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第二章 白雪
028.製造
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普通、犯罪者というものは労働力として利用される。
牢に罪人を入れておくというのも費用がかかるからだ。
けれど、一部はの犯罪者は、それらの犯罪者よりも罪が重いにもかかわらず、労働力として利用されない。
それは別に、身体が弱いから労役が免除されているとか、そういうことではない。
牢から出すと危険だからだ。
ならば死刑にしたらいいだろうという意見もあるだろうし、実際にそうなることもある。
しかし、牢から出すと危険にも関わらず、死刑にもされず、死ぬまで牢に入れられる人間がいる。
そのはどのような人間か?
生きている方が利用価値がある人間と、殺す方が危険な人間だ。
例えば他国の重要人物でありながら、この国で犯罪を犯した人間。
例えば宗教上の重要人物でありながら、この国で犯罪を犯した人間。
それらは他国との交渉に利用できる場合もあれば、殺すと報復が待っている場合などがある。
やむなく取る対策が、終身刑として、生かしたまま生涯牢から出さないという方法だ。
「僕は何てことを・・・」
それらの人間が一斉に姿を消した。
ストーカー王子がショックを受けるのも、無理は無いと言える。
けど、だからと言って今更どうしようもないし、その原因であると自分から名乗り出るのも賢い行動とは言えない。
「大丈夫です、王子」
私の言葉に縋るような目を向けてくるストーカー王子。
「私達にはアリバイがありますから」
事態が発生したとき、私達は工房にいた。
工房にいたことはメイドのメアリーが、牢に近づいていないことは牢を見張っていた兵士が、それぞれ証言してくれるだろう。
そのことを説明すると、ストーカー王子はがっくりと肩を落とす。
「そういう問題じゃない」
そんなことは百も承知だ。
だからと言って、どうすることができるというのだ。
「そういう問題ですよ、王子。あなたはメフィと契約するということが、どういうことか知らずに、私への協力を申し出たのですか?」
「いや・・・」
そう、ストーカー王子は知っているはずだ。
なにせ、屋敷で実際に見ているのだから。
たとえ、一時の感情だったとしても、ストーカー王子の方から協力を申し込んだのだ。
それを撤回するというなら、それはそれで構わない。
私は城を出るだけだ。
考えていることが分かったのか、ストーカー王子は弱々しく首を横に振る。
「わかったよ。父への説明は僕がする」
「だから、アリバイはあると・・・いえ、わかりました。それは任せます」
死亡したと公表するのか、隠すのかは知らないけど、どちらにしろ国として都合がいいように対策するのだろうから、好きにしたらいい。
その原因が自分だとストーカー王子だと名乗り出たとしても、状況が変わるとは思えないけど。
多分、隠されることになるだろうし。
「じゃあ、メフィ、お願いできる?」
「わかりました。王子もよろしいですかな?」
「・・・ああ」
メフィを見るストーカー王子の視線が、今までより警戒を含んだような気がした。
私からすれば、何を今さらといったところだけど、よいことだろう。
メフィとの契約はどれだけ慎重になっても、慎重し過ぎるということはないのだから。
何はともあれ、私がここへ来た目的の1つであるガラスの靴、その素材の製造方法の説明が始まった。
*****
「綺麗だけど、食べることができる果物が生る樹が植わってないわね」
私はバラが咲き誇る庭園を歩きながら、そんなことを呟く。
かつて暮らしていた屋敷には姫リンゴが植わっていた。
観賞用であり、食べれなくはないが、あまり美味しくは無い果実だったけど、庭を掃除するときによく齧っていた。
数が減ったことを庭師に怒られないように、間引くように採るのがコツだ。
なぜ、私がこんなことを考えながら、この場所を歩いているかというと、退屈に耐えられなかったからだ。
何に?
メフィとストーカー王子の話にだ。
専門用語についていけない。
メフィの話によると、ストーカー王子に理解できるように、分かりやすい単語を使っているらしいのだが、それでも私には分からなかった。
というか、ストーカー王子が理解できていることも不思議だ。
王子と言えば、普通は帝王学とか、領地の運営とか、そういう方面を教育されるのではないのだろうか。
なんで、違う分野で学者並みの知識を持っているんだ。
王様の子供はチャラ王子とストーカー王子だけのはずだから、王位継承権は一位か二位のはずだけど、周囲の人間も、もうストーカー王子に王位を継がせる気はないのかも知れない。
だからと言って、女癖が悪いチャラ王子が王様に向いているとも思えない。
将来、子供が多くなりすぎて継承権争いとか起きそうだ。
・・・この国、大丈夫だろうか。
まあ、私が王妃になることもないだろうから、関係ないか。
「どこに行こうかな」
メアリーに案内してもらった場所は、そう多く無い。
ここは、その1つだ。
国内の貴族や他国の使者が来たときに王族の権威を示すために、見た目はいいけど無駄に維持費がかかりそうな庭園。
その目的のために、通路や城の上の階にある部屋からでも眺めることができるようになっている。
だけど、それは庭園側からもそちらを見ることができることを意味する。
私はなんとなく、城の方を見る。
すると、城の部屋の1つ、その窓際に立つ人物がいることに気づいた。
でも、そこは、その人物の部屋ではないはずだ。
私は、その部屋に行ってみることにした。
*****
「どうされました?」
部屋の前にいたのは、見たことがある顔の騎士だった。
私の髪と服装に一瞬驚いたようだが、特に何も言っては来なかった。
騎士ともなれば、雑談で任務を疎かにすることもないのだろう。
「義姉の様子を見ようと思ったのですが、部屋に入ることはできますか?」
もちろん嘘だ。
窓際にいた人物がここにいるのが気になって来てみたのだ。
「そうですか。少しお待ちください」
騎士がノックをしてから部屋に入って行く。
中にいる人物は分かっていた。
先ほどの騎士は、屋敷に来たときにチャラ王子の護衛をしていた人物だ。
「どうぞ、お入りください」
許可が下りたらしい。
私は騎士と入れ替わりで部屋の中に入った。
そこにいたのは想像通りの人物、チャラ王子だ。
「お前、その髪はどうした?」
「鬱陶しかったので切りました」
「・・・そうか。まあ、好きにしたらいい。弟が嘆きそうだが」
「そっちには、もう見せてきました。特に気にしていませんでしたよ」
「弟なら、そうだろうな」
そう言うと、チャラ王子はベッドに視線を戻す。
先ほどの騎士と違い、こちらは単に私に興味がないだけだろう。
興味を持たれても困るから、ちょうどいいけど。
「お前が義姉を心配するとは思っていなかったな」
「私も王子がわざわざ眠ったままの義姉を見に来るとは思っていませんでした。いくら女好きといっても、寝ている女性に手を出すのは感心しませんよ」
「そんなことをするわけがないだろう」
「じゃあ、なぜ、こんなところに?他の愛人のところへ行かなくていいんですか?」
ここはビッチ姉さんに割り当てられた部屋だ。
王族の部屋とは離れているので、ここへの立ち入りは私でも自由だ。
来るつもりは無かったのだけど、チャラ王子がいるのが気になって来てみた。
そういう意味で、先ほどの王子の台詞は的を得ている。
私は別に義姉を心配していない。
王子が襲撃されたときの巻き添えを食って、気の毒だと思うだけだ。
「お前は俺を何だと思っているんだ。昼間に女性のところへ行くわけがないだろう」
「それは失礼しました。行くなら夜でしょうしね」
「お前な・・・まあ、普段の行動を考えたら否定はできんか」
その通りだ。
なにせ、城のメイドにも近づいたら妊娠すると噂されているくらいだ。
でも、だからこそ、ここに何をしにきているのかが気になる。
「命の恩人を見舞いに来るのが、そんなに不思議なことか?俺は自分の命を護ってくれた人間を放置するほど、義理を欠いた人間ではないぞ」
「でも、普通は褒美を与えるくらいでしょう。ああ、若い女性にとっては王族に抱かれるのは褒美だと考えているということですか。まあ、喜ぶ女性はいるでしょうね。玉の輿狙いの貴族のご令嬢とか」
「俺に対してキツイなお前。だが、見舞いに来たのは本当のことだぞ。それ以上の理由はない」
ふぅん。
チャラ王子が見舞いにねぇ。
私は知らなかったが、この様子だと毎日来ているようだ。
「医者には見せたんですよね」
「ああ、メフィという子供の診断結果と同じだったがな」
「ナイフに塗られた毒はどうでした?」
「調べさせているが、難航しているな。わかったのは、今までに聞いたこともない毒が塗られていたということくらいだ」
まあ、そちらはあまり期待していなかった。
眠ったままになるという症状自体が珍しいのだ。
その毒を見つけられたからといって、解毒薬まで見つけられるとは限らない。
「やっぱり解毒薬を手に入れるしかないでしょうね」
「襲撃者を待つという消極的な方法なのがもどかしいがな。解毒薬を持っているとも限らないしな」
首謀者は予測できているが、まさかそちらに解毒薬を要求するわけにはいかない。
来るかもわからない襲撃者を待ち、その襲撃者が解毒薬を持っている可能性にかけるしかないのだ。
できるのは、襲撃される可能性を高めるくらいか。
チャラ王子が危険に晒されることになるが、それは本人が了承済みだから気にしない。
「ときに王子。愛人の方々との密会は、最近どうなっていますか?」
襲撃される可能性が高いのは、人目が少ないとき。
つまり、チャラ王子の場合は、愛人との密会だ。
チャラ王子の女癖の悪さは、メイド達も知っているくらいだ。
襲撃者を寄こしてきた首謀者が知っていてもおかしくない。
そう考えたのだが、チャラ王子が予想外の返事を返してくる。
「ん?俺は同じ女を何度も抱かないぞ。それに最近は女を抱く気にならなかったからな」
「えぇ~?」
女を抱くことを悪びれることなく言い切ることは想定内だが、最近抱いていないというのは想定外だ。
いや、それ以前に何度も女を抱かない?
それだと、護衛が少なくなったタイミングを狙う襲撃者が襲撃しづらいだろう。
自衛の手段としてはよい手だと思うが、今の目的を考えると都合が悪い。
「ちっ、使えない」
「・・・言っておくが、聞こえているからな」
「ちょっと、しばらくの間、愛人のところに通い詰めてもらえませんか?」
「だから、何度も抱かないし、最近は抱く気が起きないと言っただろう。弟が惚れたというからどんな女かと思っていたが、口が悪いな、お前は。普通なら不敬罪だぞ」
「そうしますか?」
「お前がいなくなると、あのメフィとかいう子供もいなくなるのだろう?それは困るから大目に見てやるが、人目のつくところでは控えろよ。父に暴言を吐いたら、庇いきれないからな」
「そんなことをするわけないじゃないですか」
「どの口が言うんだ、全く」
しかし、チャラ王子に隙がないと襲撃者が襲撃を諦める可能性がある。
なにか策を考えなきゃならないかも知れない。
牢に罪人を入れておくというのも費用がかかるからだ。
けれど、一部はの犯罪者は、それらの犯罪者よりも罪が重いにもかかわらず、労働力として利用されない。
それは別に、身体が弱いから労役が免除されているとか、そういうことではない。
牢から出すと危険だからだ。
ならば死刑にしたらいいだろうという意見もあるだろうし、実際にそうなることもある。
しかし、牢から出すと危険にも関わらず、死刑にもされず、死ぬまで牢に入れられる人間がいる。
そのはどのような人間か?
生きている方が利用価値がある人間と、殺す方が危険な人間だ。
例えば他国の重要人物でありながら、この国で犯罪を犯した人間。
例えば宗教上の重要人物でありながら、この国で犯罪を犯した人間。
それらは他国との交渉に利用できる場合もあれば、殺すと報復が待っている場合などがある。
やむなく取る対策が、終身刑として、生かしたまま生涯牢から出さないという方法だ。
「僕は何てことを・・・」
それらの人間が一斉に姿を消した。
ストーカー王子がショックを受けるのも、無理は無いと言える。
けど、だからと言って今更どうしようもないし、その原因であると自分から名乗り出るのも賢い行動とは言えない。
「大丈夫です、王子」
私の言葉に縋るような目を向けてくるストーカー王子。
「私達にはアリバイがありますから」
事態が発生したとき、私達は工房にいた。
工房にいたことはメイドのメアリーが、牢に近づいていないことは牢を見張っていた兵士が、それぞれ証言してくれるだろう。
そのことを説明すると、ストーカー王子はがっくりと肩を落とす。
「そういう問題じゃない」
そんなことは百も承知だ。
だからと言って、どうすることができるというのだ。
「そういう問題ですよ、王子。あなたはメフィと契約するということが、どういうことか知らずに、私への協力を申し出たのですか?」
「いや・・・」
そう、ストーカー王子は知っているはずだ。
なにせ、屋敷で実際に見ているのだから。
たとえ、一時の感情だったとしても、ストーカー王子の方から協力を申し込んだのだ。
それを撤回するというなら、それはそれで構わない。
私は城を出るだけだ。
考えていることが分かったのか、ストーカー王子は弱々しく首を横に振る。
「わかったよ。父への説明は僕がする」
「だから、アリバイはあると・・・いえ、わかりました。それは任せます」
死亡したと公表するのか、隠すのかは知らないけど、どちらにしろ国として都合がいいように対策するのだろうから、好きにしたらいい。
その原因が自分だとストーカー王子だと名乗り出たとしても、状況が変わるとは思えないけど。
多分、隠されることになるだろうし。
「じゃあ、メフィ、お願いできる?」
「わかりました。王子もよろしいですかな?」
「・・・ああ」
メフィを見るストーカー王子の視線が、今までより警戒を含んだような気がした。
私からすれば、何を今さらといったところだけど、よいことだろう。
メフィとの契約はどれだけ慎重になっても、慎重し過ぎるということはないのだから。
何はともあれ、私がここへ来た目的の1つであるガラスの靴、その素材の製造方法の説明が始まった。
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私はバラが咲き誇る庭園を歩きながら、そんなことを呟く。
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観賞用であり、食べれなくはないが、あまり美味しくは無い果実だったけど、庭を掃除するときによく齧っていた。
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なぜ、私がこんなことを考えながら、この場所を歩いているかというと、退屈に耐えられなかったからだ。
何に?
メフィとストーカー王子の話にだ。
専門用語についていけない。
メフィの話によると、ストーカー王子に理解できるように、分かりやすい単語を使っているらしいのだが、それでも私には分からなかった。
というか、ストーカー王子が理解できていることも不思議だ。
王子と言えば、普通は帝王学とか、領地の運営とか、そういう方面を教育されるのではないのだろうか。
なんで、違う分野で学者並みの知識を持っているんだ。
王様の子供はチャラ王子とストーカー王子だけのはずだから、王位継承権は一位か二位のはずだけど、周囲の人間も、もうストーカー王子に王位を継がせる気はないのかも知れない。
だからと言って、女癖が悪いチャラ王子が王様に向いているとも思えない。
将来、子供が多くなりすぎて継承権争いとか起きそうだ。
・・・この国、大丈夫だろうか。
まあ、私が王妃になることもないだろうから、関係ないか。
「どこに行こうかな」
メアリーに案内してもらった場所は、そう多く無い。
ここは、その1つだ。
国内の貴族や他国の使者が来たときに王族の権威を示すために、見た目はいいけど無駄に維持費がかかりそうな庭園。
その目的のために、通路や城の上の階にある部屋からでも眺めることができるようになっている。
だけど、それは庭園側からもそちらを見ることができることを意味する。
私はなんとなく、城の方を見る。
すると、城の部屋の1つ、その窓際に立つ人物がいることに気づいた。
でも、そこは、その人物の部屋ではないはずだ。
私は、その部屋に行ってみることにした。
*****
「どうされました?」
部屋の前にいたのは、見たことがある顔の騎士だった。
私の髪と服装に一瞬驚いたようだが、特に何も言っては来なかった。
騎士ともなれば、雑談で任務を疎かにすることもないのだろう。
「義姉の様子を見ようと思ったのですが、部屋に入ることはできますか?」
もちろん嘘だ。
窓際にいた人物がここにいるのが気になって来てみたのだ。
「そうですか。少しお待ちください」
騎士がノックをしてから部屋に入って行く。
中にいる人物は分かっていた。
先ほどの騎士は、屋敷に来たときにチャラ王子の護衛をしていた人物だ。
「どうぞ、お入りください」
許可が下りたらしい。
私は騎士と入れ替わりで部屋の中に入った。
そこにいたのは想像通りの人物、チャラ王子だ。
「お前、その髪はどうした?」
「鬱陶しかったので切りました」
「・・・そうか。まあ、好きにしたらいい。弟が嘆きそうだが」
「そっちには、もう見せてきました。特に気にしていませんでしたよ」
「弟なら、そうだろうな」
そう言うと、チャラ王子はベッドに視線を戻す。
先ほどの騎士と違い、こちらは単に私に興味がないだけだろう。
興味を持たれても困るから、ちょうどいいけど。
「お前が義姉を心配するとは思っていなかったな」
「私も王子がわざわざ眠ったままの義姉を見に来るとは思っていませんでした。いくら女好きといっても、寝ている女性に手を出すのは感心しませんよ」
「そんなことをするわけがないだろう」
「じゃあ、なぜ、こんなところに?他の愛人のところへ行かなくていいんですか?」
ここはビッチ姉さんに割り当てられた部屋だ。
王族の部屋とは離れているので、ここへの立ち入りは私でも自由だ。
来るつもりは無かったのだけど、チャラ王子がいるのが気になって来てみた。
そういう意味で、先ほどの王子の台詞は的を得ている。
私は別に義姉を心配していない。
王子が襲撃されたときの巻き添えを食って、気の毒だと思うだけだ。
「お前は俺を何だと思っているんだ。昼間に女性のところへ行くわけがないだろう」
「それは失礼しました。行くなら夜でしょうしね」
「お前な・・・まあ、普段の行動を考えたら否定はできんか」
その通りだ。
なにせ、城のメイドにも近づいたら妊娠すると噂されているくらいだ。
でも、だからこそ、ここに何をしにきているのかが気になる。
「命の恩人を見舞いに来るのが、そんなに不思議なことか?俺は自分の命を護ってくれた人間を放置するほど、義理を欠いた人間ではないぞ」
「でも、普通は褒美を与えるくらいでしょう。ああ、若い女性にとっては王族に抱かれるのは褒美だと考えているということですか。まあ、喜ぶ女性はいるでしょうね。玉の輿狙いの貴族のご令嬢とか」
「俺に対してキツイなお前。だが、見舞いに来たのは本当のことだぞ。それ以上の理由はない」
ふぅん。
チャラ王子が見舞いにねぇ。
私は知らなかったが、この様子だと毎日来ているようだ。
「医者には見せたんですよね」
「ああ、メフィという子供の診断結果と同じだったがな」
「ナイフに塗られた毒はどうでした?」
「調べさせているが、難航しているな。わかったのは、今までに聞いたこともない毒が塗られていたということくらいだ」
まあ、そちらはあまり期待していなかった。
眠ったままになるという症状自体が珍しいのだ。
その毒を見つけられたからといって、解毒薬まで見つけられるとは限らない。
「やっぱり解毒薬を手に入れるしかないでしょうね」
「襲撃者を待つという消極的な方法なのがもどかしいがな。解毒薬を持っているとも限らないしな」
首謀者は予測できているが、まさかそちらに解毒薬を要求するわけにはいかない。
来るかもわからない襲撃者を待ち、その襲撃者が解毒薬を持っている可能性にかけるしかないのだ。
できるのは、襲撃される可能性を高めるくらいか。
チャラ王子が危険に晒されることになるが、それは本人が了承済みだから気にしない。
「ときに王子。愛人の方々との密会は、最近どうなっていますか?」
襲撃される可能性が高いのは、人目が少ないとき。
つまり、チャラ王子の場合は、愛人との密会だ。
チャラ王子の女癖の悪さは、メイド達も知っているくらいだ。
襲撃者を寄こしてきた首謀者が知っていてもおかしくない。
そう考えたのだが、チャラ王子が予想外の返事を返してくる。
「ん?俺は同じ女を何度も抱かないぞ。それに最近は女を抱く気にならなかったからな」
「えぇ~?」
女を抱くことを悪びれることなく言い切ることは想定内だが、最近抱いていないというのは想定外だ。
いや、それ以前に何度も女を抱かない?
それだと、護衛が少なくなったタイミングを狙う襲撃者が襲撃しづらいだろう。
自衛の手段としてはよい手だと思うが、今の目的を考えると都合が悪い。
「ちっ、使えない」
「・・・言っておくが、聞こえているからな」
「ちょっと、しばらくの間、愛人のところに通い詰めてもらえませんか?」
「だから、何度も抱かないし、最近は抱く気が起きないと言っただろう。弟が惚れたというからどんな女かと思っていたが、口が悪いな、お前は。普通なら不敬罪だぞ」
「そうしますか?」
「お前がいなくなると、あのメフィとかいう子供もいなくなるのだろう?それは困るから大目に見てやるが、人目のつくところでは控えろよ。父に暴言を吐いたら、庇いきれないからな」
「そんなことをするわけないじゃないですか」
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