120 / 240
第七章 狼と三匹の豚
120.豚との交渉(その8)
しおりを挟む
「一人分を金貨10枚です。ただし、解毒薬を作る試みを続けるなら、お譲りすることはできません。目覚めさせた直後に命を落とすようでは、無駄になりますから」
「作り方を教えてはもらえないのですか?」
「魔女の秘術で作られているので、私も知りません。知っていたとしても、魔女ではない人間には作ることができないそうです」
我儘な子供のように解毒薬の作り方を訊いてくるプラクティカルを、どうにか納得させる。
ちなみに、『魔女の秘術』というのは、でたらめだ。
解毒薬を作った師匠は魔女だけど、解毒薬を作るのに必要なのは、薬学の知識と技術だ。
だから、作り方を詳しく教えてもらえば、私にも作ることはできると思う。
でも、それを言うつもりは無い。
プラクティカルは、可能性があると知れば、必ず試そうとするだろう。
「そうですか。それなら、仕方ないですね。先ほどの価格で解毒薬を譲ってください」
「・・・・・わかりました」
もし、これが薬の代金を安くするための交渉だというなら、素直に騙されておくつもりだ。
他国の騎士とは言っても、見殺しにするのは後味が悪い。
護衛という役目に就いた騎士にとって、死ぬということは、場合によっては任務の一環ではある。
けど、プラクティカルの実験台になるのは、任務ではないだろう。
「用件はそれだけですか?」
私はプラクティカルに尋ねる。
他に用件が無いのなら、とっととお茶会をお開きにするつもりだ。
このバカと一緒にいると、気分がよくない。
まるで、駄々っ子を相手にしているようだ。
子供ならば、それも可愛いだろう。
けど、大人だと見苦しいだけだ。
「もう一つあります」
しかし、プラクティカルはまだ要求があるようだ。
あまり聞きたくはないのだけど、聞かなくちゃならないだろう。
そうでないと、何をやらかすか、分かったものではない。
「エリザベート王女を見舞いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「エリザベート王女?」
正直に言うと、意外な言葉だった。
いや、誕生パーティーのときに言い寄っていたのだから、プラクティカルがエリザベート王女に執着していたとしても不思議ではない。
けど、見舞うことの許可を私に求めてくるのが、意外だったのだ。
「なぜ、私に確認するのですか?ヒルダに確認するのが筋でしょう」
「そうなのですか?聖女殿がシルヴァニア王国の女王に就くという噂を聞いたのですけど」
私はファイファーを、ちらりと見る。
視線に気づいたのか、うんうんと頷いている。
違う。
私が期待しているのは、そういう反応じゃない。
でも、あの反応をみると、私を女王に担ぎ上げようとしているわけじゃないようだ。
だとすると、ファイファーが違う意味で私を女王と呼んでいることが変な噂になっているか、もしくは、
「どうも違ったみたいですね。失礼しました。ヒルダ殿に確認することにします」
「・・・ええ。そうしてください」
鎌をかけられたか。
やっかいだな。
バカなくせに、こういう駆け引きをしてくるのか。
*****
プラクティカルが去ったのを確認してから、私は溜息をつく。
「なんだ、あいつは!自らの騎士をなんだと思っている!」
突然、叫び声を上げたのはフィドラーだった。
いや、突然ではないのだろう。
表情を見れば分かる。
プラクティカルが立ち去るまで、我慢していたのだろう。
「フィドラー殿、落ち着け」
「落ち着いている!」
ファイファーがなだめるが、フィドラーの怒りは治まらないようだ。
「聖女殿の手前、先ほどは我慢したが、騎士達を実験台にするような奴は気に入らない!」
どうも、我慢していたのは、私のためだったらしい。
まあ、あの場でフィドラーが騒ぎ出していたら、プラクティカルには解毒薬を渡さない結果になっていたかも知れない。
そうなれば、困るのはプラクティカル本人じゃなくて、倒れている騎士達だ。
だから、怒りを抑えてくれたのは、ありがたい。
フィドラーは、怒りの矛先を間違えないだけの知性はあるようだ。
「シンデレラ、あの様子だとプラクティカル殿はエリザベート王女に会いに行くつもりみたいだけど、大丈夫?」
アーサー王子が問いかけてくる。
実はあまりよくは無い。
まだ、少し早い。
「エリザベート王女のお世話はMMQがしているのよね?」
エリザベート王女は、眠り薬で倒れてはいない。
眠り薬を仕込んだ本人なのだから、当たり前だ。
けど、私が『ちょっとした悪戯』をしたことにより、現在は自失の状態に陥っている。
一人では食事も着替えもできないので、MMQが世話をしているはずだった。
