森の中のマンドラゴラ~異世界は平和だったので、おっぱいとたわむれることにする~

かみゅG

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第一章 森の中のマンドラゴラ

005.おーい!

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 少女が耳から手を離したことを確認し、俺は筆談を止める。

「まずは自己紹介といかないか?」

 そして、驚かせないように、なるべく穏やかな声で話しかける。
 少女はまだ警戒していたようだが、声を聞いても何ともないことを確認すると、ようやく耳から完全に手を離した。

「自己紹介・・・ですか?」

 少女が微妙な顔をする。
 まあ、分からないではない。
 少女からすれば、俺は収穫物だ。
 収穫物に向かって自己紹介をするなど、普通なら頭のおかしい行為だろう。
 けど、あいにく俺は自分が収穫物のつもりはない。
 それを示すためにも、まずは俺から自己紹介することにする。

「俺は・・・ケイとでも呼んでくれ」

 未だに記憶が曖昧なのだが、その名前は自然と口から出てきた。
 自分の名前を名乗るかのように自然にだ。
 だとすれば、この名前は俺の名前なのだろう。
 少なくとも、愛称のようなものではあると思う。

「ケイですか。その・・・よい名前ですね」

 少女が名前を褒めてくれるが、それがただの相槌のようなものだということは、すぐに分かった。
 会話をするための、ただのきっかけだ。
 だけど、名前を呼ばれると、しっくりくる。
 やはり、ケイというのは、俺の名前のようだ。

「ありがとう。あんたの名前も教えてくれるか?」

 俺が尋ねると、少女は迷いを見せる。
 得体の知れない相手に名前を教えてよいのか迷ったのだろう。
 しかし、最終的には素直に名乗ってきた。

「私はメイです」

 相手はただの植物だからどうとでもなる、とでも思ったのかも知れない。
 でも、気にしないことにする。
 まずは、コミュニケーションを取ることが優先だ。

「メイか。あんたもよい名前だな」

 先ほどの礼とばかりに、俺もメイの名前を褒める。
 何の変哲の無い名前だとは思うが、初対面の相手の名前を貶す理由もない。
 社交辞令なのだが、それでも嬉しかったのか、少女が笑顔になる。

「ありがとうございます」

 俺はあらためて少女、メイを観察する。
 黒いとんがり帽子、黒いローブ。
 帽子の下には白い髪、ローブの下には白い肌。
 外国人だろうか。
 そもそもここは日本、いや地球なのだろうか。
 メイは俺を見てマンドラゴラと言った。
 マンドラゴラとは魔法植物だ。

 魔法。

 地球ではフィクションとしては存在するが、ノンフィクションとしては存在しないものだ。
 つまり、ここは地球ではない。
 だとすれば、

「異世界?」
「え?」

 そういうことなのだろうか。
 いわゆる異世界転生というやつだ。
 それなら俺が人間以外に転生していたとしても、不思議ではない。
 常識で考えたら不思議なのだろうが、俺も中学二年生の頃に病を患っていた身だ。
 多感な時期の少年少女が、ちょっとアレな感じになるあの病だ。
 だから、割とすんなり受け入れることができた。
 しかし、だからこそ不満がある。
 せっかく異世界に転生するなら、

「植物はないだろう、植物は!」
「わっ!」

 俺だって異世界に転生したら、やってみたいことを妄想したことだってある。
 魔法使いや剣士になって、モンスターをバッタバッタと倒したり、ハーレムを築いたりとかだ。
 ちなみに、俺は剣士派だ。
 魔法使いも悪くないが、魔法使いは貧弱なイメージがあるから、剣士の方が好きなのだ。
 それに、ハーレムを築くなら体力はあった方がいいだろう。
 主に夜の生活のために。

 ・・・話が逸れた。

 ともかく、そんなわけで、せっかく転生するなら人間かそれに類する種族がよかった。
 しかし、現実は植物。
 あんまりだ。
 そもそも、転生モノに出てくる女神にも会っていないぞ。
 不幸な事故に遭った人間を転生させる美人な女神はいないのか。
 気付いたら転生していたなんて、そんな不親切な異世界転生なんて納得できるか。

「うぅ・・・大声は出さないって言ったのにぃ・・・」

 おっと、いけない。
 また、メイを驚かせてしまったようだ。
 これ以上、怯えられないように、無理やり笑顔を作る。

「すまんすまん。実は俺には人間の記憶があってな。いつの間にか、こんな姿になっていて、混乱しているんだ」
「人間の記憶?」

 俺を言葉を聞いて、メイが驚いた表情になる。
 そして何やら考え込む。

「マンドラゴラは死刑場の下で芽を出して、絞首刑になった人間の体液で成長すると言われているけど・・・その人間の記憶が宿った?」

 なにやら、ぶつぶつ言っている。

「おーい!」

 声をかけるが、反応がない。

「体液で記憶が宿るとは考えづらいから・・・魂が宿ったのかな?」

 どうも考えに没頭して遠くに行ってしまっているようで、こちらの声は聞こえていないようだ。
 大声で意識をこちらに戻ってこさせてもいいんだけど、怯えられても困るしな。
 さっきの詫びも兼ねて、戻ってくるまで待つことにしよう。
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