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第二章 白雪
039.カーニバル
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「やり過ぎだよ、シンデレラ」
困ったような視線をストーカー王子が向けてくるが、それには反論したい。
「私のせいじゃないわよ。メフィが脅しすぎたのが原因よ」
「心外ですな。私はあなたの意向に合わせただけだというのに」
メフィが責任の押し付け合いをするが、どちらの責任でもないことは分っている。
あの後、発狂したようになったシェリーになんとか鎮静薬を嗅がせて、絶叫を聞いて部屋に飛び込んできたエミリーに世話を押し付けてきた。
監視でなく、本格的な看病が必要になったのだから、仕方がない。
「しかし、城中に響き渡ったからな。兵士が何人も聞いていたから、説明に苦労したぞ。襲撃者に襲われたことを思い出したのだということにしておいたが」
チャラ王子も押しつけがましく言ってくる。
けどまあ、説明に苦労したのは、想像ができる。
あれは恐怖から出た悲鳴なんてものじゃなかった。
獣が上げる断末魔の絶叫のようだった。
「それで、何か情報は手に入ったのか?」
チャラ王子が訊いてくる。
けど、残念ながら、私の方はろくな収穫が無かった。
せいぜい、名前が分かったくらいだ。
「シェリーは何か喋った?」
私は、世話を任せたエミリーの上司にあたる、メアリーに尋ねる。
メアリーはお茶会の給仕をしながら、私の問いに答えてくれる。
「知っていることを、ほぼ全て話してくれました。落ち着いた後は憔悴しきっていて、抵抗する素振りも見せず、尋問も必要ありませんでした」
どうやら、あの後、シェリーはずいぶんと素直になったらしい。
成果が出たらしいことを知って、ほっとする。
「見事な手際で見習いたいくらいです。諜報員は拷問に対する訓練も受けていますから、普通は手こずるはずなのですが」
「あー・・・機会があったら、コツを教えるわ」
そんな、機会は来ないだろうけど。
「じゃあ、わかったことを教えてくれる?」
ストーカー王子がメアリーに要求する。
部下であるメアリーはそれに逆らうことはないが、どこか言いづらそうだ。
「はい、それは構わないのですが・・・少し刺激が強い話になりますので・・・」
そう言って、私に視線を向ける。
心遣いはありがたいが、要らない心配だ。
シェリーが絶叫する前に漏らした言葉で、どんな内容かは予想できている。
「ちょっと変わった『食文化』があるってことでしょ?気にしなくていいわよ」
「・・・そうですか、それでは・・・」
そしてメアリーは、シェリーが喋ったという情報を話し始めた。
*****
その国は北の寒い地方にある。
作物が育たなくはないが、収穫は少ない。
辛うじて冬を越すことはできるが、それは常にギリギリの均衡に保たれていた。
僅かにでも冷夏になれば、国民全員には食糧が行き渡らなくなる。
そんな状況の中、普通起こるのは、口減らしだ。
食糧を必要とする人間が減れば、食糧の量は足りる。
単純な計算の問題だ。
たとえ、次の年に畑を耕す人間が足りなくなることが分かっていたとしても、目の前の冬を越せなければ意味がない。
だから、普通は口減らしが行われる。
しかし、その国は普通ではなかった。
その国では、滅多に口減らしは行われない。
なぜなら、働き口があるからだ。
その国の城には美しい姫がおり、国民が困っていれば手を差し伸べた。
姫は自らの身の回りの世話をさせるという理由で、若い娘という制限はあったが、城に働き口を用意した。
そしてその制限は、国民にとっては特に問題がない条件だった。
畑を耕すのは力のある男であり、娘の代わりは子供や老婆でも務まった。
子供を産む人間がいなくなるので人口減少には繋がるだろうが、その日を生きるのに必死な国民達はそのことに危機感を覚える余裕はなかった。
そうして、決して豊かではないが、飢えて死ぬ心配は無くなった国民達は、ふと気づく。
娘達はどうなったのだろうと。
もともと口減らしの代わりに働きに出した娘達だ。
今さら戻って来られても困る。
だが、血の繋がった娘に、情を感じないわけではない。
だから、気になった。
城に働きに行った娘達が、一人も戻ってきていないことに。
そして、冷夏が訪れるたびに新たな娘を働きに出しているのに、城が受け入れ続けていることに。
国民達は噂する。
