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第一章 森の中のマンドラゴラ
015.ぶうぅ!
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メイが、ぱくっと自分の分のサンドイッチを齧る。
「うーん」
今度は、俺の分のサンドイッチを齧る。
「うーん」
それぞれを、しっかり咀嚼してから、メイが口を開く。
「同じ味付けをしたんですけどねぇ」
どうやら、メイには味が感じられるらしい。
だとすれば、俺がこれを食べて味を感じないのは、この身体が原因ということになる。
マンドラゴラ。
魔法植物の根の部分であり、手のひらサイズの人型をしている。
地面から引き抜くときに上げる叫び声を聞くと、発狂するか死ぬという言い伝えがある。
詳しいことは知らないけど、魔法薬の材料になるらしい。
それが今の俺の身体だ。
「せっかく作ってくれたのに悪いな。この身体じゃ、人間の食べ物は無理らしい」
女の子の手料理が食べられると思ったのだが残念だ。
いや、残念というよりもショックだ。
人間としての生活において、食べるという行為には重要な意味がある。
単に栄養を取るというだけでなく、美味しいものを食べるという行為は、人生を豊かにするのだ。
それが、この身体になったことにより、失われてしまった。
今後、俺は食べる楽しみを味わうことができないのだ。
異世界に転生したと知ったときよりも、ショックを受けている自分に気付く。
「よかったら、俺の分も食べてくれ」
俺はメイに自分の皿を差し出す。
食べる楽しみを失ったショックは大きいが、だからといって他人の食べる楽しみを奪うつもりはない。
それに、食べ物を粗末にすると罰が当たる。
たとえそれが、自分が食べることができないものだとしてもだ。
そんなわけで、せめてメイが食べているところを眺めることにする。
「そうですか。食べられないなら仕方ないですね」
メイは少し複雑そうな顔をしながらも、俺の分にも手を付ける。
腹が減っていたというのもあるだろうけど、俺の分もぺろりと平らげる。
「ごちそうさまでした」
ほどなくして食べ終えたメイは、食後のお茶を用意する。
俺の前にも、小さめのカップを置いてくれた。
「植物にも水分は必要ですよね」
そう言って、にっこりと微笑む。
やばい、優しさに泣きそうだ。
これで、へっぽこじゃなかったら、惚れてしまいそうだ。
「ああ、ありがとう」
俺は礼を言って、カップを口に運ぶ。
味がしないのはさっきと一緒だけど、身体に染み込んでいく感覚がある。
自分の身体に必要な成分が浸透していくような感じだ。
人間は、足りない栄養素を含んだ食べ物を食べると、美味しいと感じると聞いたことがある。
おそらくこの感覚が、この身体の美味しいという感覚なのだろう。
「でも、植物とはいっても栄養を摂らないといけないですよね。何かケイに食べられるものがあればいいんですけど」
メイは何やら考え込む。
そして、何か思いついたのか席を立つ。
「ちょっと待ってて下さいね」
そのまま扉から外に出ていったかと思うと、しばらくして何かを持って戻ってきた。
「これなら食べられるんじゃないですか?」
目の前に置かれたのは、ころんとした小さな黒い塊だった。
一見すると、チョコクッキーのようにも見える。
試しに口に運ぶと、軽い食感でホントにクッキーみたいだ。
それに、水を飲んだときと同じように、身体に必要な成分が浸透していく感覚がある。
メイの言う通り、これなら食べることができそうだ。
諦めかけていた食事という行為ができることに感動すら覚える。
「これって、何なんだ?」
感謝しつつ、メイに尋ねる。
「これは、ケイフンです」
「ケイフン?」
聞いたことがない食べ物だった。
鶏飯なら聞いたことがあるが、それの親戚みたいなものだろうか。
味を確かめるために、もう一つ口に入れて咀嚼する。
「鶏の糞を発酵させたもので、植物の肥料に・・・」
「ぶうううぅぅぅ!!!」
「きゃっ!」
ケイフンって、鶏糞か!
思わず吹き出す。
「もう、きちゃないなぁ」
俺が噴き出したものがかかったメイが文句を言うが、文句を言いたいのは俺の方だ。
「何てものを食わせやがる!!!」
「何って肥料ですよ。植物にとっての食事でしょう」
「う〇こだろうが!!!」
「う〇こじゃないですよぅ。ちゃんと発酵させてあるんですから。チーズなんかと同じです」
「全然違うわ!!!食べ物を発酵させるから食べ物なんであって、う〇こを発酵させてもう〇こなんだよ!!!」
さっき一瞬、惚れそうと思ってしまったが、やはり気の迷いだったようだ。
このへっぽこに惚れるなんてことは、あり得ない。
「うーん」
今度は、俺の分のサンドイッチを齧る。
「うーん」
それぞれを、しっかり咀嚼してから、メイが口を開く。
「同じ味付けをしたんですけどねぇ」
どうやら、メイには味が感じられるらしい。
だとすれば、俺がこれを食べて味を感じないのは、この身体が原因ということになる。
マンドラゴラ。
魔法植物の根の部分であり、手のひらサイズの人型をしている。
地面から引き抜くときに上げる叫び声を聞くと、発狂するか死ぬという言い伝えがある。
詳しいことは知らないけど、魔法薬の材料になるらしい。
それが今の俺の身体だ。
「せっかく作ってくれたのに悪いな。この身体じゃ、人間の食べ物は無理らしい」
女の子の手料理が食べられると思ったのだが残念だ。
いや、残念というよりもショックだ。
人間としての生活において、食べるという行為には重要な意味がある。
単に栄養を取るというだけでなく、美味しいものを食べるという行為は、人生を豊かにするのだ。
それが、この身体になったことにより、失われてしまった。
今後、俺は食べる楽しみを味わうことができないのだ。
異世界に転生したと知ったときよりも、ショックを受けている自分に気付く。
「よかったら、俺の分も食べてくれ」
俺はメイに自分の皿を差し出す。
食べる楽しみを失ったショックは大きいが、だからといって他人の食べる楽しみを奪うつもりはない。
それに、食べ物を粗末にすると罰が当たる。
たとえそれが、自分が食べることができないものだとしてもだ。
そんなわけで、せめてメイが食べているところを眺めることにする。
「そうですか。食べられないなら仕方ないですね」
メイは少し複雑そうな顔をしながらも、俺の分にも手を付ける。
腹が減っていたというのもあるだろうけど、俺の分もぺろりと平らげる。
「ごちそうさまでした」
ほどなくして食べ終えたメイは、食後のお茶を用意する。
俺の前にも、小さめのカップを置いてくれた。
「植物にも水分は必要ですよね」
そう言って、にっこりと微笑む。
やばい、優しさに泣きそうだ。
これで、へっぽこじゃなかったら、惚れてしまいそうだ。
「ああ、ありがとう」
俺は礼を言って、カップを口に運ぶ。
味がしないのはさっきと一緒だけど、身体に染み込んでいく感覚がある。
自分の身体に必要な成分が浸透していくような感じだ。
人間は、足りない栄養素を含んだ食べ物を食べると、美味しいと感じると聞いたことがある。
おそらくこの感覚が、この身体の美味しいという感覚なのだろう。
「でも、植物とはいっても栄養を摂らないといけないですよね。何かケイに食べられるものがあればいいんですけど」
メイは何やら考え込む。
そして、何か思いついたのか席を立つ。
「ちょっと待ってて下さいね」
そのまま扉から外に出ていったかと思うと、しばらくして何かを持って戻ってきた。
「これなら食べられるんじゃないですか?」
目の前に置かれたのは、ころんとした小さな黒い塊だった。
一見すると、チョコクッキーのようにも見える。
試しに口に運ぶと、軽い食感でホントにクッキーみたいだ。
それに、水を飲んだときと同じように、身体に必要な成分が浸透していく感覚がある。
メイの言う通り、これなら食べることができそうだ。
諦めかけていた食事という行為ができることに感動すら覚える。
「これって、何なんだ?」
感謝しつつ、メイに尋ねる。
「これは、ケイフンです」
「ケイフン?」
聞いたことがない食べ物だった。
鶏飯なら聞いたことがあるが、それの親戚みたいなものだろうか。
味を確かめるために、もう一つ口に入れて咀嚼する。
「鶏の糞を発酵させたもので、植物の肥料に・・・」
「ぶうううぅぅぅ!!!」
「きゃっ!」
ケイフンって、鶏糞か!
思わず吹き出す。
「もう、きちゃないなぁ」
俺が噴き出したものがかかったメイが文句を言うが、文句を言いたいのは俺の方だ。
「何てものを食わせやがる!!!」
「何って肥料ですよ。植物にとっての食事でしょう」
「う〇こだろうが!!!」
「う〇こじゃないですよぅ。ちゃんと発酵させてあるんですから。チーズなんかと同じです」
「全然違うわ!!!食べ物を発酵させるから食べ物なんであって、う〇こを発酵させてもう〇こなんだよ!!!」
さっき一瞬、惚れそうと思ってしまったが、やはり気の迷いだったようだ。
このへっぽこに惚れるなんてことは、あり得ない。
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