シンデレラストーリーは悪魔の契約に基づいて

かみゅG

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第三章 赤ずきん

051.寄り道

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 同じようなことを繰り返しながら、私達は旅を続けていた。
 本来ならシルヴァニア王国の城へ真っ直ぐ向かわなければならないのだけど、城がある王都の周辺にある村々に寄り道しながら進んでいる。
 そのせいで、本来の日数を大幅にオーバーしているんだけど、これはまあ予定通りだ。
 その分の水や食糧も積んでいるから物資的には問題ない。
 旅を続けることはできる。
 だけど、それに付き合わせている人達から、少し不満が出てきた。
 貧しい村ばかり寄っていて、街には一切寄っていない。
 当然、宿屋なんて気の利いたものはないから、野宿も多くなる。
 人間は、衣食住が満たされていて、初めて礼節が保てるという。
 宿屋に泊まれば提供されるであろうものが、提供されない。
 それが不満に繋がっているようだ。
 私は割と平気なんだけど、騎士達の軟弱さは予想外だった。
 戦時中なら文句も言わないんだろうけど、小娘のおつかいに付き合わされて、こんな生活をしていることが不満なのだろう。
 メイド達には事前に作戦を説明していたので文句は言ってこないけど、ストレスは溜まっているようだ。
 ということで、少し不満を和らげてあげることにした。
 まだ回る予定の村はある。
 不満が溜まって、村から略奪したり、村の娘を襲われでもしたら困るのだ。

 まず住。
 本当なら清潔なシーツが敷かれたベッドで寝かせてあげたいのだけど、それは無理なので少し長めに休憩を取ることで我慢してもらう。
 その代わり、街に着いたら騎士達が娼館に行く時間とお金も用意してあげようか。
 街に着いたら護衛の少数でいいし、宿で寝ようが娼館で寝ようが、どっちを選んでくれてもかまわない。
 もう少し言葉は選んだけど、騎士達にそう伝えておく。

 次に食。
 食材が保存食になるのは、どうしようもない。
 せめて、量と種類を多めに使って、いつもより少しだけ豪勢な食事を取ることにする。
 余裕をみて持ってきているはずだけど、足りなくなりそうだったら、いくつか寄る村を減らせば何とかなるだろう。

 最後に衣。
 これは騎士達よりもメイド達に不満があるようだった。
 特殊な任務に就くこともある彼女達だから慣れているかと思っていたのだけど、そういう任務は街中や貴族の屋敷で行うことが多いので、こういった旅は不慣れなのだそうだ。
 これに関しては、実は私も少しストレスが溜まっていた。
 師匠と森で生活していたときは近くに川があったから、屋敷で生活していたときよりも清潔にしていたくらいだ。

「水が冷たいわね」

 そんなわけで、川の近くを今夜の野宿の場所に決めて、現在は水浴びをしている。

「メフィくん、おいで。頭洗ってあげる」
「メロンお姉ちゃん、恥ずかしいよ」

 そう言いながらも、メフィは抵抗する素振りを見せず、されるがままになっている。
 中身が老成しているからか、メイド達の裸に欲情することはないみたいだけど、恥ずかしがるフリをしているようだ。

「アレいいのかな?後頭部が埋まっているみたいだけど」

 メロンと呼ばれたメイドが、メフィの身体を引き寄せて、後ろから頭を洗っている。
 それは別にいいんだけど、身長差の関係で、メフィの頭の高さが、メイドの胸の高さと同じになっている。
 しかも、そのメイドは胸のあたりが豊満なせいで、引き寄せたメフィの身体が見事に埋まっている。

「アレってぱふぱふって言ったっけ?」

 娼館のサービスで、そういうのがあると聞いたことがある。
 まあ、そのサービスは向きが逆なのだろうけど。

「メフィくん、身体洗ってあげるね」
「ピーチお姉ちゃん、一人で洗えるよ」

 今度は別のメイドがメフィの身体を撫でている。
 子供の柔らかい肌を洗うためだろうか。
 布を使わず素手を使っている。
 上半身から下半身まで満遍なく。

「うーん・・・」

 メフィの身体を洗っているメイドは下半身を洗うときにしゃがむのだけど、そのときの顔の高さがメフィの身体の微妙な位置の高さと同じになっている。
 ついでに言うと、手を使っているせいか、距離が妙に近い。
 たぶん、息が当たっているんじゃないだろうか。

「うーーーん・・・」

 不可抗力だろうか
 それとも意図的だろうか。
 深く考えると危険な気がしたので、考えるのを止める。

「まあ、いいか」

 口とか舌とか使いだしたら流石に止めるけど、鑑賞するだけなら問題ないだろう。
 美術品の彫刻では、あの辺りまで精密に彫ってあると聞くし。
 芸術鑑賞は崇高な趣味のはずだ。

「ところで、なんでメフィが普通に混ざっているんだろ」

 当然のことながら、水浴びは男女別にしている。
 普通に考えたら、メフィは男である騎士達と一緒のはずなんだけど。

「メフィくんをガサツな騎士達と一緒になんかできませんよ」
「旅で性欲が溜まっている騎士達の中に一人にしたら、メフィくんの貞操が心配です」

 独り言のつもりだったんだけど、二人のメイドが私の言葉に反応してきた。
 レモンとプルーンという名前だったと思う。
 しかし、レモンの言葉はともかく、プルーンの言葉はどうなんだろう。

「メフィは男だよ」
「わかっていますよ?」
「だから危ないんじゃないですか!」
「あー・・・そうなんだ」

 貴族の中には『そういう趣味』の人間もいるというし、あり得ない話ではないのかな。
 それに、戦争中で自由に女が抱けない兵士は、『そっち方面』に手を出すこともあると聞く。
 今はそれに近い状況と言えなくもない。

「ふぅ。気持ちいいわね」

 私はメイド達のはしゃぐ声を聞きながら、冷たい水で汗や汚れを落とす。
 温かいお湯もいいけれど、冷たい水も身体が引き締まるようで、嫌いではない。
 そんな感じで、ひさしぶりの水浴びを担当していると、メイドの一人が近づいてきた。

「シンデレラ様」
「どうしたの、アップル?」

 彼女はなぜか私の隣に立つ。
 そして、自分の背後に一瞬だけ視線を向ける。

「ああ」

 私も気づいてはいた。
 けど、襲ってくる様子も無いから、放置していたのだ。

「森の動物が水でも飲みにきたのかしらね。襲い掛かってこない間は、そっとしときましょう」
「・・・・・承知しました」

 私がそう言うと、メイドは私から離れて水浴びを再開する。
 微妙に身体の向きを変えていたようだけど。

「まあ、減るものじゃないし」

 一人で処理する分には周りに迷惑をかけることもない。
 ネタを提供するくらいは協力してあげようか。

 *****

「シンデレラ様は寛大ですね」
「そう?」

 水浴びを終えて、身体を拭きながら、アップルがそんなことを言ってくる。

「ちなみに、私が寛大でなかったら、どうしていたの?」

 ちょっと興味があったので尋ねてみる。

「そうですね。殺すのはやりすぎでしょうから・・・」

 アップルは少し考えた素振りを見せた後、答えてくる。

「もぐか抉るかして、それを本人が食べるスープに入れるくらいでしょうか」
「・・・私が食べるスープには入れないでね」

 とりあえず、それだけ指示しておく。
 ナニをもいで、ナニを抉るかは、考えたくない。
 水が冷たかったせいだろうか。
 なんだか背筋が、ぶるっと震えた。

「アーサー王子に対しても同じようになさっているのですか?」

 今度はアップルがそんなことを尋ねてきた。
 何かを期待しているような顔だ。
 けど、期待には応えられそうにない。

「覗かれたら気付かないフリくらいはしてあげるけど、覗かれたことはないわね」

 城のお風呂は見張りも立っているから、そんなところに堂々と覗きに来ることは無いだろうだけ。
 着替えているときに、たまたま部屋に尋ねてくるなんてこともない。
 普通に生活していたら、意図的でもない限りは、そんなことは起きないだろう。

「アーサー王子は奥手ですからね。シンデレラ様から甘えに行ってもいいと思いますけど」
「そんなことをする理由がないわね」

 私のことを追いかけて来たのは向こうの方だ。
 お願いされたら城へついていく程度の好意は持っているけど、こちらから求めようとは思わない。
 まあ、なんて言うか、弟の我儘を聞いてあげた、くらいの気分だ。

「それなら、甘えに行くんじゃなくて、癒やしにいって差し上げたらいかがですか?」

 なんだろう。
 妙に絡んでくるな。
 恋バナでもしたいんだろうか。

「癒やしが必要なほど、疲れているのかな?工房に籠って好き勝手やっているようなイメージがあるけど」

 趣味で好きなことをやっているなら、それで満足なんじゃないだろうか。

「アーサー王子は、あれがお仕事なんですよ。たまに、徹夜もしているみたいですし」
「ふーん」
「朝から疲れた様子で工房から出てくるところを見ると、なんだかこう、癒やしてあげたくなりませんか?」
「うーん」

 無自覚にメイド達の母性本能をくすぐっているみたいだな。
 いや、無自覚かどうかは知らないけど。
 もし、これで無自覚で無かったとしたら、兄より女の口説き方が上手なんじゃないだろうか。

「まあ、お土産くらいは持って帰るわよ」
「それがいいと思います」

 持って帰るのは、血生臭い土産話になるかも知れないけど。
 口には出さなかったけど、そんなことを考えていた。

 回る予定の村は、あと残り少し。
 今回の旅の本番も、もうすぐだ。
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