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第二章 七不思議の中のマンドラゴラ
039.しゅっぱーつ!
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メイはいつもの魔女衣装を着て、俺はいつもの高級ソファーに座る。
いつもと違うのは、俺がネズミのぬいぐるみを着込んでいることと、今が夜だという点だ。
いつもなら温泉に入って夕食を食べている時間だというのに、メイは家の扉を開けて外に出る。
「それじゃあ、しゅっぱーつ!」
「なあ、やっぱり止めておかないか?」
ノリノリで家を出るメイに、俺は往生際悪く声をかける。
つくづく余計なことを言ってしまったと思う。
「ケイが冒険に行きたいって言ったんじゃないですか」
「そうなんだけどさあ」
確かに冒険に出たいとは言った。
モンスターとバトルをしてみたいとも思った。
けど、これから向かう先に待っているのは、そういうのとはちょっと違う。
「殺人鬼がいるとは思わないじゃん」
メイが語った七不思議に出てきたのは殺人鬼なのだ。
モンスターと殺人鬼は危険という意味では同じだけど、怖さの方向性がちょっと違う。
なんというか、殺人鬼は幽霊に似た怖さがある。
未知に対する恐怖といったところだろうか。
それに、どちらにしろ今の俺の身体ではモンスターにも殺人鬼にも敵わないのは明白だ。
だから、俺としては冒険を諦めたいところなのだが、問題はメイなのだ。
「大丈夫ですよ。今回は魔術の道具をいっぱい持ってきましたから」
なぜかメイが俺よりも冒険に対して乗り気になってしまった。
俺が冒険に行きたいなんて言ったものだから、変に火をつけてしまったらしい。
「魔術の道具っていったって、どうせマッチだろ?」
「マッチじゃありませんよぅ」
どうやら今回は、俺に魔術を見せるという目的もあるようだ。
俺が、さんざんへっぽこ扱いしたから、見返したいのかも知れない。
魔術を見せてくれるというのは俺としても望むところなのだが、問題は万が一本当に殺人鬼がいた場合だ。
ただの七不思議ならそこまで気にしないのだが、どうやらこの付近には実際に殺人鬼がいたらしい。
そんなところにメイを行かせるのは気が引ける。
俺が言い出したことが原因でメイが殺人鬼に殺されでもしたら、寝覚めが悪い。
「今回の魔術は凄いんですから」
しかし、メイは行くのを止めるつもりは無いようだ。
こうなったら、俺が気を付けるしかないだろう。
「わかったよ。でも、危ない目に遭いそうだったら帰ってくれよ」
「りょうか~い!」
軽い調子で返事をするメイに不安を感じながら、俺達は夜の学校に向かって出発した。
*****
学校はメイの家から歩いて三十分の場所にあった。
もちろん、メイの足での話だ。
俺の足だと数時間、下手したら、十数時間はかかるのではないだろうか。
メイに引っこ抜かれたとき、とても広大な森だと思ったものだが、それは俺の身体が小さいせいだったみたいだ。
意外と近くに整備された道があった。
ただし、元の世界のようにアスファルトで整備されているわけではない。
下は土だし、車も走っていない。
古き良き昭和のド田舎。
そんな雰囲気だ。
木造の建物がまばらにあるが、それ以外の場所には田畑が広がっている。
そんな景観を崩さないように、学校だという建物も木造の二階建てだった。
ついでに、ぼろい。
校門の前で、俺は感想を口にする。
「肝試しをするには、絶好のシチュエーションだな」
「人の通う学校を、肝試しスポットみたいに言わないで下さいよぅ」
俺の言葉にメイが拗ねたように口を尖らせる。
しかし、今にも崩れ落ちそうな校舎は、夜に見ると廃墟にしか見えない。
実によい雰囲気を醸し出している。
もちろん、肝試しスポットとしての雰囲気だ。
「何を言うんだ。こんな素敵スポット、俺のいた世界じゃ、見ようと思ってもなかなか見れるものじゃないぞ」
肝試しスポットが特別好きというわけではないけど、こういう場所に来ると冒険心をくすぐられる。
殺人鬼のことも忘れて、わくわくしてしまう。
前世の記憶は曖昧なままだけど、たぶん俺は鉄筋コンクリートの建物に囲まれた街で暮らしていたんだと思う。
そうでなければ、こういう景色に心弾んだりはしないだろう。
「そうなんですか?なら、いいですけど」
俺の言葉にあっさり納得して、メイが機嫌を直す。
さて、こうして外から眺めているのも風情があるが、肝試しの醍醐味は中に入ってこそだ。
「よし!レッツゴー!」
「ノリノリですねぇ」
高級ソファーをぺしぺしと叩いて前進を促すと、それに応えてメイが足を進める。
楽でいいなコレ。
やっぱりコレはリムジンの乗り心地だ。
「じゃあ、行きましょうか」
メイの足が校門の中と外の境を跨ぐ。
その瞬間、平和な田舎の景色から七不思議が待つ学校へと世界が変わる。
特に何かが変わったわけではないけど、ここから先に待つのは非日常の世界だ。
待ち受けるモノに対する期待感が、そう感じさせた。
いつもと違うのは、俺がネズミのぬいぐるみを着込んでいることと、今が夜だという点だ。
いつもなら温泉に入って夕食を食べている時間だというのに、メイは家の扉を開けて外に出る。
「それじゃあ、しゅっぱーつ!」
「なあ、やっぱり止めておかないか?」
ノリノリで家を出るメイに、俺は往生際悪く声をかける。
つくづく余計なことを言ってしまったと思う。
「ケイが冒険に行きたいって言ったんじゃないですか」
「そうなんだけどさあ」
確かに冒険に出たいとは言った。
モンスターとバトルをしてみたいとも思った。
けど、これから向かう先に待っているのは、そういうのとはちょっと違う。
「殺人鬼がいるとは思わないじゃん」
メイが語った七不思議に出てきたのは殺人鬼なのだ。
モンスターと殺人鬼は危険という意味では同じだけど、怖さの方向性がちょっと違う。
なんというか、殺人鬼は幽霊に似た怖さがある。
未知に対する恐怖といったところだろうか。
それに、どちらにしろ今の俺の身体ではモンスターにも殺人鬼にも敵わないのは明白だ。
だから、俺としては冒険を諦めたいところなのだが、問題はメイなのだ。
「大丈夫ですよ。今回は魔術の道具をいっぱい持ってきましたから」
なぜかメイが俺よりも冒険に対して乗り気になってしまった。
俺が冒険に行きたいなんて言ったものだから、変に火をつけてしまったらしい。
「魔術の道具っていったって、どうせマッチだろ?」
「マッチじゃありませんよぅ」
どうやら今回は、俺に魔術を見せるという目的もあるようだ。
俺が、さんざんへっぽこ扱いしたから、見返したいのかも知れない。
魔術を見せてくれるというのは俺としても望むところなのだが、問題は万が一本当に殺人鬼がいた場合だ。
ただの七不思議ならそこまで気にしないのだが、どうやらこの付近には実際に殺人鬼がいたらしい。
そんなところにメイを行かせるのは気が引ける。
俺が言い出したことが原因でメイが殺人鬼に殺されでもしたら、寝覚めが悪い。
「今回の魔術は凄いんですから」
しかし、メイは行くのを止めるつもりは無いようだ。
こうなったら、俺が気を付けるしかないだろう。
「わかったよ。でも、危ない目に遭いそうだったら帰ってくれよ」
「りょうか~い!」
軽い調子で返事をするメイに不安を感じながら、俺達は夜の学校に向かって出発した。
*****
学校はメイの家から歩いて三十分の場所にあった。
もちろん、メイの足での話だ。
俺の足だと数時間、下手したら、十数時間はかかるのではないだろうか。
メイに引っこ抜かれたとき、とても広大な森だと思ったものだが、それは俺の身体が小さいせいだったみたいだ。
意外と近くに整備された道があった。
ただし、元の世界のようにアスファルトで整備されているわけではない。
下は土だし、車も走っていない。
古き良き昭和のド田舎。
そんな雰囲気だ。
木造の建物がまばらにあるが、それ以外の場所には田畑が広がっている。
そんな景観を崩さないように、学校だという建物も木造の二階建てだった。
ついでに、ぼろい。
校門の前で、俺は感想を口にする。
「肝試しをするには、絶好のシチュエーションだな」
「人の通う学校を、肝試しスポットみたいに言わないで下さいよぅ」
俺の言葉にメイが拗ねたように口を尖らせる。
しかし、今にも崩れ落ちそうな校舎は、夜に見ると廃墟にしか見えない。
実によい雰囲気を醸し出している。
もちろん、肝試しスポットとしての雰囲気だ。
「何を言うんだ。こんな素敵スポット、俺のいた世界じゃ、見ようと思ってもなかなか見れるものじゃないぞ」
肝試しスポットが特別好きというわけではないけど、こういう場所に来ると冒険心をくすぐられる。
殺人鬼のことも忘れて、わくわくしてしまう。
前世の記憶は曖昧なままだけど、たぶん俺は鉄筋コンクリートの建物に囲まれた街で暮らしていたんだと思う。
そうでなければ、こういう景色に心弾んだりはしないだろう。
「そうなんですか?なら、いいですけど」
俺の言葉にあっさり納得して、メイが機嫌を直す。
さて、こうして外から眺めているのも風情があるが、肝試しの醍醐味は中に入ってこそだ。
「よし!レッツゴー!」
「ノリノリですねぇ」
高級ソファーをぺしぺしと叩いて前進を促すと、それに応えてメイが足を進める。
楽でいいなコレ。
やっぱりコレはリムジンの乗り心地だ。
「じゃあ、行きましょうか」
メイの足が校門の中と外の境を跨ぐ。
その瞬間、平和な田舎の景色から七不思議が待つ学校へと世界が変わる。
特に何かが変わったわけではないけど、ここから先に待つのは非日常の世界だ。
待ち受けるモノに対する期待感が、そう感じさせた。
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