シンデレラストーリーは悪魔の契約に基づいて

かみゅG

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第十章 はだかの女王様

163.問いかけ

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「どう?気持ちいい?」
「気持ちいいよ、シンデレラ」

 私が尋ねると、アーサー王子が肯定の答えを返してくる。
 最初は緊張していたようだけど、次第にリラックスしてきたみたいだ。
 今は、力も抜けて、気持ちよさそうにしている。

 しかし、人から背中を流してもらうのって、気持ちいいのかな。
 私はしてもらったことがないから、よく分からない。
 娘達メイドは『アーサー王子ならきっと悦びます!』と言っていた。
 だから、たぶん気持ちいいのだろう。
 心配かけたお詫びに、じっくりと背中を流してあげる。

「城に戻っても、同じようにしてくれる?」

 アーサー王子が甘えたように、そんなことを言ってくる。
 城に戻っても、か。
 別にいいけど、ちょっと面倒だな。
 私はどちらかというと、お湯に浸かっている方が好きだ。
 一緒にお風呂に入るくらいならかまわないけど、背中を流すのは少し面倒に思う。
 そんなことを考えていると、アーサー王子が首を捻って、私の方に視線を向けてきた。

「・・・もしかして、またどこかに行くつもり?」

 不安そうに、そんなことを尋ねてくる。
 私が考え事をしていて答えるのが遅くなったから、そう思ったのだろうか。

「どこにも行かないわよ」
「本当に?ずっと城にいる?」

 ずっとと言われると、どうだろうか。
 今のところ予定はないけど、今後のことは分からない。
 答えるまでの間が不安を与えてしまったのだろうか。
 アーサー王子が、首だけじゃなく、身体ごと捻って、こちらに振り返ってきた。

「ねえ、シンデレラ」
「わっ」

 そして、振り返った勢いのまま、私の両手首を掴んで押し倒してくる。
 重くはないけど、動けそうにない。
 なよっとしているように見えても、アーサー王子は男だ。
 それなりに力はあるということだろう。

「ちゃんと答えて。どこにも行かない?」

 アーサー王子は、いつになく真剣な表情だ。
 背中が冷たいけど、それについて文句を言っていられる雰囲気じゃなさそうだ。
 だから、真面目に答えることにする。

「今のところ、どこかに行く予定は無いわ。けど、先のことまでは、わからないわね」

 第一、私が城に居たいと言っても、追い出される可能性もある。
 実際、シルヴァニア王国の城には、当分の間は行くことはできないと思う。
 エリザベート王女の流した噂で、私はあの国の国民に恨まれているだろう。
 それと同じことが、アヴァロン王国でも起きないとは限らない。
 そのことを正直に答えたつもりだけど、その答えはアーサー王子のお気に召さなかったようだ。
 私を押さえる手に力が入ったように感じた。

「・・・・・兄上のように子供でも作ったら、一緒に居てくれるのかな?」

 疑問形の言葉だけど、私への問いかけではないようだ。
 自分に問いかけているように見える。
 それにしても子供か。

「ここで子供を作るの?私は別にかまわないけど」

 私はアーサー王子の婚約者だ。
 だから、いずれ彼の子供を産むことになるだろうとは思っている。
 特に、王族なら血を残すために子供を作るのは義務と言ってもいい。
 それに、そんな事情を抜きにしても、ヘンゼルとグレーテルを見ていると、子供を産むのも悪くないと思っていたところだ。

「・・・・・」

 私があっさりと了承したから疑っているのだろうか。
 アーサー王子が、私の真意を見抜こうとでもするように、じっと無言で見つめてくる。

「・・・・・」
「・・・・・」

 どうするのかな。
 すぐに始めるのかな。
 それなら、色々と準備をしたいんだけどな。
 初めてのときは、しっかりと準備をしないと、痛いと聞く。
 娘達メイドが、そんなことを言っていた。
 私が、準備をするから手をどかしてくれと言おうとしたところで、アーサー王子が口を開いた。

「・・・・・・・・・・はぁ」

 出てきたのは溜息だった。
 息が顔にかかってきて、こそばゆい。
 そんな私を見つめながら、アーサー王子の言葉は続く。

「シンデレラは、子供ができても、子供を連れて旅に出そうだね」

 そんなことを言いながら、私を押さえていた手を離して、アーサー王子が起き上がる。
 それによって、ぴくりとも動かなかった両腕が自由になる。

「あれ?しないの?」

 念のため、尋ねてみる。
 けど、アーサー王子は首を横に振る。

「僕は初めては、城にあるシンデレラの部屋って決めているんだ」

 なんか、夢見がちな乙女のような台詞を言い出した。
 アーサー王子には似合っているけど、男が女に言う台詞としては、どうなんだろう。
 でもまあ、私も無理に、ここで行為に及びたい訳じゃない。
 ここだと行為の後に身体を洗うのには便利だけど、風邪をひきそうだ。
 どうやら、ここでするつもりは無いようだから、私も起き上がる。

「シンデレラを引き留めるのは難しそうだから、僕の方がついていくことにするよ。だから、今度からどこかに行くときは、ちゃんと行き先を教えてね」
「今回もちゃんと伝えたはずなんだけどな」

 アーサー王子にはシルヴァニア王国側の戦場に行くと伝えたし、師匠には温泉に入りに来ると伝えた。
 なんだか、理不尽だ。
 まるで私が、行き先も告げずに、おかしなことをしていたみたいな言われ方だ。

 さて、それはともかく、これで用事は終わった。
 名残惜しいけど、温泉に入るのは、ここまでにしておく。
 次に温泉に入るのは、いつになるだろうか。
 そんなことを考えながら、脱衣場へ向かう。

「私はあがるけど、アーサーはどうする?」
「僕はもう少しだけ入っていくよ」
「ふーん・・・」
「?」

 私は、ちらりとお湯に浸かるアーサー王子を見る。
 水面で歪んで見えるけど、どうなっているかは、なんとなく分かった。
 まあ、密着していたしな。

「手伝った方がいい?」
「!!!」
「背中を擦るのも、そこを擦るのも、一緒だろうから、ちょっとくらいなら・・・」
「いや、いいよ!遠慮しておく!」

 せっかく私が提案したのに、アーサー王子が必死に固辞してきた。
 そして、お湯に深く浸かり、私の視界から、そこを隠す。

「そう?」
「うん!気持ちだけもらっておくよ!」

 いいのかな。
 いったん、ああなると、出すか冷ますかしないと、なかなか戻らないと聞いたことがあるけど。
 でも、必要ないというなら、無理に手伝うのも、余計なお世話か。

「わかった。じゃあ、また後でね」

 そう言い残し、私は温泉を去った。

 *****

「どうでした?」

 私が戻ると、ヒルダが声をかけてきた。
 アーサー王子の背中を流しに行ったことについてだろう。
 温泉を貸し切りにしてくれたのは彼女だから、結果が気になるのかも知れない。
 私が答えようとすると、それに気づいた娘達メイドも寄ってきた。
 ついでに、女湯に入っていた師匠も寄ってきた。

「喜んでくれたわよ。気持ちいいって言ってた」
「それはよかったです。それで・・・どこまで行ったのですか?」
「どこまで?」

 背中を流すのに、どこまでも何もないけど。
 頭も洗ったのかとは、前も洗ったのかとか、そういうことを答えればいいのだろうか。
 私が口を開こうとすると、先に師匠が口を開いた。

「押し倒されとったのう。女湯にも聞こえてきとったぞ」
『きゃ~~~~~!』

 師匠の言葉で、娘達メイドが黄色い声を上げる。
 なるほど。
 そういうことを答えればよかったのか。
 でも、耳がきーんとするから、一斉に声を上げるのは止めて欲しい。

『聖女様、おめでとうございます!』
「え?うん。ありがとう?」

 なんの祝福だろう。
 よく分からないけど、とりあえず、お礼を言っておく。

「男の子か女の子か、どっちかな?」
「気が早いわよ」
「一度でできるとは限らないしね」
「私、聖女様は処女懐妊すると思ってた」
「そんなわけないじゃない」

 勘違いされているような気がするけど、訂正した方がいいのかな。
 でも、なんだか盛り上がっているみたいだから、口を挟みづらい。

「・・・アーサー王子がヘタレなせいで、なにも無かったようじゃがのう・・・」

 師匠がぼそりと呟くけど、ヒルダにも娘達メイドにも聞こえていないようだ。
 もはや、私とは関係なく、盛り上がっている。
 まあ、今は休暇中みたいなものだ。
 娯楽だと思えば、少しくらい勘違いされていてもいいか。
 そんなことを考えていると、お腹が鳴った。

「すぐに夕食の準備をしますね。『運動』した後は、お腹が空くでしょうから」

 ヒルダが楽しそうに、そんなことを言ってきた。
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