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スイート・ツリー
三年目の春(その1)
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「あの、モモ姉さん……」
小娘がおそるおそるといった感じでピンク色に尋ねる。
「うん。間違いないと思うよー」
ピンク色は経験者だ。
その彼女が言うなら、間違いないだろう。
「ウメ兄さんっ!」
「うむ!」
小娘が気持ちを抑えきれないといった感じで、吾輩に声をかえる。
そして、吾輩もそれに応える。
「わたし、赤ちゃんができましたっ!」
「でかしたぞ、スモモ!」
吾輩と小娘の初めての子供。
それができていると分かったのは、春のことだった。
☆★☆★☆★☆★☆★
「でも、ウメさんも手が早いわよねー。親子くらい歳の離れている年下の子を孕ませるなんてー」
からかってくるのはピンク色だ。
言っていることは事実ではあるのだが。
「妙な言い方をするな。だいたい、煽ったのは、おまえだろう」
小娘に好意を向けられているのには気づいていたが、吾輩は迷っていた。
それを後押ししたのはピンク色だ。
「そうよー。ダメだったー?」
くっ。
否定しづらい問いかけを。
「……ダメじゃない」
「♪」
小娘の目の前でダメと言えるわけがない。
吾輩が肯定すると、小娘が満面の笑みを浮かべる。
「わたし、大切に育てますからっ!」
まだ小さい膨らみを、愛おしそうにしながら、小娘が宣言する。
「頼むぞ。だが、一人で頑張る必要はない。もちろん、吾輩も協力するからな」
「はいっ!」
吾輩も父親として頑張らねば。
子育ては初めてだが、情けない姿は見せなれない。
「わからないことがあったら聞いてねー」
「よろしくお願いしますっ!」
ピンク色の提案に小娘が返事をする。
「ウメさんもねー」
「まあ……頼む」
こいつに頭を下げるのは癪だが、背に腹は代えられない。
この歳になるが初めての子供だ。
正直、どうしたらよいのか、見当もつかない。
子供のためなら、吾輩のプライドなど、かなぐり捨てよう。
「でも、羨ましいなー。わたしは、シングルマザーだしねー」
ピンク色が拗ねたように言う。
こいつはいつも一人で子育てしているからな。
今になって思うと、少しは手伝ってやっても、よかったのかも知れない。
種族の違いを理由に手を貸さなかったのを後悔する。
もっとも、ピンク色から助けを求めてきたこともないのだが。
「今はわたしたちがいますよっ! 家族は助け合うものですっ!」
だが、小娘には種族の違いなど関係ないようだ。
助け合うのが当然といった感じで、言い放つ。
子供を持っても純真さを失わない姿は、眩しく感じる。
「ありがとうー。スモモちゃんは優しいわねー。ウメさんと違ってー」
当てつけがましく言ってくるピンク色。
だが、その通りなのかも知れない。
小娘の姿を見ていると、そう思う。
「悪かったな。手伝わなくて」
だから、素直に謝罪する。
悪いことをしたわけではないが、なにもしないことが良いことだとは限らない。
なにもしないことこそが、悪いときもあるだろう。
だが、ピンク色は気にしてないといった感じで、手をひらひらを振ってくる。
「あははー、冗談だってー。わたしがマタニティブルーのときに、話し相手になってくれただけでも助かってたわよー」
そんなことがあっただろうか。
ピンク色は妊娠しているときも態度が変わらないから気づかなかった。
なにかデリカシーのないことなど言っていなかっただろうか。
今更ながらに気になってきた。
「へぇ、ウメ兄さんと、どんなお話ししてたんですか?」
興味があるのか、小娘がピンク色に尋ねている。
なにを話していただろうか。
全く記憶にない。
「いつも話しているようなことよー。ウメさんったら、わたしが妊娠している間も、全然気遣う様子が無かったんだからー」
「ウメ兄さん……」
小娘がこちらを見る視線がなんだか冷たい気がする。
むぅ。
反論したいが、事実だろうから、できない。
確かに、ピンク色が妊娠しているかどうかで、態度を変えた覚えはない。
「いいのよ、スモモちゃん。そのおかげで、わたしもいつも通りの気持ちでいられたからー」
てっきり、からかってくると思ったのだが、意外にもピンク色の言葉は吾輩をフォローするものだった。
「下手に気遣われるより、そっちの方が助かったわー」
小娘は納得いってなさそうな表情をしていたが、本人が言っているからか、否定するようなことは言わなかった。
「そういうものですか」
「そういうものよー」
心なしか、吾輩に向ける視線も和らいでいる気がする。
「でも、わたしは子供の成長を一緒に見守ってくれる人がいいなぁ」
ちらっ、と吾輩の方を見てくる小娘。
言われるまでもない、そのつもりだ。
「まあ、ウメさんとスモモちゃんは、せいぜいイチャイチャしているといいわよー」
「むろん……」
