62 / 75
第一章(裏) 森の中のマンドラゴラ
062.混ざっているな
しおりを挟む
マンドラゴラとは、魔術の素材として使う植物である。
人間の体液を浴びて育ったものは、体液に含まれる魔力を取り込んで成長していく。
引き抜くときに呪音と呼ばれる断末魔のような音を発し、近くにいる人間を魔力中毒にするという厄介な性質はあるが、優れた魔術の素材であることは間違いない。
だが、それだけだ。
それだけというのがマンドラゴラに対する魔術師の認識だった。
「・・・・・?」
頭の中で声が響く。
いくつもの知らない声。
男もいれば女もいる。
強いものもいれば弱いものもいる。
それらが同時に好き勝手に声を上げている。
「(うるさい)」
そう考えただけで、弱い声が吹き飛んだ。
そして、その声は二度と聞こえてこない。
「(なんだ?この状況は?)」
身体の自由が利かないことは、すぐに気付いた。
魔力もうまく操ることができない。
状況を整理するために、直前にあった出来事を思い出そうとする。
しかし、記憶に欠落がある。
それでも、記憶の欠片を繋ぎ合わせることによって、なんとか状況を把握することができた。
「(僕は死んだ・・・はずだ)」
だが、生きている。
いや、生きていると言えるのか?
身体は動かないし、魔力も使えないし、頭の中には複数の人間の声が響いている。
まともな精神を保つのが難しい状況ではあるが、魔女狩りを生き抜いた自分にとっては、狂うほどの状況ではない。
自分という存在を認識できるのだから、狂う必要などない。
時間はたっぷりあるようだし、状況を分析することにする。
その結果、自分の現状に辿り着いた。
「(これは新しい発見だな)」
どうやら、自分はマンドラゴラになっているらしい。
正確には、マンドラゴラに自分の記憶を刻むことに成功したらしい。
意図してのことではない。
死の間際にマンドラゴラに大量の魔力を注ぎ込んだこと。
そして、その場で死んたことにより、そのマンドラゴラに大量の血液を浴びせたこと。
偶然が重なったことにより、マンドラゴラに記憶が刻まれたのだろう。
しかし、完全ではない。
「(厄介なことになった)」
不老の身体や膨大な魔力を失ったことではない。
自分がマンドラゴラになったことでもない。
そんなことは些細なことだ。
自分という存在が残っているのだから、どうとでもなる。
厄介なのは別のことだ。
「(混ざっているな)」
自分という存在。
それは間違いなく、ここにいる。
しかし、自分ではない存在も、ここにいる。
マンドラゴラは人間の体液を浴びて育つ。
それは一人だけの体液とは限らない。
複数の人間の体液を浴びていても不思議ではない。
複数の人間の体液を浴びた場合、おそらくは複数の人間の記憶が刻まれる。
その結果、存在が混ざって、自我が崩れる。
「(これがマンドラゴラに記憶が宿ると知られていなかった理由か)」
自我が崩れるから、まともな精神を保つことができない。
まともな精神ではないから、断末魔の声を上げることしかできない。
人間の記憶が宿っていたとしても、気が付くはずがない。
「(僕は運がよかったな。いや、結論を出すのは早計か)」
魔術師としての確固たる意志を持っていたおかげで、自分は自我を保つことができた。
しかし、感じる。
この身体には他にもいる。
自分と同じくらい強い意志を持った存在がいる。
今はまだ眠っているようだが、自我を保ったまま存在している。
その存在が目を覚ました場合、自分とその存在とどちらが残るだろうか。
情報が不足しすぎていて、判断ができない。
自分の意志の強さには自信があるが、不老の身体も膨大な魔力も失っているのだから、慢心はできない。
「(しばらくは様子を見るしかないか)」
眠っているから存在が弱いということはないらしい。
おそらくは生前の意志の強さが存在の強さに繋がっているのだろう。
ならば、息を潜めていたとしても、存在が消えることはないはずだ。
「(なんとか存在を分離したいところだが)」