娘達はもう生きていないのではないかと。
姫に殺されたのではないかと。
だが、それを理由に姫を断罪するものは現れない。
なぜなら、たとえ娘達が殺されていたとしても、それは自分達がやろうとしていたことを肩代わりしてくれたに過ぎないのだから。
辛い役目を親族にさせるのは忍びないという理由で、姫が肩代わりしてくれたのかも知れない。
そう思うことで、国民達は自らの罪悪感も姫を責める気持ちも抑え込んだ。
それに、そうと決まったわけではない。
もし、姫が娘達を殺していたのだとすれば、亡骸があるはずだ。
一人二人ならともかく、城が受け入れた娘達の人数は、かなりの数に上る。
そんな数の亡骸を隠せるはずがない。
だから、別の想像をする者が現れる。
娘達は国外に奴隷として売られたのだと。
城の人間はそれで金銭を得ているのだと。
普通なら反乱が起こってもおかしくない話だ。
だが、そんな噂が流れても、姫を断罪する者は現れない。
もし、奴隷として売られているのだとしたら、少なくとも娘達は生きている。
そして、もしかしたら、優しい主人に買われて幸せに暮らしているのかも知れないのだ。
その想像は、娘達が死んでいるという想像より、国民達に救いを与えた。
だから、未だに姫を断罪する者は現れない。
それどころか、姫を救世主だと言うものすらいる。
娘達を引き取り、国民を飢えから救った救世主だと。
姫の美しさが、その想像に拍車をかけた。
*****
「まあ、そんな都合の良い話は無いわよね」
メアリーの話を聞いて、私は断言する。
私でなくても断言するだろう。
飢えに苦しみ生きるか死ぬかの瀬戸際であるその国の国民ならともかく、外部から客観的に見れば違和感があり過ぎる。
「口減らしのために殺すにしても、国民の恨みを買うかも知れない上に労力がかかるのに、わざわざ城の人間がそれをやる理由はないだろう。それに、国家が自国民を奴隷として売りさばくなどということをしていたら、周辺国で噂にならないわけがない」
チャラ王子も同意見のようだ。
「でも、それじゃあ、その城に働きに行った娘達の一人がシェリーってこと?他国に密偵として潜入させれば、役に立つ上に自国の食糧は必要ないから、一石二鳥のように思えるけど・・・そんなに上手くいくかな?」
ストーカー王子が推測を述べつつも、それが正解ではないことは分かっているようだ。
人間一人を密偵に仕立てるには訓練する期間も必要だろうし、それほど大量の人間に似たような役目を与えることもできない。
シェリーが娘達の一人であることは間違いないが、それ以外の娘達は別の使われ方をしているはずだ。
「環境に馴染めた者、または、馴染んだフリをできた者は、シェリーのように裏の仕事が与えられたようです」
どうやら、メアリーが正解を説明してくれるようだ。
そして、おそらく、ここからが『刺激が強い話』なのだろう。
「毎日、少しずつ血液を搾り取られ、それに耐えられずに衰弱して命を落とした場合、食糧に回されます。そして、その食糧を口にできずに命を落とした場合も、食糧に回されます。口にできて生きながらえたとしても、正常な精神を保てなかった場合は、血液を搾り取られ続けます。正常な精神を保てた場合のみ、別の役割が与えられるようです」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「なかなか効率的ですな。無駄がない」
メアリーの話を聞いて、すぐに感想を言えたのはメフィだけだ。
私も無理だった。
想像はしていたけど、どうも、それ以上の扱いだったようだ。
「待て・・・それは・・・何の話をしている?」
メフィの次に、かろうじて、そう言葉にできたのはチャラ王子だ。
さすがに騎士や兵士を任されるだけあって、冷静さを保てているようだ。
けど、判っているだろうに、何の話かと聞くところを見ると、それは表面上だけなのだろう。
気持ちは分かる。
「家畜・・・とかの話じゃないよね。その国にそんな余裕があるわけないし」
ストーカー王子も似たような状態のようだ。
顔が青ざめているから、かなりギリギリのようだけど。
そして、そのギリギリなところに、メアリーが追い打ちをかける。
「はい。城に働きに行かされた娘達の『仕事』の話です」
沈黙が場を支配する。
王子二人は、まるで悪酔いしたかのように、青い顔をしている。
下手をすれば吐きそうにも見える。
たぶん、メアリーが明確に言葉にしたことによって、色々と想像してしまったのだろう。
私も想像してしまったが、狩りで解体をしたこともあるせいか、不思議と平静を保てていた。
「娘達の『仕事』はわかったけど、そのお姫様は血液なんか集めて何に使っていたの?黒魔術の儀式にでも使うつもりだったのかしら?」
メアリーに尋ねる。
もし、そうだとしたら、メフィの同類がいる可能性もある。
それを懸念したのだが、メアリーは首を横に振る。
「いえ・・・どうやら、姫の浴槽に使われていたようです。黒魔術の儀式に関係あるかはわかりません」
メアリーの声は冷静だが、僅かに表情を歪めているところを見ると、話している内容に気分がよいわけではなさそうだ。
王子二人とメアリーがそんな状態の中、メフィが空気を読まずに、解説を挟む。
「血液だけでは悪魔への対価にはなりませんな。血液は、命の欠片ではありますが、魂の欠片ではありません。そのようなものを捧げられたところで、応える悪魔はいないでしょう」
なら、メフィの同類を相手にすることは無さそうだ。
けど、それならそれで、より一層、血液の使い道がおぞましいということになる。
「なら、お姫様は悪魔を呼び出そうとしているわけではなく、ただ自分のために他人の血液を使っていたということね。それなら『食糧』も?」
「娘達に食べさせるだけでなく、姫自らが口にしているようです。むしろ、自分が食べることが目的ではないかと思われます」
「うっ!」
メアリーの言葉を聞いて、ストーカー王子が吐きそうにしている。
チャラ王子も、えずいてこそいないが、口元を押さえている。
想像力が豊かなようだ。
「なるほどね。それで、あのシェリーの言葉か」
彼女は『環境に馴染めた者』ではなく『馴染んだフリをできた者』の方だったのだろう。
食べることでしか生き残ることができなかった。
けど、食べることに対する罪悪感を捨てることもできなかった。
そのギリギリのバランスを、心の奥底に沈めていたのだろう。
それを、メフィが悪ノリが浮上させてしまったということか。
「・・・・・」
ちょっと、悪いことをしたかも知れない。
聞いた境遇を考えると、トラウマを直撃してしまったような気がする。
たぶん彼女は、故郷に帰って、以前と同じ『食生活』を送ることはできないだろう。
情報を提供してくれたことでもあるし、牢に入れるにしろ、今までと同じ扱いにするにしろ、後でフォローをしておこう。
私はそんなことを考えていた。
困ったような視線をストーカー王子が向けてくるが、それには反論したい。
「私のせいじゃないわよ。メフィが脅しすぎたのが原因よ」
「心外ですな。私はあなたの意向に合わせただけだというのに」
メフィが責任の押し付け合いをするが、どちらの責任でもないことは分っている。
あの後、発狂したようになったシェリーになんとか鎮静薬を嗅がせて、絶叫を聞いて部屋に飛び込んできたエミリーに世話を押し付けてきた。
監視でなく、本格的な看病が必要になったのだから、仕方がない。
「しかし、城中に響き渡ったからな。兵士が何人も聞いていたから、説明に苦労したぞ。襲撃者に襲われたことを思い出したのだということにしておいたが」
チャラ王子も押しつけがましく言ってくる。
けどまあ、説明に苦労したのは、想像ができる。
あれは恐怖から出た悲鳴なんてものじゃなかった。
獣が上げる断末魔の絶叫のようだった。
「それで、何か情報は手に入ったのか?」
チャラ王子が訊いてくる。
けど、残念ながら、私の方はろくな収穫が無かった。
せいぜい、名前が分かったくらいだ。
「シェリーは何か喋った?」
私は、世話を任せたエミリーの上司にあたる、メアリーに尋ねる。
メアリーはお茶会の給仕をしながら、私の問いに答えてくれる。
「知っていることを、ほぼ全て話してくれました。落ち着いた後は憔悴しきっていて、抵抗する素振りも見せず、尋問も必要ありませんでした」
どうやら、あの後、シェリーはずいぶんと素直になったらしい。
成果が出たらしいことを知って、ほっとする。
「見事な手際で見習いたいくらいです。諜報員は拷問に対する訓練も受けていますから、普通は手こずるはずなのですが」
「あー・・・機会があったら、コツを教えるわ」
そんな、機会は来ないだろうけど。
「じゃあ、わかったことを教えてくれる?」
ストーカー王子がメアリーに要求する。
部下であるメアリーはそれに逆らうことはないが、どこか言いづらそうだ。
「はい、それは構わないのですが・・・少し刺激が強い話になりますので・・・」
そう言って、私に視線を向ける。
