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第十一章 ハーメルンの笛
185.同行者の末路(その1)
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「おまえは厄介事を起こさないと気がすまないのか」
アヴァロン王国に戻ってきた私を出迎えたアダム王子の第一声はそれだった。
「冤罪よ」
私は反論する。
だって、今回、私は大したことはやっていない。
謁見の間で少し発言したことと、王都で見かけたアレを教えてあげたくらいだ。
騒ぎは起こったけど、それは私が原因じゃない。
謁見の間が騒然としたのは、アーサー王子に吸い付いて離れなかったグィネヴィアが原因だ。
吸い付いたのはアーサー王子がずんぐり鎧の改良案を言ったのが理由で、改良案を言ったのは私がずんぐり鎧の欠点を指摘したことが理由のようだけど、あの場で欠点を指摘するのは必要なことだったから、私が原因じゃないと思う。
大勢の全身鎧が現れて王都が騒然としたのは、野犬に対して全身鎧で対処すると判断したフィドラーだ。
きっかけは野犬がもたらす病のことを私が教えたことかも知れないけど、教えなかったら教えなかったで、いずれもっと大きな騒ぎになっていたはずだから、私が原因じゃないと思う。
むしろ、私は騒ぎを最小限に抑える手伝いをしたとも言えるだろう。
「本当か?おまえが行かなかったら、厄介事が起きなかったのではないか?」
そう言われて、少し考える。
私が行かなかったとしても、アーサー王子はずんぐり鎧を褒めただろう。
だから、グィネヴィアがくっついてきた可能性はある。
けど、同じくらい、くっついてこなかった可能性があるようにも思う。
ハーメルン王国の王様は、バビロン王国との同盟の話もあったと言っていた。
ずんぐり鎧をただ褒めただけの場合、ハーメルン王国の本当の切り札についての情報は手に入らず、ハーメルン王国はアヴァロン王国に対して優位な立場になっていただろう。
そんな状況で、第一王女がくっついてくるかは疑問だ。
そして、第一王女がくっついてこなかった場合、ハーメルン王国がバビロン王国と同盟を結ぶことを抑止することはできない。
また、私が野犬がもたらす病のことを教えなかったら、どうなっていただろうか。
王都が騒ぎになることは無かっただろう。
けど、いずれ騒ぎが起こったのは間違いない。
しかも、発見が遅れた分だけ被害も大きくなるという、おまけ付きでだ。
他国のことだから関係ないと言えば関係ないんだけど、後味は悪くなっただろう。
それに、病の発生源である野犬を送り込んだ連中の狙いも気になる。
自分の国と同盟を結ばなかった報復にしてはたちが悪いし、別の狙いがあるような気がする。
まあ、面倒なことを考えるのは後にしよう。
どちらにしても、厄介事は起きたということだ。
「私が行かなかったら、厄介事は起きなかったかも知れないわね」
だから、私はアダム王子のそう答える。
「自覚があるなら・・・」
「それで半年くらい経ってから、利子がついて厄介事が起きたんじゃないかしら」
「・・・・・」
アダム王子は何かを言いかけたけど、続く私の言葉を聞いて沈黙した。
ちなみに、私が今言った半年という推測には、一応理由がある。
ハーメルン王国とバビロン王国が同盟を組んだとして、何か仕掛けてくるのは春になってからだろう。
そして、ハーメルン王国の王都に病が蔓延しているのが発覚してから原因が突き止められるのも、そのくらいだと思う。
だから、国家間の問題という形で厄介事が起きるのは、半年くらい経ってからと考えたのだ。
「・・・・・はあ」
沈黙していたアダム王子が溜息をつく。
「礼を言わなければならないのだろうな」
厄介事にうんざりした表情をしながらも、アダム王子がそんなことを言ってきた。
別にお礼は要らないけど、厄介事は引き取って欲しい。
*****
そんなわけで、いつものお茶会だ。
けど、参加しているメンバーは、いつもと少し違う。
「報告を聞かせてくれ」
アダム王子が報告を求める。
それに対する私の返事は決まっている。
「メンドイ」
「・・・・・おまえな」
私の返事を聞いて、アダム王子が呆れる。
けど、そもそも報告は私の役目じゃない。
もっと他に報告すべき人物がいる。
「アーサーから聞いた方がいいでしょう?あの国で得た情報の分析は私じゃ無理よ」
ハーメルン王国の切り札である、銃での攻撃を防ぐであろう鎧。
それがどの程度の脅威になるのかは、私には分からない。
分かるのは、厄介だろうというくらいだ。
だから、そう言ったのだけど、実はそれができない状況だということも分かっている。
分かっていて、愚痴っただけだ。
「アーサーはグィネヴィア殿と一緒に工房にこもっている」
そういうわけだ。
アーサー王子はハーメルン王国で手に入れた情報の報告もせずに、アヴァロン王国に戻ってくるなり工房にこもって何やら研究を始めた。
どうやら、グィネヴィアから得た知識が刺激になったらしい。
だからだろう。
知識の提供元であるグィネヴィアも一緒に連れていっている。
「知っている範囲でいい。報告を頼む」
アダム王子が再度要求してくる。
別に報告くらいしてもいいのだけれど、何だか釈然としない。
「婚約者が他の女としけ込んでいる間に、私に働かせるわけね」
「そういうな。アーサーにそのつもりが無いのは、わかっているだろう」
アダム王子はそう言うけど、どうだろうな。
今は確かにその通りだろうけど、アーサー王子とグィネヴィアの相性は悪くないような気がする。
工房に一緒にいる間に、さらに仲が深まる可能性もあるだろう。
とはいえ、現在のところグィネヴィアが厄介事であることは間違いない。
アーサー王子には、その厄介事を引き受けてもらっているとも言えるので、私だけ遊んでいるわけにもいかないか。
それに、相談したいこともある。
「わかったわよ」
アダム王子の要求に従い、私は報告を始める。
「まず、ハーメルン王国はバビロン王国から同盟を申し込まれていたみたいね。だけど、それを蹴ってアヴァロン王国に同盟を申し込んできたみたい」
「なぜ今の時期に同盟を申し込んできたかと思ったら、それがきっかけか」
アダム王子の推測は正しい。
バビロン王国からの同盟の申し入れを断ったからといって、アヴァロン王国と同盟を結ばなければいけないわけではないけど、きっかけなのは間違いないだろう。
「ハーメルン王国には銃の攻撃を防ぐ手段があったわ。バビロン王国はそれを手に入れるために同盟を申し込んだんじゃないかしら」
これは私の推測だ。
だから、当たっているか外れているかは分からないけど、状況としては大した違いはない。
バビロン王国が単純に武力を目的としていようが、銃の攻撃を防ぐ手段を手に入れることを目的としていようが、アヴァロン王国にとって脅威という意味では同じだ。
「さっそく銃の対策が取られたか」
アダム王子が難しい顔になる。
前回の戦争が圧勝だったのは、銃という新しい武器があったからだ。
その優位性があっという間に崩れたことになる。
だけど、私はそれでいいと思う。
優位性があるからといって、アヴァロン王国が他国に積極的に戦争を仕掛けるとは思わないけど、可能性が無いわけではない。
少なくとも他国は、そう考えるだろう。
だから、その可能性が現実のものになることを防げるなら、優位性など無い方がいい。
「それで、その銃の攻撃を防ぐものは、どんなものだったのだ?」
アダム王子が尋ねてくる。
おそらく、どの程度の脅威になるかを知りたいのだろう。
防ぐ手段があるとは言っても、やり方によっては対抗できると考えているのかも知れない。
だから、私は教えてあげる。
「簡単にいうと全身鎧よ。薄くて頑丈な金属でできていて、数も揃っていたわ」
これは、実際に王都で使うところを見たから間違いない。
重量は分からないけど、薄い見た目と、鎧を着た兵士の動きから判断すると、馬がいないと移動できないといったことは無さそうだった。
それに薄いということは、使う金属が少ないということだから、時間さえかければ数を増やすこともできると思う。
つまり、充分に脅威になり得るということだ。
「・・・厄介だな。ハーメルン王国がバビロン王国と同盟を結ばなかったことを感謝すべきか」
アダム王子にも、どれだけ厄介かが分かったようだ。
だから、ついでに教えてあげることにする。
「ちなみに、その全身鎧を作ったのはグィネヴィア様らしいわ。おそらく、アーサーと同じような立場なんじゃないかしら」
つまり、国を左右するほどの技術の重要な部分を担っている。
私の言葉を聞いて、アダム王子が頭痛を堪えるように手で頭を押さえた。
「グィネヴィア殿が我が国に来たのは、信用されたと考えていいのだろうが・・・」
アダム王子が何を考えて頭を押さえたのかは分かる。
だから、忠告しておく。
「色々持っていかれないようにね」
具体的には、アヴァロン王国が保有する技術や、それを生み出すアーサー王子のことだ。
アヴァロン王国にとってグィネヴィアは、ハーメルン王国との友好の証であり、それと同時に懐に飛び込んできた狩人でもある。
狩人の狙う獲物は、アーサー王子あたりだと思う。
「・・・そのあたりは、アーサーとも話しておく。それで、他に何か報告することはあるか?」
もともと予定していた情報収集は今話した内容くらいのものだろう。
だけど、手に入れた情報は、もう一つある。
これは、師匠にも相談したかったことだ。
「ハーメルン王国の王都に『狂犬病』にかかった犬がいたわ」
その言葉に、アダムは怪訝そうな顔に、師匠が驚いた顔になった。
「狂犬病?犬が狂暴にでもなるのか?」
アダム王子は、どうやらあの国で蔓延しかかっていた病のことは知らないようだ。
アダム王子が言った症状は、確かに狂犬病の症状の一つではあるけど、あの病の怖ろしさは別にある。
「あの国は昔ひどい目に遭ってから対策していたはずじゃが・・・」
それに対して、師匠は当然知っている。
私に教えてくれたのが師匠なのだから、間違いない。
それどころか、どうやら昔のことまで知っているようだ。
「バビロン王国の商人が犬を大量に連れてきたらしいから、ハーメルン王国が同盟を断った報復かもね」
「ずいぶんとエグイことをするのう。下手をすると王都が壊滅するぞ。報復の域を超えておるじゃろ」
あの病の怖ろしさを知っている師匠も、そう思ったらしい。
私も、そう思った。
「報復が目的じゃないとすると、何が狙いだと思う?」
私が師匠に意見を求めようとしたところで、待ったがかかる。
「待て待て!何か物騒な話をしているようだが、俺にも教えてくれ!」
話について来れなかったアダム王子が説明を求める。
面倒だけど、仕方がない。
この話はアダム王子も知っておいた方がいいだろうから、説明から始めることにした。
アヴァロン王国に戻ってきた私を出迎えたアダム王子の第一声はそれだった。
「冤罪よ」
私は反論する。
だって、今回、私は大したことはやっていない。
謁見の間で少し発言したことと、王都で見かけたアレを教えてあげたくらいだ。
騒ぎは起こったけど、それは私が原因じゃない。
謁見の間が騒然としたのは、アーサー王子に吸い付いて離れなかったグィネヴィアが原因だ。
吸い付いたのはアーサー王子がずんぐり鎧の改良案を言ったのが理由で、改良案を言ったのは私がずんぐり鎧の欠点を指摘したことが理由のようだけど、あの場で欠点を指摘するのは必要なことだったから、私が原因じゃないと思う。
大勢の全身鎧が現れて王都が騒然としたのは、野犬に対して全身鎧で対処すると判断したフィドラーだ。
きっかけは野犬がもたらす病のことを私が教えたことかも知れないけど、教えなかったら教えなかったで、いずれもっと大きな騒ぎになっていたはずだから、私が原因じゃないと思う。
むしろ、私は騒ぎを最小限に抑える手伝いをしたとも言えるだろう。
「本当か?おまえが行かなかったら、厄介事が起きなかったのではないか?」
そう言われて、少し考える。
私が行かなかったとしても、アーサー王子はずんぐり鎧を褒めただろう。
だから、グィネヴィアがくっついてきた可能性はある。
けど、同じくらい、くっついてこなかった可能性があるようにも思う。
ハーメルン王国の王様は、バビロン王国との同盟の話もあったと言っていた。
ずんぐり鎧をただ褒めただけの場合、ハーメルン王国の本当の切り札についての情報は手に入らず、ハーメルン王国はアヴァロン王国に対して優位な立場になっていただろう。
そんな状況で、第一王女がくっついてくるかは疑問だ。
そして、第一王女がくっついてこなかった場合、ハーメルン王国がバビロン王国と同盟を結ぶことを抑止することはできない。
また、私が野犬がもたらす病のことを教えなかったら、どうなっていただろうか。
王都が騒ぎになることは無かっただろう。
けど、いずれ騒ぎが起こったのは間違いない。
しかも、発見が遅れた分だけ被害も大きくなるという、おまけ付きでだ。
他国のことだから関係ないと言えば関係ないんだけど、後味は悪くなっただろう。
それに、病の発生源である野犬を送り込んだ連中の狙いも気になる。
自分の国と同盟を結ばなかった報復にしてはたちが悪いし、別の狙いがあるような気がする。
まあ、面倒なことを考えるのは後にしよう。
どちらにしても、厄介事は起きたということだ。
「私が行かなかったら、厄介事は起きなかったかも知れないわね」
だから、私はアダム王子のそう答える。
「自覚があるなら・・・」
「それで半年くらい経ってから、利子がついて厄介事が起きたんじゃないかしら」
「・・・・・」
アダム王子は何かを言いかけたけど、続く私の言葉を聞いて沈黙した。
ちなみに、私が今言った半年という推測には、一応理由がある。
ハーメルン王国とバビロン王国が同盟を組んだとして、何か仕掛けてくるのは春になってからだろう。
そして、ハーメルン王国の王都に病が蔓延しているのが発覚してから原因が突き止められるのも、そのくらいだと思う。
だから、国家間の問題という形で厄介事が起きるのは、半年くらい経ってからと考えたのだ。
「・・・・・はあ」
沈黙していたアダム王子が溜息をつく。
「礼を言わなければならないのだろうな」
厄介事にうんざりした表情をしながらも、アダム王子がそんなことを言ってきた。
別にお礼は要らないけど、厄介事は引き取って欲しい。
*****
そんなわけで、いつものお茶会だ。
けど、参加しているメンバーは、いつもと少し違う。
「報告を聞かせてくれ」
アダム王子が報告を求める。
それに対する私の返事は決まっている。
「メンドイ」
「・・・・・おまえな」
私の返事を聞いて、アダム王子が呆れる。
けど、そもそも報告は私の役目じゃない。
もっと他に報告すべき人物がいる。
「アーサーから聞いた方がいいでしょう?あの国で得た情報の分析は私じゃ無理よ」
ハーメルン王国の切り札である、銃での攻撃を防ぐであろう鎧。
それがどの程度の脅威になるのかは、私には分からない。
分かるのは、厄介だろうというくらいだ。
だから、そう言ったのだけど、実はそれができない状況だということも分かっている。
分かっていて、愚痴っただけだ。
「アーサーはグィネヴィア殿と一緒に工房にこもっている」
そういうわけだ。
アーサー王子はハーメルン王国で手に入れた情報の報告もせずに、アヴァロン王国に戻ってくるなり工房にこもって何やら研究を始めた。
どうやら、グィネヴィアから得た知識が刺激になったらしい。
だからだろう。
知識の提供元であるグィネヴィアも一緒に連れていっている。
「知っている範囲でいい。報告を頼む」
アダム王子が再度要求してくる。
別に報告くらいしてもいいのだけれど、何だか釈然としない。
「婚約者が他の女としけ込んでいる間に、私に働かせるわけね」
「そういうな。アーサーにそのつもりが無いのは、わかっているだろう」
アダム王子はそう言うけど、どうだろうな。
今は確かにその通りだろうけど、アーサー王子とグィネヴィアの相性は悪くないような気がする。
工房に一緒にいる間に、さらに仲が深まる可能性もあるだろう。
とはいえ、現在のところグィネヴィアが厄介事であることは間違いない。
アーサー王子には、その厄介事を引き受けてもらっているとも言えるので、私だけ遊んでいるわけにもいかないか。
それに、相談したいこともある。
「わかったわよ」
アダム王子の要求に従い、私は報告を始める。
「まず、ハーメルン王国はバビロン王国から同盟を申し込まれていたみたいね。だけど、それを蹴ってアヴァロン王国に同盟を申し込んできたみたい」
「なぜ今の時期に同盟を申し込んできたかと思ったら、それがきっかけか」
アダム王子の推測は正しい。
バビロン王国からの同盟の申し入れを断ったからといって、アヴァロン王国と同盟を結ばなければいけないわけではないけど、きっかけなのは間違いないだろう。
「ハーメルン王国には銃の攻撃を防ぐ手段があったわ。バビロン王国はそれを手に入れるために同盟を申し込んだんじゃないかしら」
これは私の推測だ。
だから、当たっているか外れているかは分からないけど、状況としては大した違いはない。
バビロン王国が単純に武力を目的としていようが、銃の攻撃を防ぐ手段を手に入れることを目的としていようが、アヴァロン王国にとって脅威という意味では同じだ。
「さっそく銃の対策が取られたか」
アダム王子が難しい顔になる。
前回の戦争が圧勝だったのは、銃という新しい武器があったからだ。
その優位性があっという間に崩れたことになる。
だけど、私はそれでいいと思う。
優位性があるからといって、アヴァロン王国が他国に積極的に戦争を仕掛けるとは思わないけど、可能性が無いわけではない。
少なくとも他国は、そう考えるだろう。
だから、その可能性が現実のものになることを防げるなら、優位性など無い方がいい。
「それで、その銃の攻撃を防ぐものは、どんなものだったのだ?」
アダム王子が尋ねてくる。
おそらく、どの程度の脅威になるかを知りたいのだろう。
防ぐ手段があるとは言っても、やり方によっては対抗できると考えているのかも知れない。
だから、私は教えてあげる。
「簡単にいうと全身鎧よ。薄くて頑丈な金属でできていて、数も揃っていたわ」
これは、実際に王都で使うところを見たから間違いない。
重量は分からないけど、薄い見た目と、鎧を着た兵士の動きから判断すると、馬がいないと移動できないといったことは無さそうだった。
それに薄いということは、使う金属が少ないということだから、時間さえかければ数を増やすこともできると思う。
つまり、充分に脅威になり得るということだ。
「・・・厄介だな。ハーメルン王国がバビロン王国と同盟を結ばなかったことを感謝すべきか」
アダム王子にも、どれだけ厄介かが分かったようだ。
だから、ついでに教えてあげることにする。
「ちなみに、その全身鎧を作ったのはグィネヴィア様らしいわ。おそらく、アーサーと同じような立場なんじゃないかしら」
つまり、国を左右するほどの技術の重要な部分を担っている。
私の言葉を聞いて、アダム王子が頭痛を堪えるように手で頭を押さえた。
「グィネヴィア殿が我が国に来たのは、信用されたと考えていいのだろうが・・・」
アダム王子が何を考えて頭を押さえたのかは分かる。
だから、忠告しておく。
「色々持っていかれないようにね」
具体的には、アヴァロン王国が保有する技術や、それを生み出すアーサー王子のことだ。
アヴァロン王国にとってグィネヴィアは、ハーメルン王国との友好の証であり、それと同時に懐に飛び込んできた狩人でもある。
狩人の狙う獲物は、アーサー王子あたりだと思う。
「・・・そのあたりは、アーサーとも話しておく。それで、他に何か報告することはあるか?」
もともと予定していた情報収集は今話した内容くらいのものだろう。
だけど、手に入れた情報は、もう一つある。
これは、師匠にも相談したかったことだ。
「ハーメルン王国の王都に『狂犬病』にかかった犬がいたわ」
その言葉に、アダムは怪訝そうな顔に、師匠が驚いた顔になった。
「狂犬病?犬が狂暴にでもなるのか?」
アダム王子は、どうやらあの国で蔓延しかかっていた病のことは知らないようだ。
アダム王子が言った症状は、確かに狂犬病の症状の一つではあるけど、あの病の怖ろしさは別にある。
「あの国は昔ひどい目に遭ってから対策していたはずじゃが・・・」
それに対して、師匠は当然知っている。
私に教えてくれたのが師匠なのだから、間違いない。
それどころか、どうやら昔のことまで知っているようだ。
「バビロン王国の商人が犬を大量に連れてきたらしいから、ハーメルン王国が同盟を断った報復かもね」
「ずいぶんとエグイことをするのう。下手をすると王都が壊滅するぞ。報復の域を超えておるじゃろ」
あの病の怖ろしさを知っている師匠も、そう思ったらしい。
私も、そう思った。
「報復が目的じゃないとすると、何が狙いだと思う?」
私が師匠に意見を求めようとしたところで、待ったがかかる。
「待て待て!何か物騒な話をしているようだが、俺にも教えてくれ!」
話について来れなかったアダム王子が説明を求める。
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