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不良退治6
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体育館の屋根から飛び降りた私は、その勢いのままサオリを捕まえている男子生徒に蹴りを食らわせます。
魔力の代わりに重力を利用した、マジカルキックです。
「ギャッ!」
マジカルキックを食らった男子生徒は、短い悲鳴を上げて吹き飛びます。
そして、そのまま動かなくなります。
「……やりすぎたかな?」
いえ、そんなはずがありません。
マジカルキックが炸裂する直前、さすがにこのまま当たったら首の骨が折れるだろうと思って、当てる場所を肩に変えたのです。
打撲くらいはしているかも知れませんが、骨折はしていないはずです。
「誰だ!」
悲鳴に気付いた他の男子生徒たちが、私に視線を集中させます。
「――って、ホントに誰だ!?痴女!?」
男子生徒の一人が、私の姿を見て、失礼な感想を述べます。
酷い感想です。
「悪人に名乗る名前はないわ!」
痴女という評価に反論するように、バーンッ!とポーズを決めます。
そう。
今の私はNEW魔女っ子衣装に身を包んでいるのです。
どこからどう見ても、魔女っ子のはずです。
そして、これで私の正体はバレないはずです。
なぜなら、テレビに出てくる魔女っ子は、顔を隠していなくても正体がバレないからです。
きっと、魔女っ子衣装には、着る者の正体を隠す認識阻害効果があるのだと思います。
私は魔女っ子(代理)ではありますが、衣装は本物です。
カメラマンさんが気合を入れて、その筋の本職の人に作ってもらったと言っていたのです。
これで、正体がバレることなく、正義が執行できるはず――
「キララ、なにやってんだ!?」
「あんた、なんて格好しているのよ!? 恥ずかしくないの!?」
だというのに、リクが私の名前を叫んでしまいます。
なんということでしょう。
これでは正体がバレてしまいます。
事実、サオリは私の正体に感づいてしまったようです。
リクのせいです。
幼馴染には、魔女っ子衣装の認識阻害効果が薄いのでしょうか。
意外な落とし穴です。
「わ、私はキララじゃないわ!」
いえ、まだ致命的ではないはずです。
悪人どもは学年が上のようなので、私の名前を知らないはずです。
ごまかせば、何とかなるはずです。
「私は……」
さて、なんと名乗りましょう。
私は頭を急回転させます。
偽名を使うにしても、魔女っ子としての品格を落とすような名前ではダメです。
魔女っ子として恥ずかしくない名前を名乗らなくてはいけません。
私は焦りますが、そこで天啓が舞い降ります。
そうです。
私は魔女っ子(代理)ですが、衣装は本物なのです。
だから、魔女っ子としての二つ名を名乗っても許されるはずです。
ならば、まだ魔女っ子になることを諦めていなかった子供の頃に考えていた二つ名を名乗ればよいのです。
「私は――」
私は大きく息を吸い込みます。
そして、声とともに一気に吐き出します。
「マジカル☆キララよ!」
名乗りとともにポーズを決めます。
☆がポイントです。
『…………』
せっかくの見せ場なのですから、効果音が欲しいところです。
あと、『なに!』とか『おまえが、あの!』とか、悪人が驚く声も欲しいです。
「(ちらっ)」
『…………えっと』
私が催促の視線を送ると、悪人どもが困った顔をします。
なっていません。
お約束のセリフくらい言えないのでしょうか。
どうやら、彼らは悪人としては二流のようです。
「はぁ……」
『え? なにが?』
私は溜息をつきます。
初登場シーンなのに、いまいち盛り上がらなかったからです。
でも、私が準備不足だったことも否めません。
不測の事態だったことは言い訳にならないでしょう。
せめて、効果音くらい常に準備しておくべきでした。
やはり私は、魔女っ子としての修行が足りないようです。
「仕方ない。とっとと片付けよう」
『(びくっ)』
私は恨みがましい目で悪人どもを睨みます。
私の視線に晒されて悪人どもの身体が震えますが、そんなことで許すことはできません。
せっかくの初登場シーンを台無しにされたのです。
私が準備不足だったことを差し引いても、原因の9割以上はこいつらのせいでしょう。
「さあ、正義の執行の時間よ」
私は悪人どもに向かって駆け出しました。
魔力の代わりに重力を利用した、マジカルキックです。
「ギャッ!」
マジカルキックを食らった男子生徒は、短い悲鳴を上げて吹き飛びます。
そして、そのまま動かなくなります。
「……やりすぎたかな?」
いえ、そんなはずがありません。
マジカルキックが炸裂する直前、さすがにこのまま当たったら首の骨が折れるだろうと思って、当てる場所を肩に変えたのです。
打撲くらいはしているかも知れませんが、骨折はしていないはずです。
「誰だ!」
悲鳴に気付いた他の男子生徒たちが、私に視線を集中させます。
「――って、ホントに誰だ!?痴女!?」
男子生徒の一人が、私の姿を見て、失礼な感想を述べます。
酷い感想です。
「悪人に名乗る名前はないわ!」
痴女という評価に反論するように、バーンッ!とポーズを決めます。
そう。
今の私はNEW魔女っ子衣装に身を包んでいるのです。
どこからどう見ても、魔女っ子のはずです。
そして、これで私の正体はバレないはずです。
なぜなら、テレビに出てくる魔女っ子は、顔を隠していなくても正体がバレないからです。
きっと、魔女っ子衣装には、着る者の正体を隠す認識阻害効果があるのだと思います。
私は魔女っ子(代理)ではありますが、衣装は本物です。
カメラマンさんが気合を入れて、その筋の本職の人に作ってもらったと言っていたのです。
これで、正体がバレることなく、正義が執行できるはず――
「キララ、なにやってんだ!?」
「あんた、なんて格好しているのよ!? 恥ずかしくないの!?」
だというのに、リクが私の名前を叫んでしまいます。
なんということでしょう。
これでは正体がバレてしまいます。
事実、サオリは私の正体に感づいてしまったようです。
リクのせいです。
幼馴染には、魔女っ子衣装の認識阻害効果が薄いのでしょうか。
意外な落とし穴です。
「わ、私はキララじゃないわ!」
いえ、まだ致命的ではないはずです。
悪人どもは学年が上のようなので、私の名前を知らないはずです。
ごまかせば、何とかなるはずです。
「私は……」
さて、なんと名乗りましょう。
私は頭を急回転させます。
偽名を使うにしても、魔女っ子としての品格を落とすような名前ではダメです。
魔女っ子として恥ずかしくない名前を名乗らなくてはいけません。
私は焦りますが、そこで天啓が舞い降ります。
そうです。
私は魔女っ子(代理)ですが、衣装は本物なのです。
だから、魔女っ子としての二つ名を名乗っても許されるはずです。
ならば、まだ魔女っ子になることを諦めていなかった子供の頃に考えていた二つ名を名乗ればよいのです。
「私は――」
私は大きく息を吸い込みます。
そして、声とともに一気に吐き出します。
「マジカル☆キララよ!」
名乗りとともにポーズを決めます。
☆がポイントです。
『…………』
せっかくの見せ場なのですから、効果音が欲しいところです。
あと、『なに!』とか『おまえが、あの!』とか、悪人が驚く声も欲しいです。
「(ちらっ)」
『…………えっと』
私が催促の視線を送ると、悪人どもが困った顔をします。
なっていません。
お約束のセリフくらい言えないのでしょうか。
どうやら、彼らは悪人としては二流のようです。
「はぁ……」
『え? なにが?』
私は溜息をつきます。
初登場シーンなのに、いまいち盛り上がらなかったからです。
でも、私が準備不足だったことも否めません。
不測の事態だったことは言い訳にならないでしょう。
せめて、効果音くらい常に準備しておくべきでした。
やはり私は、魔女っ子としての修行が足りないようです。
「仕方ない。とっとと片付けよう」
『(びくっ)』
私は恨みがましい目で悪人どもを睨みます。
私の視線に晒されて悪人どもの身体が震えますが、そんなことで許すことはできません。
せっかくの初登場シーンを台無しにされたのです。
私が準備不足だったことを差し引いても、原因の9割以上はこいつらのせいでしょう。
「さあ、正義の執行の時間よ」
私は悪人どもに向かって駆け出しました。
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