104 / 240
第六章 眠り姫
104.眠る者、眠らせる者
しおりを挟む
静寂を破ったのは、壁の穴から音も立てずにパーティー会場に跳び込んできた、四人のメイドだった。
『聖女様!』
包囲している賊の一部を背後から仕留めて、そのまま包囲の中に入ってくる。
叫びながら入ってきたメイド達に賊が注意を向けたところで、パーティー会場の扉から別の集団が侵入してくる。
私からは見えていたけど、賊からは死角だったのだろう。
さらに、今度は声も上げていない。
後ろから襲われて、数人の賊があっさりと倒れる。
それを行ったのは五人のメイドだ。
メイド達はそのまま賊を包囲する位置取りに移動する。
人数が少ないから完全に包囲は無理だけど、これで内と外から攻撃できる。
「すでに警告は終わっているわ」
けど、一人も逃げ出さなかった。
だから、私は命令を下す。
「全員仕留めなさい」
私の命令に従いパーティー会場に侵入してきたメイド達、つまり護衛の騎士達とは別の場所に待機させていたMMQと娘達が、行動を開始する。
「てめぇらぁ!!!・・・っ!!!!!」
パアアアァァァンッ・・・
侵入者に敵意をむき出しにした賊のリーダーが叫び声を上げるが、それと同時にアーサー王子の手元から破裂音が響く。
賊のリーダーの身体が崩れ落ちると同時に、周囲で同じように賊がぞくぞくと倒れ始める。
「ありがとう、助かったわ」
私は賊のリーダーを仕留めたアーサー王子に近寄り、彼の両手を自分の両手を包み込む。
「危ないから、もう少し下がっていましょう」
「あ、ああ」
震える手から力を抜きながら、アーサー王子が素直に言う通りにしてくれる。
少し無理をさせてしまったみたいだ。
アーサー王子は剣が使えるようには見えない。
おそらく、そういう訓練をしたこともないのだろう。
訓練と実戦は違うとは思うけど、訓練をすれば心構えはできる。
そして、心構えができているかどうかの差は大きい。
アーサー王子は、それができていないのだ。
それでも、私のために前に出て、私のために敵を殺してくれたのだ。
「パーティーの参加者達を、できるだけ集めておいて。その方が護りやすいだろうから」
こういうときは、何もしないより、何かをしていた方がいい。
だから、そうお願いする。
「わ、わかったよ」
声は少しうわずっていたけど、震えは止まっているようだ。
これなら大丈夫だろう。
私は私で行動を起こすことにする。
*****
目的の人物は、周囲の様子を憎々し気に見つめていた。
まあ、横から主役の座を奪われたのだから無理はないだろう。
けど、いいのだろうか。
そんな表情をしていると不審に感じる人間もいると思う。
もっとも、そんな余裕のある人間はいなさそうだ。
私を含めた一部を除いてだけど。
「賊は私の娘達が直に鎮圧します。王様の側にいてあげてください」
「っ!」
身体が震えたのが分かった。
けど、振り返った顔には、そんな様子はない。
「赤の聖女・・・様」
その自制心は流石だと思うけど、私を見る視線に感情が滲んでいるのを隠せていない。
「ご助力、感謝します。そうですね。私はお父様の側に参ります」
王女は、私の言葉通りに王様に向かっていく。
私は後ろから、王女についていく。
「お父様、しっかりしてください」
しゃがみ込み、床に倒れている、父であり王である人物に、心配そうに声をかける王女。
だけど、その人物は反応を示さない。
王女は繰り返し声をかけるが、どこか空々しい。
「目覚めませんね。まるで眠っているかのようです」
あっさりと顔を上げると、そう言ってくる。
だから無駄だ、とでも言っているかのようだ。
周りでは、まだ賊とメイドが戦っている。
そんな非常事態だから、いつまでも王様に呼びかけているわけにはいかない。
そう言いたいのかも知れない。
けど、王女に次の手は打たせない。
「王様に呼びかけ続けてください」
「ですが、こんな状況で・・・」
「賊は私の娘達に任せてください」
「・・・お父様が倒れている間、代理を務めるのは私の責任なのです」
悲痛な表情を浮かべながらも、責任感のある行動を取ろうとする。
もし私が何も知らなければ、そう思ったかも知れない。
実際、もし周囲がこんな騒がしい状況でなければ、王女に対してそういう印象を抱いた人間は多いだろう。
そのまま王女が主導権を握り、倒れた王様の代わりに王位に着く。
そんな未来が訪れたかも知れない。
けど、そんな『もし』は訪れない。
周囲は今も危険に満ちていて、王女に注目している人間はいない。
時折、王女を気にかける人間はいるが、賊とメイドが戦う音が聞こえてくるたびに、王女から注意が逸れる。
この状況を作ったのは、壁に穴を開けてメイド達を呼んだ私だ。
けど、この状況の原因を作ったのは、おそらくだけど王女だ。
だから、自業自得とも言える。
「なら、賊を鎮圧した後は、お願いします。それまでは、王様の近くにいてください。危険な状況で護られるのも、上に立つ者の勤めでしょう」
「感謝しますわ、赤の聖女様」
感謝を伝えてくる王女。
「それでは、私は娘達を手伝ってきます」
「お気をつけて」
背を向けるほんの一瞬、王女の表情が僅かに変化するのが、視界の端に映った。
でも、私はそれに気づかないフリをして、そのまま王女のもとから離れていった。
*****
「どんな様子?」
王女のもとを離れた私は、アーサー王子に戦況を尋ねる。
「シンデレラ。賊の半数以上は倒れたよ」
「そう。思ったより賊の数が多いから心配したけど、大丈夫そうね」
「相手の動きが雑だからね。パーティーの参加者を護りながらだから時間がかかっているけど、それがなければ、もっと早く終わっていると思う」
賊の数は、メイドの数の数倍だ。
だから、普通に考えれば、こちらの状況は不利のはずなんだけど、実際の状況は違う。
その理由はいくつかある。
まず、最初にメイド達が奇襲に成功したことも要因だろう。
城の地下にある、本来はこの国の王族くらいしか知らないはずの、隠し通路。
メイド達は、そこに待機させていた。
だから、なぜか来ない護衛達と違い、私が『合図』をしたときに短い時間で到着することができた。
次に、賊が訓練を受けた兵士でも集団で行動することに慣れた盗賊でも無さそうだということだ。
街の裏通り、例えば、スラムにいるチンピラのように見える。
その推測が正しいかどうかを確かめる機会は訪れないかも知れないけど、間違ってはいないと思う。
最後に、賊とメイド達の位置関係だ。
輪となり私達を包囲していた賊。
その内側と外側にメイド達は位置取った。
その結果、賊の前後から攻撃することが可能となり、剣の長さや腕力の違いなど関係なく、戦いを有利に進めることができている。
もし、賊が陣形を取り、背中合わせにでもなってメイド達を迎え撃っていれば、メイド達はもっと苦戦しただろう。
でも、賊はそんな訓練を受けていない上に、奇襲を受けて冷静では無かった。
そんな対応を取ることは不可能だ。
結果として、賊の命は風前の灯火というわけだ。
「手伝って来ようと思うんだけど、さっき使っていた武器を借りることはできる?」
あれは便利そうだった。
離れた場所から賊を倒していた。
何が起こったのか視認することはできなかったけど、賊の傷から考えると、小さい礫を高速で放つ武器なのだろう。
「銃のこと?止めておいた方がいいよ。練習しないと狙うのが難しい上に、反動があるからね。敵に当たらないだけじゃなくて、味方に当たることもあるから。それに・・・」
そこまで話して、少し声を落とす。
「思わず使っちゃったけど、僕が作っている最中の試作品で、軍事機密なんだ。できれば、これ以上は見せなくない」
何をやっているのよ、と言いたかったけど我慢する。
私を助けるために使ったのだろうから、責めるのは心苦しい。
でもまあ、そういうことなら、借りるのは止めておこう。
「それより、王女の方はもういいの?」
「ええ。ちゃんと、刺しておいたわ」
気付かれてはいないと思う。
そのために、賊に襲われたとき、『針』を使わず、『粉』だけを使ったのだ。
後は効いてくるのを待つだけだ。
「そろそろ終わるよ」
そんなことを話していたら、賊の最後の一人が倒されるところだった。
それじゃあ、仕上げといきましょうか。
*****
「赤の聖女様、賊の鎮圧にご助力いただき感謝します」
戦況を見ていたのだろう。
賊の最後の一人が倒されると同時に、パーティー会場の全員に聞こえる声で、王女が宣言する。
ここから先を、自分が取り仕切るつもりなのだろう。
王女が目立つ場所に移動してようとして足を踏み出す。
「あっ」
けど、その姿勢が崩れそうになり、王女が小さく悲鳴を上げる。
おそらく踏ん張ろうとしたのだろう。
少し広く足を踏み出したようだけど、膝から力が抜けたように、そのまま倒れ込んでしまう。
「王女!」
賊が鎮圧されて心に余裕ができたのだろう。
パーティーの参加者達が、突然倒れた王女の周囲に集まる。
「な、なにが・・・」
自分の身に何が起こっているのか理解できていないのだろう。
先ほどとは違い、動揺が表情に出ている。
「王女様、大丈夫ですか?」
私は素早く近寄ると、しゃがみ込んで王女の状態を確認する。
「これは倒れている人達と同じ症状ですね」
さほど大きな声は出さなかったけど、今はさっきまでと状況が違う。
王女の周囲に集まっているから、全員に聞こえただろう。
私の言葉に、王女に心配そうな目を向けている。
「違う・・・私は一口も口にしていない・・・」
王女の口からそんな一言が漏れる。
周囲の状況より自分の状態に、気が向いているのだろう。
まさか、という気持ちが上回ったのだと思う。
もし、自分の状態が倒れている人達と同じなら、今後のことを考えることは無意味になる。
だから、周囲の状況より、優先度が上回ったのだ。
「私のメイド達に運ばせます。王様や王女様の部屋を教えてください」
「わ、わかりました」
今の一言について、この場で追求はしない。
王女には、ひとかけらの希望と、それを超える大きな不安を抱えたまま、しばらく眠っていてもらうことにする。
運ばれていく王女を見送りながら、そんなことを考えていた。
『聖女様!』
包囲している賊の一部を背後から仕留めて、そのまま包囲の中に入ってくる。
叫びながら入ってきたメイド達に賊が注意を向けたところで、パーティー会場の扉から別の集団が侵入してくる。
私からは見えていたけど、賊からは死角だったのだろう。
さらに、今度は声も上げていない。
後ろから襲われて、数人の賊があっさりと倒れる。
それを行ったのは五人のメイドだ。
メイド達はそのまま賊を包囲する位置取りに移動する。
人数が少ないから完全に包囲は無理だけど、これで内と外から攻撃できる。
「すでに警告は終わっているわ」
けど、一人も逃げ出さなかった。
だから、私は命令を下す。
「全員仕留めなさい」
私の命令に従いパーティー会場に侵入してきたメイド達、つまり護衛の騎士達とは別の場所に待機させていたMMQと娘達が、行動を開始する。
「てめぇらぁ!!!・・・っ!!!!!」
パアアアァァァンッ・・・
侵入者に敵意をむき出しにした賊のリーダーが叫び声を上げるが、それと同時にアーサー王子の手元から破裂音が響く。
賊のリーダーの身体が崩れ落ちると同時に、周囲で同じように賊がぞくぞくと倒れ始める。
「ありがとう、助かったわ」
私は賊のリーダーを仕留めたアーサー王子に近寄り、彼の両手を自分の両手を包み込む。
「危ないから、もう少し下がっていましょう」
「あ、ああ」
震える手から力を抜きながら、アーサー王子が素直に言う通りにしてくれる。
少し無理をさせてしまったみたいだ。
アーサー王子は剣が使えるようには見えない。
おそらく、そういう訓練をしたこともないのだろう。
訓練と実戦は違うとは思うけど、訓練をすれば心構えはできる。
そして、心構えができているかどうかの差は大きい。
アーサー王子は、それができていないのだ。
それでも、私のために前に出て、私のために敵を殺してくれたのだ。
「パーティーの参加者達を、できるだけ集めておいて。その方が護りやすいだろうから」
こういうときは、何もしないより、何かをしていた方がいい。
だから、そうお願いする。
「わ、わかったよ」
声は少しうわずっていたけど、震えは止まっているようだ。
これなら大丈夫だろう。
私は私で行動を起こすことにする。
*****
目的の人物は、周囲の様子を憎々し気に見つめていた。
まあ、横から主役の座を奪われたのだから無理はないだろう。
けど、いいのだろうか。
そんな表情をしていると不審に感じる人間もいると思う。
もっとも、そんな余裕のある人間はいなさそうだ。
私を含めた一部を除いてだけど。
「賊は私の娘達が直に鎮圧します。王様の側にいてあげてください」
「っ!」
身体が震えたのが分かった。
けど、振り返った顔には、そんな様子はない。
「赤の聖女・・・様」
その自制心は流石だと思うけど、私を見る視線に感情が滲んでいるのを隠せていない。
「ご助力、感謝します。そうですね。私はお父様の側に参ります」
王女は、私の言葉通りに王様に向かっていく。
私は後ろから、王女についていく。
「お父様、しっかりしてください」
しゃがみ込み、床に倒れている、父であり王である人物に、心配そうに声をかける王女。
だけど、その人物は反応を示さない。
王女は繰り返し声をかけるが、どこか空々しい。
「目覚めませんね。まるで眠っているかのようです」
あっさりと顔を上げると、そう言ってくる。
だから無駄だ、とでも言っているかのようだ。
周りでは、まだ賊とメイドが戦っている。
そんな非常事態だから、いつまでも王様に呼びかけているわけにはいかない。
そう言いたいのかも知れない。
けど、王女に次の手は打たせない。
「王様に呼びかけ続けてください」
「ですが、こんな状況で・・・」
「賊は私の娘達に任せてください」
「・・・お父様が倒れている間、代理を務めるのは私の責任なのです」
悲痛な表情を浮かべながらも、責任感のある行動を取ろうとする。
もし私が何も知らなければ、そう思ったかも知れない。
実際、もし周囲がこんな騒がしい状況でなければ、王女に対してそういう印象を抱いた人間は多いだろう。
そのまま王女が主導権を握り、倒れた王様の代わりに王位に着く。
そんな未来が訪れたかも知れない。
けど、そんな『もし』は訪れない。
周囲は今も危険に満ちていて、王女に注目している人間はいない。
時折、王女を気にかける人間はいるが、賊とメイドが戦う音が聞こえてくるたびに、王女から注意が逸れる。
この状況を作ったのは、壁に穴を開けてメイド達を呼んだ私だ。
けど、この状況の原因を作ったのは、おそらくだけど王女だ。
だから、自業自得とも言える。
「なら、賊を鎮圧した後は、お願いします。それまでは、王様の近くにいてください。危険な状況で護られるのも、上に立つ者の勤めでしょう」
「感謝しますわ、赤の聖女様」
感謝を伝えてくる王女。
「それでは、私は娘達を手伝ってきます」
「お気をつけて」
背を向けるほんの一瞬、王女の表情が僅かに変化するのが、視界の端に映った。
でも、私はそれに気づかないフリをして、そのまま王女のもとから離れていった。
*****
「どんな様子?」
王女のもとを離れた私は、アーサー王子に戦況を尋ねる。
「シンデレラ。賊の半数以上は倒れたよ」
「そう。思ったより賊の数が多いから心配したけど、大丈夫そうね」
「相手の動きが雑だからね。パーティーの参加者を護りながらだから時間がかかっているけど、それがなければ、もっと早く終わっていると思う」
賊の数は、メイドの数の数倍だ。
だから、普通に考えれば、こちらの状況は不利のはずなんだけど、実際の状況は違う。
その理由はいくつかある。
まず、最初にメイド達が奇襲に成功したことも要因だろう。
城の地下にある、本来はこの国の王族くらいしか知らないはずの、隠し通路。
メイド達は、そこに待機させていた。
だから、なぜか来ない護衛達と違い、私が『合図』をしたときに短い時間で到着することができた。
次に、賊が訓練を受けた兵士でも集団で行動することに慣れた盗賊でも無さそうだということだ。
街の裏通り、例えば、スラムにいるチンピラのように見える。
その推測が正しいかどうかを確かめる機会は訪れないかも知れないけど、間違ってはいないと思う。
最後に、賊とメイド達の位置関係だ。
輪となり私達を包囲していた賊。
その内側と外側にメイド達は位置取った。
その結果、賊の前後から攻撃することが可能となり、剣の長さや腕力の違いなど関係なく、戦いを有利に進めることができている。
もし、賊が陣形を取り、背中合わせにでもなってメイド達を迎え撃っていれば、メイド達はもっと苦戦しただろう。
でも、賊はそんな訓練を受けていない上に、奇襲を受けて冷静では無かった。
そんな対応を取ることは不可能だ。
結果として、賊の命は風前の灯火というわけだ。
「手伝って来ようと思うんだけど、さっき使っていた武器を借りることはできる?」
あれは便利そうだった。
離れた場所から賊を倒していた。
何が起こったのか視認することはできなかったけど、賊の傷から考えると、小さい礫を高速で放つ武器なのだろう。
「銃のこと?止めておいた方がいいよ。練習しないと狙うのが難しい上に、反動があるからね。敵に当たらないだけじゃなくて、味方に当たることもあるから。それに・・・」
そこまで話して、少し声を落とす。
「思わず使っちゃったけど、僕が作っている最中の試作品で、軍事機密なんだ。できれば、これ以上は見せなくない」
何をやっているのよ、と言いたかったけど我慢する。
私を助けるために使ったのだろうから、責めるのは心苦しい。
でもまあ、そういうことなら、借りるのは止めておこう。
「それより、王女の方はもういいの?」
「ええ。ちゃんと、刺しておいたわ」
気付かれてはいないと思う。
そのために、賊に襲われたとき、『針』を使わず、『粉』だけを使ったのだ。
後は効いてくるのを待つだけだ。
「そろそろ終わるよ」
そんなことを話していたら、賊の最後の一人が倒されるところだった。
それじゃあ、仕上げといきましょうか。
*****
「赤の聖女様、賊の鎮圧にご助力いただき感謝します」
戦況を見ていたのだろう。
賊の最後の一人が倒されると同時に、パーティー会場の全員に聞こえる声で、王女が宣言する。
ここから先を、自分が取り仕切るつもりなのだろう。
王女が目立つ場所に移動してようとして足を踏み出す。
「あっ」
けど、その姿勢が崩れそうになり、王女が小さく悲鳴を上げる。
おそらく踏ん張ろうとしたのだろう。
少し広く足を踏み出したようだけど、膝から力が抜けたように、そのまま倒れ込んでしまう。
「王女!」
賊が鎮圧されて心に余裕ができたのだろう。
パーティーの参加者達が、突然倒れた王女の周囲に集まる。
「な、なにが・・・」
自分の身に何が起こっているのか理解できていないのだろう。
先ほどとは違い、動揺が表情に出ている。
「王女様、大丈夫ですか?」
私は素早く近寄ると、しゃがみ込んで王女の状態を確認する。
「これは倒れている人達と同じ症状ですね」
さほど大きな声は出さなかったけど、今はさっきまでと状況が違う。
王女の周囲に集まっているから、全員に聞こえただろう。
私の言葉に、王女に心配そうな目を向けている。
「違う・・・私は一口も口にしていない・・・」
王女の口からそんな一言が漏れる。
周囲の状況より自分の状態に、気が向いているのだろう。
まさか、という気持ちが上回ったのだと思う。
もし、自分の状態が倒れている人達と同じなら、今後のことを考えることは無意味になる。
だから、周囲の状況より、優先度が上回ったのだ。
「私のメイド達に運ばせます。王様や王女様の部屋を教えてください」
「わ、わかりました」
今の一言について、この場で追求はしない。
王女には、ひとかけらの希望と、それを超える大きな不安を抱えたまま、しばらく眠っていてもらうことにする。
運ばれていく王女を見送りながら、そんなことを考えていた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説


[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる