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14話 「……それでは……ご用件を伺います……」
しおりを挟む――グレテンシュタイン邸――入口――
グレテンシュタイン邸はパラディソス市内の高級住宅街に建っている。
見事に手入れされた庭木が屋敷の外からでも伺える。
伯爵の銅像だろうか。本を手に取り、クラーク博士像の様なポーズをしているように見える。
なんにしても、これぞ貴族の屋敷といった豪華な外観だ。
クルス、ショウタ、アンナの三人は屋敷の前に立っている。
「うわぁ…………凄い屋敷ですね。さすが貴族だ……」
屋敷を目の当たりにしてショウタが言った。
目の前には、重々しい鉄の門扉があり、がっしりとした体格の衛兵が門扉を守るように立っていた。
「さっ!さっさと中に入るかの…………おっ!あれが例の衛兵じゃな……」
クルスは衛兵を見つけると、さささっと近寄って行き、話しかけた。
「やあ!こんにちは!モブ衛兵くん!!今日も良い天気じゃな!!!」
衛兵にニコニコ話しかけるクルス。
「こんにちは?………………え?……すごい曇ってるけど……ってオイ!!何の用だガキ!!ここはグレテンシュタイン様のお屋敷だぞ!!しっしっ!ガキは、あっちで遊んでろ!」
衛兵はクルスを手で追い払うかのような仕草をした。
アンナの言う通り口が悪い衛兵の様だ。
イラ……
クルスのイライラゲージが少し上がった。
ん?おいおい……キレるなよ……クルスさん。
ショウタはヒヤヒヤしながらその様子を見ていた。
「まぁまぁ、そう怒るでない。ワシはペクニーアエ=コンメリクム=クルスという者じゃ。当主のグレテンシュタイン伯爵に用があって来たんじゃが、伯爵はいるかの?もし居るなら、ワシの名前を言えば分かる筈じゃ。さっ!通してくれ」
クルスは衛兵の態度にイライラしつつも、穏便に済ませようとした。
しかし……
「オイオイ!ガキの遊びに付き合ってられる程、こっちは、ヒマじゃねーんだよ。あっち行って遊んでろ!!ったく近ごろのガキは…………親のしつけがなってねー…………ブツクサブツクサ」
衛兵はクルスを邪険に扱いブツクサ文句を言った。
イライライライライラー!!
ピコーンッ!!
クルスのイライラゲージは限界を超えてしまった!
「おぬし!!死にたいようじゃな?」
クルスは度重なる衛兵の態度に完全にキレている。
目を見開き、瞳孔が開ききっている。
指先からはアンナを脅した時のようにバチバチと音を立てて電気がほとばしるのが見える。
おいおいおいおい!
なんか指から電気出てるぞ!
ヤバい!ヤバい!まさか本当に衛兵殺す気じゃ無いだろうな!!
「はいはい!分かった分かった」
衛兵はクルスの指先が見えていないのか、遠くの方を見つめクルスを適当にあしらう。
「ちょ!クルスさん……マズイでしょ!それは!!」
ショウタがそれを見てクルスを宥める。
クルスは、今まさに雷撃を放とうとしている。
その瞬間………………
「何ごとだ!!!騒々しい!!!」
屋敷の中から身なりの整ったダンディな男性が出てきた。グレテンシュタイン伯爵だ。
伯爵は衛兵に状況を尋ねた。
「…………あ……申し訳ございません。旦那様……このガキ……いや、子供が旦那様に用事があると言って離れようとしないものですから……つい大きな声を出してしまいました……」
モブ衛兵は、伯爵に怒られ落ち込んでいる。
「……なんだ……そんな事か……まったく……子供相手にムキになるなんて情け無い!!!…………それで?この方達が私に用があるのかな?えっと…………お嬢ちゃん?お名前は?」
伯爵は子供相手にムキになる衛兵に呆れた様子だ。
そして、クルスの目線に合わせてしゃがんで名前を尋ねた。
「グレテンシュタイン伯爵じゃな?ワシは、ペクニーアエ=コンメリクム=クルスという者じゃ。このバカ衛兵は人の話しを聞かない役立たずじゃ……」
クルスは少し不機嫌な様子で名前を名乗った。
「!!!?クルス……様?!!」
クルスの名前を聞いた途端、グレテンシュタイン伯爵の顔色が変わった。
「な?なんだと!!生意気な口を聞くんじゃない!!ガキ!!」
衛兵はクルスに悪態をつく。
「キミ!!!!!黙らないか!!生意気な口をきいているのはキミだよ!!………………申し訳ございません!!クルス様!!クルス様とは分からず無礼を働き申し訳ございません。また、部下の非礼を何卒お許し下さいませ。」
伯爵はものすごい勢いで衛兵を叱った。
と思ったらすぐに土下座をしてクルスに謝っている。
は?どういう事だ?