「そのつもりですっ!」
吾輩と小娘の様子がおかしかったのか、ピンク色が楽しそうな表情を見せる。
小娘がおそるおそるといった感じでピンク色に尋ねる。
「うん。間違いないと思うよー」
ピンク色は経験者だ。
その彼女が言うなら、間違いないだろう。
「ウメ兄さんっ!」
「うむ!」
小娘が気持ちを抑えきれないといった感じで、吾輩に声をかえる。
そして、吾輩もそれに応える。
「わたし、赤ちゃんができましたっ!」
「でかしたぞ、スモモ!」
吾輩と小娘の初めての子供。
それができていると分かったのは、春のことだった。
☆★☆★☆★☆★☆★
「でも、ウメさんも手が早いわよねー。親子くらい歳の離れている年下の子を孕ませるなんてー」
からかってくるのはピンク色だ。
言っていることは事実ではあるのだが。
「妙な言い方をするな。だいたい、煽ったのは、おまえだろう」
小娘に好意を向けられているのには気づいていたが、吾輩は迷っていた。
それを後押ししたのはピンク色だ。
「そうよー。ダメだったー?」
くっ。
否定しづらい問いかけを。
「……ダメじゃない」
「♪」
小娘の目の前でダメと言えるわけがない。
吾輩が肯定すると、小娘が満面の笑みを浮かべる。
「わたし、大切に育てますからっ!」
まだ小さい膨らみを、愛おしそうにしながら、小娘が宣言する。
「頼むぞ。だが、一人で頑張る必要はない。もちろん、吾輩も協力するからな」
「はいっ!」
吾輩も父親として頑張らねば。
子育ては初めてだが、情けない姿は見せなれない。
「わからないことがあったら聞いてねー」
「よろしくお願いしますっ!」
ピンク色の提案に小娘が返事をする。
「ウメさんもねー」
「まあ……頼む」
こいつに頭を下げるのは癪だが、背に腹は代えられない。
この歳になるが初めての子供だ。
正直、どうしたらよいのか、見当もつかない。
子供のためなら、吾輩のプライドなど、かなぐり捨てよう。
「でも、羨ましいなー。わたしは、シングルマザーだしねー」
ピンク色が拗ねたように言う。
こいつはいつも一人で子育てしているからな。
今になって思うと、少しは手伝ってやっても、よかったのかも知れない。
種族の違いを理由に手を貸さなかったのを後悔する。
もっとも、ピンク色から助けを求めてきたこともないのだが。
「今はわたしたちがいますよっ! 家族は助け合うものですっ!」
だが、小娘には種族の違いなど関係ないようだ。
助け合うのが当然といった感じで、言い放つ。
子供を持っても純真さを失わない姿は、眩しく感じる。
「ありがとうー。スモモちゃんは優しいわねー。ウメさんと違ってー」
当てつけがましく言ってくるピンク色。
だが、その通りなのかも知れない。
小娘の姿を見ていると、そう思う。
「悪かったな。手伝わなくて」
だから、素直に謝罪する。
悪いことをしたわけではないが、なにもしないことが良いことだとは限らない。
なにもしないことこそが、悪いときもあるだろう。
だが、ピンク色は気にしてないといった感じで、手をひらひらを振ってくる。
「あははー、冗談だってー。わたしがマタニティブルーのときに、話し相手になってくれただけでも助かってたわよー」
そんなことがあっただろうか。
ピンク色は妊娠しているときも態度が変わらないから気づかなかった。
なにかデリカシーのないことなど言っていなかっただろうか。
今更ながらに気になってきた。
「へぇ、ウメ兄さんと、どんなお話ししてたんですか?」
興味があるのか、小娘がピンク色に尋ねている。
なにを話していただろうか。
全く記憶にない。
「いつも話しているようなことよー。ウメさんったら、わたしが妊娠している間も、全然気遣う様子が無かったんだからー」
「ウメ兄さん……」
小娘がこちらを見る視線がなんだか冷たい気がする。
むぅ。
反論したいが、事実だろうから、できない。
確かに、ピンク色が妊娠しているかどうかで、態度を変えた覚えはない。
「いいのよ、スモモちゃん。そのおかげで、わたしもいつも通りの気持ちでいられたからー」
てっきり、からかってくると思ったのだが、意外にもピンク色の言葉は吾輩をフォローするものだった。
「下手に気遣われるより、そっちの方が助かったわー」
小娘は納得いってなさそうな表情をしていたが、本人が言っているからか、否定するようなことは言わなかった。
「そういうものですか」
「そういうものよー」
心なしか、吾輩に向ける視線も和らいでいる気がする。
「でも、わたしは子供の成長を一緒に見守ってくれる人がいいなぁ」
ちらっ、と吾輩の方を見てくる小娘。
言われるまでもない、そのつもりだ。
「まあ、ウメさんとスモモちゃんは、せいぜいイチャイチャしているといいわよー」
「むろん……」
「そのつもりですっ!」
吾輩と小娘の様子がおかしかったのか、ピンク色が楽しそうな表情を見せる。
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