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不良退治5

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 異文化は尊重するべきです。
 けれど、暴力はよくありません。
 立ち去ろうとした私でしたが、足を止めました。
 もし、あれが暴力なのだとしたら、止めるべきだと考えたからです。
 けれど、早計な判断は禁物です。
 もしかしたら、あれは高度なプレイの可能性もあるからです。
 世の中には嗜虐趣味や被虐趣味を持つ人種がいると聞きます。
 殴ったり殴られたりすることに、性的な快感を覚える人達のことです。
 彼らがそういう人種であるなら、それを止めるということは、性行為を邪魔するということになります。
 私には、他人の性行為を邪魔する趣味はありません。
 学生が不純異性交遊に耽ることを好ましくないと考える人もいるでしょう。
 しかし、昨今は少子化が問題視されている時代です。
 節度を守りさえすれば、若いうちから子作りに励むことは、悪いことではないと私は考えます。
 リクには、ぜひとも少子化対策に貢献してもらいたいものです。
 ただし、ソラはダメです。
 ソラには魔法使いになってもらわなければなりません。
 だから、ソラが子作りをするのは、三十歳を超えてからにしてもらいます。
 そのときは、私が協力しようと思います。

 そんなことを考えながら様子を見ていると、状況に変化がありました。
 男子生徒が、リクのセフレを背後から羽交い絞めにしたのです。
 リクのセフレである女子生徒は振り払おうと暴れますが、男子生徒は離しません。
 それどころか、大声を上げようとした女子生徒の口を無理やり塞ぎました。
 私はここで様子がおかしいことに気づきました。
 女子生徒は大声を上げようとしました。
 そんなことをすれば、人がやってきてプレイは中断してしまいます。
 それなのに、大声を上げようとしたのです。
 もしかして、女子生徒は嫌がっているのではないでしょうか。
 性的な嗜好は人それぞれです。
 性的な関係にあったとしても、嗜好が合わないこともあるでしょう。
 そういったときに無理やり行為を迫るのは、よくありません。
 私は彼らを止めた方がよいと判断しました。
 しかし、特殊な人種の前に姿を晒すのは抵抗があります。
 どうにかして、姿を見せずに対処できないでしょうか。

「そうだ」

 私はよいことを思いつきました。
 さっそく準備を始めます。

 *****

「一年生のくせに生意気なんだよ」

 リクを殴った男子生徒は、吐き捨てるように言います。
 口振りからすると、男子生徒はリクの部活の先輩のようです。

「……練習は真面目にやってますよ」
「うるせえ!」

 リクが反論しますが、それが男子生徒の神経を逆なでしたらしく、男子生徒は再びリクを殴ります。

「リク!」
「イテッ! こいつ、噛みやがった!」

 リクが殴られたのを見て、女子生徒が口を塞いでいる手に噛みついて声を上げます。
 けれど、すぐに再び口を塞がれてしまいます。
 おそらく、今の声を聞いた人はいないでしょう。
 つまり、リクと女子生徒を助けにくる人はいないということです。

「おまえがいると、女子がうるさくて練習にならねえんだよ」
「あの子たちは、応援してくれているだけで……」
「うるせえって言ってんだろ!」

 男子生徒は、さらにリクを殴ります。
 どうやら、リクの取り巻きが、リクを応援しているのが気に入らないようです。

「女子マネが入部したかと思えば、おまえが目的みたいだしよ」
「サオリはマネージャーの仕事を、ちゃんとしているじゃないですか」
「喋んな!」

 男子生徒は、聞く耳を持たないといった感じで苛立っています。
 言っている内容は、真実が半分、言いがかりが半分といったところでしょうか。

 リクの取り巻きの応援がうるさいのは事実でしょうが、それが練習の邪魔になっているかといえば、微妙なところだと思います。
 そもそも試合になれば、応援や野次は普通にあります。
 それで試合に集中できないようでは、はじめから試合に勝つ実力は無いと思います。
 練習でも同じことです。

 女子マネージャーというのは、捕まっている女子生徒のことでしょう。
 というか、顔見知りでした。
 サオリとかいう、リクの取り巻きの一人です。
 そういえば、サッカー部のマネージャになったとか言っていました。
 彼女がちゃんと仕事をしているかどうかは、現場を見ていないので私には分かりません。
 リクへの粘着具合から考えると、リクばかりにかまっている可能性はあり得ます。
 けれど、仕事態度が悪かったとしても、口頭で注意すれば済む話です。
 腕力で言うことを聞かせようとするのは、よくありません。

 後輩部員への暴力、および、女子マネージャーの不当な拘束。
 これはもう有罪でよいでしょう。

「キャッ! へ、変なところを触らないでください!」
「いつも、こいつの面倒みてるじゃねえか。 ちょっとは俺達の面倒も見てくれよ」
「や、やめてください!」
「サオリ!」

 セクハラも罪状に追加します。
 判決は確定しました。
 正義の執行を開始します。

「とうっ!」

 私は体育館の屋根から飛び降りました。
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