シンデレラストーリーは悪魔の契約に基づいて

かみゅG

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第二章 白雪

037.演出

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「・・・なんだって?」

 チャラ王子が問い返す。
 小さな声ではなかったし、聞こえなかったということはないと思うけど、言葉の意味が分からなかったのだろう。

「だから、シンデレラへのプレゼントだよ。ほら、彼女は僕のために『借金』を背負っちゃったわけだから、その『返済』を手伝おうと思って」

 ストーカー王子が、補足を交えつつ、再び説明する。
 『借金』とは、私がメフィに支払うべき対価のことだ。
 それは、本来は私の持ちものでなければ、『返済』に充てることはできない。
 ただし、私に協力すると宣言しているストーカー王子の持ちものであれば、例外的に『返済』に充てることができる。
 しかし、捕まえた襲撃者を躊躇いもなく、そういうことに使おうとするとは。

「愛が重いですよ。ストーカー王子からヤンデレ王子に改名しますか?第一、メフィにハメられて罪人を犠牲にしたときは狼狽えていたのに、どうしたんですか」
「ひどいな、シンデレラ。ストーカーでも、ヤンデレでもないよ。それに、罪人の件は父上と兄上に迷惑がかかると思ったからで・・・」
「・・・あれは、お前達の仕業か」
『あっ』

 しまった。
 あの件はチャラ王子に話ていないんだった。
 最近、チャラ王子が忙しかったのは、城の牢にいた重罪人が突然消えたのが理由だ。
 その原因であることがバレて怒るかと思ったが、チャラ王子は諦めの表情を見せる。

「毒を食らわば皿まで・・・か」

 そんなことを呟く。

「メフィ、言われているわよ」
「失敬ですな。私は契約に反することは、何も行っていないというのに」

 私が場を和ませようと、メフィとそんな会話をするが、あまり効果は無かったようだ。

「俺も無関係というわけじゃないからな。積極的に協力はしてやれないが、秘密を守るくらいはしてやる。だから、今度からは、俺にも情報を回せ」
「わかったよ、兄上」

 チャラ王子にバレてしまったが、結果的にはよい方向に倒れたようだ。
 というよりも、ストーカー王子は、バラすつもりで、このお茶会を開いたのだろう。
 でなければ、襲撃者を密に確保していることを、この場で切り出すはずがない。

「とりあえず、適当に理由をつけて、兵士達には襲撃者の捜索を打ち切るように伝えておく」
「助かるよ、兄上」
「それで?これから、どうするつもりだ?」

 ストーカー王子は、襲撃者を私へのプレゼントにすると言った。
 『返済』に充てるなら、メフィに宣言するだけで、彼女の身体と魂は消滅することになるだろう。
 だけど、そうしてしまうと、そこまでだ。
 後に繋がらない。
 せっけかく下準備をして手に入れた手がかりだ。
 次に繋げたい。

「その前に、教えてもらっていい?メアリーの役割は?私のお世話をしてくれるだけじゃないわよね?」

 少なくとも、ただのメイドじゃないことは確かだ。
 襲撃者を撃退したチャラ王子の部屋で、私は彼女の気配に気づけなかった。
 異常事態が発生していて、しかも特に姿を隠していたわけじゃないのにだ。
 ただのメイドは、そんな風に気配を消したりはしない。
 その私の問いに答えるのは、ストーカー王子だった。

「メイドだよ。ついでに城の中や国の外の出来事なんかを僕に教えてくれたりもするけど」
「国政の障害になりそうな、国内外の情勢のことだ」
「あとは、たまに掃除もしてくれるかな」
「政敵の物理的な排除だな」

 それは、諜報と暗殺って言わないだろうか。
 チャラ王子がいちいち補足してくれたから、勘違いする余地もなく色々と理解してしまった。
 あとから、消されたりしないか、ちょっと心配だ。

「・・・兄上?」

 ストーカー王子も不思議そうな顔をしている。
 そこまで話すつもりはなかったのだろう。
 だが、チャラ王子は私を巻き込む気が満載のようだ。

「この女に直接動かれると、何をやらかすか分からず危険だ。王族の俺に薬を嗅がせて、部屋に忍び込むようなやつだぞ。それよりは、俺達に説明させた上で、お前の部下を動かした方が、マシだろう」
「良いのかな?」
「良くはないが、それしかないだろう。父上には聞かせられんがな」

 ひどい言われようだ。
 でも、借り物だとしても、手足が増えるのは助かる。
 私は狩りは多少できるけど、戦いが得意なわけではない。
 何度も暗殺者と対峙するなんてことはしたくない。
 私にできることなんて、屋敷でやっていた雑用以外は、師匠から教わった薬学や戦術くらいだ。
 そう言えば師匠はどうしているだろうか。
 今度、手紙を出してみてもいいかも知れない。
 さすがに森の中には届かないだろうけど、町の人間に預けておけば、薬を売りに来たときに渡すことは可能だろう。
 それは後で考えるとして、今は王子達との会話だ。

「あのね、シンデレラ。兄上と僕は、父上からそれぞれ部下を与えられているんだ。兄上は騎士や兵士。僕は秘密の役目を兼任しているメイド達」
「要するに、俺が表の顔、弟が裏の顔、というわけだ。父上は一人で両方をやっているが、将来は俺達二人に分けてやらせようとしているようだな」

 なるほど。
 女癖が悪いが社交的な兄が表の顔。学問に通じているが引きこもりがちな弟が裏の顔か。
 悪くない役割分担に思える。
 兄の女癖が災いした場合は、弟が密に後始末をする。
 弟の引きこもりが災いした場合は、人心の機微が分かる兄が対応する。
 欠点のある息子達が国を継げるように、王様が苦心したのだろう。

「お前がやろうとしていることには、弟の部下の方が向いているだろう」
「そうでしょうけど。手を貸してもらえるのですか?」
「直接の命令権は与えられないが、俺と弟が問題ないと判断すれば、間接的に指示を出せるようにしてやる」

 ちらっと、メアリーに視線を向ける。
 大丈夫だろうか。
 私がやろうとしていることは、国の法律に照らし合わせると、ギリギリどころか、アウトなことがほとんどだろう。
 国の害になるとして、後ろから刺されたりしないだろうか。
 そういうことが、本来の任務だろうし。
 私が心配していると、ストーカー王子がメアリーに言葉をかける。

「いいよね、メアリー」
「ご命令なら従います」

 確認を取ってくれたのに悪いけど、全然安心できない台詞だ。
 命令だから嫌々従うという風にも受け取れる。

「シンデレラ様が、王子の害にならない限りは、お手伝いさせていただきます」

 『王子の』か。
 『国の』と言わないところに、忠誠心を感じる。
 何でもお願いできるとは思わない方がいいな。
 せいぜい、後ろから刺されないようにしよう。

「そうそう、彼女達には例のガラスで作ったナイフを持たせているから」
「ガラスのナイフ?そんなものを作っていたんですか」
「これです」

 メアリーが見せてくれる。

「なかなか使い勝手がいいようです」

 それが分かるということは、使ったことがあるということか。
 確かに、彼女達の任務を考えれば、最適な武器のような気がする。
 最適すぎて、自分に向けられる可能性を考えたら、ちょっと怖いけど。

「わかったわ。何かあったときに、本人かどうか確認する目印にさせてもらうわ」

 今のところ、他では作れそうで作れないものだろうから、活用させてもらおう。
 さて、これで配役は決まった。
 次は今後の方針を決めよう。

 *****

 コンコンッ。

「はい」

 部屋の扉が開かれて、中からメイドが顔を出す。

「『お見舞い』に来たんだけど、どんな様子?」

 私とメフィは、『怪我をしたメイド』がいる部屋を訪れていた。

「先ほど目を覚ましました」

 先ほどのメイドが教えてくれる。
 というか、食堂でよく一緒に昼食を食べる噂話大好きメイドであるエミリーだった。
 そう言えば、入れ替わりの多いメイド達の中で、古株だと言っていたな。
 それもそのはずだ。
 彼女は諜報メイドの一人らしい。
 おそらく噂話をしているのも、情報収集と情報操作を兼ねているのだろう。
 単なる趣味の可能性もあるけど。

「話せる?」
「どうぞ」

 私がエミリーに尋ねると、部屋の中に招き入れてくれる。
 問題ないということだろう。

「災難だったわね。お見舞いに来たわよ」

 私はベッドの上のメイドに、できるだけフレンドリーに話しかける。
 そんな私に、怪訝そうな顔をするメイド。
 無理もない。
 このメイドとは、それほど親しくしていたわけではないからだ。
 けど、その理由は考えてある。

「あなたが怪我をしたって聞いて、弟が心配したのよ」
「メイドのお姉ちゃん、大丈夫?」

 言葉とともに、メフィがベッドの上のメイドに近づく。

「メフィくん、お見舞いに来てくれたの?ありがとう」

 私とはそれほど親しくないが、メフィとはそれなりに親しかったらしい。
 メイドは、無事な右腕を使って、ベッドの上で上半身を起こす。
 怪我が痛むのだろう。
 身体を動かすたびに表情を歪めるのが痛々しい。

「痛いの?」
「大丈夫よ」

 そう言って痛みを堪えながら笑顔を作って、メフィの頭を撫でるメイド。
 なかなか健気だ。
 そして、こちらに対する警戒は緩んだように見えるが、本心は分からない。
 彼女はなぜ自分が普通に治療されて、牢屋ではなく自室で寝かされているのか、状況が分かっていないだろうから。
 おそらくは、周りの人間が漏らす言葉から、状況を把握しようとしている最中に違いない。
 彼女にとっての一番よい可能性は、自分が暗殺者だと知られておらず、今まで通り城に潜伏できるという状況だろうか。
 できるなら、そうしてあげたいけど、生憎そこまでお人好しじゃない。

「全く無茶をするわね」
「いえ、襲われたのは、たまたまで・・・」

 そう言えば、兵士にそんなことを言って、門を抜けようとしたのだったか。
 それが通じて、バレていないと思っているのだろう。
 足の怪我の不自然さに気づかなければ、信じてもおかしくはない。
 まあ、私は足の怪我の原因を知っているというか、仕掛けた本人なのだけど。

「三階から飛び降りるなんて無茶をするから、足を怪我するのよ」

 メフィの頭を撫でるメイドの動きが固まった。
 ゆっくりと視線をこちらに動かす。
 血が足りないせいもあるのか、顔が青ざめているようにも見える。

「おや、あっさりバラすのですな。もうお芝居はよろしいのですか?」

 突然発せられた低い声に、メイドは腕を引いて、小さいベッドの上で後退る。
 それはそうだろう。
 子供特有の高い声で自分を心配していた相手から、低く老成した声が発せられたのだから。
 メイドの顔は、今度こそ間違いなく、血が足りていない以外の理由で、青ざめた。
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