森の中のマンドラゴラ~異世界は平和だったので、おっぱいとたわむれることにする~

かみゅG

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第一章(裏) 森の中のマンドラゴラ

062.混ざっているな

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 マンドラゴラとは、魔術の素材として使う植物である。
 人間の体液を浴びて育ったものは、体液に含まれる魔力を取り込んで成長していく。
 引き抜くときに呪音と呼ばれる断末魔のような音を発し、近くにいる人間を魔力中毒にするという厄介な性質はあるが、優れた魔術の素材であることは間違いない。
 だが、それだけだ。
 それだけというのがマンドラゴラに対する魔術師の認識だった。

「・・・・・?」

 頭の中で声が響く。
 いくつもの知らない声。
 男もいれば女もいる。
 強いものもいれば弱いものもいる。
 それらが同時に好き勝手に声を上げている。

「(うるさい)」

 そう考えただけで、弱い声が吹き飛んだ。
 そして、その声は二度と聞こえてこない。

「(なんだ?この状況は?)」

 身体の自由が利かないことは、すぐに気付いた。
 魔力もうまく操ることができない。
 状況を整理するために、直前にあった出来事を思い出そうとする。
 しかし、記憶に欠落がある。
 それでも、記憶の欠片を繋ぎ合わせることによって、なんとか状況を把握することができた。

「(僕は死んだ・・・はずだ)」

 だが、生きている。
 いや、生きていると言えるのか?
 身体は動かないし、魔力も使えないし、頭の中には複数の人間の声が響いている。
 まともな精神を保つのが難しい状況ではあるが、魔女狩りを生き抜いた自分にとっては、狂うほどの状況ではない。
 自分という存在を認識できるのだから、狂う必要などない。
 時間はたっぷりあるようだし、状況を分析することにする。
 その結果、自分の現状に辿り着いた。

「(これは新しい発見だな)」

 どうやら、自分はマンドラゴラになっているらしい。
 正確には、マンドラゴラに自分の記憶を刻むことに成功したらしい。
 意図してのことではない。
 死の間際にマンドラゴラに大量の魔力を注ぎ込んだこと。
 そして、その場で死んたことにより、そのマンドラゴラに大量の血液を浴びせたこと。
 偶然が重なったことにより、マンドラゴラに記憶が刻まれたのだろう。
 しかし、完全ではない。

「(厄介なことになった)」

 不老の身体や膨大な魔力を失ったことではない。
 自分がマンドラゴラになったことでもない。
 そんなことは些細なことだ。
 自分という存在が残っているのだから、どうとでもなる。
 厄介なのは別のことだ。

「(混ざっているな)」

 自分という存在。
 それは間違いなく、ここにいる。
 しかし、自分ではない存在も、ここにいる。

 マンドラゴラは人間の体液を浴びて育つ。
 それは一人だけの体液とは限らない。
 複数の人間の体液を浴びていても不思議ではない。
 複数の人間の体液を浴びた場合、おそらくは複数の人間の記憶が刻まれる。
 その結果、存在が混ざって、自我が崩れる。

「(これがマンドラゴラに記憶が宿ると知られていなかった理由か)」

 自我が崩れるから、まともな精神を保つことができない。
 まともな精神ではないから、断末魔の声を上げることしかできない。
 人間の記憶が宿っていたとしても、気が付くはずがない。

「(僕は運がよかったな。いや、結論を出すのは早計か)」

 魔術師としての確固たる意志を持っていたおかげで、自分は自我を保つことができた。
 しかし、感じる。
 この身体には他にもいる。
 自分と同じくらい強い意志を持った存在がいる。
 今はまだ眠っているようだが、自我を保ったまま存在している。
 その存在が目を覚ました場合、自分とその存在とどちらが残るだろうか。
 情報が不足しすぎていて、判断ができない。
 自分の意志の強さには自信があるが、不老の身体も膨大な魔力も失っているのだから、慢心はできない。

「(しばらくは様子を見るしかないか)」

 眠っているから存在が弱いということはないらしい。
 おそらくは生前の意志の強さが存在の強さに繋がっているのだろう。
 ならば、息を潜めていたとしても、存在が消えることはないはずだ。

「(なんとか存在を分離したいところだが)」

 自分だけで、その手段を探すのは難しそうだ。
 だから、自分がマンドラゴラであるということを利用する。
 マンドラゴラは魔術の素材になるのだから、魔術師が収穫する可能性が高い。
 その魔術師を利用するのだ。
 魔術師は探求心の塊だ。
 知的好奇心をくすぐれば、協力させるのは難しくないはずだ。

「・・・・・」

 機会を待つ。
 機会が訪れるまでは、ただの傍観者に徹する。
 思考を抑え、ただし出来事の全てを観察する。
 マンドラゴラに相応しく、植物になりきるのだ。
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