが、周囲は野次馬が集まり始めています。
強引な行動に出ることはできないでしょう。
これなら逃げ切れると思います。
「さて、私も帰ろうかな」
私は警察が来ないうちに、その場を後にしました。
見つかるわけにはいきません。
魔女っ子は、人目に付かずに困っている人を助けるのが使命なのです。
店長さんはゲイバーを経営していて、とってもお友達が多いのです。
そのお友達ネットワークを活用して、あっという間にイブさんの居場所を突き止めてくれました。
「ありがとうございます。店長さんによろしくお伝えください」
黒塗りのベンツを降りた私は、ここまで連れてきた人にお礼を言います。
この人は店長さんではありません。
店長さんのお友達です。
「手伝わなくて大丈夫か?」
「はい。アレも貸していただきましたし、そこまでお世話になるわけにはいきません」
「わかった。気を付けてな」
黒塗りのベンツが走り去るのを見送ってから、私は周囲を確認します。
ここは街から少し離れた場所です。
目の前には、古びたビルがあります。
廃ビルではありませんが、空いているフロアが多いようです。
店長さんから教えてもらった情報によると、ここにイブさんがいるらしいです。
ですが、イブさんの意思ではありません。
どうやら、無理やり連れて来られたようなのです。
事情はこうです。
最近、イブさんは他校の不良に喧嘩を売られて返り討ちにするという毎日を過ごしていました。
その返り討ちにした相手の一人に、反社会的な職業についている兄がいたようなのです。
その兄が暴力を得意とする仲間を連れて、イブさんを無理やり連れ去ったというわけです。
子供の喧嘩に大人が出てくるような卑怯な手段です。
まったく大人げがありません。
目的は間違いなく、イブさんへの仕返しでしょう。
仕返しの方法が、直接的な暴力か、慰謝料の請求か、それはわかりません。
でも、急いだ方がいいのは確実です。
「……あのビルがいいかな」
私はイブさんが捕まっているビルと、道路を挟んで向かいにあるビルの中に入ります。
そして、非常階段を登っていきます。
エレベーターを使った方が早くて楽なのですが、人目についたら面倒なことになります。
だから、非常階段を使います。
魔女っ子は、人知れず悪を倒すのが鉄則なのです。
「はぁはぁはぁ……ふぅ」
非常階段を一番上まで登った私は扉を開けます。
その扉の先にあるのは、このビルの屋上です。
私は店長さんから借りたアレを素早く組み立てます。
ひさしぶりですが、組み立て方は覚えています。
「よし、できた。さて、イブさんは…………いた」
私はスコープを通して向かいのビルを観察します。
空きフロアが多いので、イブさんがいる場所はすぐに見つかりました。
拘束はされていないようですが、周囲に厳つい顔の男達がいます。
部屋に鍵がかかっているかはわかりませんが、あれでは逃げ出せないでしょう。
いわゆる、軟禁状態というやつです。
でも、直接的な暴力は受けていないようです。
不幸中の幸いです。
問題はどうやって助け出すかです。
警察に通報してもいいのですが、ああいった連中は難癖付けて警察を部屋に入れない可能性があります。
もしくは、警察が部屋に入る前に、イブさんを隠してしまうかも知れません。
だから、警察を入れざるを得ない状況にしようと思います。
「…………」
私はスコープを通して狙いを定めます。
今回は目標に当てることが目的ではないので、狙いは大雑把でいいでしょう。
サイレンサーはついているので、気付かれるまでに時間はあると思います。
私は呼吸を整えて、引き金に指をかけます。
「…………マジカルショット」
パァンッ…………パァンッ…………パァンッ…………パァンッ…………パァンッ…………
一定の間隔でクラッカーのような音が響きます。
スコープの向こう側で、部屋の窓ガラスが割れ、部屋に置いてあったものが砕け散ります。
割れた窓ガラスが道路に落下し、近くにいた人達が騒ぎ始めます。
怪我人はいません。
弾丸は誰にも当てていませんし、下の道路に誰もいないことを確認してから撃っています。
さて、これでミッションは完了です。
私は結果を確認することなく、屋上から降りてビルから外へ出ます。
誰かが通報して、数分で警察が来るはずです。
警察は銃撃現場を隅々まで調査するでしょう。
そのとき、そこにイブさんがいては都合が悪いはずです。
「…………」
私はイブさんが捕まっていたビルの近くの路地裏に隠れます。
しばらく待っていると、言い争う声が聞こえてきました。
「おい、大人しくしろ!」
「うるさい! 離せ!」
イブさんです。
イブさんは男に腕を掴まれ、無理やり引っ張られています。
激しく抵抗していますが、単純な腕力では敵いません。
手助けした方がいいでしょうか。
そう思ったところで、イブさんが男の脛をつま先で蹴ります。
さすがはイブさんです。
弁慶の泣き所は、どんなに屈強の男でも鍛えることができません。
男が痛みに呻いてイブさんの腕を離し、イブさんがその隙に逃げ出します。
男は慌てて追いかけようとしますが、周囲は野次馬が集まり始めています。
強引な行動に出ることはできないでしょう。
これなら逃げ切れると思います。
「さて、私も帰ろうかな」
私は警察が来ないうちに、その場を後にしました。
見つかるわけにはいきません。
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