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第三章 ホムンクルスの中のマンドラゴラ

072.子供を仕込みに他のメスのところに行ったのニャッ

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「しかし、動物の発情期っていうのは、あっさりしたものだな」

 発情期の間はニャアニャアうるさくて夜も眠れなったものだが、発情期が終わるとぱったりと途絶えた。
 二匹の猫は、一匹が去って、一匹が残った。
 残ったのは黒猫の方だった。

「子供が生まれるまで、ここにいるつもりのようですね」
「ここは安全なのニャッ。きっと、それがわかっているニャッ」

 俺の呟きに、メイとポチが答えてくる。

「残ったのはメスだけか。オスの方は残らなかったな」

 動物の発情期とはそういうものなのかも知れないが、やるだけやって別れるというのは、ちょっと淡泊すぎる気がする。
 この状況を人間に当てはめると、体だけの関係、ひどい言い方をするとヤリ逃げのようなものだ。
 オスの方はそれでいいだろうが、メスの方は子供を産んで育てなければならない。
 なんとなく気の毒に思う。
 メイとポチもそう思っているのか、メイは餌をやり、ポチは遊んでやっているようだ。
 無理に追い出すつもりは無いようだ。

「猫は夫婦で子育てするときもあるみたいですけど、あのオス猫は違いましたね」
「そうなのか。黒猫は相手が悪かったな」

 メイの言葉にそんな感想を抱く。
 どうやら、発情期がそういうものというわけじゃなかったようだ。
 あのオス猫が人でなし、いや、猫でなしだっただけらしい。

「たぶん、子供を仕込みに他のメスのところに行ったのニャッ。あたしの父ちゃんも、そうしてたのニャッ」
「それ、おまえの母ちゃんに言ったらダメだぞ」
「わかってるニャッ。父ちゃんから口止め料をもらっているのニャッ」
「そ、そうか」

 ポチの父親は、ダメ親父のようだ。
 狩人の一族は、誇り高いんじゃなかったのだろうか。
 それとも、弱肉強食でハーレムとか作っているのだろうか。
 いや、違うな。
 ポチは口止め料をもらったと言っている。
 ハーレムなら、そんなことをする必要はない。
 単なる浮気だろう。

「黒猫だけならいいけど、子供が産まれたら、世話が大変そうだな」

 確か猫は一度に数匹の子供を産んだはずだ。
 躾もされていない子猫の世話をするとなると、それなりに手間がかかりそうだ。
 母親である黒猫が、きちんと子供の世話をしてくれたらいいのだが。

「子供の世話は得意なのニャッ。父ちゃんが連れてきた弟や妹の世話をしていたのニャッ」

 それは、ポチの父親が、浮気相手に責任を取れと言われて押し付けられた子供達じゃないのだろうか。
 人の家庭の事情を探るつもりはないが、ちょっと気になる。

「でも、ホムンクルスを作る目的は達成できませんでしたね。どうしましょうか」

 メイはまだホムンクルスを作ることにこだわっているようだ。
 しかし、俺はそれほどこだわっていない。

「そんなに不便じゃないから、急がなくていいぞ」

 とりあえず、そう言っておく。
 正直、作らないなら作らないでいいのだが、メイがやる気になっているようなので、やめろと言ってもやめないだろう。
 だから、急がなくていいことだけ伝えたのだ。

「そうですか?なら、他の方法を考えてみます」
「あたしも手伝うのニャッ」

 黒猫という新たな家族を加え、こんな感じで毎日を過ごしていた。

 *****

 数ヶ月後。
 黒猫のお腹がかなり大きくなり、子供が産まれる時期が近くなった頃、ふとメイが言った。

「ホムンクルスではないですけど、ケイの記憶を移植してみましょうか」
「?」

 一瞬、何を言われているのか、判らなかった。
 だけど、ホムンクルスという単語で思い出す。
 そういえば、俺の身体を作るために、ホムンクルスを作ると言っていた。
 ここ最近は、話題に上がることが無かったので、忘れかけていた。

 しかし、記憶の移植とは初耳だ。
 だが、考えてみれば、それは当然のことだと気付く。
 身体だけ作っても仕方がない。
 そこに俺の意識を宿す必要があるのだ。

「そんなことができるのか?」
「できますよ」

 実現性の有無を尋ねると、メイはあっさり肯定してくる。

「記憶を移植する方法は魔術書に載ってました。身体の一部を使うから、人間だとやり直しがきかないんですけど、ケイの身体ならお試しができます」
「ほう」

 俺の身体はマンドラゴラという植物だ。
 多少削っても、しばらく土に潜っていれば再生する。
 だから、試すのはいいのだが、問題は身体の方だ。

「だが、身体はどうするんだ?けっきょく、ホムンクルスは作れていないだろ?」

 方法はあるし、移植元もある。
 だけど、移植先がないのだ。
 それを疑問に思い尋ねると、メイは黒猫に視線を向ける。

「これから産まれる子猫に試してみましょう」

 そして、そんな答えを返してきた。
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