自分だけで、その手段を探すのは難しそうだ。
だから、自分がマンドラゴラであるということを利用する。
マンドラゴラは魔術の素材になるのだから、魔術師が収穫する可能性が高い。
その魔術師を利用するのだ。
魔術師は探求心の塊だ。
知的好奇心をくすぐれば、協力させるのは難しくないはずだ。
「・・・・・」
機会を待つ。
機会が訪れるまでは、ただの傍観者に徹する。
思考を抑え、ただし出来事の全てを観察する。
マンドラゴラに相応しく、植物になりきるのだ。
人間の体液を浴びて育ったものは、体液に含まれる魔力を取り込んで成長していく。
引き抜くときに呪音と呼ばれる断末魔のような音を発し、近くにいる人間を魔力中毒にするという厄介な性質はあるが、優れた魔術の素材であることは間違いない。
だが、それだけだ。
それだけというのがマンドラゴラに対する魔術師の認識だった。
「・・・・・?」
頭の中で声が響く。
いくつもの知らない声。
男もいれば女もいる。
強いものもいれば弱いものもいる。
それらが同時に好き勝手に声を上げている。
「(うるさい)」
そう考えただけで、弱い声が吹き飛んだ。
そして、その声は二度と聞こえてこない。
「(なんだ?この状況は?)」
身体の自由が利かないことは、すぐに気付いた。
魔力もうまく操ることができない。
状況を整理するために、直前にあった出来事を思い出そうとする。
しかし、記憶に欠落がある。
それでも、記憶の欠片を繋ぎ合わせることによって、なんとか状況を把握することができた。
「(僕は死んだ・・・はずだ)」
だが、生きている。
いや、生きていると言えるのか?
身体は動かないし、魔力も使えないし、頭の中には複数の人間の声が響いている。
まともな精神を保つのが難しい状況ではあるが、魔女狩りを生き抜いた自分にとっては、狂うほどの状況ではない。
自分という存在を認識できるのだから、狂う必要などない。
時間はたっぷりあるようだし、状況を分析することにする。
その結果、自分の現状に辿り着いた。
「(これは新しい発見だな)」
どうやら、自分はマンドラゴラになっているらしい。
正確には、マンドラゴラに自分の記憶を刻むことに成功したらしい。
意図してのことではない。
死の間際にマンドラゴラに大量の魔力を注ぎ込んだこと。
そして、その場で死んたことにより、そのマンドラゴラに大量の血液を浴びせたこと。
偶然が重なったことにより、マンドラゴラに記憶が刻まれたのだろう。
しかし、完全ではない。
「(厄介なことになった)」
不老の身体や膨大な魔力を失ったことではない。
自分がマンドラゴラになったことでもない。
そんなことは些細なことだ。
自分という存在が残っているのだから、どうとでもなる。
厄介なのは別のことだ。
「(混ざっているな)」
自分という存在。
それは間違いなく、ここにいる。
しかし、自分ではない存在も、ここにいる。
マンドラゴラは人間の体液を浴びて育つ。
それは一人だけの体液とは限らない。
複数の人間の体液を浴びていても不思議ではない。
複数の人間の体液を浴びた場合、おそらくは複数の人間の記憶が刻まれる。
その結果、存在が混ざって、自我が崩れる。
「(これがマンドラゴラに記憶が宿ると知られていなかった理由か)」
自我が崩れるから、まともな精神を保つことができない。
まともな精神ではないから、断末魔の声を上げることしかできない。
人間の記憶が宿っていたとしても、気が付くはずがない。
「(僕は運がよかったな。いや、結論を出すのは早計か)」
魔術師としての確固たる意志を持っていたおかげで、自分は自我を保つことができた。
しかし、感じる。
この身体には他にもいる。
自分と同じくらい強い意志を持った存在がいる。
今はまだ眠っているようだが、自我を保ったまま存在している。
その存在が目を覚ました場合、自分とその存在とどちらが残るだろうか。
情報が不足しすぎていて、判断ができない。
自分の意志の強さには自信があるが、不老の身体も膨大な魔力も失っているのだから、慢心はできない。
「(しばらくは様子を見るしかないか)」
眠っているから存在が弱いということはないらしい。
おそらくは生前の意志の強さが存在の強さに繋がっているのだろう。
ならば、息を潜めていたとしても、存在が消えることはないはずだ。
「(なんとか存在を分離したいところだが)」
自分だけで、その手段を探すのは難しそうだ。
だから、自分がマンドラゴラであるということを利用する。
マンドラゴラは魔術の素材になるのだから、魔術師が収穫する可能性が高い。
その魔術師を利用するのだ。
魔術師は探求心の塊だ。
知的好奇心をくすぐれば、協力させるのは難しくないはずだ。
「・・・・・」
機会を待つ。
機会が訪れるまでは、ただの傍観者に徹する。
思考を抑え、ただし出来事の全てを観察する。
マンドラゴラに相応しく、植物になりきるのだ。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
知識0から創る異世界辞典(ストラペディア)~チャラ駄神を添えて~
degirock/でじろっく
ファンタジー
「【なろうぜ系】って分かる?」
「分かりません」
「ラノベ読んだ事無い?」
「ありません」
「ラノベって分かる?」
「ライトノベルの略です」
「漫画は?」
「読みません」
「ゲーム」
「しません」
「テレビ」
「見ません」
「ざけんなおらあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
サブカル0知識の私が死んだ先で背負わされたのは、
異世界情報を詰め込んだ【異世界辞典】の編纂作業でした。
========================
利己的な人間に歪まされた自分の居場所を守る為に、私は私の正しさを貫く事で歪みを利己的な人間ごと排斥しようとした。
結果、利己的な人間により私の人生は幕を下ろした。
…違う。本当に利己的であったのは、紛まぎれも無く、私だ。間違えてしまったのだ。私は。その事実だけは間違えてはならない。
「……私は確かに、正しさという物を間違えました」
「そうだよなァ!? 綺麗事はやめようよ、ねェ! キミは正義の味方でも何でもないでしょォ!?」
我が意を得たり、と言わんばかりに醜くく歪んだ笑顔を見せる創造主。
そんな主に作られた、弄れるかわいそうな命。
違う…、違う!! その命達を憐れむ権利など私には無い!
「───だから?」
「……へっ?」
「だから、それがどうかしたんですか。私は今度こそ私の正しさを貫き通します。あなたが生み出したこの星の命へ、そしてあなたへ」
彼等のその手にそれぞれ強制的に渡されたとある本。それは目の前に浮かぶ地球によく似た星そのものであり、これから歩む人生でもある。二人の未熟なカミサマに与えられた使命、それはその本を完成させる事。
誰の思惑なのか、何故選ばれたのか、それすらも分からず。
一人は自らの正しさを証明する為に。
一人は自らの人生を否定し自由に生きる為に。
───これは、意図せず『カミサマ』の役目を負わされてしまった不完全な者達が、自ら傷付きながらも気付き立ち上がり、繰り返しては進んでいく天地創造の軌跡である。
遺伝子操作でファンタジーの住人を創るならエルフよりオークの方がよいと思うのでやってみた。
かみゅG
ファンタジー
ゴブリン。
オーガ。
オーク。
エルフ。
ドワーフ。
ファンタジーの住人達。
もし、彼らを創り出すことができるとしたら、どの種族がよいだろうか。
強さを求める者。
美しさを求める者。
様々だろう。
しかし、世界の役に立つという観点で考えた場合、答えは明確だ。
オークである。
「だから、創ってみた」
「なにしてくれちゃってんの、このアホーーーッ!!!」
教授と助手による、特に異世界に転移も転生もしない冒険が、今!始まる!


ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる