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第一章 森の中のマンドラゴラ

035.ざけんなっ!

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「・・・なあ、メイ」

 俺は夕食後に祖母が帰ってから、メイに話しかける。

「あ、ケイ。今日はずっと隠れさせちゃって、ごめんなさい」
「それはいいんだが・・・」

 もっと気になることがある。

「メイ、婆さんに、ちゅーしたり胸を触らせたりしていなかったか?」
「はい、してましたよ」

 目の錯覚ではなかったらしい。

「・・・なんで?」
「ケイが教えてくれたからですよ」

 俺が教えたのは、男を落とす方法であって、婆さんと仲良くする方法ではない。

「メイが惚れさせたい相手って・・・婆さん」
「そうですよ?」

 メイは何を今さらとでも言いたげだ。

「おばあちゃん、会うたびに勉強しろとか、補習をさぼるなとか、うるさく言ってくるんですよ」

 それはメイがさぼろうとするからだろう。

「だから、惚れ薬を飲ませたら、そんなこと言わなくなるかなって思ったんです」
「・・・・・」
「でも、今日は言わなかったですから、ケイに教えてもらった方法が効果あったんですね」
「・・・・・」

 それはたぶんメイが体調を崩していたからであって、体調が戻ったら再び口うるさくなると思う。
 というか、そんなことより、

「ざけんなっ!!!」
「わひゃっ!」

 突然上げた俺の叫びにメイが耳を押さえる。
 だが、そんなこと許すか。
 俺はメイの肩までよじ登ると、無理やり手を耳から離させる。

「人が!文字通り!身を粉にして!協力してってのに!!!」
「うぅ~~~~~」

 メイがうるさそうに顔をしかめるが、手加減はしない。

「惚れさせたい相手が婆さんって、どういうことだよっ!!!!!」
「わきゃあああぁぁぁ!」

 バタンッ

 メイがベッドに倒れ込む。
 出会ったときのように、白目を剥いて泡を吹いている。
 あのときは動揺したが、今回は動揺しない。
 自業自得だ。

 *****

「ひどいですよぅ」
「ひどい目に遭ったのは俺の方だ」

 メイの恋を応援するつもりで身体を削って提供したというのに、結局は無駄になった。
 まあ、惚れ薬を使わないようにさせたのは俺だからそれはいいとしても、相手が婆さんというのは納得できない。

「メイは好きなやつはいないのか?」
「おばあちゃんです。あと、ケイのことも好きですよ」
「ありがとう。いや、そうじゃなくて、同じ年代の男子とか」
「いないですね」
「即答かよ」

 どうやらメイは、初恋も未経験のへっぽこなようだ。
 いくらなんでも、祖母が初恋の相手ということはないと思う。
 家族に対する親愛というやつだろう。
 俺に対しても、ペットに対する親愛だと思う。

「もう、なんで機嫌が悪いんですか」
「メイのへっぽこさに呆れてるんだよ」
「むぅ」

 俺の評価にメイは不服そうだ。
 けど、妥当な評価だという自信がある。

「でも、ケイにはおばあちゃんと仲良くなる方法を教えてもらいましたからね。お礼にこれをあげます」
「これって、あの惚れ薬か」

 メイの体液入りのやつだ。
 一部の人種には宝物かも知れないが、俺にはちょっとハードルが高い。

「いらない。使う予定ないし」
「そんなこと言わずに受け取って下さいよぅ。これ作るの大変だったんですから」

 受け取り拒否するが、強引に押し付けられてしまう。

「使う予定ないんだけどなあ」
「ケイが自分で飲んでもいいですよ」
「なんの意味があるんだ、それ?」
「私の体液を入れたんですから、私のことを好きになる薬ですよ、これ」
「なおさら意味ないじゃん」
「私のことを大好きになりたいときとか」
「へっぽこさを知っているからなあ。効果があるとは思えない」
「そんなことないですよぅ」

 そんなこんなで、惚れ薬を巡る一件はこれで一段落した。
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