ただ、エリザベート王女の症状はあくまでも精神的なものだ。
いつ自失の状態から回復してもおかしくはない。
そのための準備は進めているけど、まだ完了はしていない。
もし、準備が完了する前にエリザベート王女が自失の状態から回復すれば、ちょっと手荒なことをしなくちゃならなくなる。
私とては、どちらでもいいんだけど、状況は把握しておく必要がある。
「ああ、今のところ、症状に変化はないようだよ」
それを聞いて、まずは安心する。
でも本当に気を付けなくちゃいけないのは、エリザベート王女が自失の状態から回復することじゃない。
回復した後で、別の人間と手を組むことだ。
彼女が主導権を握ったとしても、相手が主導権を握ったとしても、色々と面倒なことになる。
「なら、お世話をする人間を増やしましょう。私の娘達にも手伝わせるから、昼夜問わず、お世話をすることにするわ。プラクティカル様が本当にお見舞いをするだけならいいけど、素人判断の治療をされて、症状が悪化するといけないものね」
とは言ったが、ようするに昼夜問わず監視するという意味だ。
今までは、食事や着替えなどの世話をするついでに症状を確認するだけで、エリザベート王女の部屋の警備自体は兵士に任せていた。
だから、MMQが目を離している時間帯もあった。
その空白の時間帯を無くした方がよいと判断したのだ。
私の意見に、事情を知っているアーサー王子は当然として、ファイファーもフィドラーも反対はしてこなかった。
おそらく、言葉の裏に隠している意図には気づいていると思うけど、私に任せてくれるようだ。
「ところで、プラクティカル殿はどうするのだ?」
ファイファーが尋ねてくる。
『どうする』の指している意味を口には出さなかったけど、なにが言いたいのかは分かる。
監視は必要ないのかと言っているのだろう。
「どうもしないですよ」
私が言うと、フィドラーが不満そうな声を上げる。
「聖女殿、甘くはないか?あいつは、無邪気な子供が虫の翅を千切るように、人間を実験台にしそうな奴だぞ。子供は見張って、悪さをしたら躾けるべきだろう」
フィドラーは、プラクティカルのことを、そう評価したか。
でも、私は少し違う。
「無邪気な子供は、病人のお見舞いなどしませんよ。そういう行動をするのは、その状態や状況が持つ意味を理解している証拠です。そういう子供は、かくれんぼが得意でしょうね」
「・・・なるほどな」
フィドラーは、あいかわらず不満そうだけど、感情的にはなっていない。
私の言葉の意味を理解したようだ。
「隠れた子供を捜すコツは、むやみやたらと捜すのではなく、興味を持ちそうな場所を捜すことですよ」
「いいだろう。聖女殿に任せよう」
プラクティカルは、考え無しな行動をしているように見えて、そうじゃない。
おそらく、目的があり、それを果たすために行動しているはずだ。
こちらに被害の及ばない目的なら放置するけど、そうじゃないなら、それなりの対処をさせてもらう。
だから、エリザベート王女の『お世話』を強化したのだ。
「お茶会という気分でも無くなったわね。今日は解散しましょうか」
もちろん、気分の問題じゃない。
色々と対策をおこなうためだ。
*****
「ふぅ・・・」
ぽふんっ、とベッドに横になりながら、息を吐く。
「・・・メンドクサイ」
私にあてがわれている部屋は、そこそこ上等な部屋だ。
たぶん、王族が使うような部屋だと思う。
こんな広い部屋にいても空間を無駄にしているだけなんだけど、ベッドが柔らかいのは、そこそこ気に入っている。
最初の頃は、身体が沈み込むくらい柔らかいせいか、川で溺れる夢を見たこともあったけど。
人目が無いのをいいことに、ベッドの上でゴロゴロと転がる。
「ドレスのままベッドに横になっては、皺になりますよ」
と思っていたら、人目があった。
「メフィ」
いや、先ほどまでは確実に人目は無かった。
誰かがいれば、部屋に入ったときに分かる。
扉が開いた音もしなかった。
隠れていたのでなければ、さすがに気づくだろう。
けど、別に驚くようなことじゃない。
「なんだか、ひさしぶりの気がするわね」
アヴァロン王国にいた頃は、同じ部屋で寝泊まりしていた。
けど、シルヴァニア王国の城に滞在するようになってから、メフィは別の場所で寝泊まりしているようだ。
私はメフィの保護者というわけでもないし、好きにさせている。
「最近は胸枕のお世話になっておりますからな」
前も聞いた気がするけど、胸枕ってなんだろう。
あまり、つっこまない方がいいのかな。
「今日は何か用事?」
とりあえず、胸枕には触れないことにした。
和気あいあいと雑談するって仲でもないし、用件を尋ねることにする。
「別に用事などありませんよ。ただ、観客としては演劇の見せ場を見逃すわけにはいきませんからな」
「・・・・・」
もしかして、ヒントのつもりかな。
もしそうなら、わざわざ今のタイミングに来たことに意味があるのだろうか。
だとすると、キーパーソンはプラクティカルかエリザベート王女か。
まあ、今日のお茶会を思い返せば、何かが起こっても不思議ではない。
けど、
「悪いけど、見せ場はもう少し後だと思うわよ」
「ほう?」
あの二人は、私にとってのキーパーソンじゃない。
そうだ。
よく考えたら、最近、私は働き過ぎじゃないだろうか。
必要なことだったとは思うけど、必要じゃないことまで頑張らなくてもいいと思う。
そう考えたら、メンドクサイという気持ちが少し軽くなった気がする。
「あなたらしい顔つきになってきましたな」
「え?」
気が緩んだせいか、メフィの言葉を聞き逃した。
「楽しみにしておりますよ」
そう言うと、メフィはとっとと扉から部屋を出ていく。
「・・・・・なんだったんだろ?」
助言というわけではないと思う。
メフィが私に助言をする理由なんかない。
けど、意味の無い言葉だったとも思えない。
メフィは無意味なことを言わないし、しない。
・・・・・
でも、あまり深く受け取るのは止めておこう。
昔から、メフィみたいな存在が、人を惑わす言葉を囁くのは、お約束みたいなものだし。
「作り方を教えてはもらえないのですか?」
「魔女の秘術で作られているので、私も知りません。知っていたとしても、魔女ではない人間には作ることができないそうです」
我儘な子供のように解毒薬の作り方を訊いてくるプラクティカルを、どうにか納得させる。
ちなみに、『魔女の秘術』というのは、でたらめだ。
解毒薬を作った師匠は魔女だけど、解毒薬を作るのに必要なのは、薬学の知識と技術だ。
だから、作り方を詳しく教えてもらえば、私にも作ることはできると思う。
でも、それを言うつもりは無い。
プラクティカルは、可能性があると知れば、必ず試そうとするだろう。
「そうですか。それなら、仕方ないですね。先ほどの価格で解毒薬を譲ってください」
「・・・・・わかりました」
もし、これが薬の代金を安くするための交渉だというなら、素直に騙されておくつもりだ。
他国の騎士とは言っても、見殺しにするのは後味が悪い。
護衛という役目に就いた騎士にとって、死ぬということは、場合によっては任務の一環ではある。
けど、プラクティカルの実験台になるのは、任務ではないだろう。
「用件はそれだけですか?」
私はプラクティカルに尋ねる。
他に用件が無いのなら、とっととお茶会をお開きにするつもりだ。
このバカと一緒にいると、気分がよくない。
まるで、駄々っ子を相手にしているようだ。
子供ならば、それも可愛いだろう。
けど、大人だと見苦しいだけだ。
「もう一つあります」
しかし、プラクティカルはまだ要求があるようだ。
あまり聞きたくはないのだけど、聞かなくちゃならないだろう。
そうでないと、何をやらかすか、分かったものではない。
「エリザベート王女を見舞いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「エリザベート王女?」
正直に言うと、意外な言葉だった。
いや、誕生パーティーのときに言い寄っていたのだから、プラクティカルがエリザベート王女に執着していたとしても不思議ではない。
けど、見舞うことの許可を私に求めてくるのが、意外だったのだ。
「なぜ、私に確認するのですか?ヒルダに確認するのが筋でしょう」
「そうなのですか?聖女殿がシルヴァニア王国の女王に就くという噂を聞いたのですけど」
私はファイファーを、ちらりと見る。
視線に気づいたのか、うんうんと頷いている。
違う。
私が期待しているのは、そういう反応じゃない。
でも、あの反応をみると、私を女王に担ぎ上げようとしているわけじゃないようだ。
だとすると、ファイファーが違う意味で私を女王と呼んでいることが変な噂になっているか、もしくは、
「どうも違ったみたいですね。失礼しました。ヒルダ殿に確認することにします」
「・・・ええ。そうしてください」
鎌をかけられたか。
やっかいだな。
バカなくせに、こういう駆け引きをしてくるのか。
*****
プラクティカルが去ったのを確認してから、私は溜息をつく。
「なんだ、あいつは!自らの騎士をなんだと思っている!」
突然、叫び声を上げたのはフィドラーだった。
いや、突然ではないのだろう。
表情を見れば分かる。
プラクティカルが立ち去るまで、我慢していたのだろう。
「フィドラー殿、落ち着け」
「落ち着いている!」
ファイファーがなだめるが、フィドラーの怒りは治まらないようだ。
「聖女殿の手前、先ほどは我慢したが、騎士達を実験台にするような奴は気に入らない!」
どうも、我慢していたのは、私のためだったらしい。
まあ、あの場でフィドラーが騒ぎ出していたら、プラクティカルには解毒薬を渡さない結果になっていたかも知れない。
そうなれば、困るのはプラクティカル本人じゃなくて、倒れている騎士達だ。
だから、怒りを抑えてくれたのは、ありがたい。
フィドラーは、怒りの矛先を間違えないだけの知性はあるようだ。
「シンデレラ、あの様子だとプラクティカル殿はエリザベート王女に会いに行くつもりみたいだけど、大丈夫?」
アーサー王子が問いかけてくる。
実はあまりよくは無い。
まだ、少し早い。
「エリザベート王女のお世話はMMQがしているのよね?」
エリザベート王女は、眠り薬で倒れてはいない。
眠り薬を仕込んだ本人なのだから、当たり前だ。
けど、私が『ちょっとした悪戯』をしたことにより、現在は自失の状態に陥っている。
一人では食事も着替えもできないので、MMQが世話をしているはずだった。
ただ、エリザベート王女の症状はあくまでも精神的なものだ。
いつ自失の状態から回復してもおかしくはない。
そのための準備は進めているけど、まだ完了はしていない。
もし、準備が完了する前にエリザベート王女が自失の状態から回復すれば、ちょっと手荒なことをしなくちゃならなくなる。
私とては、どちらでもいいんだけど、状況は把握しておく必要がある。
「ああ、今のところ、症状に変化はないようだよ」
それを聞いて、まずは安心する。
でも本当に気を付けなくちゃいけないのは、エリザベート王女が自失の状態から回復することじゃない。
回復した後で、別の人間と手を組むことだ。
彼女が主導権を握ったとしても、相手が主導権を握ったとしても、色々と面倒なことになる。
「なら、お世話をする人間を増やしましょう。私の娘達にも手伝わせるから、昼夜問わず、お世話をすることにするわ。プラクティカル様が本当にお見舞いをするだけならいいけど、素人判断の治療をされて、症状が悪化するといけないものね」
とは言ったが、ようするに昼夜問わず監視するという意味だ。
今までは、食事や着替えなどの世話をするついでに症状を確認するだけで、エリザベート王女の部屋の警備自体は兵士に任せていた。
だから、MMQが目を離している時間帯もあった。
その空白の時間帯を無くした方がよいと判断したのだ。
私の意見に、事情を知っているアーサー王子は当然として、ファイファーもフィドラーも反対はしてこなかった。
おそらく、言葉の裏に隠している意図には気づいていると思うけど、私に任せてくれるようだ。
「ところで、プラクティカル殿はどうするのだ?」
ファイファーが尋ねてくる。
『どうする』の指している意味を口には出さなかったけど、なにが言いたいのかは分かる。
監視は必要ないのかと言っているのだろう。
「どうもしないですよ」
私が言うと、フィドラーが不満そうな声を上げる。
「聖女殿、甘くはないか?あいつは、無邪気な子供が虫の翅を千切るように、人間を実験台にしそうな奴だぞ。子供は見張って、悪さをしたら躾けるべきだろう」
フィドラーは、プラクティカルのことを、そう評価したか。
でも、私は少し違う。
「無邪気な子供は、病人のお見舞いなどしませんよ。そういう行動をするのは、その状態や状況が持つ意味を理解している証拠です。そういう子供は、かくれんぼが得意でしょうね」
「・・・なるほどな」
フィドラーは、あいかわらず不満そうだけど、感情的にはなっていない。
私の言葉の意味を理解したようだ。
「隠れた子供を捜すコツは、むやみやたらと捜すのではなく、興味を持ちそうな場所を捜すことですよ」
「いいだろう。聖女殿に任せよう」
プラクティカルは、考え無しな行動をしているように見えて、そうじゃない。
おそらく、目的があり、それを果たすために行動しているはずだ。
こちらに被害の及ばない目的なら放置するけど、そうじゃないなら、それなりの対処をさせてもらう。
だから、エリザベート王女の『お世話』を強化したのだ。
「お茶会という気分でも無くなったわね。今日は解散しましょうか」
もちろん、気分の問題じゃない。
色々と対策をおこなうためだ。
*****
「ふぅ・・・」
ぽふんっ、とベッドに横になりながら、息を吐く。
「・・・メンドクサイ」
私にあてがわれている部屋は、そこそこ上等な部屋だ。
たぶん、王族が使うような部屋だと思う。
こんな広い部屋にいても空間を無駄にしているだけなんだけど、ベッドが柔らかいのは、そこそこ気に入っている。
最初の頃は、身体が沈み込むくらい柔らかいせいか、川で溺れる夢を見たこともあったけど。
人目が無いのをいいことに、ベッドの上でゴロゴロと転がる。
「ドレスのままベッドに横になっては、皺になりますよ」
と思っていたら、人目があった。
「メフィ」
いや、先ほどまでは確実に人目は無かった。
誰かがいれば、部屋に入ったときに分かる。
扉が開いた音もしなかった。
隠れていたのでなければ、さすがに気づくだろう。
けど、別に驚くようなことじゃない。
「なんだか、ひさしぶりの気がするわね」
アヴァロン王国にいた頃は、同じ部屋で寝泊まりしていた。
けど、シルヴァニア王国の城に滞在するようになってから、メフィは別の場所で寝泊まりしているようだ。
私はメフィの保護者というわけでもないし、好きにさせている。
「最近は胸枕のお世話になっておりますからな」
前も聞いた気がするけど、胸枕ってなんだろう。
あまり、つっこまない方がいいのかな。
「今日は何か用事?」
とりあえず、胸枕には触れないことにした。
和気あいあいと雑談するって仲でもないし、用件を尋ねることにする。
「別に用事などありませんよ。ただ、観客としては演劇の見せ場を見逃すわけにはいきませんからな」
「・・・・・」
もしかして、ヒントのつもりかな。
もしそうなら、わざわざ今のタイミングに来たことに意味があるのだろうか。
だとすると、キーパーソンはプラクティカルかエリザベート王女か。
まあ、今日のお茶会を思い返せば、何かが起こっても不思議ではない。
けど、
「悪いけど、見せ場はもう少し後だと思うわよ」
「ほう?」
あの二人は、私にとってのキーパーソンじゃない。
そうだ。
よく考えたら、最近、私は働き過ぎじゃないだろうか。
必要なことだったとは思うけど、必要じゃないことまで頑張らなくてもいいと思う。
そう考えたら、メンドクサイという気持ちが少し軽くなった気がする。
「あなたらしい顔つきになってきましたな」
「え?」
気が緩んだせいか、メフィの言葉を聞き逃した。
「楽しみにしておりますよ」
そう言うと、メフィはとっとと扉から部屋を出ていく。
「・・・・・なんだったんだろ?」
助言というわけではないと思う。
メフィが私に助言をする理由なんかない。
けど、意味の無い言葉だったとも思えない。
メフィは無意味なことを言わないし、しない。
・・・・・
でも、あまり深く受け取るのは止めておこう。
昔から、メフィみたいな存在が、人を惑わす言葉を囁くのは、お約束みたいなものだし。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
ブラック・スワン ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~
碧
ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)
当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。
マーチ・メイ
ファンタジー
女子校に通う高校2年生の橘優奈は学校からの帰り道、突然『【職業】錬金術師になりました』と声が聞こえた。
空耳かと思い家に入り試しにステータスオープンと唱えるとステータスが表示された。
しばらく高校生活を楽しみつつ家で錬金術を試してみることに 。
すると今度はダンジョンが出現して知らない外国の人の名前が称号欄に現れた。
緩やかに日常に溶け込んでいく黎明期メインのダンジョン物です。
小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?
行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。
貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。
元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。
これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。
※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑)
※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。
※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる