シンデレラストーリーは悪魔の契約に基づいて

かみゅG

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第四章 塔の上

063.塔

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「ここが、そうなの?」
「そうだ」

 庭を散歩していたときに見たことはあった。
 けど、見張り台とか、そういうものだと思っていた。

「この塔の上に王妃が軟禁されている」
「ふーん」

 私とアダム王子は塔の前まで来ていた。
 鍵を外して扉を開けると階段があった。
 これを登るらしい。
 少ししんどそうだけど、仕方がないので、足を踏み入れる。

「王妃様、何をやったの?」

 階段を登りながら、アダム王子に問いかける。
 王様の妃ともあろう者が閉じ込められているのだ。
 余程のことをしたのだろうと思ったのだけど、アダム王子は微妙な表情をする。

「不義を働かないようにしているのだ」
「不義?」

 不義と言うと、人道に外れたこと・・・ではないだろう。
 男女が密通する方だと思う。
 私は、ちらりとアダム王子を見る。

「なるほど」

 納得した。

「何が、なるほどだ」
「いや、親子だなと思って」
「言いたいことはわかるが、本人に言うようなことじゃないだろう」

 何を今更。
 アダム王子の女癖が悪いのは有名だ。
 おそらく隠すつもりは無いのだろう。
 そして、王妃様はそれの女版ということだ。
 男癖が悪いのだろう。
 要はアダム王子の女癖が悪いのは血だということだ。
 何も不思議なことではない。
 すんなり納得できた。
 そのわりにアーサー王子はそうでもないな、とは思うけど。

「でも、そんな女性がよく王様の妃になれたわね」

 男癖が悪かろうがそれは個人の自由だと思うが、王族として立場上マズいということは理解できる。
 血を残すことが第一の役目だと言われる王妃なら、なおさらだ。
 普通なら、そんな女性が王妃になどなれるわけがない。

「父がベタ惚れでな」
「ベタ惚れって言っても、後継者問題の火種になりそうな女性を妃にすることを、よく周りの人間達が許したわね」

 万が一、王妃が産んだ子供が王様の子供でなかった場合、血が途絶えることになる。
 それは、ひいては王国の存続にも関わる問題だ。
 かなりの大問題だと思ったのだけど、アダム王子はあっさりと答えてきた。

「質の良い避妊薬があるからな。後継者問題の心配は無い」

 そう言えば、アダム王子も使っていたな。
 王族に代々伝わる秘薬というわけか。
 下世話な秘薬だけど、大切な役割を担う薬でもあるのだろう。

「そして父は、一年間貞操帯をつけさせることで、妃にすることを周囲の人間に納得させたらしい」
「そんな女性が一年間もよく我慢できたわね」
「父と交わるときだけ外していたのだろう」

 王族は大変だ。
 結婚するためだけに、そこまでしないといけないのか。
 そこで、ふと思った。

「アダム王子。もしかして、姉さんにも同じことをした?」

 先ほどの貞操帯についての話だけど、わざわざ両親が子供にするような話じゃないだろう。
 じゃあ、なぜ知っていたかと言うと、アダム王子本人も行ったことがあるからじゃないだろうか。
 当時を知る人間に訊いたのか、自分で思いついたのかは知らないけど。

「・・・・・最初は戯れだったのだがな」
「あー・・・そういうプレイってわけね」
「プレイと言うな」

 でも、否定はしないんだ。
 しかし、義理の姉ドリゼラもよく受け入れたものだ。
 私は詳しくないけど、焦らしプレイと言っただろうか。
 興奮でもするのかな。
 自分でやろうとは思わないけど。

「だが、いくら避妊が完璧とはいえ、王妃が男を連れ込むのは醜聞だからな。父もその点については庇いきれず、王妃はこの塔に軟禁されているというわけだ」
「逆に男の連れ込み部屋になっているんじゃないの?」
「事実がどうあれ、窓から忍び込むのも難しい塔の上だ。周囲を納得させるには都合がよいのだ」

 男を連れ込んでいるという点は否定しなかったな。
 私は王妃が軟禁されている理由を理解した。

 *****

「よく考えたら、なんで私がついて来なきゃいけなかったの?本人である姉さんを連れてきたらいいじゃない」

 それに気づいたのは、王妃がいるという部屋の前にきたときだった。
 今更だと思ったけど、一応、尋ねる。

「身重の彼女を連れてくるわけにはいかないだろう」
「身重って言っても、まだ、二、三ヶ月ってところでしょ。このくらいの階段は登れるんじゃない?」

 むしろ、少しくらい運動した方がいいんじゃないだろうか。
 しばらく前まで眠ったままだったんだからリハビリも必要だろう。
 まあ、アダム王子と毎日『運動』していたようだから必要ないかも知れないけど。
 そんなことを考えていると、アダム王子が私を連れて来た理由を話し始めた。

「実のところ、おまえに頼みたいのは俺の護衛だ」
「護衛?それなら騎士を連れてきたらいんじゃない」

 それが適任だろう。
 けど、アダム王子はそれを否定する。

「普段ならそうするのだがな。王妃に会いにいくときだけは、それでは問題があるのだ」
「問題?そういえば、そもそも護衛なんか要るの?」

 自分の母親に会いに行くだけだろう。
 後継者問題が起きているなら、骨肉の争いで毒を盛られることもありそうだけど、今のところその心配はないように思う。
 けど、どうも理由はそういう方面じゃないみたいだ。

「さすがに実の息子を襲わないとは思うが・・・念のためだ」
「襲う?恨まれでもしているの?まあ、軟禁されている恨みはあるかも知れないけど、それをしているのは王様なんでしょ」
「恨まれてはいないと思う。だが、王妃が襲う対象は恨みで選んでいるわけではないからな」

 襲う対象を選ぶ・・・ああ、そういうことか。
 性的にとか、そっち方面か。
 王族の中には近親相姦に手を出す人間もいると聞くし、あり得ない話じゃないのか。
 その理由は血を濃く保つためとかのはずだけど、話に聞いた王妃の場合は背徳的な行為に興奮するとかいう理由で手を出しそうだ。
 そして、騎士が適切でない理由も分かった。
 男だと餌食になる可能性があるからか。

「理由はわかったけど、それならMMQに頼んでもよかったんじゃない?」

 女だし、戦闘力はあるし、護衛の役目を果たせるだろう。

「彼女達は弟の部下だからな。それに王妃は女を連れていくと機嫌が悪くなるのだ」
「私も女だけど?」
「男装しているから、黙っていればわからないだろう」
「さすがに、わかるでしょ」

 というか、私は男装すると女かどうかも判らなくなるのだろうか。
 ちょっと、ショックだ。
 やはり胸だろうか。
 でも、MMQのメロンほどじゃないにしろ、人並にはあると思うんだけど。

「それでも、メイド服を着た連中を連れていくよりはマシだ。とにかく、もう着いた。頼んだぞ」
「はあ、わかったわよ」

 アダム王子が扉を開いた。

 *****

「あら、ひさしぶりね」

 甘い香りとともに、そんな言葉が聞こえてきた。
 ねっとりと甘い、まとわりつくような、絡みつくような声だ。

「ご無沙汰しています」

 他人行儀な言葉を返したのはアダム王子だ。
 これは、あれだろうか。
 同族嫌悪とかだろうか。

「今日はどうしたの?せっかくだから、お茶でも飲みながら話しましょうか」
「はい」

 その女性は、冷たい言葉を返されても気にした様子はなく、床まで届く長い髪を引きずりながら、こちらに近づいてくる。
 この女性が王妃か。
 それにしても長い髪だ。
 何年も切っていないのだろう。
 軟禁されていて、自由に髪を切ることも許されていないのだろうか。

「あら、ずいぶんと可愛らしい騎士さんね。あなたも一緒にどうかしら?

 王妃は見慣れぬ私に、そんなことを言ってきた。

「いえ、せっかくのお誘いですけど、護衛ですので遠慮させていただきます」

 一応、今回は護衛としてきている。
 席に座っていたらいざというときに動けないし、のんびりお茶を飲むわけにもいかないだろう。
 そう思って断ろうとしたのだけど、王妃はさらに勧めてくる。

「こんな牢屋みたいなところで襲ってくる人間なんていないわよ。ここにいると新しい人と会う機会も少ないの。せっかくだから一緒にお茶を飲みたいわ」

 そう言われると、断りづらい。
 まさか、あなたから襲われるのを護衛するのです、とは言えない。
 私個人への誘いなら断るんだけど、これはアダム王子の部下への誘いだ。
 私が勝手に判断したらマズいだろう。
 ちらっと、アダム王子の方を見る。
 すると、アダム王子はコクリと頷いてきた。
 一緒にお茶を飲めということか。
 あまり気は進まないけど、毒見役として割り切ることにする。

「わかりました。ご一緒させていただきます」

 そう返事をして、勧められた席に座る。

「三人分のお茶を用意して。いつものお茶をお願いね」
「かしこまりました」

 アダム王子は女を連れて行くと不機嫌になると言っていたけど、侍女はいるらしい。
 王妃が侍女にお茶の支度を指示している。
 さて、王妃とのお茶会だ。
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