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第二章 七不思議の中のマンドラゴラ
051.些細なことだ
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匂いはともかく、俺には心当たりがあった。
「メイ、覚えているか?学校で逃げるときに、俺はこいつに粉を振りかけたよな」
「何か投げていましたね。それで咳き込んでいる間に逃げることができたから、覚えていますよ」
「そうだ」
問題は、あのとき俺が何を投げたかということだ。
「実は投げたのは、メイからもらった惚れ薬なんだ」
「えぇー!もったいない!アレを作るのは大変だったんですよぉ!」
メイが拗ねたように文句を言ってくる。
しかし、ああしないとメイも危険だったのだから、許して欲しいところだ。
「それで逃げられたんだから、いいじゃないか」
「まあ、いいですけどぉ」
メイはまだ拗ねているようだったが、それでも納得してくれた。
すでに所有権は俺にあったからという理由もあるのだろう。
メイの納得が得られたので、話を先に進めることにする。
「それでな。こいつがこうなったのは、惚れ薬のせいじゃないかと思うんだ」
獣人少女の懐き具合は異常だ。
学校では襲い掛かってきたというのに、今は必要以上にベタベタしてくる。
それに匂いを連呼していることも気になる。
「あの惚れ薬って、匂いで人を好きにさせるんじゃないか?」
俺の推測を聞いて、メイは首を傾げる。
「どうでしょう?私は薬の作り方は知っていますけど、薬が効く原理まで知っているわけじゃありませんから。それにアレは、私に惚れさせる効果のはずですよ。あの子、ケイにも懐いていますよね」
「材料に俺の身体も使っているだろう。そのせいじゃないか?」
「うーん?」
メイはいまいちピンときていないようだが、俺は自分の推測があながち的外れではないと考えている。
匂いで人を好きにさせるという推測は置いておくとしても、材料に俺の身体を使っているから、俺に対しても効果が出ているというのはありそうだ。
材料に使ったマンドラゴラが残っていて、なおかつ人語を解するというケースがレアだから、広まっていないだけなのではないだろうか。
「まあ、なんにせよ、こいつが俺達に懐いているのは、惚れ薬のせいだと思うんだ。あの薬って、どのくらいの期間、効果があるんだ?」
問題はそこだ。
惚れ薬の効果が切れた途端に襲われたのでは、たまったものではない。
有効期間を確認することは重要だった。
「相手にひどいことをしなければ、永続するはずですよ。人間って、いったん人を好きになると、よほどのことがない限り、嫌いになんてなれませんよね」
なるほど。
惚れ薬の効果は一定期間だとしても、その期間に根付いた感情は残るというわけか。
惚れ薬が効いている期間中に味方にしてしまえば、その後に襲われる可能性は低くなりそうだ。
そこまで考えて、俺は獣人少女の方を見る。
猿ぐつわは解いたが、亀甲縛りは継続中だ。
味方にすべき相手を亀甲縛り。
・・・・・
マズくないかな。
「あー、その、なんだ、メイ」
「はい?」
「そろそろ解いてやったらどうだ?そんないかがわしい縛り方をしたら、こいつがかわいそうだろう」
「ケイがこうやって縛れって言ったんじゃないですか」
「バカッ!そういうことを言うな!」
「言うなも何も、本人が聞いていたと思いますよ」
メイはぶつぶつ言いながら、獣人少女の縄を解いていく。
自由になった獣人少女は、縛られている間に落ち着いたのか、俺やメイに跳びかかってくることは無かった。
俺は即座に話しかける。
獣人少女に先に口を開かれると、先ほどのように、こちらの話を聞かない可能性があるからだ。
「俺はケイ、おまえを縛ったのはメイだ」
まずは自己紹介をする。
ついでにメイの紹介もしておく。
「ちょっと、ケイ。縛ったのは私ですけど、縛る方まで指示して縛るように命令したのは、ケイじゃないですか」
「メイ、余計なことを言うな。些細なことだ。それより、まずは自己紹介といこうじゃないか。おまえの名前は?」
俺が名前を尋ねると、獣人少女は今度はちゃんと返事をしてきた。
「あたしの名前はポチ!誇り高き狩人の一族の村長の娘なのニャッ!よろしくなのニャッ!」
ツッコミどころのある名前だった。
元の世界だと、ポチは犬の名前の代表格だ。
しかし、目の前の獣人少女はどう見ても猫系だ。
違和感が半端ない。
猫系ならタマじゃないのかと言いたい。
だがまあ、それはいい。
俺はツッコミの言葉を飲み込む。
「ポチか。よい名前だな」
「ありがとうなのニャッ!」
それよりも、聞いておきたいことがある。
それが、ポチが学校で襲い掛かってきた理由に関係するような気がするのだ。
「それでポチ、聞きたいことがあるんだが」
「なにかニャッ?」
「狩人の一族ってなんだ?」
「それは・・・」
俺の問いに応え、ポチが説明を始めた。
「メイ、覚えているか?学校で逃げるときに、俺はこいつに粉を振りかけたよな」
「何か投げていましたね。それで咳き込んでいる間に逃げることができたから、覚えていますよ」
「そうだ」
問題は、あのとき俺が何を投げたかということだ。
「実は投げたのは、メイからもらった惚れ薬なんだ」
「えぇー!もったいない!アレを作るのは大変だったんですよぉ!」
メイが拗ねたように文句を言ってくる。
しかし、ああしないとメイも危険だったのだから、許して欲しいところだ。
「それで逃げられたんだから、いいじゃないか」
「まあ、いいですけどぉ」
メイはまだ拗ねているようだったが、それでも納得してくれた。
すでに所有権は俺にあったからという理由もあるのだろう。
メイの納得が得られたので、話を先に進めることにする。
「それでな。こいつがこうなったのは、惚れ薬のせいじゃないかと思うんだ」
獣人少女の懐き具合は異常だ。
学校では襲い掛かってきたというのに、今は必要以上にベタベタしてくる。
それに匂いを連呼していることも気になる。
「あの惚れ薬って、匂いで人を好きにさせるんじゃないか?」
俺の推測を聞いて、メイは首を傾げる。
「どうでしょう?私は薬の作り方は知っていますけど、薬が効く原理まで知っているわけじゃありませんから。それにアレは、私に惚れさせる効果のはずですよ。あの子、ケイにも懐いていますよね」
「材料に俺の身体も使っているだろう。そのせいじゃないか?」
「うーん?」
メイはいまいちピンときていないようだが、俺は自分の推測があながち的外れではないと考えている。
匂いで人を好きにさせるという推測は置いておくとしても、材料に俺の身体を使っているから、俺に対しても効果が出ているというのはありそうだ。
材料に使ったマンドラゴラが残っていて、なおかつ人語を解するというケースがレアだから、広まっていないだけなのではないだろうか。
「まあ、なんにせよ、こいつが俺達に懐いているのは、惚れ薬のせいだと思うんだ。あの薬って、どのくらいの期間、効果があるんだ?」
問題はそこだ。
惚れ薬の効果が切れた途端に襲われたのでは、たまったものではない。
有効期間を確認することは重要だった。
「相手にひどいことをしなければ、永続するはずですよ。人間って、いったん人を好きになると、よほどのことがない限り、嫌いになんてなれませんよね」
なるほど。
惚れ薬の効果は一定期間だとしても、その期間に根付いた感情は残るというわけか。
惚れ薬が効いている期間中に味方にしてしまえば、その後に襲われる可能性は低くなりそうだ。
そこまで考えて、俺は獣人少女の方を見る。
猿ぐつわは解いたが、亀甲縛りは継続中だ。
味方にすべき相手を亀甲縛り。
・・・・・
マズくないかな。
「あー、その、なんだ、メイ」
「はい?」
「そろそろ解いてやったらどうだ?そんないかがわしい縛り方をしたら、こいつがかわいそうだろう」
「ケイがこうやって縛れって言ったんじゃないですか」
「バカッ!そういうことを言うな!」
「言うなも何も、本人が聞いていたと思いますよ」
メイはぶつぶつ言いながら、獣人少女の縄を解いていく。
自由になった獣人少女は、縛られている間に落ち着いたのか、俺やメイに跳びかかってくることは無かった。
俺は即座に話しかける。
獣人少女に先に口を開かれると、先ほどのように、こちらの話を聞かない可能性があるからだ。
「俺はケイ、おまえを縛ったのはメイだ」
まずは自己紹介をする。
ついでにメイの紹介もしておく。
「ちょっと、ケイ。縛ったのは私ですけど、縛る方まで指示して縛るように命令したのは、ケイじゃないですか」
「メイ、余計なことを言うな。些細なことだ。それより、まずは自己紹介といこうじゃないか。おまえの名前は?」
俺が名前を尋ねると、獣人少女は今度はちゃんと返事をしてきた。
「あたしの名前はポチ!誇り高き狩人の一族の村長の娘なのニャッ!よろしくなのニャッ!」
ツッコミどころのある名前だった。
元の世界だと、ポチは犬の名前の代表格だ。
しかし、目の前の獣人少女はどう見ても猫系だ。
違和感が半端ない。
猫系ならタマじゃないのかと言いたい。
だがまあ、それはいい。
俺はツッコミの言葉を飲み込む。
「ポチか。よい名前だな」
「ありがとうなのニャッ!」
それよりも、聞いておきたいことがある。
それが、ポチが学校で襲い掛かってきた理由に関係するような気がするのだ。
「それでポチ、聞きたいことがあるんだが」
「なにかニャッ?」
「狩人の一族ってなんだ?」
「それは・・・」
俺の問いに応え、ポチが説明を始めた。
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