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第二章 白雪
040.鏡
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いつものように浴槽で身体を潤した後、姫は鏡で自らの肢体を観察していた。
美しさとは、外見だけを指すものではない。
内面から滲み出るものだ。
だから、自らの仕草や表情まで含めて入念に観察するのは、姫の日課だった。
背中や髪の毛の先。
すみずみまで観察してようやく満足した姫は、鏡の中の自分に話しかけるように口を開く。
「王子の件はどうなっているのかしら?」
「も、もうしばらくお待ちください。城に潜入させていた者に指示を出しましたので、じきにご期待に沿ったご報告ができると思います」
「そう」
姫は鏡から視線を逸らさずに、報告をしたメイドに返事を返す。
まるで鏡の中の自分から報告を受けたかのように、視線は鏡の中の自分の表情に向いている。
「あまり待たせないでね。我慢しすぎてストレスが溜まると、美容によくないでしょう?」
「は、はい。お待たせして、申し訳ありません」
姫が少しだけ視線を逸らし、鏡の隅に映り込むメイドを見ると、その身体が震えたのが分かった。
それは単に、鏡に映る異物が気になったための行動であり、すぐに興味を失う。
しかし、鏡の中の完璧な構図に映り込んだ異物に少しだけ苛立ちかけ、鏡の中の自分の表情を見て、すぐに心を落ち着ける。
このようなことに苛立つなど美しくない。
表情はあくまでも優雅さを保つ。
「もういいわ。行きなさい」
「し、失礼します」
慌ただしくメイドが出ていく。
「落ち着きのない娘ね」
やがて静けさを取り戻した部屋の中で、姫が呟く。
それから、さらにしばらく鏡の中の姿を観察し、自らの美貌が揺るがないことを確認した後、鏡から視線を外す。
世話役のメイド達にドレスを着せられながら、再び姫が口を開く。
「今日はコラーゲンを多めに取りたいから、内臓の煮込み料理がいいわね」
姫の希望は必ず叶えられる。
夕食に出てくるメニューは、それになることは確実だった。
寝かせることで旨味が増す赤身肉と違い、内臓は新鮮さが重要だ。
今日、城の中から一人が姿を消すことも、また確実だった。
*****
「・・・俺はな、妃の作った菓子で、お茶を飲むのが夢なんだ」
チャラ王が沈痛な面持ちで何か言い出した。
メアリーから聞いた話のショックが大きかったのか、言っていることがおかしい。
「別に焦げていてもいいんだ。俺のために手作りしてくれたものが食べたいんだ」
「はぁ」
曖昧に相槌を打つ。
というか、それしかできない。
「花の咲いている季節に庭でなんて良いと思わないか」
「それは思いますけど、ずいぶんと乙女チックな夢ですね。正直、意外です」
一日中、妃と寝室にこもっているのが夢だとか言うのかと思っていた。
あるいは、外でするのが夢とか。
「俺が幸せな家庭を夢見ても良いじゃないか。普通の幸せで良いんだ、ごく普通の幸せで」
「王族が普通っていうのは難しいと思いますけど、政略結婚でも夫婦の努力しだいでは、幸せになれるんじゃないですか?」
チャラ王子は、私の言葉を聞いているのか聞いていないのか、ブツブツと呟き続けている。
その声が段々と小さくなっていき、耳を澄ませたところで、突然、チャラ王子が声を荒らげる。
「俺は食事に人肉を出すような女と結婚するつもりは無いぞっ!」
「きゃっ!」
鼓膜を振るわせる叫びに、思わず耳を押さえる。
いきなり大声を出さないで欲しい。
まあ、気持ちは分からないでもない。
「肉食や雑食の動物は、肉も獣臭いっていいますしね。やっぱり食肉にするなら草食動物が最適ですよ」
狩りをしていた経験で分かる。
実は牙や爪で攻撃してくる肉食動物よりも、身体全体で攻撃してくる草食動物の方が危険なことがあるのだけど、それでもやっぱり狩るなら草食動物だ。
味が全く違う。
「そういう問題じゃないっ!」
しかし、チャラ王子は私の答えが不満なようだ。
再び声を荒らげる。
「人間が人間を食べるなんて、倫理的に大問題だろうがっ!殺人よりもたちが悪いっ!」
なるほど、そっちか。
心情的には理解できるけど、メアリーの話に出てきたような、餓死者が出るような土地ならどうだろう。
「でも、自然界には、共食いの習性を持つ動物は珍しくないですよ。それに、飢えて全員が死ぬか、少数を犠牲にして多くを助けるかを選ばなきゃいけないとき、王族としてはどっちを選びますか?」
私の質問にチャラ王子が答えに詰まる。
「・・・後者を選ぶとしても、食糧を分配する者を絞るまででいいだろう」
「なるほど。効率的ではないですが、効果的ではありますな。食糧の奪い合いで、より人数が減ることでしょう。それに、直接殺して恨みを買うより、反感は抑えられる。さすがは、将来、国を治める立場にある者は、先々のことまで考えていますな」
「・・・・・」
チャラ王子の答えに感想を返したのは、私ではなくメフィだ。
あまり口を開かないのに、こういうところで口を挟むあたり、反応を楽しんでいることが分かる。
子供の姿をしていても、本性は変わらないということだろう。
けど、別に私はチャラ王子をイジメたいわけではないので、フォローしておく。
「まあ、それはチャラ王子が王位を継ぐまでに考えておいてください。それより、この後の作戦を考えましょうか」
私はメアリーとストーカー王子の方を見る。
メアリーは無表情、ストーカー王子は軽く引いているように見えるが、青ざめていた顔はマシになってきているようだ。
私はメアリーに尋ねる。
「シェリーが暗殺に失敗したのを知っているのは誰?」
「ここにいる人間と、私の部下です」
「王様には?」
「知らせていません」
王様にも知らせていないのか。
国の最高位の人間には知らせているだろうと思っていたけど、少し予想外だ。
「シンデレラがその娘をどう扱うかわからなかったからね。もし、前みたいになると説明が面倒だから、最初から隠しておくことにしたんだよ」
暗殺者が消えるより、普通のメイドが消えることになった方が、騒ぎになるような気がするけど、どうなんだろう。
ああ、でも、王族が感じる身の危険で考えれば、都合がいいのか。
暗殺者が逃げたら襲われる可能性があるけど、メイドが一人消えたところで、城の掃除などをする人手が減る程度だろう。
それに、怪我が悪化して亡くなったという理由付けも、強引ではあるけど成立しないわけじゃない。
なんだか、ストーカー王子の方が、清濁併せ飲む為政者に向いている気がしてきた。
でも、ダメか。
引きこもりだし。
それはともかく、今はシェリーの扱いだ。
「知っている人間が少ないなら都合がいいわ。シェリーの故郷に、偽の情報を流したいんだけど、できそう?」
できれば、シェリー本人に協力させたい。
けど、故郷を裏切ることになるし、憔悴しているという話だったから、微妙なところだろう。
そう考えたのだけど、メアリーからは意外な答えが返ってきた。
「大丈夫だと思います。情報を提供するのも協力的でしたし、彼女はこの国にいることを希望しているようです。よほど故郷に戻りたくないのでしょう。」
「あー・・・なるほどね」
故郷の『食習慣』に馴染めなかったのなら、たとえ牢屋にいることになったとしても、この国の方が住み心地はいいだろう。
処刑される可能性もあるだろうけど、それは故郷に戻っても一緒か。
「そういう状態なら、メフィに食べさせるより、手元に置いた方が役立ちそうね」
「おや、残念ですな」
大して残念でもなさそうな表情で、メフィがそんなことを言う。
あれはどう見ても、私のこれからの行動を面白がっている表情だ。
「シェリーのことを、私へのプレゼントだって言っていたわよね。じゃあ、私がもらっちゃっていい?」
「いいけど、何をするつもり?」
「まずは、暗殺計画は継続中って報告をさせて、時間を稼ぐわ。その後は、なんとか例の薬を彼女の故郷から送らせる方向に持っていきたいけど・・・」
もともと、それが目的だ。
私の言葉にチャラ王子が反応する。
「できるのか?」
期待を込めた視線を送ってくれるところ悪いけど、そうそう上手くいくはずがない。
「難しいですね。毒を使えばいいのに、わざわざ眠りにつかせる薬を必要とする理由が思いつかないです。まあ、じっくり考えましょう」
その日はそれで、お茶会を装った報告会は終了した。
*****
「何かいいアイデアないかな」
ベッドに横になりながら考えるのは、お茶会で最後に出た話題だ。
チャラ王子が女遊びを再開したという噂を流すための工作は必要なくなったので、夜は自室でゆっくりできる。
その時間を利用して、頭を悩ませているのだ。
「メフィ、何かいいアイデアない?」
本来なら協力を求めるべき相手でないことは分かっているが、そんな相手の意見も聞こうとするほど、何も思い付かない。
「王子が死ぬのではなく、眠りにつくことで利益になる理由が必要ですな」
「そこまでは、わかっているわよ」
問題はその理由だ。
黒幕は隣国の姫。
それも分かっている。
隣国の姫は王子との婚約を望んでいない。
それも分かっている。
隣国の姫が悪趣味な習慣を持っている。
それも分かっている。
「うーん」
だからどうした、という情報ばかりだ。
婚約を破棄するなら、相手がいなくなった方が、つまり王子が死んだほうが都合がいい。
だから、突くなら姫の悪趣味な習慣のような気がするけど、具体的に思い浮かばない。
私は多少境遇は特殊だけど、それでもごく平凡な人間だと思う。
だから、異常者の思考が理解できない。
なにをすれば悦ぶかを推測できない。
「人心を把握し、策を講じて行動を操ることに長けた人間の知恵が必要でしょうな」
メフィみたいな存在が得意なことじゃないかと思ったけど、口には出さない。
実際にそれをさせると、とんでもないことになりそうだ。
彼は人間ではないから、人間の都合は考慮せず、容赦もしないだろう。
逆に面倒事になるのは予想できる。
「策か」
私も少し習ったけど、実践した経験はない。
せっかく、シェリーというチャンスを手に入れたのだから、できれば失敗はしたくない。
そこまで考えたところで、ふと気づく。
「いるじゃない。そういうのが得意そうな人が」
盲点だった。
そういうことに向いている人間に心当たりがある。
明日の行動方針を決めた私は、気持ちよく眠りについた。
美しさとは、外見だけを指すものではない。
内面から滲み出るものだ。
だから、自らの仕草や表情まで含めて入念に観察するのは、姫の日課だった。
背中や髪の毛の先。
すみずみまで観察してようやく満足した姫は、鏡の中の自分に話しかけるように口を開く。
「王子の件はどうなっているのかしら?」
「も、もうしばらくお待ちください。城に潜入させていた者に指示を出しましたので、じきにご期待に沿ったご報告ができると思います」
「そう」
姫は鏡から視線を逸らさずに、報告をしたメイドに返事を返す。
まるで鏡の中の自分から報告を受けたかのように、視線は鏡の中の自分の表情に向いている。
「あまり待たせないでね。我慢しすぎてストレスが溜まると、美容によくないでしょう?」
「は、はい。お待たせして、申し訳ありません」
姫が少しだけ視線を逸らし、鏡の隅に映り込むメイドを見ると、その身体が震えたのが分かった。
それは単に、鏡に映る異物が気になったための行動であり、すぐに興味を失う。
しかし、鏡の中の完璧な構図に映り込んだ異物に少しだけ苛立ちかけ、鏡の中の自分の表情を見て、すぐに心を落ち着ける。
このようなことに苛立つなど美しくない。
表情はあくまでも優雅さを保つ。
「もういいわ。行きなさい」
「し、失礼します」
慌ただしくメイドが出ていく。
「落ち着きのない娘ね」
やがて静けさを取り戻した部屋の中で、姫が呟く。
それから、さらにしばらく鏡の中の姿を観察し、自らの美貌が揺るがないことを確認した後、鏡から視線を外す。
世話役のメイド達にドレスを着せられながら、再び姫が口を開く。
「今日はコラーゲンを多めに取りたいから、内臓の煮込み料理がいいわね」
姫の希望は必ず叶えられる。
夕食に出てくるメニューは、それになることは確実だった。
寝かせることで旨味が増す赤身肉と違い、内臓は新鮮さが重要だ。
今日、城の中から一人が姿を消すことも、また確実だった。
*****
「・・・俺はな、妃の作った菓子で、お茶を飲むのが夢なんだ」
チャラ王が沈痛な面持ちで何か言い出した。
メアリーから聞いた話のショックが大きかったのか、言っていることがおかしい。
「別に焦げていてもいいんだ。俺のために手作りしてくれたものが食べたいんだ」
「はぁ」
曖昧に相槌を打つ。
というか、それしかできない。
「花の咲いている季節に庭でなんて良いと思わないか」
「それは思いますけど、ずいぶんと乙女チックな夢ですね。正直、意外です」
一日中、妃と寝室にこもっているのが夢だとか言うのかと思っていた。
あるいは、外でするのが夢とか。
「俺が幸せな家庭を夢見ても良いじゃないか。普通の幸せで良いんだ、ごく普通の幸せで」
「王族が普通っていうのは難しいと思いますけど、政略結婚でも夫婦の努力しだいでは、幸せになれるんじゃないですか?」
チャラ王子は、私の言葉を聞いているのか聞いていないのか、ブツブツと呟き続けている。
その声が段々と小さくなっていき、耳を澄ませたところで、突然、チャラ王子が声を荒らげる。
「俺は食事に人肉を出すような女と結婚するつもりは無いぞっ!」
「きゃっ!」
鼓膜を振るわせる叫びに、思わず耳を押さえる。
いきなり大声を出さないで欲しい。
まあ、気持ちは分からないでもない。
「肉食や雑食の動物は、肉も獣臭いっていいますしね。やっぱり食肉にするなら草食動物が最適ですよ」
狩りをしていた経験で分かる。
実は牙や爪で攻撃してくる肉食動物よりも、身体全体で攻撃してくる草食動物の方が危険なことがあるのだけど、それでもやっぱり狩るなら草食動物だ。
味が全く違う。
「そういう問題じゃないっ!」
しかし、チャラ王子は私の答えが不満なようだ。
再び声を荒らげる。
「人間が人間を食べるなんて、倫理的に大問題だろうがっ!殺人よりもたちが悪いっ!」
なるほど、そっちか。
心情的には理解できるけど、メアリーの話に出てきたような、餓死者が出るような土地ならどうだろう。
「でも、自然界には、共食いの習性を持つ動物は珍しくないですよ。それに、飢えて全員が死ぬか、少数を犠牲にして多くを助けるかを選ばなきゃいけないとき、王族としてはどっちを選びますか?」
私の質問にチャラ王子が答えに詰まる。
「・・・後者を選ぶとしても、食糧を分配する者を絞るまででいいだろう」
「なるほど。効率的ではないですが、効果的ではありますな。食糧の奪い合いで、より人数が減ることでしょう。それに、直接殺して恨みを買うより、反感は抑えられる。さすがは、将来、国を治める立場にある者は、先々のことまで考えていますな」
「・・・・・」
チャラ王子の答えに感想を返したのは、私ではなくメフィだ。
あまり口を開かないのに、こういうところで口を挟むあたり、反応を楽しんでいることが分かる。
子供の姿をしていても、本性は変わらないということだろう。
けど、別に私はチャラ王子をイジメたいわけではないので、フォローしておく。
「まあ、それはチャラ王子が王位を継ぐまでに考えておいてください。それより、この後の作戦を考えましょうか」
私はメアリーとストーカー王子の方を見る。
メアリーは無表情、ストーカー王子は軽く引いているように見えるが、青ざめていた顔はマシになってきているようだ。
私はメアリーに尋ねる。
「シェリーが暗殺に失敗したのを知っているのは誰?」
「ここにいる人間と、私の部下です」
「王様には?」
「知らせていません」
王様にも知らせていないのか。
国の最高位の人間には知らせているだろうと思っていたけど、少し予想外だ。
「シンデレラがその娘をどう扱うかわからなかったからね。もし、前みたいになると説明が面倒だから、最初から隠しておくことにしたんだよ」
暗殺者が消えるより、普通のメイドが消えることになった方が、騒ぎになるような気がするけど、どうなんだろう。
ああ、でも、王族が感じる身の危険で考えれば、都合がいいのか。
暗殺者が逃げたら襲われる可能性があるけど、メイドが一人消えたところで、城の掃除などをする人手が減る程度だろう。
それに、怪我が悪化して亡くなったという理由付けも、強引ではあるけど成立しないわけじゃない。
なんだか、ストーカー王子の方が、清濁併せ飲む為政者に向いている気がしてきた。
でも、ダメか。
引きこもりだし。
それはともかく、今はシェリーの扱いだ。
「知っている人間が少ないなら都合がいいわ。シェリーの故郷に、偽の情報を流したいんだけど、できそう?」
できれば、シェリー本人に協力させたい。
けど、故郷を裏切ることになるし、憔悴しているという話だったから、微妙なところだろう。
そう考えたのだけど、メアリーからは意外な答えが返ってきた。
「大丈夫だと思います。情報を提供するのも協力的でしたし、彼女はこの国にいることを希望しているようです。よほど故郷に戻りたくないのでしょう。」
「あー・・・なるほどね」
故郷の『食習慣』に馴染めなかったのなら、たとえ牢屋にいることになったとしても、この国の方が住み心地はいいだろう。
処刑される可能性もあるだろうけど、それは故郷に戻っても一緒か。
「そういう状態なら、メフィに食べさせるより、手元に置いた方が役立ちそうね」
「おや、残念ですな」
大して残念でもなさそうな表情で、メフィがそんなことを言う。
あれはどう見ても、私のこれからの行動を面白がっている表情だ。
「シェリーのことを、私へのプレゼントだって言っていたわよね。じゃあ、私がもらっちゃっていい?」
「いいけど、何をするつもり?」
「まずは、暗殺計画は継続中って報告をさせて、時間を稼ぐわ。その後は、なんとか例の薬を彼女の故郷から送らせる方向に持っていきたいけど・・・」
もともと、それが目的だ。
私の言葉にチャラ王子が反応する。
「できるのか?」
期待を込めた視線を送ってくれるところ悪いけど、そうそう上手くいくはずがない。
「難しいですね。毒を使えばいいのに、わざわざ眠りにつかせる薬を必要とする理由が思いつかないです。まあ、じっくり考えましょう」
その日はそれで、お茶会を装った報告会は終了した。
*****
「何かいいアイデアないかな」
ベッドに横になりながら考えるのは、お茶会で最後に出た話題だ。
チャラ王子が女遊びを再開したという噂を流すための工作は必要なくなったので、夜は自室でゆっくりできる。
その時間を利用して、頭を悩ませているのだ。
「メフィ、何かいいアイデアない?」
本来なら協力を求めるべき相手でないことは分かっているが、そんな相手の意見も聞こうとするほど、何も思い付かない。
「王子が死ぬのではなく、眠りにつくことで利益になる理由が必要ですな」
「そこまでは、わかっているわよ」
問題はその理由だ。
黒幕は隣国の姫。
それも分かっている。
隣国の姫は王子との婚約を望んでいない。
それも分かっている。
隣国の姫が悪趣味な習慣を持っている。
それも分かっている。
「うーん」
だからどうした、という情報ばかりだ。
婚約を破棄するなら、相手がいなくなった方が、つまり王子が死んだほうが都合がいい。
だから、突くなら姫の悪趣味な習慣のような気がするけど、具体的に思い浮かばない。
私は多少境遇は特殊だけど、それでもごく平凡な人間だと思う。
だから、異常者の思考が理解できない。
なにをすれば悦ぶかを推測できない。
「人心を把握し、策を講じて行動を操ることに長けた人間の知恵が必要でしょうな」
メフィみたいな存在が得意なことじゃないかと思ったけど、口には出さない。
実際にそれをさせると、とんでもないことになりそうだ。
彼は人間ではないから、人間の都合は考慮せず、容赦もしないだろう。
逆に面倒事になるのは予想できる。
「策か」
私も少し習ったけど、実践した経験はない。
せっかく、シェリーというチャンスを手に入れたのだから、できれば失敗はしたくない。
そこまで考えたところで、ふと気づく。
「いるじゃない。そういうのが得意そうな人が」
盲点だった。
そういうことに向いている人間に心当たりがある。
明日の行動方針を決めた私は、気持ちよく眠りについた。
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