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第二章 七不思議の中のマンドラゴラ

059.甘えん坊さんだねぇ

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 夕方。
 家の扉が開く。

「ただいまぁ」
「メイお姉ちゃん!」
「ひゃっ!」

 扉から入ってきたメイに、ポチが跳びかかる。
 けど、襲い掛かったわけじゃない。
 心配のあまり抱き着いたのだ。

「メイお姉ちゃん、メイお姉ちゃん!」
「ど、どうしたの、ポチちゃん?」

 ポチはメイに抱き着いたまま離れない。

「もう、甘えん坊さんだねぇ」

 よしよしと、メイがポチの頭を撫でる。
 ポチが心配している理由を知らないメイからすれば、ポチが甘えてきているように見えたのだろう。
 ポチはぐりぐりと頭を押し付けて、何も語らない。
 メイが帰ってくる前、俺とポチは話をした。
 そして、学校であったことはメイに話さないことにしたのだ。

「ところで、ケイは?」
「ここだ」

 俺は手を振って、メイに挨拶する。
 身体が小さいので、ポチのように自分からメイに近寄って行くことはできない。
 ただ、近寄れない理由はそれだけではない。

「なんで、土に埋まっているんですか?」

 俺は鉢植えの土に埋まっている状態だ。
 だから、歩き回ることはできない。
 歩くことはできるのだが、身体の大きさが半分になったものだから、歩幅も半分でほとんど進まないのだ。
 それで、今は根っこを伸ばすために土に埋まっているというわけだ。
 そんな俺を見て、メイが近付いてくる。

 ずぼっ

 こうされるのは何度目だろう。
 メイは俺の頭を鷲掴みにして、勢いよく土から引き抜いた。

「あ、また身体が縮んでいるじゃないですか?どうしたんですか?」

 質問されて答えに困る。
 そう言えば、メイに学校であったことを話さないとは決めたが、身体が小さくなったことについて、どう説明するか決めていなかった。

「それはだな。えーっと・・・料理をしようとしたら、ちょっと切っちゃってな」

 指先を切っちゃった、くらいのノリで言い訳をする。
 しかし、返ってきたのは、メイのジト目だ。

「えーっと、と言っている時点であやしいんですけど」

 さすがに、言い訳が苦し過ぎたか。
 どう言い逃れするか考えていると、ポチが話に加わってくる。

「メイお姉ちゃんに、お料理をご馳走したかったのニャッ!」

 フォローのつもりなのだろう。
 けど、それじゃ俺の言った内容と同じだ。
 そう思っていると、メイがポチが頭を撫でる。

「ありがとう、ポチちゃん。でも、危ないから一人で料理をしちゃダメだよ」
「わかったのニャッ!」

 俺が言った内容と同じなんだけどな。
 ポチに対してはジト目は無く、ご馳走したかったという言葉に嬉しそうだ。

「今度一緒に料理しようね」
「うんっ!」

 メイは一人っ子っぽいから、妹が欲しかったのかも知れないな。
 ポチにデレデレして、俺への追及は忘れてしまったようだ。
 都合がよいのだが、ポチにペットとしての立場を奪われてしまったようで、軽い嫉妬を覚える。
 いやいや、俺にとってメイは妹みたいなものだ。
 そのメイの妹ならポチも俺の妹ということになる。
 兄貴として、威厳のあるところを見せなくては。

「もちろん、俺も料理を手伝うぞ。俺は千切りやみじん切りだけじゃなく、かつら剥きも得意なんだ」

 かつら剥きは家庭料理で必要とされる場面は少ないが高等技術だ。
 これができるのは、ちょっとした自慢だった。
 この身体になってからはやったことがないが、うっすら覚えている前世の記憶ではできた覚えがある。
 きっと、できるはずだ。

「ケイは料理禁止です」
「な、なんで?」

 しかし、かつら剥きは、疲労する前に禁止されてしまった。
 なぜだ。

「ケイの場合、自分を料理しちゃいそうじゃないですか。今日だって身体が小さくなってるし」
「そ、それは・・・」

 そうだった。
 料理していて切ってしまったと言い訳したのだった。
 だから、否定できない。

「ポチちゃんには、私が教えてあげるからね」
「メイお姉ちゃん、ありがとうニャッ!」

 仲のよい姉妹のような二人を見ながら、俺は仲間外れにされたような気分を味わっていた。
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