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第三章 赤ずきん
046.準備
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「本当に言わなくていいの、シンデレラ?」
いつものお茶会。
ストーカー王子が、そんなことを言ってきた。
「なんて言うの?あなたの妹は、王子を二度も殺そうとした罪人ですって言うの?」
かなり、ショックを受けるんじゃないだろうか。
私には、そんな残酷なことは言えない。
「でも、妹のおかげで目を覚ますことができたんだし」
同情か慈悲か。
せめてものつもりで言ったのかも知れないけど、それは間違いだ。
「目を覚ますことができたのは、師匠のおかげよ。アレはただのモルモット」
「シンデレラ・・・」
責めるような視線を向けられても撤回するつもりはない。
だって、事実だ。
あの後、アナスタシアは意識を失った。
そのまま、姉のように眠り続けると思ったのだけど、そうはならなかった。
薬を仕込んで王子と交わるために、薬が効き始めるまでの時間が遅れるようにされていたらしいことも理由の1つだし、薬が完全に効果を発揮する前に師匠がかき出したことも理由の1つだ。
それらいくつかの理由により、アナスタシアは身体を動かすことも思考をすることも、まともにできないけれど、完全には眠りについていない状態になった。
そして、その状態のアナスタシアから、師匠が抗体とかいうものを取り出すことに成功したらしい。
『らしい』というのは、その辺りの原理についての知識を私が持っていないので、あくまで聞いた話だとそういうことらしい、としか言えないからだ。
でも、完全に眠りについてしまうと抗体を作る機能も止まってしまうらしく、ギリギリのバランスで安定して運がよかったと、師匠が言っていたのは覚えている。
何はともあれ、要するに解毒薬ができたということだ。
姉はその解毒薬で目を覚ますことができた。
「百歩譲って、アナスタシアのおかげで目を覚ますことができたとしましょうか。それで?お礼を言いたいって言われたらどうするの?牢屋で会わせるの?本来なら面会も許されない重罪人よね?」
「それは・・・」
ストーカー王子が言い淀む。
そんな風に答えに詰まるくらいなら、中途半端な同情なんかしなければいいのに。
本人がどう考えていたかは分からないけど、アナスタシアのおこなったことは、王族の暗殺に加担したということになる。
最初のときは、もう会うこともないだろうと思って、お別れのプレゼントのつもりで見逃してあげたけど、二回目ともなるとそんなことをする義理は無いし、そもそも王子達が許すはずがない。
現在、アナスタシアはベッドに寝かされた状態で、牢屋に入れられている。
まともに思考ができないから、苦痛を感じることもないのが、彼女にとっての唯一の救いだろう。
「まあ、真実を伝えることが正しいことだとは限らんからのう。知らない方が幸せなこともあるじゃろ」
「そういうことよ。姉が王子を庇ったおかげで、妹が処刑を免れたってことで、満足してもらいましょう」
師匠の言葉に、私も賛同する。
あえて教えることはしないけど、実際にそれが事実なのだから、姉が妹のことを気に病む必要はないと思う。
「それに、チャラ王子と姉さんの幸せそうな様子に、水を差すことができる?私には無理よ」
「確かに、兄上とドリゼラさん、ベタベタだもんね」
そうなのだ。
ドリゼラ、つまり姉が目を覚ましてから体調が戻るまでは、チャラ王子もただ寄り添うだけだったのだが、体調が戻ったとたんにベタベタしだした。
アツアツなんでものじゃない。
粘着質な音が聞こえてきそうなくらいベタベタしている。
というか、部屋の前を通ると、実際に音が聞こえてくる。
昼間と言わず、夜と言わず、そんな調子だから、最近は王子の部屋を掃除する当番のメイドが顔を赤くしている姿が、よく目撃されているという噂だ。
ご愁傷様と言っておこう。
いや、ご馳走様かな。
「ところでシンデレラ・・・」
「なによ、改まって」
ストーカー王子が、真面目な顔をして、こちらに向き直す。
それにつられて、私も少しだけ緊張する。
「兄上のことをチャラ王子って呼ぶのを、止めてあげて欲しいんだ。ほら、最近はドリゼラさん一筋みたいだから、チャラくないよね?」
