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第十一章 ハーメルンの笛
170.訪れる者(その4)
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私はあいかわらず、暇な毎日を過ごしていた。
シルヴァニア王国が入国税の減額を受け入れたり、バビロン王国が通行料の増額を受け入れたりと、『どうでもいいこと』はあったみたいだけど、私の日常には影響が無い。
小さな変化としては、アーサー王子が工房で徹夜をすることが少なくなった。
今作っているものは、実験をしたからといって、すぐに結果が分かるものじゃないからだろう。
だから、朝にアーサー王子を寝かしつけに行く日課も、最近はお休み中だ。
「やっぱり、庭の片隅を使わせてもらって、薬草でも育てようかなぁ」
花を育てたいからとでも言えば、使わせてくれそうな気がする。
好きな花を愛でたいからとでも言えば、貴族の令嬢っぽいだろう。
花をつける薬草もあるから、そういう薬草を育てても嘘にはならない。
師匠と森で暮らしていたときは、薬草を調合して薬を作っていた。
その大半は、師匠が町で売ったり、自分達で使ったりといった用途だ。
傷薬とか解熱薬とか鎮痛薬とか、そういったものだ。
他には、狩りで使う薬も作っていた。
麻酔薬とか痺れ薬とか眠り薬とか、そういったものだ。
毒薬は作っていなかった。
毒など使ったら、せっかく狩った獲物が食べられなくなる。
「でも、季節がなぁ」
今の季節は冬。
薬草を植えても、芽を出すのは春になってからだ。
つまり、全く暇つぶしにはならない。
いや、そういえば、ちょうどアーサー王子が冬に作物を育てるものを作っていたな。
あれを使わせてもらえば、冬に薬草を育てることができるかも知れない。
面倒な理由を考えて、庭の片隅を借りる必要もない。
今日のお茶会で聞いてみようかな。
*****
そんなわけでお茶会の時間になったのだけど、私より先に話題を提供した人物がいた。
「ハーメルン王国から書状が届いた」
アダム王子だ。
けど、それを聞いた私の感想は、
「ふーん」
というくらいだ。
他国から書状が届くことなんて普通のことだろうから、不思議でもなんでもない。
あえて疑問を挙げるとすれば、ついこの間パーティーがあったばかりなのに、なんでわざわざ後から書状を送ってきたのかということだ。
パーティーのついでに書状を持ってくれば、手間が少なかっただろうに。
「どんな内容だったの?」
私があまりにも興味を示さないからか、アーサー王子が尋ねる。
正直、興味がないから、とっとと話題を終わらせて欲しいんだけどな。
「同盟を結びたいという申し入れだ」
「同盟?友好じゃなくて?」
「同盟だ」
アダム王子の言葉に私は少しだけ興味を引かれる。
面白そうな内容だったからじゃない。
面倒そうな内容だったからだ。
「ほう。大胆じゃのう」
師匠が感心したような感想を漏らす。
やっぱり、師匠もそう思う内容のようだ。
私の勘違いじゃない。
「断る方向で考えているのだが、戦争が終わったこのタイミングで言ってきたのが気になってな」
私達が聞く態度を見せたことを確認し、アダム王子が話を続ける。
今の言葉からすると、アダム王子は同盟の申し入れを断るつもりのようだ。
それはそうだろう。
この大陸は、アヴァロン王国を中央に東西南北の国家の力が釣り合っている。
だからこそ、平和が保たれている。
それなのに二つの国が同盟など結んだら、力関係が崩れて大陸中を巻き込んだ戦争にまっしぐらだ。
この間の戦争でシルヴァニア王国とバビロン王国が手を組んだことが、今回の申し入れのきっかけなのは間違いない。
けど、だからといって、対抗して同盟など組んだら、戦争が起きる可能性を高めるだけだ。
・・・・・
せっかく、野心を持っていそうなバビロン王国の力を削いで、食糧難のシルヴァニア王国が力を回復するようにしたのに、どこかのアホがそのバランスを崩そうとしている。
そして、そのアホはハーメルン王国にいるらしい。
「それで、詳しい話を聞くために、アーサーに行ってもらおうと思っている」
私が考え事をしている間にも、アダム王子の話は続く。
どうやら、今の言葉が、この話をお茶会で言い出した理由のようだ。
「僕に?」
アダム王子の言葉に、アーサー王子が疑問の声を上げる。
でも、疑問を感じたのは私も同じだ。
引きこもりのアーサー王子に外交を任せる理由が分からない。
だから、話の続きを聞く。
「もちろん、一人で行かせるわけじゃない。アーサーには、ハーメルン王国の切り札を探ってきてもらいたい」
「切り札?」
「銃に匹敵する兵器の有無だ」
そういうことか。
アダム王子の懸念が理解できた。
この間の戦争で、アヴァロン王国は銃という新兵器でバビロン王国を圧倒した。
つまり、アヴァロン王国は他国の脅威になる可能性を示してしまったのだ。
もし、アヴァロン王国が野心を持っていたら、続けて他国に攻め込んでもおかしくない。
他国がそれを防ごうとするなら、アヴァロン王国以外の国と同盟を組んで、アヴァロン王国に対抗しようとするはずだ。
だけど、ハーメルン王国はアヴァロン王国に同盟を申し入れてきた。
軍事力に圧倒的な差があるなら、ハーメルン王国がアヴァロン王国に従属するという可能性もあるけど、そこまでの差はないと思う。
だから、同盟を申し入れてきた理由は別だと考えられる。
すなわち、銃という新兵器を持つアヴァロン王国と、対等な同盟を結ぶだけの軍事力を持っているということだ。
さらに、もしそうだとして、なぜ同盟を申し入れてきたのかも問題になる。
対等の軍事力を持っていて戦争を回避したいだけなら、友好関係を結べばいいだけだ。
なのに、申し入れてきたのは同盟。
強力な軍事力を持つ二つの国が同盟を結ぶ。
まるで、何かに備えるためのように思えてしまう。
そして、その『何か』は、大抵の場合、碌でもないことなのだ。
「僕で大丈夫かな?」
目的は理解したようだが、アーサー王子が不安そうにしている。
確かに、切り札を探るだけなら、アーサー王子でなくてもよいように思える。
しかし、アダム王子は方針を変える気はないようだ。
「交渉までしろとは言わない。だが、向こうに切り札があったとして、それがどの程度の脅威になりそうかは、おまえでないと判断できないだろう」
それは、その通りだと思うけど、誰かが持ち帰った情報からも判断できるのではないだろうか。
なぜ、アーサー王子にこだわるのだろう。
そんなことを考えていると、それに答えるように、アダム王子が言葉を続ける。
「それに、ハーメルン王国に知り合いがいる、おまえが行った方が、情報も引き出しやすいだろう」
「知り合い?」
思わず疑問を口に出してしまう。
引きこもりのアーサー王子に、他国の知り合いなどいるのだろうか。
そういった疑問だ。
すると、私の声に気づいたのか、アダム王子が私の方を見て言ってくる。
「おまえとも知り合いのはずだぞ」
「私とも知り合い?」
誰だろう。
さっぱり心当たりがない。
そもそも社交界に出ない私に、他国の知り合いなどいるはずがない。
いるとすれば、シルヴァニア王国で会った人達だけど、今回は別の国だ。
というより、それ以前に私はハーメルン王国について詳しく知らない。
名前を聞いたことがあるくらいだ。
そんな考えが顔に出ていたのか、アーサー王子が教えてくれる。
「シンデレラ、フィドラー殿のことだよ」
「あー・・・・・」
「やっぱり、気付いていなかったんだね」
そういうことか。
フィドラーが他国の王子だということは知っていたけど、どこの出身なのかなんて興味が無いから、聞いたことも無かった。
ちなみに、同じくシルヴァニア王国で会ったファイファーが、どこの国の王子なのかも知らない。
興味も無いし、今の話には関係無いから、わざわざ聞いたりはしないけど。
「まあ、いいんだけどね」
「いや、よくないだろう」
私がフィドラーの出身国を知らなかったことについて、アーサー王子とアダム王子が正反対の反応を示す。
アーサー王子は、婚約者として他の男に興味を持って欲しくない。
アダム王子は、王族の婚約者として他国の王族くらい知っておくべきだ。
そういう意見の違いかな。
「とにかく、そういうわけで、アーサーにハーメルン王国に行って欲しいわけだ」
アダム王子が再びアーサー王子に要望する。
理由に納得したのか、アーサー王子は渋々ながらも拒否はしない。
「僕でどこまで役に立てるかは、わからないけど、わかったよ」
そう答えた。
ハーメルン王国に行くことを、引き受けるつもりのようだ。
さて、私はどうするべきかな。
行って欲しいと言われたわけじゃないけど、私もフィドラーとは知り合いだ。
「私も行った方がいい?」
そう尋ねてみる。
すると、アダム王子は悩む素振りを見せる。
「正直、迷っている。フィドラー王子がおまえに気があるのであれば、色仕掛けで情報を引き出すという手もあるが・・・」
「兄上!」
「冗談だ」
アーサー王子の非難するような声を聞いてアダム王子が否定するが、たぶん冗談じゃなかったと思う。
戦争に発展するかどうかに関係する情報だから、本音では色仕掛けを使ってでも収集したいだろう。
婚約者の前でするような話ではないから、否定しただけだと思う。
もっとも、私が色仕掛けをするというのが、そもそも無理だ。
それに、色仕掛けなら、もっとよい方法がある。
「色仕掛けなら、アーサーの方が効果があると思うわよ」
「シンデレラ!?」
「そうか、その手が・・・」
「無いよ!?」
私の提案をアーサー王子が否定してくる。
おかしいな。
手っ取り早く情報収集する手段だと思ったんだけど。
「何度も言うけど、事実無根だよ!?」
必死に否定してくるので、残念だけど今の提案は諦めることにする。
まあ、気があるかどうかは別にして、アーサー王子も色仕掛けが得意には見えないから、仕方ない。
でも、そうなると、情報収集するための別の手札があった方がいいように思う。
「私も行くわ」
「いいのか?」
「婚約者を寝取られないか心配だしね」
「あり得ないから!?」
ありかわらずアーサー王子は否定してくるけど、私はあり得ないことだとは思っていない。
手段が寝技ではなく、技術者として魅力的な提案をされたとしたら、どうだろう。
アーサー王子は優秀な技術者ではあるけど、他国の技術にまで精通しているわけではない。
他国には、アーサー王子が知らない技術もあるだろう。
それは、アーサー王子にとって、魅力的に思えないだろうか。
さすがに自分の国を裏切るとは思っていないけど、無自覚に不利益をもたらす可能性はある。
「それに、道化もいるみたいだから、観劇を楽しんでくるわ」
そんなわけで、ハーメルン王国に行くことになった。
シルヴァニア王国が入国税の減額を受け入れたり、バビロン王国が通行料の増額を受け入れたりと、『どうでもいいこと』はあったみたいだけど、私の日常には影響が無い。
小さな変化としては、アーサー王子が工房で徹夜をすることが少なくなった。
今作っているものは、実験をしたからといって、すぐに結果が分かるものじゃないからだろう。
だから、朝にアーサー王子を寝かしつけに行く日課も、最近はお休み中だ。
「やっぱり、庭の片隅を使わせてもらって、薬草でも育てようかなぁ」
花を育てたいからとでも言えば、使わせてくれそうな気がする。
好きな花を愛でたいからとでも言えば、貴族の令嬢っぽいだろう。
花をつける薬草もあるから、そういう薬草を育てても嘘にはならない。
師匠と森で暮らしていたときは、薬草を調合して薬を作っていた。
その大半は、師匠が町で売ったり、自分達で使ったりといった用途だ。
傷薬とか解熱薬とか鎮痛薬とか、そういったものだ。
他には、狩りで使う薬も作っていた。
麻酔薬とか痺れ薬とか眠り薬とか、そういったものだ。
毒薬は作っていなかった。
毒など使ったら、せっかく狩った獲物が食べられなくなる。
「でも、季節がなぁ」
今の季節は冬。
薬草を植えても、芽を出すのは春になってからだ。
つまり、全く暇つぶしにはならない。
いや、そういえば、ちょうどアーサー王子が冬に作物を育てるものを作っていたな。
あれを使わせてもらえば、冬に薬草を育てることができるかも知れない。
面倒な理由を考えて、庭の片隅を借りる必要もない。
今日のお茶会で聞いてみようかな。
*****
そんなわけでお茶会の時間になったのだけど、私より先に話題を提供した人物がいた。
「ハーメルン王国から書状が届いた」
アダム王子だ。
けど、それを聞いた私の感想は、
「ふーん」
というくらいだ。
他国から書状が届くことなんて普通のことだろうから、不思議でもなんでもない。
あえて疑問を挙げるとすれば、ついこの間パーティーがあったばかりなのに、なんでわざわざ後から書状を送ってきたのかということだ。
パーティーのついでに書状を持ってくれば、手間が少なかっただろうに。
「どんな内容だったの?」
私があまりにも興味を示さないからか、アーサー王子が尋ねる。
正直、興味がないから、とっとと話題を終わらせて欲しいんだけどな。
「同盟を結びたいという申し入れだ」
「同盟?友好じゃなくて?」
「同盟だ」
アダム王子の言葉に私は少しだけ興味を引かれる。
面白そうな内容だったからじゃない。
面倒そうな内容だったからだ。
「ほう。大胆じゃのう」
師匠が感心したような感想を漏らす。
やっぱり、師匠もそう思う内容のようだ。
私の勘違いじゃない。
「断る方向で考えているのだが、戦争が終わったこのタイミングで言ってきたのが気になってな」
私達が聞く態度を見せたことを確認し、アダム王子が話を続ける。
今の言葉からすると、アダム王子は同盟の申し入れを断るつもりのようだ。
それはそうだろう。
この大陸は、アヴァロン王国を中央に東西南北の国家の力が釣り合っている。
だからこそ、平和が保たれている。
それなのに二つの国が同盟など結んだら、力関係が崩れて大陸中を巻き込んだ戦争にまっしぐらだ。
この間の戦争でシルヴァニア王国とバビロン王国が手を組んだことが、今回の申し入れのきっかけなのは間違いない。
けど、だからといって、対抗して同盟など組んだら、戦争が起きる可能性を高めるだけだ。
・・・・・
せっかく、野心を持っていそうなバビロン王国の力を削いで、食糧難のシルヴァニア王国が力を回復するようにしたのに、どこかのアホがそのバランスを崩そうとしている。
そして、そのアホはハーメルン王国にいるらしい。
「それで、詳しい話を聞くために、アーサーに行ってもらおうと思っている」
私が考え事をしている間にも、アダム王子の話は続く。
どうやら、今の言葉が、この話をお茶会で言い出した理由のようだ。
「僕に?」
アダム王子の言葉に、アーサー王子が疑問の声を上げる。
でも、疑問を感じたのは私も同じだ。
引きこもりのアーサー王子に外交を任せる理由が分からない。
だから、話の続きを聞く。
「もちろん、一人で行かせるわけじゃない。アーサーには、ハーメルン王国の切り札を探ってきてもらいたい」
「切り札?」
「銃に匹敵する兵器の有無だ」
そういうことか。
アダム王子の懸念が理解できた。
この間の戦争で、アヴァロン王国は銃という新兵器でバビロン王国を圧倒した。
つまり、アヴァロン王国は他国の脅威になる可能性を示してしまったのだ。
もし、アヴァロン王国が野心を持っていたら、続けて他国に攻め込んでもおかしくない。
他国がそれを防ごうとするなら、アヴァロン王国以外の国と同盟を組んで、アヴァロン王国に対抗しようとするはずだ。
だけど、ハーメルン王国はアヴァロン王国に同盟を申し入れてきた。
軍事力に圧倒的な差があるなら、ハーメルン王国がアヴァロン王国に従属するという可能性もあるけど、そこまでの差はないと思う。
だから、同盟を申し入れてきた理由は別だと考えられる。
すなわち、銃という新兵器を持つアヴァロン王国と、対等な同盟を結ぶだけの軍事力を持っているということだ。
さらに、もしそうだとして、なぜ同盟を申し入れてきたのかも問題になる。
対等の軍事力を持っていて戦争を回避したいだけなら、友好関係を結べばいいだけだ。
なのに、申し入れてきたのは同盟。
強力な軍事力を持つ二つの国が同盟を結ぶ。
まるで、何かに備えるためのように思えてしまう。
そして、その『何か』は、大抵の場合、碌でもないことなのだ。
「僕で大丈夫かな?」
目的は理解したようだが、アーサー王子が不安そうにしている。
確かに、切り札を探るだけなら、アーサー王子でなくてもよいように思える。
しかし、アダム王子は方針を変える気はないようだ。
「交渉までしろとは言わない。だが、向こうに切り札があったとして、それがどの程度の脅威になりそうかは、おまえでないと判断できないだろう」
それは、その通りだと思うけど、誰かが持ち帰った情報からも判断できるのではないだろうか。
なぜ、アーサー王子にこだわるのだろう。
そんなことを考えていると、それに答えるように、アダム王子が言葉を続ける。
「それに、ハーメルン王国に知り合いがいる、おまえが行った方が、情報も引き出しやすいだろう」
「知り合い?」
思わず疑問を口に出してしまう。
引きこもりのアーサー王子に、他国の知り合いなどいるのだろうか。
そういった疑問だ。
すると、私の声に気づいたのか、アダム王子が私の方を見て言ってくる。
「おまえとも知り合いのはずだぞ」
「私とも知り合い?」
誰だろう。
さっぱり心当たりがない。
そもそも社交界に出ない私に、他国の知り合いなどいるはずがない。
いるとすれば、シルヴァニア王国で会った人達だけど、今回は別の国だ。
というより、それ以前に私はハーメルン王国について詳しく知らない。
名前を聞いたことがあるくらいだ。
そんな考えが顔に出ていたのか、アーサー王子が教えてくれる。
「シンデレラ、フィドラー殿のことだよ」
「あー・・・・・」
「やっぱり、気付いていなかったんだね」
そういうことか。
フィドラーが他国の王子だということは知っていたけど、どこの出身なのかなんて興味が無いから、聞いたことも無かった。
ちなみに、同じくシルヴァニア王国で会ったファイファーが、どこの国の王子なのかも知らない。
興味も無いし、今の話には関係無いから、わざわざ聞いたりはしないけど。
「まあ、いいんだけどね」
「いや、よくないだろう」
私がフィドラーの出身国を知らなかったことについて、アーサー王子とアダム王子が正反対の反応を示す。
アーサー王子は、婚約者として他の男に興味を持って欲しくない。
アダム王子は、王族の婚約者として他国の王族くらい知っておくべきだ。
そういう意見の違いかな。
「とにかく、そういうわけで、アーサーにハーメルン王国に行って欲しいわけだ」
アダム王子が再びアーサー王子に要望する。
理由に納得したのか、アーサー王子は渋々ながらも拒否はしない。
「僕でどこまで役に立てるかは、わからないけど、わかったよ」
そう答えた。
ハーメルン王国に行くことを、引き受けるつもりのようだ。
さて、私はどうするべきかな。
行って欲しいと言われたわけじゃないけど、私もフィドラーとは知り合いだ。
「私も行った方がいい?」
そう尋ねてみる。
すると、アダム王子は悩む素振りを見せる。
「正直、迷っている。フィドラー王子がおまえに気があるのであれば、色仕掛けで情報を引き出すという手もあるが・・・」
「兄上!」
「冗談だ」
アーサー王子の非難するような声を聞いてアダム王子が否定するが、たぶん冗談じゃなかったと思う。
戦争に発展するかどうかに関係する情報だから、本音では色仕掛けを使ってでも収集したいだろう。
婚約者の前でするような話ではないから、否定しただけだと思う。
もっとも、私が色仕掛けをするというのが、そもそも無理だ。
それに、色仕掛けなら、もっとよい方法がある。
「色仕掛けなら、アーサーの方が効果があると思うわよ」
「シンデレラ!?」
「そうか、その手が・・・」
「無いよ!?」
私の提案をアーサー王子が否定してくる。
おかしいな。
手っ取り早く情報収集する手段だと思ったんだけど。
「何度も言うけど、事実無根だよ!?」
必死に否定してくるので、残念だけど今の提案は諦めることにする。
まあ、気があるかどうかは別にして、アーサー王子も色仕掛けが得意には見えないから、仕方ない。
でも、そうなると、情報収集するための別の手札があった方がいいように思う。
「私も行くわ」
「いいのか?」
「婚約者を寝取られないか心配だしね」
「あり得ないから!?」
ありかわらずアーサー王子は否定してくるけど、私はあり得ないことだとは思っていない。
手段が寝技ではなく、技術者として魅力的な提案をされたとしたら、どうだろう。
アーサー王子は優秀な技術者ではあるけど、他国の技術にまで精通しているわけではない。
他国には、アーサー王子が知らない技術もあるだろう。
それは、アーサー王子にとって、魅力的に思えないだろうか。
さすがに自分の国を裏切るとは思っていないけど、無自覚に不利益をもたらす可能性はある。
「それに、道化もいるみたいだから、観劇を楽しんでくるわ」
そんなわけで、ハーメルン王国に行くことになった。
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