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20話 シスターの憂鬱
しおりを挟む※前回のお話し※
イザベルとアンナがいる玉座の間に着くクルス。
イザベルはクルスに襲いかかる。が……クルスが遊んでいた魔法剣により腕が切断される。
翼を広げ逃げようとするイザベルだが、クルスに魔法で落とされた後、地獄の業火で焼かれそうになる。
イザベルを殺したら金貨を回収出来なくなるとクルスを説得するショウタ。渋々納得するクルス。クルスはショウタに言われイザベルの腕を回復魔法で治す。またアンナを説得してイザベルも含めた四人でグレテンシュタイン伯爵達が待つ聖フランシス大教会へと戻るのであった。
――西の森――
ショウタ達は教会へ戻る為、西の森を歩いていた。
「ぁぁ……疲れた疲れた!」
ショウタは疲れているのか疲れていないのか分からないテンションだ。
「………………」
アンナは不安そうな顔で小刻みに震えている。
そりゃそうだ。自分を攫い、さらには血を吸って殺そうとしたバンパイアと一緒にいるのだから。ショウタに説得されしょうがなく一緒にいるが恐怖でおかしくなりそうだった。
「………………全く……なんでこんなヤツ連れて行かなきゃならないんじゃ……バンパイアじゃぞ?いくら金の為とはいえコイツらは出会ったら逃げるか殺すと相場が決まっておる。関わってはいけない存在なんじゃぞ?」
クルスは呆れながらチラッとイザベルを見る。ショウタの判断に納得いっていない様だ。
「………………」
イザベルは気まずそうに歩いている。手には手錠のような枷がかけられている。
「はいはい……暴れてもクルスさんがいるから大丈夫でしょ?それに魔封じの枷でしたっけ?これがあるから魔法も使えないから安心でしょ?」
ショウタは振り向き後ろを歩いているクルスに言う。
「はぁ……まぁよい…………後でたっぷり絞り取ってやるからな、イザベルよ!」
イザベルを見てニヤっと笑う。
「ヒッ……」
イザベルが悲鳴をあげる。
「さぁ……着きましたよ!あー疲れた……」
ショウタは両手を上げて大きく背伸びをした。
――聖フランシス大教会――
ギィ……
ショウタが教会の扉を開ける。
「クルス様!!ご無事でしたか!!」
グレテンシュタイン伯爵だ。クルス達に気付くなり近寄ってきた。
「当たり前じゃ!たわけ!ワシがこんなザコにやられる訳ないじゃろ?」
クルスは胸を突き出しドヤ顔で答える。
「確かに…………って…………ウワッ!!!シスターイザベル!!なんで此奴がここにいるんですか?」
グレテンシュタイン伯爵はイザベルを見て驚く。
「………………あぁ……これはな……」
クルスはイザベルがここにいる経緯を説明した。
「…とまぁ、こんなところだ。このカスが余計な事しなければ今頃イザベルを消炭に出来たものを……」
クルスは残念そうに話す。
「なんとまぁ…………そうでしたか……」
伯爵は複雑な顔をしている。
「ショウタさん素敵ですわ!!バンパイアに対しても慈悲をかける精神。まさに女神様のようですわ。一先ず、皆様無事でホッとしました……」
セーラはホッと胸を撫で下ろす。ショウタを見て目を輝かせている。
「は……ははは」
ショウタは愛想笑いをする。
いやいや…………セーラに好かれてもな…………
「でも、いくら金貨の為とはいえ何故ショウタさんは身を挺してまでクルス様を止めたのですか?」
伯爵は不思議がる。
「それは………………アンナさんには悪いですけど、シスターイザベルに最初に会った時の事を思い出したんです。最初に会った時のイザベルは、聖歌隊の子供達を見て微笑んでました。あれ思い出したらなんか…………体が動いてました…………アンナさんすみません」
ショウタはアンナを見て言った。
「……………………」
イザベルはハッとした顔をしている。まさかそんな事を言われるとは思っていなかったのだろう。
クルスは思った。
何言ってるんじゃ……コイツは………………
めでたいやつじゃな………………
恐る恐るアンナを見る。
……すると、アンナはプルプル震えている。
「………………はぁ?!何言ってんの?あり得ない…………そんな理由で?…………わたしは殺されかけたのよ?このバンパイアに騙され攫われ、血を吸われこんな最悪な思いまでしたのにコイツは何のお咎めも無し?」
アンナは激昂している。
そりゃそうじゃ…………
真っ当な反応じゃ…………ショウタはアンナと違い身の危険を感じた訳じゃない。
このカスが言っているのは所詮偽善だ。
どうするカス?
クルスはショウタをチラッと見た。
「いや……まぁ……えっと…………」
ショウタは頭をポリポリかく。妙案は特に無いようだ。
「まっ!!アンナさん!!怪我も無く無事で何よりですよ!だから、あんまりショウタさんをイジメるのはやめましょう。ショウタさんのスキルがあったからこそ、アンナさんは見つかった訳ですし。イザベルさんには色々償ってもらいましょ!!さっ!それではイザベルさんに金貨の在処を聞かないといけませんね。」
グレテンシュタイン伯爵はアンナを見て言った。
場の雰囲気を察知してショウタに助け舟を出した。
「…………………………はい」
アンナは伯爵に諭され引き下がる。
アンナとしても怖い思いはしたが、借金をなんとか精算してくれさえすれば良いという思いはあった。
「イザベルよ!!さっさと金貨の場所に案内しろ!!」
クルスはイザベルに言った。
「あ…………はい…………こちらです」
イザベルは皆を教会の地下へと案内した。
しばらく進むイザベルが壁の前で立ち止まった。
「ん?…………どうしたんじゃ?イザベル?」
クルスがイザベルに尋ねた。
「…………少々お待ちください…………」
イザベルは、そう言うと壁掛けの松明を下にずらした。
ガコンッ………………
すると………………
グゴゴゴゴゴ………………
岩壁が横にスライドし、扉が現れた。
イザベルがドアを開ける。
そこには……数えきれないほどの財宝が隠されていたのだ。金貨200枚どころでは無い。
「は?」「え?」
イザベル以外の一同は驚いた。
「な……な……なんじゃ?これは?金貨200枚だけじゃ無いのか?」
クルスがイザベルに聞く。
「…………はい……わたしが今まで集めた財宝になります。もうわたしには必要ありません。金貨で言うと2,000枚はございます。こちらを全て差し上げます……命を助けて頂いたお礼です」
イザベルは皆に一礼をする。
イザベル曰くこの金は各地に散らばったバンパイア族をまとめる為の復興の資金として貯めていたらしい。教会を隠れ蓑に使っていたのだ。
だが、その計画もクルスに関わってしまったばかりに破綻となった。
奇しくもクルスは借金を回収するだけで無くバンパイア復興の野望も阻止することになったのだ。
「溜め込んだのぅ…………呆れる………………だが、ワシはこんなにいらん………………金貨210枚で十分じゃ。それ以上の利息を取る契約では無い、残りはアンナにでもやれ!コイツの慰謝料じゃ!」
クルスはイザベルに言った。
「………………………………あー!!もう!私もいらない!!ここでこれ貰ったらなんか後味悪いわ!!それに、今回の件で良く分かったわ。楽してお金を稼ごうとすると痛い目見るって…………自分の力で稼いだお金に意味がある気がする。これからはズルせずに自分の力で頑張ってみる。なんか………………ショウタさんの馬鹿みたいなお人好し見てたら自分がちっぽけに思えて恨んでるのがバカバカしくなったわ…………このお金は教会の為に使うべきよ!教会にいる子供達の為に働くシスターの為に有意義に使って!!もう悪さしないでよイザベル!!」
アンナはイザベルにクギを刺す。
「………………ありがとう」
イザベルはアンナに許してもらい嬉しそうだ。
「まぁ……アンナったら……後で後悔しなくて?」
セーラがアンナを茶化した。
「しないわよ!!実際はクルスさんに回復してもらってピンピンしてるし、わたしが貰っても有意義に使えないもの!借金さえ無くなればどうでもいいわ!」
アンナは少し元気になってきたようだ。
パンッ!!
グレテンシュタイン伯爵が手を叩いた!!
「…………皆様和やかな中、申し訳ありません。こちらの金貨2,000枚は、教会の運営費に使うという事でよろしいですね?クルス様、アンナ様?」
伯爵はアンナとクルスに尋ねる。
「ああ」「ええ」
クルスとアンナが返事をした。
「はい!それでは、金貨の管理はわたくしグレテンシュタインが担当致します。後、イザベルについては完全にお咎め無しで今まで通りとは参りません。パラディソスの法律に従い厳正に処罰致します。良いですね?イザベル?」
伯爵がイザベルに聞く。
「…………もちろんです。命があるだけで十分です」
イザベルが答えた。
こうして、シスターイザベルが引き起こした一連の出来事は一旦終結となった。
セーラは聖フランシス大教会に残りシスターを続ける事にした。なんでも最初は嫌々だったシスターの仕事も自分に合っていると感じたらしい。
イザベルがいなくなった為、教会での地位を確立し今では付近のシスター達を統括するエリアシスターという役職に就いたとの事。…………なんだかエリアマネージャーみたい。
「あー忙しい…イザベルがいてくれたらな。私に出来るかしら‥‥‥憂鬱‥‥」
セーラは窓辺でボソッと呟いた。
アンナは、あの後、村を離れ街で暮らし始め今は「情報屋」に弟子入りしているらしい。
詳しい事は分からないが、今回のバンパイア詐欺事件を経験した事で怖いものが無くなり体当たり的な取材を武器に有益な情報を得ているらしい。
グレテンシュタイン伯爵は、自身が政府側の人間という事もあり、今回の一件を政府に報告。
教会の中にバンパイアが紛れ込み、また一般社会に溶け込んで誰も気付かなかった点を国を守る立場としては反省すべきと進言。監視体制を強化を推進。特に今回のバンパイアのようなモンスターを検知する手段が無い点を問題視。人型変身系のモンスターを探知するシステムの構築を進めているとかいないとか…………
イザベルはというと、政府の隔離施設で厳重な警備のもと収監されているらしい。
そして………………
――プリティファイナンス――
「いや~………………疲れた。マジ疲れた。ハード過ぎません?この仕事?」
ショウタは自身の机の上で項垂れている。
「…………こんなんばっかだったらワシおかしくなるわ……はあ……」
クルスも深いため息をつく。
「はぁぁぁ?元はと言えばクルスさんのせいでしょ?アンナさんが事務所に来た時にニセモノだって分かっててお金貸したんですから!分かってます?僕のスキルが無かったらアンナさんも見つからなかったし、アンナさん連れ去られた時も僕のおかげで助けられたようなもんじゃないですか!!」
ショウタはクルスにキレる。
「は?なんじゃ?キサマ?生意気じゃな!!ちょっと人探しが出来るからって調子に乗るんじゃないわい!消えるか?あぁん?消されたいのか?」
クルスはショウタを睨み手からバチバチと魔法を出している。
「あぁん」
「はあ?」
クルスとショウタが睨み合っている……………………
1章 入社試験編 おわり
――パラディソス ギルド――
ガチャ……
カランコロン…………
「あら…………いらっしゃいクルスちゃん♪」
受付の女性が肘をつきながら言う。
「……ちゃんはヤメロ!気持ち悪い!クソババアが!」
クルスは女性に向かってキレながら受付前のカウンター席に座る。
「あら……あなたなんか、私よりおばあちゃんのクセにヒドイわぁ………………で?今日はどうしたの?」
セクシーな声でクルスを茶化す。
……ゴト
クルスの前に牛乳が入ったグラスが置かれた。
「……別に…………」
クルスはグビグビ牛乳を飲む。
「わかりづらい人ね……全く…………あれでしょ?ショウタくんでしょ?トガシショウタ……どう?あの子?使える?」
女性は、ゆったりとした口調でセクシーに尋ねる。
「………………あぁ……ちょっと人が良過ぎるが、その内化けるじゃろう……」
グビ……牛乳は飲み終わった様だ。
「なら……良かった…………」
どういう事だろうか。
クルスは、いつもの雰囲気とは違う。
受付の女性は、クルスとは古い友人だろうか。
しかもショウタの事を知っている。
クルスもショウタに何かを期待している?
これから何が起きるのだろうか………………
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