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第一章(裏) 森の中のマンドラゴラ
061.自分は世界最高の魔術師なのだから
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「くそっ!」
森の中を駆けながら腕を振るう。
それだけで自分の間近まで迫っていた獣が両断される。
魔力の刃が斬り裂いたのだ。
「数が多いっ!」
両断した獣の後ろから別の獣が迫る。
すぐに魔力の刃を放とうとするが間に合わない。
突き出していた腕が肘のあたりから、ぼとりと落ちる。
獣の爪に斬り裂かれたのだ。
「っ!!!」
脳を焼くような激痛による漏れ出そうになる悲鳴を飲み込む。
代わりに逆の腕から吐き出した魔力が獣を蜂の巣にする。
それで時間を稼ぐことはできたが魔力を無駄に大量に消費してしまった。
「錬金術師どもめっ!厄介な場所にアレを隠しやがってっ!」
本来ならば、こんな獣がどれだけいようと、儀式魔術で一掃できる。
自分は世界最高の魔術師なのだから、それくらいはできて当然だ。
けれど、それはできない。
森の奥にアレがあるからだ。
そして、アレがこんな場所にあるのは、おそらく偶然ではなく必然だ。
錬金術師どもがアレを奪われまいとして、獣に護らせているのだ。
「獣人どもも獣人どもだっ!元魔術師である誇りを忘れやがってっ!」
獣人とは、大昔に魔術により獣の身体能力を取り込んだ魔術師のなれの果てだ。
変わり者の魔術師が開発したその魔術は、獣の身体能力を取り込むという目的は達成した。
しかし、その魔術には欠陥があった。
獣の身体能力を取り込めば取り込むほど、体内に蓄えることができる魔力量が減少するのだ。
魔術師としては致命的だ。
それにも関わらず、多くの魔術師がその魔術を行使した。
嘆かわしいことではあるが、同情する余地がないわけではない。
人並の魔力量しか持たない魔術師が魔女狩りから逃れるには、威力のない魔術より、高い身体能力の方が有利だったのだろう。
結果として、世界には一流の魔術師だけが残った。
自分もその一人だ。
・・・・・
そうだ。
自分は一流の魔術師なのだ。
それなのに、こんな出来損ないの連中に殺されかけている。
「ふざけるなっ!」
目と鼻の先まで迫っていた獣人を細切れにする。
また、魔力を無駄に大量に消費してしまった。
感情が昂って抑えがきかなかった。
しかも、その獣人は己の命と引き換えに、こちらの腕を肩から切断した。
体内の魔力を操って止血するが、出血量が多過ぎる。
意識が途絶えかけ、気付いたときには、無様に地面に倒れ込んでいた。
身体の正面に湿った地面を感じる。
身体の背面に迫って来る何体もの獣人の気配を感じる。
このままでは数秒後には獣人どもの爪や牙が、自分の身体を斬り裂き貫くだろう。
しかし、諦めるという選択肢はない。
がぶりっ!
地面に生えている植物に歯をたて、そこからありったけの魔力を流し込む。
そして、歯をたてたまま勢いよく身体を起こす。
ずぼっ!
『オオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ!!!!!』
地獄の底から響いてくるかのような叫び声が森に木霊する。
どさっ!どさっ!どさっ!
そして、周囲の獣人どもが倒れる音が聞こえてくる。
血を流しすぎたせいか視界は薄暗く閉ざされている。
鼓膜を揺らす音だけが周囲の状況を教えてくれる。
マンドラゴラ。
口で加えて引き抜いたのは、そう呼ばれる植物だった。
通常は無害な植物だが、魔力を帯びて育ったものは変質し、呪音と呼ばれる性質を持つ。
地面から引き抜くときに、体内に溜め込んだ魔力を一気に放出するのだ。
近くにいるものは、魔力中毒を起こし、ひどい場合は死に至る。
魔力とは血液のようなものだ。
本人に馴染まない魔力は毒となる。
「ざまあ・・・みろ」
運がよかった。
マンドラゴラが生えていたのは偶然だった。
しかし、これでひとまず身の安全を確保できた。
アレを目指すか、いったん引き返すか、頭の中で計算しながら立ち上がろうとする。
けれど、足が言うことを聞かず、地面に倒れこんでしまう。
いや、足どころか全身が言うことを聞かない。
「僕が・・・こんなところで・・・」
魔女狩りの時代を生き抜いた。
寿命を克服した。
若く不老の身体を手に入れた。
切断された腕は魔力で動かす義手を移植すれば問題ない。
それなのに、今この瞬間に血が足りない。
たったそれだけの理由で、自分の命が終わろうとしている。
「アレさえあれば・・・」
アレは錬金術師にとっての到達点であり、魔術師にとって究極の素材だった。
アレがあれば魔力を持たない者を魔術師にすることもできる。
獣人どもの狙いはそれだろう。
往生際悪く魔術師に戻ろうと足掻き、それを錬金術師どもに利用されているのだ。
しかし、そんなくだらないことにアレを使わせるわけにはいかない。
アレは魔術を次の段階に進めるために使うべきだ。
アレを魔術師が手に入れるのは必然のはずだ。
それなのに、
ぴちょん・・・
自分の身体から流れる血が地面に染み込む。
ぴちょん・・・
血とともに自分の命が流れ出ていく。
ぴちょん・・・
その音を聴きながら、しだいに意識は遠のいていった。
森の中を駆けながら腕を振るう。
それだけで自分の間近まで迫っていた獣が両断される。
魔力の刃が斬り裂いたのだ。
「数が多いっ!」
両断した獣の後ろから別の獣が迫る。
すぐに魔力の刃を放とうとするが間に合わない。
突き出していた腕が肘のあたりから、ぼとりと落ちる。
獣の爪に斬り裂かれたのだ。
「っ!!!」
脳を焼くような激痛による漏れ出そうになる悲鳴を飲み込む。
代わりに逆の腕から吐き出した魔力が獣を蜂の巣にする。
それで時間を稼ぐことはできたが魔力を無駄に大量に消費してしまった。
「錬金術師どもめっ!厄介な場所にアレを隠しやがってっ!」
本来ならば、こんな獣がどれだけいようと、儀式魔術で一掃できる。
自分は世界最高の魔術師なのだから、それくらいはできて当然だ。
けれど、それはできない。
森の奥にアレがあるからだ。
そして、アレがこんな場所にあるのは、おそらく偶然ではなく必然だ。
錬金術師どもがアレを奪われまいとして、獣に護らせているのだ。
「獣人どもも獣人どもだっ!元魔術師である誇りを忘れやがってっ!」
獣人とは、大昔に魔術により獣の身体能力を取り込んだ魔術師のなれの果てだ。
変わり者の魔術師が開発したその魔術は、獣の身体能力を取り込むという目的は達成した。
しかし、その魔術には欠陥があった。
獣の身体能力を取り込めば取り込むほど、体内に蓄えることができる魔力量が減少するのだ。
魔術師としては致命的だ。
それにも関わらず、多くの魔術師がその魔術を行使した。
嘆かわしいことではあるが、同情する余地がないわけではない。
人並の魔力量しか持たない魔術師が魔女狩りから逃れるには、威力のない魔術より、高い身体能力の方が有利だったのだろう。
結果として、世界には一流の魔術師だけが残った。
自分もその一人だ。
・・・・・
そうだ。
自分は一流の魔術師なのだ。
それなのに、こんな出来損ないの連中に殺されかけている。
「ふざけるなっ!」
目と鼻の先まで迫っていた獣人を細切れにする。
また、魔力を無駄に大量に消費してしまった。
感情が昂って抑えがきかなかった。
しかも、その獣人は己の命と引き換えに、こちらの腕を肩から切断した。
体内の魔力を操って止血するが、出血量が多過ぎる。
意識が途絶えかけ、気付いたときには、無様に地面に倒れ込んでいた。
身体の正面に湿った地面を感じる。
身体の背面に迫って来る何体もの獣人の気配を感じる。
このままでは数秒後には獣人どもの爪や牙が、自分の身体を斬り裂き貫くだろう。
しかし、諦めるという選択肢はない。
がぶりっ!
地面に生えている植物に歯をたて、そこからありったけの魔力を流し込む。
そして、歯をたてたまま勢いよく身体を起こす。
ずぼっ!
『オオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ!!!!!』
地獄の底から響いてくるかのような叫び声が森に木霊する。
どさっ!どさっ!どさっ!
そして、周囲の獣人どもが倒れる音が聞こえてくる。
血を流しすぎたせいか視界は薄暗く閉ざされている。
鼓膜を揺らす音だけが周囲の状況を教えてくれる。
マンドラゴラ。
口で加えて引き抜いたのは、そう呼ばれる植物だった。
通常は無害な植物だが、魔力を帯びて育ったものは変質し、呪音と呼ばれる性質を持つ。
地面から引き抜くときに、体内に溜め込んだ魔力を一気に放出するのだ。
近くにいるものは、魔力中毒を起こし、ひどい場合は死に至る。
魔力とは血液のようなものだ。
本人に馴染まない魔力は毒となる。
「ざまあ・・・みろ」
運がよかった。
マンドラゴラが生えていたのは偶然だった。
しかし、これでひとまず身の安全を確保できた。
アレを目指すか、いったん引き返すか、頭の中で計算しながら立ち上がろうとする。
けれど、足が言うことを聞かず、地面に倒れこんでしまう。
いや、足どころか全身が言うことを聞かない。
「僕が・・・こんなところで・・・」
魔女狩りの時代を生き抜いた。
寿命を克服した。
若く不老の身体を手に入れた。
切断された腕は魔力で動かす義手を移植すれば問題ない。
それなのに、今この瞬間に血が足りない。
たったそれだけの理由で、自分の命が終わろうとしている。
「アレさえあれば・・・」
アレは錬金術師にとっての到達点であり、魔術師にとって究極の素材だった。
アレがあれば魔力を持たない者を魔術師にすることもできる。
獣人どもの狙いはそれだろう。
往生際悪く魔術師に戻ろうと足掻き、それを錬金術師どもに利用されているのだ。
しかし、そんなくだらないことにアレを使わせるわけにはいかない。
アレは魔術を次の段階に進めるために使うべきだ。
アレを魔術師が手に入れるのは必然のはずだ。
それなのに、
ぴちょん・・・
自分の身体から流れる血が地面に染み込む。
ぴちょん・・・
血とともに自分の命が流れ出ていく。
ぴちょん・・・
その音を聴きながら、しだいに意識は遠のいていった。
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