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痴漢退治7

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「ええ!?」

 私の指名を受けて、ソラが驚いた顔をします。
 ソラにおとり役をお願いするのは本意ではありません。
 しかし、魔女っ子(代理)としての正義感が、悪を見逃すのを許さないのです。
 もちろん、ソラは私が全力で護るつもりです。

「ソラは私が護ってあげるから、危険な目に遭わせたりしないわ。だから、協力して?」

 私は上目づかいでソラにお願いします。
 ソラは動揺しながらも、返事をしてきます。

「協力するのは嫌じゃないよ。僕も加藤さんに痴漢をした人を許せないしね。でも……ソラ子ってなに?」
「ほら、お花見のときのアレよ」

 ソラからの質問に対して、私は答えます。
 私が期待しているのは、男の子としてのソラではありません。
 男の娘としてのソラなのです。
 私の答えを聞いて、ソラはもじもじします。

「あ、やっぱり、アレなんだ。ちょっと、恥ずかしいな……」

 ソラは他の部員達をちらちらと見ています。
 どうやら、女装姿を見られるのが恥ずかしいようです。
 お花見のときに見られているのに今さらだとは思うのですが、あのときはお祭りみたいなものでしたから、羞恥心も薄かったのでしょう。
 でも、今回は平日の通勤電車です。
 周囲は素面の人達ばかりです。
 確かに、一人でコスプレしていたら、変な目で見られるでしょう。
 しかし、心配はいりません。

「大丈夫よ。ソラ子なら、どこからどう見ても、美少女にしか見えないから」
「そ、そうかな?」

 私が説得すると、ソラはまんざらでもなさそうです。
 私は知っています。
 ソラは小さい頃から可愛いものが大好きです。
 もちろん、自分が可愛くなることも大好きです。
 年齢が上がるにつれて、男の子っぽく振る舞うようにはなりましたが、人間の本質はそんなに簡単に変わるものではありません。
 もう一押しです。

「メイクだって、前みたいに私がしてあげるわ。ほら、おっぱ……加藤さんからもソラにお願いして」
「え? わ、私が?」

 私は被害者であるおっぱいお化けに説得を催促します。
 被害者を助けるという名目があれば、ソラも素直に協力すると思うのです。
 私の要求を受けて、おっぱいお化けがソラにお願いをします。

「えっと……わ、私もソラ君が女装したところを見たいな」

 むっ。
 潤んだ瞳で上目づかいにお願いするなんて、あざといです。
 私が求めたのは、被害者としての助けを求める声であって、童貞を誘惑する淫らな声ではありません。
 童貞を誘惑する淫魔など、普段なら退治するところですが、今はソラの説得を優先して我慢します。

「う、うん、わかったよ。キララ、やさしくしてね」

 私とおっぱいお化けの説得を受けて、ついにソラが同意しました。
 すでに、ソラ子になりかけているのか、きゅん!と来るような表情です。
 なんだか、このままでもイケそうな気がします。
 でも、ダメです。
 ソラ子は、美少女でなければならないのです。
 私がモデル仕込みのとっておきのメイクを施さなくてはなりません。

「あの、目的が変わってない?」

 部長が呆れた声で、ぽつりと呟きました。

 *****


「今日の帰りの電車から、おとり捜査をしましょう」

 新たな犠牲者を出さないためには、行動は早いに越したことはありません。
 さっそく、ソラ子を登場させることにします。

 まずは、衣装からです。
 といっても、今回の目的はコスプレではありません。
 おとり捜査のために、女子用の制服を着てもらう必要があります。

「誰か、ソラ君に貸してあげることができる予備の制服って持っている?」
「持っていません」
「一年のときに着ていた制服ならありますけど、家に置いてあります」

 部長が部員達に衣装を持っていないか尋ねますが、この場で持っている人はいないようです。
 ですが、心配いりません。
 もともと、ソラの衣装は私が準備する予定だったのです。

「部長、大丈夫です。ソラには、私の制服を着せます」

 サイズ的に私の服がソラに合うのは、お花見のときに確認済みです。
 ですが、部長には心配事があるようで、私に質問してきます。

「キララちゃんの制服をソラ君に着せるのはいいけど、キララちゃんが着る服はあるの?」
「はい、あります」
「あ、そうか。体育の授業があったなら、ジャージとか持っているよね」

 部長の心配は考慮済みです。
 ただし、私が着る服はジャージではありません。
 私は鞄の中には、昨日と同じく魔女っ子衣装が入っています。
 それを着るつもりです。
 魔女っ子の姿を一般人の目にさらすことになってしまいますが、正義のためだから仕方ありません。

「それじゃあ、準備しますね」

 私は制服に手をかけます。
 そして、一気に脱ぎ去ります。

「わあ! キララちゃん、いきなり脱ぎださないで!」
「ソラ君、見ちゃダメ!」
「と、とりあえず、これを身体に巻いて!」

 私が下着姿になったところで、なぜか部員の皆さんが殺到してきました。
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