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第三章 ホムンクルスの中のマンドラゴラ
073.はーい、ご飯ですよぅ
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「子猫に試すのか?」
「はい」
メイが頷くが、俺は気が進まない。
まず、生まれたばかりの命を実験台にすることが、気が引ける。
安全だったとしても、子猫の命を俺が上書きしてしまうようで、申し訳ない気持ちになる。
「うーん・・・」
「どうしたんですか?」
「子猫だって自我を持っているはずだろ?それを乗っ取るみたいでな」
俺が気が進まないことを伝えると、メイはきょとんとする。
「?・・・ああ、そういうことですか。違いますよ、ケイ。自我を乗っ取るんじゃなくて、記憶を移植するだけです」
「どう違うんだ?」
「そうですねぇ。たとえば、本を読んだら知識が増えますよね」
「まあ、そうだな」
「でも、自我が上書きされるわけじゃないですよね」
「呼んだ内容によっては、影響くらいは受けるかも知れないけどな」
「記憶を移植するというのは、本を読むという工程を省略して、知識を増やす方法なんです」
「そうなのか」
「そうなんです」
なら、いいのか。
いや、あまりよくないような気はするが、自我を乗っ取るよりはマシか。
逆に、苦労せずに知識が増えるわけだから、お得なくらいかも知れない。
俺の知識が何の役に立つかはわからないが、本を読んで得る知識だって役に立たないものはあるしな。
そう考えれば、子猫に教育を施していると言えなくはないか。
「完全に空っぽのホムンクルスに記憶を移植すれば自我を乗っ取ることも可能なんですけど、今回はそこまではできません」
「そういうことか」
「そういうことです」
メイの話を聞いて、記憶を移植することについての抵抗感は無くなった。
後は安全面だ。
それを確認しないことには、子猫を犠牲にすることになりかねない。
「それで、どんな方法で記憶を移植するんだ?」
「記憶の移植元の身体を材料にした魔術薬を、記憶の移植先の個体に与えます」
「俺の身体を食べさせるってことか」
「魔術薬に加工するから、直接じゃないですけどね」
なるほど。
その方法なら、多少失敗しても、子猫が腹を壊すくらいだ。
産まれたばかりのときは腹を壊すだけでも命に関わりそうだが、固形物を食べられるくらいまで成長してからなら大丈夫だろうか。
ダメもとで試してみるか。
「どのくらい身体を削ればいいんだ?」
「今回はお試しですからね。惚れ薬を作ったときの余りがありますから、それを使いましょう」
「そんな少しでいいのか?」
「ケイの全てを移植しようと思ったら足りませんけど、一部を移植するだけなら充分だと思います」
こうして俺の記憶を子猫へ移植する試みが始まった。
*****
黒猫の出産は無事終わった。
三匹生まれたが毛並みはみんな違う。
一匹は母猫と同じく真っ黒だが、他の二匹は父猫に似たのだろうか。
猫を飼ったことは無いが、人間よりは成長が早いのだろう。
あっと言う間にミルクを卒業して離乳食になり、やがて固形物を食べるようになった。
子猫はポチが熱心に世話をしている。
というか、一緒になって遊んでいる。
最近、ポチが子猫たちの中の一匹にしか見えない。
「そろそろ試してみましょうか」
「なにがだ?」
メイがそう言ったとき、最初は気付かなかった。
だが、メイが手にしているものを見て、気付いた。
あれから数ヶ月経っているが、メイは忘れていなかったらしい。
「ああ、アレか。本当に大丈夫なのか?」
「毒になる材料は入れていませんからね。問題があるとすれば、味見ができないので、不味い可能性があることくらいですね」
メイが餌入れを持って、子猫達のところへ近づいていく。
ぴくっ
匂いに気付いたのか、子猫+ポチが反応する。
「はーい、ご飯ですよぅ」
メイが餌入れを置くと、いっせいに群がる。
というか、
「こら、ポチ!おまえは食べたらダメだろ!」
「ニャ?」
ポチも一緒になって食べていた。
慌てて、それを止める。
ポチに俺の記憶が宿ったら、ややこしいことになる。
さいわい口にする前だったようで、ポチに変化は見られない。
ポチを餌から離した後、子猫たちが食べ終わるのを待つ。
そして、しばらく様子を見る。
「失敗ですかねぇ」
「まあ、それならそれで・・・」
満腹になった子猫たちがゴロゴロし始める。
失敗だろうかと考え始めた矢先、一匹の子猫がこちらに振り返った。
「はい」
メイが頷くが、俺は気が進まない。
まず、生まれたばかりの命を実験台にすることが、気が引ける。
安全だったとしても、子猫の命を俺が上書きしてしまうようで、申し訳ない気持ちになる。
「うーん・・・」
「どうしたんですか?」
「子猫だって自我を持っているはずだろ?それを乗っ取るみたいでな」
俺が気が進まないことを伝えると、メイはきょとんとする。
「?・・・ああ、そういうことですか。違いますよ、ケイ。自我を乗っ取るんじゃなくて、記憶を移植するだけです」
「どう違うんだ?」
「そうですねぇ。たとえば、本を読んだら知識が増えますよね」
「まあ、そうだな」
「でも、自我が上書きされるわけじゃないですよね」
「呼んだ内容によっては、影響くらいは受けるかも知れないけどな」
「記憶を移植するというのは、本を読むという工程を省略して、知識を増やす方法なんです」
「そうなのか」
「そうなんです」
なら、いいのか。
いや、あまりよくないような気はするが、自我を乗っ取るよりはマシか。
逆に、苦労せずに知識が増えるわけだから、お得なくらいかも知れない。
俺の知識が何の役に立つかはわからないが、本を読んで得る知識だって役に立たないものはあるしな。
そう考えれば、子猫に教育を施していると言えなくはないか。
「完全に空っぽのホムンクルスに記憶を移植すれば自我を乗っ取ることも可能なんですけど、今回はそこまではできません」
「そういうことか」
「そういうことです」
メイの話を聞いて、記憶を移植することについての抵抗感は無くなった。
後は安全面だ。
それを確認しないことには、子猫を犠牲にすることになりかねない。
「それで、どんな方法で記憶を移植するんだ?」
「記憶の移植元の身体を材料にした魔術薬を、記憶の移植先の個体に与えます」
「俺の身体を食べさせるってことか」
「魔術薬に加工するから、直接じゃないですけどね」
なるほど。
その方法なら、多少失敗しても、子猫が腹を壊すくらいだ。
産まれたばかりのときは腹を壊すだけでも命に関わりそうだが、固形物を食べられるくらいまで成長してからなら大丈夫だろうか。
ダメもとで試してみるか。
「どのくらい身体を削ればいいんだ?」
「今回はお試しですからね。惚れ薬を作ったときの余りがありますから、それを使いましょう」
「そんな少しでいいのか?」
「ケイの全てを移植しようと思ったら足りませんけど、一部を移植するだけなら充分だと思います」
こうして俺の記憶を子猫へ移植する試みが始まった。
*****
黒猫の出産は無事終わった。
三匹生まれたが毛並みはみんな違う。
一匹は母猫と同じく真っ黒だが、他の二匹は父猫に似たのだろうか。
猫を飼ったことは無いが、人間よりは成長が早いのだろう。
あっと言う間にミルクを卒業して離乳食になり、やがて固形物を食べるようになった。
子猫はポチが熱心に世話をしている。
というか、一緒になって遊んでいる。
最近、ポチが子猫たちの中の一匹にしか見えない。
「そろそろ試してみましょうか」
「なにがだ?」
メイがそう言ったとき、最初は気付かなかった。
だが、メイが手にしているものを見て、気付いた。
あれから数ヶ月経っているが、メイは忘れていなかったらしい。
「ああ、アレか。本当に大丈夫なのか?」
「毒になる材料は入れていませんからね。問題があるとすれば、味見ができないので、不味い可能性があることくらいですね」
メイが餌入れを持って、子猫達のところへ近づいていく。
ぴくっ
匂いに気付いたのか、子猫+ポチが反応する。
「はーい、ご飯ですよぅ」
メイが餌入れを置くと、いっせいに群がる。
というか、
「こら、ポチ!おまえは食べたらダメだろ!」
「ニャ?」
ポチも一緒になって食べていた。
慌てて、それを止める。
ポチに俺の記憶が宿ったら、ややこしいことになる。
さいわい口にする前だったようで、ポチに変化は見られない。
ポチを餌から離した後、子猫たちが食べ終わるのを待つ。
そして、しばらく様子を見る。
「失敗ですかねぇ」
「まあ、それならそれで・・・」
満腹になった子猫たちがゴロゴロし始める。
失敗だろうかと考え始めた矢先、一匹の子猫がこちらに振り返った。
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