29 / 75
第一章 森の中のマンドラゴラ
029.大好きなんです
しおりを挟む
メイのおでこに乗せたタオルに手を置いて考える。
「・・・もう、そろそろかな」
この身体だと人間の体温がよく分からない。
自分の体温と比較して高いか低いかが分からないからだ。
でも、タオルの渇き具合から、そろそろ交換する頃だということは分かる。
「よいしょ」
メイのおでこからタオルを取り、よじよじとベッドから降りる。
てくてくと家の外まで出ると、水瓶から汲んだ水にタオルを浸す。
じゃぶじゃぶとタオルに冷たい水を含ませてから、ぎゅっと絞る。
てくてくと家の中に入り、よじよじとベッドを登る。
「よいしょ」
そして再び、メイのおでこにタオルを乗せる。
メイが寝てから、これを繰り返している。
「なかなか熱が下がらないな」
朝にメイが寝てから、今は昼頃だ。
まだ数時間しか経っていないので熱が下がらないのは当たり前なのだが、頬が火照り呼吸が荒いメイを見ていると早く下がって欲しいと思ってしまう。
「そろそろ昼だよな。おかゆでも作れたらいいんだけど・・・」
この小さい身体で料理は難しい。
汗をかいているだろうから水分も取った方がいいと思うのだが、同様の理由で水の入ったコップを持ってくるのは無理そうだ。
「果物を剥くくらいならできるかな」
そう思いつき、台所へ歩いていく。
人の家の台所を勝手にいじるのはよくないと思うが、住人が寝込んでいるのだから仕方ない。
「お、リンゴがあるな」
病気のときに食べる定番と言えば、ウサギの形に切ったリンゴだ。
せっかくなので、その形に切ってやろうと思い、果物ナイフを探す。
果物ナイフはすぐに見つかったのだが、
「おっと」
持てなくはないが、身体がふらつく。
俺が持つと剣を持っているような感じになるくらいのサイズ感だ。
ぶんぶん振り回してめった斬りにするならともかく、丁寧に切り分けたりは無理そうだ。
「これじゃ、切るのは無理か。仕方ない。丸かじりしてもらおう」
俺からすればかなりの重量だが、リンゴ1つくらいなら持てなくはない。
リンゴを抱えながら、メイの眠るベッドまで戻る。
戻るとメイが身体を起こし、きょろきょろと周囲を見回していた。
「起きたか」
「あ、ケイ。そこにいたんですね」
俺が姿を見せると、メイはほっとしたような表情になる。
どうやら、俺を探していたらしい。
「体調はどうだ?」
「頭がほわほわします」
ひと眠りして落ち着いたのだろう。
帰ってきた直後はハイになっていたのか言うことを聞かないほど元気だったのだが、今は怠そうだ。
瞳は潤んで頬は染まり、なんだか色っぽい。
体調が悪いことを知らなければ、惚れられていると勘違いしそうだ。
「何か食べられるか?とりあえず、リンゴを持ってきたけど」
「あんまり食欲ないです」
「ちょっとでも食べた方がいいぞ」
ぽんっと、リンゴを投げ渡す。
「ありがとうございます」
「ホントは切ってやろうと思ったんだが、果物ナイフが重くてな」
「それもですけど、タオルを乗せてくれたの、ケイですよね」
メイはリンゴを受け取ると、シャクッと皮ごと一口齧る。
「熱が出ているみたいだったからな」
「大変だったでしょう」
「まあな」
大変じゃなかったとは言わない。
けど、俺が勝手にやったことだし、誰かに文句を言うようなことじゃない。
「もう熱は下がったみたいですから大丈夫ですよ」
メイはそう言ってくるけど、まだ頬は赤い。
俺が大変だからという理由で遠慮をしているのだろう。
「嘘つけ。病人は余計なことを気にするな」
「ケイ、おばあちゃんみたいです」
「年寄りみたいだと言われて、喜んでいいのか微妙なところだな」
まあ、感謝してくれているようだから、素直に喜んでおこう。
お礼が言われたくてやったことではないけど、感謝してくれるなら、それなりに嬉しい。
「おばあちゃんは、口うるさいけど優しいから、大好きなんです」
「メイは、おばあちゃん子だな」
「・・・はい」
ちょっとずつ齧って、時間をかけてリンゴを食べたメイは、うとうとし始める。
「食べたら、また寝ろ。寝ないと熱が下がらないぞ」
「そうします。お休みなさい」
今度は朝のように我儘を言うことはなかった。
メイは素直に横になると、すぐに寝息を立て始めた。
「・・・もう、そろそろかな」
この身体だと人間の体温がよく分からない。
自分の体温と比較して高いか低いかが分からないからだ。
でも、タオルの渇き具合から、そろそろ交換する頃だということは分かる。
「よいしょ」
メイのおでこからタオルを取り、よじよじとベッドから降りる。
てくてくと家の外まで出ると、水瓶から汲んだ水にタオルを浸す。
じゃぶじゃぶとタオルに冷たい水を含ませてから、ぎゅっと絞る。
てくてくと家の中に入り、よじよじとベッドを登る。
「よいしょ」
そして再び、メイのおでこにタオルを乗せる。
メイが寝てから、これを繰り返している。
「なかなか熱が下がらないな」
朝にメイが寝てから、今は昼頃だ。
まだ数時間しか経っていないので熱が下がらないのは当たり前なのだが、頬が火照り呼吸が荒いメイを見ていると早く下がって欲しいと思ってしまう。
「そろそろ昼だよな。おかゆでも作れたらいいんだけど・・・」
この小さい身体で料理は難しい。
汗をかいているだろうから水分も取った方がいいと思うのだが、同様の理由で水の入ったコップを持ってくるのは無理そうだ。
「果物を剥くくらいならできるかな」
そう思いつき、台所へ歩いていく。
人の家の台所を勝手にいじるのはよくないと思うが、住人が寝込んでいるのだから仕方ない。
「お、リンゴがあるな」
病気のときに食べる定番と言えば、ウサギの形に切ったリンゴだ。
せっかくなので、その形に切ってやろうと思い、果物ナイフを探す。
果物ナイフはすぐに見つかったのだが、
「おっと」
持てなくはないが、身体がふらつく。
俺が持つと剣を持っているような感じになるくらいのサイズ感だ。
ぶんぶん振り回してめった斬りにするならともかく、丁寧に切り分けたりは無理そうだ。
「これじゃ、切るのは無理か。仕方ない。丸かじりしてもらおう」
俺からすればかなりの重量だが、リンゴ1つくらいなら持てなくはない。
リンゴを抱えながら、メイの眠るベッドまで戻る。
戻るとメイが身体を起こし、きょろきょろと周囲を見回していた。
「起きたか」
「あ、ケイ。そこにいたんですね」
俺が姿を見せると、メイはほっとしたような表情になる。
どうやら、俺を探していたらしい。
「体調はどうだ?」
「頭がほわほわします」
ひと眠りして落ち着いたのだろう。
帰ってきた直後はハイになっていたのか言うことを聞かないほど元気だったのだが、今は怠そうだ。
瞳は潤んで頬は染まり、なんだか色っぽい。
体調が悪いことを知らなければ、惚れられていると勘違いしそうだ。
「何か食べられるか?とりあえず、リンゴを持ってきたけど」
「あんまり食欲ないです」
「ちょっとでも食べた方がいいぞ」
ぽんっと、リンゴを投げ渡す。
「ありがとうございます」
「ホントは切ってやろうと思ったんだが、果物ナイフが重くてな」
「それもですけど、タオルを乗せてくれたの、ケイですよね」
メイはリンゴを受け取ると、シャクッと皮ごと一口齧る。
「熱が出ているみたいだったからな」
「大変だったでしょう」
「まあな」
大変じゃなかったとは言わない。
けど、俺が勝手にやったことだし、誰かに文句を言うようなことじゃない。
「もう熱は下がったみたいですから大丈夫ですよ」
メイはそう言ってくるけど、まだ頬は赤い。
俺が大変だからという理由で遠慮をしているのだろう。
「嘘つけ。病人は余計なことを気にするな」
「ケイ、おばあちゃんみたいです」
「年寄りみたいだと言われて、喜んでいいのか微妙なところだな」
まあ、感謝してくれているようだから、素直に喜んでおこう。
お礼が言われたくてやったことではないけど、感謝してくれるなら、それなりに嬉しい。
「おばあちゃんは、口うるさいけど優しいから、大好きなんです」
「メイは、おばあちゃん子だな」
「・・・はい」
ちょっとずつ齧って、時間をかけてリンゴを食べたメイは、うとうとし始める。
「食べたら、また寝ろ。寝ないと熱が下がらないぞ」
「そうします。お休みなさい」
今度は朝のように我儘を言うことはなかった。
メイは素直に横になると、すぐに寝息を立て始めた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
知識0から創る異世界辞典(ストラペディア)~チャラ駄神を添えて~
degirock/でじろっく
ファンタジー
「【なろうぜ系】って分かる?」
「分かりません」
「ラノベ読んだ事無い?」
「ありません」
「ラノベって分かる?」
「ライトノベルの略です」
「漫画は?」
「読みません」
「ゲーム」
「しません」
「テレビ」
「見ません」
「ざけんなおらあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
サブカル0知識の私が死んだ先で背負わされたのは、
異世界情報を詰め込んだ【異世界辞典】の編纂作業でした。
========================
利己的な人間に歪まされた自分の居場所を守る為に、私は私の正しさを貫く事で歪みを利己的な人間ごと排斥しようとした。
結果、利己的な人間により私の人生は幕を下ろした。
…違う。本当に利己的であったのは、紛まぎれも無く、私だ。間違えてしまったのだ。私は。その事実だけは間違えてはならない。
「……私は確かに、正しさという物を間違えました」
「そうだよなァ!? 綺麗事はやめようよ、ねェ! キミは正義の味方でも何でもないでしょォ!?」
我が意を得たり、と言わんばかりに醜くく歪んだ笑顔を見せる創造主。
そんな主に作られた、弄れるかわいそうな命。
違う…、違う!! その命達を憐れむ権利など私には無い!
「───だから?」
「……へっ?」
「だから、それがどうかしたんですか。私は今度こそ私の正しさを貫き通します。あなたが生み出したこの星の命へ、そしてあなたへ」
彼等のその手にそれぞれ強制的に渡されたとある本。それは目の前に浮かぶ地球によく似た星そのものであり、これから歩む人生でもある。二人の未熟なカミサマに与えられた使命、それはその本を完成させる事。
誰の思惑なのか、何故選ばれたのか、それすらも分からず。
一人は自らの正しさを証明する為に。
一人は自らの人生を否定し自由に生きる為に。
───これは、意図せず『カミサマ』の役目を負わされてしまった不完全な者達が、自ら傷付きながらも気付き立ち上がり、繰り返しては進んでいく天地創造の軌跡である。
遺伝子操作でファンタジーの住人を創るならエルフよりオークの方がよいと思うのでやってみた。
かみゅG
ファンタジー
ゴブリン。
オーガ。
オーク。
エルフ。
ドワーフ。
ファンタジーの住人達。
もし、彼らを創り出すことができるとしたら、どの種族がよいだろうか。
強さを求める者。
美しさを求める者。
様々だろう。
しかし、世界の役に立つという観点で考えた場合、答えは明確だ。
オークである。
「だから、創ってみた」
「なにしてくれちゃってんの、このアホーーーッ!!!」
教授と助手による、特に異世界に転移も転生もしない冒険が、今!始まる!


ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。
目覚めると彼は真っ白な空間にいた。
動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。
神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。
龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。
六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。
神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。
気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる