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第一章 森の中のマンドラゴラ
026.ホントだ!
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「ただいまぁ」
・・・・・
「ただいまぁ」
・・・・・
「ただいまぁ・・・ケイ?」
・・・・・
「えいっ!」
ずぼっ!
「な、なんだ!?」
既視感を覚える衝撃が全身を襲う。
けど、前回のように我を忘れて叫んだりはしない。
目の前に見知った顔があったからだ。
「やっぱり、ケイだ。こんなところにいたんですね」
メイだった。
どうやら、学校から帰ってきたらしい。
一瞬記憶が混乱しかけたけど、すぐに今の状況を把握できた。
メイに土の中から引っこ抜かれたのだ。
前回と違い柔らかい土に植えられていたので、全身から千切れるような音が聞こえてくることはない。
「あ、ああ、メイか。おかえり」
「ただいま、ケイ。お昼寝ですか?」
「・・・眠っていたみたいだな」
昨日の夜は眠れなかったのだが、今日は昼間なのに眠れた。
どうもこの身体は、土の中にいると睡眠を取る状態になるらしい。
人間が布団に入るようなものなのだろうか。
「自分で寝床を作ったんですか?」
「いや、メイの婆さんが作ってくれたんだ」
「おばあちゃんが?」
「掃除してくれたみたいだぞ。礼を言っておけよ」
俺が言うと、メイは部屋の中をきょろきょろと見回す。
「あ、ホントだ!物が動いてる!もう、おばあちゃん!部屋の掃除は必要ないって言ったのに!」
メイは物が動いているのが気に入らないらしい。
文句を言いながら、祖母が片付けた場所から、自分が気に入る場所に戻し始めた。
「おいおい、せっかく掃除してくれたのに、散らかすなよ」
「散らかしていませんよぅ。自分が使いやすい場所に置いているんですぅ」
拗ねたように言うけど、散らかしているようにしか見えない。
なんで大根おろし器を魔術書の近くに置くんだ。
「これで、元に戻りました」
「あーあー、せっかく片付けてくれたのに」
「いいんですよ。私の部屋なんだから」
まあ、自分の部屋は自分の思い通りにしたいという気持ちは、俺にも覚えがあるから理解できなくはない。
大人向けの性教育の教科書の置き場所は本棚じゃなくてベッドの下なのに、何度隠しても本棚に戻っているのだ。
・・・・・
なんで人間だった頃の記憶は曖昧なのに、こんなことだけ覚えているのだろう。
*****
学校の制服から、いつもの魔女衣装に着替えたメイが宣言する。
「さて、ケイ。今日はハーブを採りにいきますよ」
言われて俺は、窓の外を見る。
まだ明るいけど、もうそろそろ夕方のはずだ。
「付き合うのはいいけど、どこまで行くんだ?あんまり遠いと夜になるだろう?」
夜の森は危険だ。
森に詳しいわけではないけど、そのくらいは分かる。
そう思って尋ねたのだけど、メイは想定内だとでも言いたげに自信満々の顔をする。
「安心して下さい。採るのは、夜になってからですから」
「なら、安心・・・じゃないだろ。暗闇の中を歩くのは危ないだろう」
メイの自信満々な顔に一瞬安心しかけたけど、ちっとも安心できなかった。
むしろ、自信満々でそんなことを言うメイに、不安が増した。
「満月の夜に採らないといけないハーブがあるんです。明るいうちに生えている場所まで行って、夜になってから採るから大丈夫ですよ」
「行きはそれでいいだろうけど、帰りはどうするんだ?」
「朝になってから帰ってくるつもりです」
暗闇を歩くよりは、野宿だとしても、じっとしていた方がいい。
移動に関しては、一応納得したけど、まだ問題がある。
「メイは明日も学校じゃないのか?」
どこまで行く気か知らないが、朝になってから帰ってくるようでは、学校に間に合うとは思えない。
俺が言うと、メイがふいっと目を逸らす。
さぼるつもりだったな。
「却下だ。満月と休みの日が重なるときにしろ」
俺は裁判官のように、そう判決を下した。
・・・・・
「ただいまぁ」
・・・・・
「ただいまぁ・・・ケイ?」
・・・・・
「えいっ!」
ずぼっ!