心遣いはありがたいが、要らない心配だ。
シェリーが絶叫する前に漏らした言葉で、どんな内容かは予想できている。
「ちょっと変わった『食文化』があるってことでしょ?気にしなくていいわよ」
「・・・そうですか、それでは・・・」
そしてメアリーは、シェリーが喋ったという情報を話し始めた。
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その国は北の寒い地方にある。
作物が育たなくはないが、収穫は少ない。
辛うじて冬を越すことはできるが、それは常にギリギリの均衡に保たれていた。
僅かにでも冷夏になれば、国民全員には食糧が行き渡らなくなる。
そんな状況の中、普通起こるのは、口減らしだ。
食糧を必要とする人間が減れば、食糧の量は足りる。
単純な計算の問題だ。
たとえ、次の年に畑を耕す人間が足りなくなることが分かっていたとしても、目の前の冬を越せなければ意味がない。
だから、普通は口減らしが行われる。
しかし、その国は普通ではなかった。
その国では、滅多に口減らしは行われない。
なぜなら、働き口があるからだ。
その国の城には美しい姫がおり、国民が困っていれば手を差し伸べた。
姫は自らの身の回りの世話をさせるという理由で、若い娘という制限はあったが、城に働き口を用意した。
そしてその制限は、国民にとっては特に問題がない条件だった。
畑を耕すのは力のある男であり、娘の代わりは子供や老婆でも務まった。
子供を産む人間がいなくなるので人口減少には繋がるだろうが、その日を生きるのに必死な国民達はそのことに危機感を覚える余裕はなかった。
そうして、決して豊かではないが、飢えて死ぬ心配は無くなった国民達は、ふと気づく。
娘達はどうなったのだろうと。
もともと口減らしの代わりに働きに出した娘達だ。
今さら戻って来られても困る。
だが、血の繋がった娘に、情を感じないわけではない。
だから、気になった。
城に働きに行った娘達が、一人も戻ってきていないことに。
そして、冷夏が訪れるたびに新たな娘を働きに出しているのに、城が受け入れ続けていることに。
国民達は噂する。
娘達はもう生きていないのではないかと。
姫に殺されたのではないかと。
だが、それを理由に姫を断罪するものは現れない。
なぜなら、たとえ娘達が殺されていたとしても、それは自分達がやろうとしていたことを肩代わりしてくれたに過ぎないのだから。
辛い役目を親族にさせるのは忍びないという理由で、姫が肩代わりしてくれたのかも知れない。
そう思うことで、国民達は自らの罪悪感も姫を責める気持ちも抑え込んだ。
それに、そうと決まったわけではない。
もし、姫が娘達を殺していたのだとすれば、亡骸があるはずだ。
一人二人ならともかく、城が受け入れた娘達の人数は、かなりの数に上る。
そんな数の亡骸を隠せるはずがない。
だから、別の想像をする者が現れる。
娘達は国外に奴隷として売られたのだと。
城の人間はそれで金銭を得ているのだと。
普通なら反乱が起こってもおかしくない話だ。
だが、そんな噂が流れても、姫を断罪する者は現れない。
もし、奴隷として売られているのだとしたら、少なくとも娘達は生きている。
そして、もしかしたら、優しい主人に買われて幸せに暮らしているのかも知れないのだ。
その想像は、娘達が死んでいるという想像より、国民達に救いを与えた。
だから、未だに姫を断罪する者は現れない。
それどころか、姫を救世主だと言うものすらいる。
娘達を引き取り、国民を飢えから救った救世主だと。
姫の美しさが、その想像に拍車をかけた。
*****
「まあ、そんな都合の良い話は無いわよね」
メアリーの話を聞いて、私は断言する。
私でなくても断言するだろう。
飢えに苦しみ生きるか死ぬかの瀬戸際であるその国の国民ならともかく、外部から客観的に見れば違和感があり過ぎる。
「口減らしのために殺すにしても、国民の恨みを買うかも知れない上に労力がかかるのに、わざわざ城の人間がそれをやる理由はないだろう。それに、国家が自国民を奴隷として売りさばくなどということをしていたら、周辺国で噂にならないわけがない」
チャラ王子も同意見のようだ。
「でも、それじゃあ、その城に働きに行った娘達の一人がシェリーってこと?他国に密偵として潜入させれば、役に立つ上に自国の食糧は必要ないから、一石二鳥のように思えるけど・・・そんなに上手くいくかな?」
ストーカー王子が推測を述べつつも、それが正解ではないことは分かっているようだ。
人間一人を密偵に仕立てるには訓練する期間も必要だろうし、それほど大量の人間に似たような役目を与えることもできない。
シェリーが娘達の一人であることは間違いないが、それ以外の娘達は別の使われ方をしているはずだ。
「環境に馴染めた者、または、馴染んだフリをできた者は、シェリーのように裏の仕事が与えられたようです」
どうやら、メアリーが正解を説明してくれるようだ。
そして、おそらく、ここからが『刺激が強い話』なのだろう。
「毎日、少しずつ血液を搾り取られ、それに耐えられずに衰弱して命を落とした場合、食糧に回されます。そして、その食糧を口にできずに命を落とした場合も、食糧に回されます。口にできて生きながらえたとしても、正常な精神を保てなかった場合は、血液を搾り取られ続けます。正常な精神を保てた場合のみ、別の役割が与えられるようです」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「なかなか効率的ですな。無駄がない」
メアリーの話を聞いて、すぐに感想を言えたのはメフィだけだ。
私も無理だった。
想像はしていたけど、どうも、それ以上の扱いだったようだ。
「待て・・・それは・・・何の話をしている?」
メフィの次に、かろうじて、そう言葉にできたのはチャラ王子だ。
さすがに騎士や兵士を任されるだけあって、冷静さを保てているようだ。
けど、判っているだろうに、何の話かと聞くところを見ると、それは表面上だけなのだろう。
気持ちは分かる。
「家畜・・・とかの話じゃないよね。その国にそんな余裕があるわけないし」
ストーカー王子も似たような状態のようだ。
顔が青ざめているから、かなりギリギリのようだけど。
そして、そのギリギリなところに、メアリーが追い打ちをかける。
「はい。城に働きに行かされた娘達の『仕事』の話です」
沈黙が場を支配する。
王子二人は、まるで悪酔いしたかのように、青い顔をしている。
下手をすれば吐きそうにも見える。
たぶん、メアリーが明確に言葉にしたことによって、色々と想像してしまったのだろう。
私も想像してしまったが、狩りで解体をしたこともあるせいか、不思議と平静を保てていた。
「娘達の『仕事』はわかったけど、そのお姫様は血液なんか集めて何に使っていたの?黒魔術の儀式にでも使うつもりだったのかしら?」
メアリーに尋ねる。
もし、そうだとしたら、メフィの同類がいる可能性もある。
それを懸念したのだが、メアリーは首を横に振る。
「いえ・・・どうやら、姫の浴槽に使われていたようです。黒魔術の儀式に関係あるかはわかりません」
メアリーの声は冷静だが、僅かに表情を歪めているところを見ると、話している内容に気分がよいわけではなさそうだ。
王子二人とメアリーがそんな状態の中、メフィが空気を読まずに、解説を挟む。
「血液だけでは悪魔への対価にはなりませんな。血液は、命の欠片ではありますが、魂の欠片ではありません。そのようなものを捧げられたところで、応える悪魔はいないでしょう」
なら、メフィの同類を相手にすることは無さそうだ。
けど、それならそれで、より一層、血液の使い道がおぞましいということになる。
「なら、お姫様は悪魔を呼び出そうとしているわけではなく、ただ自分のために他人の血液を使っていたということね。それなら『食糧』も?」
「娘達に食べさせるだけでなく、姫自らが口にしているようです。むしろ、自分が食べることが目的ではないかと思われます」
「うっ!」
メアリーの言葉を聞いて、ストーカー王子が吐きそうにしている。
チャラ王子も、えずいてこそいないが、口元を押さえている。
想像力が豊かなようだ。
「なるほどね。それで、あのシェリーの言葉か」
彼女は『環境に馴染めた者』ではなく『馴染んだフリをできた者』の方だったのだろう。
食べることでしか生き残ることができなかった。
けど、食べることに対する罪悪感を捨てることもできなかった。
そのギリギリのバランスを、心の奥底に沈めていたのだろう。
それを、メフィが悪ノリが浮上させてしまったということか。
「・・・・・」
ちょっと、悪いことをしたかも知れない。
聞いた境遇を考えると、トラウマを直撃してしまったような気がする。
たぶん彼女は、故郷に帰って、以前と同じ『食生活』を送ることはできないだろう。
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