なんだ、そんなことか。
何事かと思った。
「いいわよ」
「シンデレラも何か思うところがあるかも知れないけど・・・っていいの?」
「ええ、別に思うところなんかないから」
「そ、そうなんだ」
そう呼んでいたのは、単に印象に合った呼び方をしていただけであって、大したこだわりがあるわけじゃない。
呼び方を変えるくらい何てことは無い。
「じゃあ、名前を教えて」
「それなら、今度から名前で呼んであげて・・・って、今なんていったの?」
「え?だから、名前を教えて。さすがに名前がわからないと、呼べないし。愛称でもいいけど」
「ああ・・・そう・・・だね?」
「?」
「・・・・・」
「・・・・・」
なんだろう。
そんなに思い出すのに時間がかかる名前なんだろうか。
ああ、貴族だから名前が長いのかな。
ファーストネームだけでいいんだけど。
「はぁ!?」
そう思って、答えを待っていると、返って来たのは、素っ頓狂な叫び声だった。
「え?なに?」
ストーカー王子がそんな声を上げるのは珍しいので、私まで動揺してしまう。
「あの・・・えっと・・・まさかとは思うんだけど・・・」
「うん?」
「兄上の名前を・・・知らない?」
「え?うん」
舞踏会で初めて見かけたときまで記憶を遡ってみるけど、チャラ王子から自己紹介された記憶はない。
うん、間違いない。
「もしかして・・・その・・・ほんとに、もしかしてなんだけど・・・僕の名前は知っているよね?」
「え?・・・・・いえ、知らないけど」
同じように記憶を辿ってみるけど、ストーカー王子からも自己紹介された記憶はない。
舞踏会では、なんかいつの間にか隣に立っていて、慣れ慣れしく話しかけてきたから、印象には残っているけど、名前を聞いたことはないはずだ。
うん、こっちも間違いない。
私は一人で納得していると、ストーカー王子がかぶりをふった。
「なあ、おぬし、わしの名前は知っておるよな?」
「師匠の名前?」
私とストーカー王子の話を聞いていた師匠が、会話に混ざってくる。
師匠の名前?
普段、師匠とか魔女とかババアとか読んでいるから、あまり覚えていないけど、聞いた記憶がある。
「オルレアン・・・だっけ?」
確か『オルレアンの乙女』と呼ばれていたと言っていた。
間違いない。
ところが、私の答えを聞いて、師匠が驚愕の表情を浮かべている。
「それは、わしが昔救った都市の名前じゃ!ジャンヌ!わしの名前はジャンヌじゃ!」
ジャンヌ?
初耳だ。
まあ、師匠のことを名前で呼ぶ機会なんで、そうそうないだろうし、頭の片隅に覚えておく程度でいいか。
「えっとね、シンデレラ。兄上の名前はアダムで、僕の名前はアーサー。覚えてくれると嬉しいかな」
チャラ王子がアダム。
ストーカー王子の名前がアーサー。
うん、覚えた。
しかし、アダムとアーサーか。
アダムって、イブといちゃいちゃしていて、楽園を追い出された最初の人間だったっけ。
なんとなく、女癖の悪いチャラ王子の印象と合っている。
でも、アーサーって名前はストーカー王子に似合っていない。
メガネのくせに勇ましい名前で、ちょっとイラっとする。
そんなことを考えながら、名前を覚えていると、周囲から可哀相な娘を見るような目を向けられていることに気づく。
「なによ?」
「いや別に」
ストーカー王子、改め、アーサー王子が視線を逸らす。
「言っておくけど、私、別に名前を覚えるのが苦手ってわけじゃないわよ」
「実際、覚えておらんかったじゃろうが」
師匠まで、そんなことを言ってくる。
とんだ誤解だ。
「覚えていなかったんじゃなくて、知らなかったの。聞いていないことを覚えているわけないでしょ」
「だから、人の名前を聞こうともしないことが信じられんのじゃ」
「別に困らなかったし」
「おぬし・・・もう少し他人に興味を持ったらどうじゃ?」
そんなことを言い合っていると、さらに横から声がかかる。
「ふむ。ところで、私の名前はご存知ですかな?」
「あの、シンデレラ様。私の名前は覚えていただけていますでしょうか?」
「メフィとメアリーまで何を言い出すのよ。あなた達、私に名乗ったじゃない」
そんな感じで、昼間から部屋にしけ込んでいる二人が減り、師匠が増えたりと、参加者に変化はあったが、いつものようにお茶会は開かれていた。
*****
どうでもいい話題が一段落して、少し真面目な話に入る。
「チャラ・・・アダム王子の目的は達成したけど、私の目的はこれからが本番よ」
元襲撃者であり、こちらへの協力者になったシェリーからの情報で、黒幕の正体が隣国の姫であることは確証が取れている。
そして、襲撃者であり、解毒薬を持たされず捨て駒にされたアナスタシアのおかげで、現在、王子襲撃が成功したか失敗したか、黒幕へは伝わっていない状況になっている。
これはチャンスだ。
「シェリー、お願いしていた情報は流してくれた?」
私は、怪我が治ってきて動けるようになり、最近お茶会の給仕に加わったシェリーへ尋ねる。
まだ、重労働ができるほど回復はしていないそうだが、軽いものを持ったり歩いたりは問題ないらしいので、こうしてリハビリを兼ねて仕事をしてもらっているのだ。
まあ、それだけじゃなく、元襲撃者に対する監視も兼ねているんだけど。
「数日前の故郷への定期報告で、アダム王子が襲撃されて部屋に籠っているという情報を渡しました」
「それでいいわ」
これで相手は、襲撃が成功したと判断するはずだ。
ちなみに『死んだ』とか『眠ったまま目を覚まさない』などの具体的な報告にさせなかったのはワザとだ。
王族が、王子が襲撃を受けてそのような状態になったということを、軽々しく公表するはずがない。
公表するにしても、せいぜい病床についたという程度だろう。
だから、信憑性を持たせるために、ワザと曖昧な情報にしたのだ。
でも、部屋に籠っている、というか、しけ込んでいるのは、ある意味、嘘じゃない。
ますます信憑性が高まるので、助かってはいる。
城の中にいたら部屋の前を通るだけでバレる嘘ではあるが、国外ならそんなことも分からないだろうし。
「これで種は蒔いたわ。あとは、芽を出すのを待ってから、育てるだけなんだけど・・・何か良い方法はない?」
私は師匠に尋ねる。
もともと、師匠にはこれについて知恵を借りようと考えていたのだ。
黒幕への致命的な一撃。
その反撃の狼煙を上げるべく、私は次の行動を開始した。
いつものお茶会。
ストーカー王子が、そんなことを言ってきた。
「なんて言うの?あなたの妹は、王子を二度も殺そうとした罪人ですって言うの?」
かなり、ショックを受けるんじゃないだろうか。
私には、そんな残酷なことは言えない。
「でも、妹のおかげで目を覚ますことができたんだし」
同情か慈悲か。
せめてものつもりで言ったのかも知れないけど、それは間違いだ。
「目を覚ますことができたのは、師匠のおかげよ。アレはただのモルモット」
「シンデレラ・・・」
責めるような視線を向けられても撤回するつもりはない。
だって、事実だ。
あの後、アナスタシアは意識を失った。
そのまま、姉のように眠り続けると思ったのだけど、そうはならなかった。
薬を仕込んで王子と交わるために、薬が効き始めるまでの時間が遅れるようにされていたらしいことも理由の1つだし、薬が完全に効果を発揮する前に師匠がかき出したことも理由の1つだ。
それらいくつかの理由により、アナスタシアは身体を動かすことも思考をすることも、まともにできないけれど、完全には眠りについていない状態になった。
そして、その状態のアナスタシアから、師匠が抗体とかいうものを取り出すことに成功したらしい。
『らしい』というのは、その辺りの原理についての知識を私が持っていないので、あくまで聞いた話だとそういうことらしい、としか言えないからだ。
でも、完全に眠りについてしまうと抗体を作る機能も止まってしまうらしく、ギリギリのバランスで安定して運がよかったと、師匠が言っていたのは覚えている。
何はともあれ、要するに解毒薬ができたということだ。
姉はその解毒薬で目を覚ますことができた。
「百歩譲って、アナスタシアのおかげで目を覚ますことができたとしましょうか。それで?お礼を言いたいって言われたらどうするの?牢屋で会わせるの?本来なら面会も許されない重罪人よね?」
「それは・・・」
ストーカー王子が言い淀む。
そんな風に答えに詰まるくらいなら、中途半端な同情なんかしなければいいのに。
本人がどう考えていたかは分からないけど、アナスタシアのおこなったことは、王族の暗殺に加担したということになる。