「な、なんだ!?」
既視感を覚える衝撃が全身を襲う。
けど、前回のように我を忘れて叫んだりはしない。
目の前に見知った顔があったからだ。
「やっぱり、ケイだ。こんなところにいたんですね」
メイだった。
どうやら、学校から帰ってきたらしい。
一瞬記憶が混乱しかけたけど、すぐに今の状況を把握できた。
メイに土の中から引っこ抜かれたのだ。
前回と違い柔らかい土に植えられていたので、全身から千切れるような音が聞こえてくることはない。
「あ、ああ、メイか。おかえり」
「ただいま、ケイ。お昼寝ですか?」
「・・・眠っていたみたいだな」
昨日の夜は眠れなかったのだが、今日は昼間なのに眠れた。
どうもこの身体は、土の中にいると睡眠を取る状態になるらしい。
人間が布団に入るようなものなのだろうか。
「自分で寝床を作ったんですか?」
「いや、メイの婆さんが作ってくれたんだ」
「おばあちゃんが?」
「掃除してくれたみたいだぞ。礼を言っておけよ」
俺が言うと、メイは部屋の中をきょろきょろと見回す。
「あ、ホントだ!物が動いてる!もう、おばあちゃん!部屋の掃除は必要ないって言ったのに!」
メイは物が動いているのが気に入らないらしい。
文句を言いながら、祖母が片付けた場所から、自分が気に入る場所に戻し始めた。
「おいおい、せっかく掃除してくれたのに、散らかすなよ」
「散らかしていませんよぅ。自分が使いやすい場所に置いているんですぅ」
拗ねたように言うけど、散らかしているようにしか見えない。
なんで大根おろし器を魔術書の近くに置くんだ。
「これで、元に戻りました」
「あーあー、せっかく片付けてくれたのに」
「いいんですよ。私の部屋なんだから」
まあ、自分の部屋は自分の思い通りにしたいという気持ちは、俺にも覚えがあるから理解できなくはない。
大人向けの性教育の教科書の置き場所は本棚じゃなくてベッドの下なのに、何度隠しても本棚に戻っているのだ。
・・・・・
なんで人間だった頃の記憶は曖昧なのに、こんなことだけ覚えているのだろう。
*****
学校の制服から、いつもの魔女衣装に着替えたメイが宣言する。
「さて、ケイ。今日はハーブを採りにいきますよ」
言われて俺は、窓の外を見る。
まだ明るいけど、もうそろそろ夕方のはずだ。
「付き合うのはいいけど、どこまで行くんだ?あんまり遠いと夜になるだろう?」
夜の森は危険だ。
森に詳しいわけではないけど、そのくらいは分かる。
そう思って尋ねたのだけど、メイは想定内だとでも言いたげに自信満々の顔をする。
「安心して下さい。採るのは、夜になってからですから」
「なら、安心・・・じゃないだろ。暗闇の中を歩くのは危ないだろう」
メイの自信満々な顔に一瞬安心しかけたけど、ちっとも安心できなかった。
むしろ、自信満々でそんなことを言うメイに、不安が増した。
「満月の夜に採らないといけないハーブがあるんです。明るいうちに生えている場所まで行って、夜になってから採るから大丈夫ですよ」
「行きはそれでいいだろうけど、帰りはどうするんだ?」
「朝になってから帰ってくるつもりです」
暗闇を歩くよりは、野宿だとしても、じっとしていた方がいい。
移動に関しては、一応納得したけど、まだ問題がある。
「メイは明日も学校じゃないのか?」
どこまで行く気か知らないが、朝になってから帰ってくるようでは、学校に間に合うとは思えない。
俺が言うと、メイがふいっと目を逸らす。
さぼるつもりだったな。
「却下だ。満月と休みの日が重なるときにしろ」
俺は裁判官のように、そう判決を下した。
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