ショウタ、アンナ、衛兵は目をまんまるにして、驚いている。
「よいよい!頭を上げるのだ!グレテンシュタイン公よ。ワシもいきなり押しかけて悪かったしな。ワッハッハ!!」
クルスはいつもみたいにバカ笑いをしている。
「ありがとうございます。クルス様。あの……私に用があるとの事ですが、屋敷の中で詳しく伺いますのでどうぞこちらへ……汚い屋敷ですが、どうぞ」
伯爵は丁寧にクルスに言った。
クルスが言っていた通り名前を出しただけで屋敷に入る事が出来た。
まさか本当に入れるとは思っていなかった。
しかも、グレテンシュタイン伯爵のクルスに対する対応。あの貴族が?何で?
「話しの分かるヤツじゃ。見込みあるぞ。お主。この者達もワシの連れじゃ。入ってもいいかの?」
クルスはショウタとアンナを指差して言った。
「お褒めに預かり光栄です………………勿論でございます。……ん?……あなたは…………あっ!そうだ。村でセーラを案内してくれたドルフさんの娘さん……確か……アンナさん!!…あなたがどうしてクルス様と一緒なのですか?」
伯爵はアンナを思い出した様だ。
そしてクルスに尋ねた。
「……………………」
アンナは下を向いて黙っている。
「今日は、その件で来たんじゃ~!!さっ早く広い応接間に案内するんじゃ!高級な茶菓子と高級な紅茶も忘れるなよ。ま……コイツらは水だけで良いからな」
クルスは伯爵の問いを適当に流しルンルンで歩く。
は?水?
余計な事言うんじゃないよ!!
本当に水だけしか出て来なかったら怒るからな!
ショウタは心の中でクルスに対する怒りをぶちまけた。
それにしてもグレテンシュタイン伯爵のあの反応……
アンナさんと久しぶりに会ったみたいな反応だったな……どういう事だろうか。
ショウタは歩きながら首を傾げた。
クルス、ショウタ、アンナの三人はグレテンシュタイン伯爵についていった。
外から見ても広い屋敷だとは思ったが、中に入るともっと広く感じる。
先が見えない程長い廊下にはフカフカの絨毯が敷き詰められており、逆に歩きづらい。
歩きながらショウタの頭の中は色んな疑問でいっぱいだった。
伯爵のアンナに対する反応
伯爵のクルスに対する反応。
どちらもよく分からなかった。
まぁ……今は考えてもしょうがない。
これから聞けば分かる事だ。
しばらく歩いて、応接間に着いた。
部屋に入るとメイドだろうか。
三人程女性が立っている。
キラキラのシャンデリアに不必要にクネクネした足のついた家具。
薔薇の刺繍が施された絨毯。部屋一面に敷き詰められている。
中央にはガラス製の大きなテーブルと、これまたピンク色の薔薇の刺繍が施されたフカフカのソファがあった。
ガラステーブルの上には、三段のアフタヌーンティースタンドと紅茶が用意されてある。
スタンドにはクルスの要望通り、高そうなお菓子が綺麗に並べられている。
いつの間に用意したのだろうか。
ものすごい連携プレーだ。
クルス、ショウタ、アンナの三人がソファに座り、その目の前にグレテンシュタイン伯爵が座った。
「……それでは……ご用件を伺います……」
伯爵はクルスに尋ねた。
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