最初のときは、もう会うこともないだろうと思って、お別れのプレゼントのつもりで見逃してあげたけど、二回目ともなるとそんなことをする義理は無いし、そもそも王子達が許すはずがない。
現在、アナスタシアはベッドに寝かされた状態で、牢屋に入れられている。
まともに思考ができないから、苦痛を感じることもないのが、彼女にとっての唯一の救いだろう。
「まあ、真実を伝えることが正しいことだとは限らんからのう。知らない方が幸せなこともあるじゃろ」
「そういうことよ。姉が王子を庇ったおかげで、妹が処刑を免れたってことで、満足してもらいましょう」
師匠の言葉に、私も賛同する。
あえて教えることはしないけど、実際にそれが事実なのだから、姉が妹のことを気に病む必要はないと思う。
「それに、チャラ王子と姉さんの幸せそうな様子に、水を差すことができる?私には無理よ」
「確かに、兄上とドリゼラさん、ベタベタだもんね」
そうなのだ。
ドリゼラ、つまり姉が目を覚ましてから体調が戻るまでは、チャラ王子もただ寄り添うだけだったのだが、体調が戻ったとたんにベタベタしだした。
アツアツなんでものじゃない。
粘着質な音が聞こえてきそうなくらいベタベタしている。
というか、部屋の前を通ると、実際に音が聞こえてくる。
昼間と言わず、夜と言わず、そんな調子だから、最近は王子の部屋を掃除する当番のメイドが顔を赤くしている姿が、よく目撃されているという噂だ。
ご愁傷様と言っておこう。
いや、ご馳走様かな。
「ところでシンデレラ・・・」
「なによ、改まって」
ストーカー王子が、真面目な顔をして、こちらに向き直す。
それにつられて、私も少しだけ緊張する。
「兄上のことをチャラ王子って呼ぶのを、止めてあげて欲しいんだ。ほら、最近はドリゼラさん一筋みたいだから、チャラくないよね?」
なんだ、そんなことか。
何事かと思った。
「いいわよ」
「シンデレラも何か思うところがあるかも知れないけど・・・っていいの?」
「ええ、別に思うところなんかないから」
「そ、そうなんだ」
そう呼んでいたのは、単に印象に合った呼び方をしていただけであって、大したこだわりがあるわけじゃない。
呼び方を変えるくらい何てことは無い。
「じゃあ、名前を教えて」
「それなら、今度から名前で呼んであげて・・・って、今なんていったの?」
「え?だから、名前を教えて。さすがに名前がわからないと、呼べないし。愛称でもいいけど」
「ああ・・・そう・・・だね?」
「?」
「・・・・・」
「・・・・・」
なんだろう。
そんなに思い出すのに時間がかかる名前なんだろうか。
ああ、貴族だから名前が長いのかな。
ファーストネームだけでいいんだけど。
「はぁ!?」
そう思って、答えを待っていると、返って来たのは、素っ頓狂な叫び声だった。
「え?なに?」
ストーカー王子がそんな声を上げるのは珍しいので、私まで動揺してしまう。
「あの・・・えっと・・・まさかとは思うんだけど・・・」
「うん?」
「兄上の名前を・・・知らない?」
「え?うん」
舞踏会で初めて見かけたときまで記憶を遡ってみるけど、チャラ王子から自己紹介された記憶はない。
うん、間違いない。
「もしかして・・・その・・・ほんとに、もしかしてなんだけど・・・僕の名前は知っているよね?」
「え?・・・・・いえ、知らないけど」
同じように記憶を辿ってみるけど、ストーカー王子からも自己紹介された記憶はない。
舞踏会では、なんかいつの間にか隣に立っていて、慣れ慣れしく話しかけてきたから、印象には残っているけど、名前を聞いたことはないはずだ。
うん、こっちも間違いない。
私は一人で納得していると、ストーカー王子がかぶりをふった。
「なあ、おぬし、わしの名前は知っておるよな?」
「師匠の名前?」
私とストーカー王子の話を聞いていた師匠が、会話に混ざってくる。
師匠の名前?
普段、師匠とか魔女とかババアとか読んでいるから、あまり覚えていないけど、聞いた記憶がある。
「オルレアン・・・だっけ?」
確か『オルレアンの乙女』と呼ばれていたと言っていた。
間違いない。
ところが、私の答えを聞いて、師匠が驚愕の表情を浮かべている。
「それは、わしが昔救った都市の名前じゃ!ジャンヌ!わしの名前はジャンヌじゃ!」
ジャンヌ?
初耳だ。
まあ、師匠のことを名前で呼ぶ機会なんで、そうそうないだろうし、頭の片隅に覚えておく程度でいいか。
「えっとね、シンデレラ。兄上の名前はアダムで、僕の名前はアーサー。覚えてくれると嬉しいかな」
チャラ王子がアダム。
ストーカー王子の名前がアーサー。
うん、覚えた。
しかし、アダムとアーサーか。
アダムって、イブといちゃいちゃしていて、楽園を追い出された最初の人間だったっけ。
なんとなく、女癖の悪いチャラ王子の印象と合っている。
でも、アーサーって名前はストーカー王子に似合っていない。
メガネのくせに勇ましい名前で、ちょっとイラっとする。
そんなことを考えながら、名前を覚えていると、周囲から可哀相な娘を見るような目を向けられていることに気づく。
「なによ?」
「いや別に」
ストーカー王子、改め、アーサー王子が視線を逸らす。
「言っておくけど、私、別に名前を覚えるのが苦手ってわけじゃないわよ」
「実際、覚えておらんかったじゃろうが」
師匠まで、そんなことを言ってくる。
とんだ誤解だ。
「覚えていなかったんじゃなくて、知らなかったの。聞いていないことを覚えているわけないでしょ」
「だから、人の名前を聞こうともしないことが信じられんのじゃ」
「別に困らなかったし」
「おぬし・・・もう少し他人に興味を持ったらどうじゃ?」
そんなことを言い合っていると、さらに横から声がかかる。
「ふむ。ところで、私の名前はご存知ですかな?」
「あの、シンデレラ様。私の名前は覚えていただけていますでしょうか?」
「メフィとメアリーまで何を言い出すのよ。あなた達、私に名乗ったじゃない」
そんな感じで、昼間から部屋にしけ込んでいる二人が減り、師匠が増えたりと、参加者に変化はあったが、いつものようにお茶会は開かれていた。
*****
どうでもいい話題が一段落して、少し真面目な話に入る。
「チャラ・・・アダム王子の目的は達成したけど、私の目的はこれからが本番よ」
元襲撃者であり、こちらへの協力者になったシェリーからの情報で、黒幕の正体が隣国の姫であることは確証が取れている。
そして、襲撃者であり、解毒薬を持たされず捨て駒にされたアナスタシアのおかげで、現在、王子襲撃が成功したか失敗したか、黒幕へは伝わっていない状況になっている。
これはチャンスだ。
「シェリー、お願いしていた情報は流してくれた?」
私は、怪我が治ってきて動けるようになり、最近お茶会の給仕に加わったシェリーへ尋ねる。
まだ、重労働ができるほど回復はしていないそうだが、軽いものを持ったり歩いたりは問題ないらしいので、こうしてリハビリを兼ねて仕事をしてもらっているのだ。
まあ、それだけじゃなく、元襲撃者に対する監視も兼ねているんだけど。
「数日前の故郷への定期報告で、アダム王子が襲撃されて部屋に籠っているという情報を渡しました」
「それでいいわ」
これで相手は、襲撃が成功したと判断するはずだ。
ちなみに『死んだ』とか『眠ったまま目を覚まさない』などの具体的な報告にさせなかったのはワザとだ。
王族が、王子が襲撃を受けてそのような状態になったということを、軽々しく公表するはずがない。
公表するにしても、せいぜい病床についたという程度だろう。
だから、信憑性を持たせるために、ワザと曖昧な情報にしたのだ。
でも、部屋に籠っている、というか、しけ込んでいるのは、ある意味、嘘じゃない。
ますます信憑性が高まるので、助かってはいる。
城の中にいたら部屋の前を通るだけでバレる嘘ではあるが、国外ならそんなことも分からないだろうし。
「これで種は蒔いたわ。あとは、芽を出すのを待ってから、育てるだけなんだけど・・・何か良い方法はない?」
私は師匠に尋ねる。
もともと、師匠にはこれについて知恵を借りようと考えていたのだ。
黒幕への致命的な一撃。
その反撃の狼煙を上げるべく、私は次の行動を開始した。
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