シンデレラストーリーは悪魔の契約に基づいて

かみゅG

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第十二章 ブレーメンの音楽

203.○○と呼ばれる魔女のように(その2)

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 大勢に取り囲まれている師匠。
 私はその輪から何とか外れることができたのだけど、そんな私に小さな声で話しかけてくる人物がいた。

「こちらへ」
「リンゴ」

 この温泉宿の運営を任せている娘達メイド達の一人だった。
 彼女は私を連れて、裏口らしき場所から温泉宿の建物に入っていった。

「ここまで来れば大丈夫です」
「ありがとう。師匠を囮にしちゃったけど、大丈夫かな」
「取り囲んでいたのは信者達ですから、大丈夫でしょう」
「信者?」

 なんだか不安になる単語が聞こえてきた。
 信者ってなんだろう。
 この国には宗教があるから、信者と呼ばれる人達がいてもおかしくはない。
 しかし、その信者から私(の囮になった師匠)が拝まれる理由が分からない。

「とりあえず・・・」

 私は考える。
 確認すべきことは何だろう。
 何を確認したら、状況が把握できるだろう。

 ・・・・・

 うん。
 確認する内容が決まった。

「・・・全部教えて」

 さっぱりだ。
 何がさっぱりかというと全てだ。
 全部確認しないと、状況が把握できそうにない。

 *****

 そんなわけで、温泉宿の一室に連れて来られた。
 リンゴ以外の娘達メイド達もここにいるのだけど、仕事が忙しいらしく、説明はリンゴがしてくれることになった。

「全ての説明をご要望ということなので・・・」

 リンゴはしばし考えてから口を開く。

「シンデレラ様が、この聖地を去ってからのことでよろしいでしょうか?」
「ストップ」

 説明する内容について尋ねてくれたのだけど、いきなり不明点が発生した。

「聖地って何?」

 信者という単語を聞いたときから嫌な予感がしているのだけど、その予感がさらに増した。

「この村のことです」

 私の問いに対し、リンゴがごく当たり前のように答えてくる。

「冬でも凍えることも飢えることもない、この世に現れた楽園。死ぬはずだった多くの人間を救った土地です。聖地にふさわしいと思います」
「うーん・・・」

 凍えることがないのは温泉のおかげだし、飢えることがないのも温泉を利用した畑のおかげだ。
 そして、それらを利用することによって、餓死するはずだったシルヴァニア王国の国民が救われたのも事実だ。
 だから、ここが聖地と呼ばれることは、まあいいとしよう。

「わかった。説明を続けて。内容は私が去ったところからでいいわ」
「かしこまりました」

 頷いて、リンゴが説明を始める。

「シンデレラ様がシルヴァニア王国を去った後、教会がシンデレラ様の聖女認定を取り消しました」
「ふーん」

 それは予想していた。
 エリザベート王女の策略で、昨年のシルヴァニア王国の不作は、私が原因ということになっていた。
 だから、聖女認定が取り消されてもおかしくはない。
 というか、もともと聖女認定なんて欲しかったわけじゃないから、取り消されたところで全く困らない。
 そう考えたのだけど、リンゴが次に語った内容は、もっと困る内容だった。

「そして、シンデレラ様が聖女ではなく女神であると発表しました」
「ふー・・・ん?」

 おかしいな。
 耳が悪くなったのだろうか。

「聖地を作ったのですから、当然ですね」

 違う。
 おかしいのは私の耳じゃなくて、リンゴの言葉だ。

「そして・・・」
「ごめん、もう一回、ストップ」

 さすがに、これを聞き流すと、以降の話が理解できそうにない。

「私が・・・何だって?」
「女神です」
「・・・・・」

 なんで女神?
 温泉街を作ったから?
 エリザベート王女が流した悪評はどうなったのだろう。
 仮にそれが冤罪だと分かったとしても、再び聖女認定されるだけなのではないのだろうか。
 頭に疑問が渦巻く中、リンゴが説明を補足する。

「シンデレラ様は、救いを求める声に応じて国民を餓死から救いました」

 最初に種や苗を配ったときのことだろう。

「しかし翌年、国民はシンデレラ様の教えを守らず、再び餓死しかけました」
「それはエリザベート王女の策略よね」
「はい。ですが、シンデレラ様の教えを守らなかったのは事実です」

 そうはいっても、国民からすれば、王族からの命令には逆らえないだろう。
 それを自業自得のように言うのは、ちょっと気の毒な気がする。

「そして愚かな国民が再び救いを求めると、シンデレラ様は慈悲深くも再び国民を餓死から救いました」

 これは、温泉を利用して畑を作らせたときのことだろう。
 愚かなは言い過ぎだと思うけど、それによって助かった人間がいるのは事実なのだろう。

「自らの教えを守る者には救済を、自らの教えを守らない者には天罰を与え、そうすることによって人間を正しい道へ導く。そのような行為をする存在は、聖人や聖女とは呼ばれません。神と呼ばれます」

 まあ、自分の言うことを聞かないからという理由で罰なんて与えていたら、聖人や聖女とは呼ばれないだろう。
 そんなことをするのは、犯罪者か悪徳政治家だ。

「そのような理由で、シンデレラ様は女神であると教会から発表されました」

 経緯は分かった。
 けど、分かっただけだ。
 納得はしていない。

「とりあえず、そんなアホは発表をした代表者を殴りたいのだけど、どこに行ったら会える?」
「教皇様なら、王都にある教会本部に行けばお会いできると思います」

 教皇様か。
 シルヴァニア王国の王城にいたときに会ったことがあるけど、もう少しまともそうな人だったのに。

「発表した内容を国内に大々的に広めた人物ということであれば、ヒルダ様になります。こちらは王城に行けばお会いできると思います」

 ヒルダにもお仕置きが必要だな。
 しかし、この国は宗教と政治のトップが揃ってアホなのか。
 もういっそ、エリザベート王女の手によって滅んでいた方がよかったんじゃないだろうか。
 私は溜息をつく。

「まあ、そっちはいずれどうにかするとして・・・説明に戻って」
「わかりました」

 深く考えるのは後回しにしよう。
 まずは全ての話を聞かないと、他にも厄介事がありそうで怖い。
 説明の続きを聞くことにする。

「外にある大きな建物はご覧になられましたか?」
「ああ、あの城のこと?」
「はい。ただし、あれは正確には城ではありません。神殿です」
「・・・・・なんかもう、あまり聞きたくないのだけど、何を祀る神殿?」
「もちろん、シンデレラ様を祀る神殿です」

 やっぱり聞くのを止めようかな。
 でも、聞かないと厄介事が増えていきそうだしな。

「通称、『シンデレラ城』と呼ばれています。神殿と言いつつ城のような作りなのは、シンデレラ様が現世にいる間に活動拠点として利用できるようにするためです」

 私の葛藤をよそに、リンゴは誇らしげに説明してくる。
 どうでもいいけど、『現世にいる間』って、私は一体どんな存在になったのだろう。
 自分としては、普通の人間のつもりなのだけど。

「ここが聖地と呼ばれるようになった後、聖水やお守りを配ったところ、予想以上にお布施が集まりまして、それを使って建てました」
「・・・聖水って?」
「聖地から湧き出るお湯のことです。肌に塗ると美容によいと評判です」

 温泉のことだ。
 そして、肌に塗るというのは、聖水ではなくて化粧水と言わないだろうか。

「・・・お守りって?」
「聖地で採れた生命の源を入れています。大地に蒔くと恵みをもたらすと評判です」

 たぶん、作物の種のことだろう。
 作物が育つわけだから、恵みをもたらすというのは、嘘ではない。
 なんだか、必要以上にありがたがられそうだけど。

「あんまり、悪どい商売をしちゃダメよ?」
「神殿を建てるということは、仕事を与えることにもなりますので、住人達は喜んでおりました」
「・・・・・そう」

 まあ、住人達の役に立ったならいいか。

「他の村からの移住者も増えつつありますが、農地を広げることを最優先としておりますので、昨年までのように食糧不足になることは無いと思います」

 食糧の確保を最優先にしているのはよいことだ。
 よいことなのだけど、もしかしてこの街はまだ規模が大きくなるのだろうか。
 どこまで行くつもりなのか、ちょっと怖い。

「もちろん、シンデレラ様から受けた、ここを諜報活動の拠点にするというご命令も遂行中です」
「・・・・・そんな命令したっけ?」

 覚えが無い。
 なんだか、私の言葉が拡大解釈されているような気がする。
 必要以上に娘達メイド達が張りきっていないだろうか。

「神殿に懺悔室というものを作りまして、そこで聞いた内容から役に立ちそうな情報を・・・」
「ストップ。説明はよくわかったから、そこまででいいわ」

 私は慌てて止める。
 なんだか、これ以上は聞いちゃいけない気がする。
 何があったかは、おおよそ把握できたから、説明を聞くのはここまででいいだろう。
 今聞いた話以外は、私は何も知らなかった。
 そういうことにしておきたい。
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