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雨の日の忘れ物
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どこの町にでもある駅前のジャズ喫茶。
そこで俺たちジャズバンド「ザ・レッドパークジャズ」は、ミーティングを行なっていた。
「おい、ランボー、お前はさ、ジェリー・マリガンみたいに、そのバリトンサックスを、
吹きまくれねぇのかよ」
「だ、駄目なのか?」
「いや、駄目じゃない。が、その胸板で支えるサックス、まだ、熱い息吹が何か足りないんだよな。
こう、もっと、
サディスティックにさ、吹きまくってくれよ」
「あぁ、イエッサー」
「フェリー、お前もさぁ、トロンボーン吹く際のスタンスって、パワーよりもスピードだぜ」
「イ、イエッサァァ」
「お前ら、ホント、頼むぜ。音楽ってやつを、ホント、わかってんのかよ。そんなこと、俺に言わせないでくれ」
俺、篠原聡一郎は、拳を振り上げて、テーブルを叩いた。
「イ、エ…ッサ…」
力無き声が響く。
そして、その声の後、メンバーたちは、沈黙に沈黙を重ねている様子だった。
静寂だけが重い空気と共に広がっていく。
スッと立ち上がったドラムのダンクこと松原武が、
スティック片手に店の出入り口へと歩きだす。
続いてフェリーこと竹中幸二。
サリーこと麻衣子も続いた。
どうも、俺のスタンスが気に入らない様子だ……。
その場に残ったのは、トランペットのハックこと村上繁だけだった。
と、俺が彼に視線を向けた途端、靴紐を直し、席を立った。
「いいさ、いいさ、俺の、この混沌に紛れながらもな、
純度を保ち続けようとする
熱いソウルのわからないやつらなんて、
どこにでも、いっちまえ」
バンド・メンバーたちの背を見送りながら、
俺は毒を口にしてしまった。
しかし、実は、毒舌な俺が最近、嫌われている理由は、毒だけではないんだ。
……それは、この左腕のせいだ……。
わかってる、みんな、わかってるけどさ、仕方がないだろう。
う、うぅ。
一時間後、飲んだくれちまった俺に向かって、マスターが、「そろそろ閉店だよ」と、肩をゆすった。
そして、こう続けた。
「聡一ちゃん、今日のはまずいよ、ありゃ」
酔ったせいか、マスターの髭が二重に見えて、それが、さらに俺を酔わせる。
「マスター、これが俺なんですよ、情けないことなんて、わかってるんですよ……情けないことぐらい」
翌日。
大学帰りには必ず立ち寄るジャズ喫茶「スウィング・ヘル」へと今日も立ち寄った。
本当はカタカナでベルだが、いつしか誰かが看板の濁点を何かで消す悪戯をして、しかし、
マスターが、それも面白いと、字をそのままにしているから、今では、
俺たちの間では、スウィング・ヘルと呼ばれている。
そう、昨日、酔いつぶれた店さ。
ここまでの道中、少し雨があり、俺は濡れた紙を、自分のイニシャル入りの青いハンカチで拭いた。
そして、定番と呼んでいる一番隅の席に腰かけた。
「痛っ」
左腕を、数度ほど撫ぜる。
包帯を巻いたこの左腕を……。
この包帯の原因となる出来事が起きたのは、調度、半月ほど前のことだ。
見通しの悪い交差点を、愛車のべスパで走っていた時さ、
ちょうど交差点を左折した時だった。
右折してきた白いスポーツカーに衝突されちまって、
この俺の黄金の左腕にさ、全治一ヶ月の傷を負ってしまったんだ。
さらにね、悪いことに、俺を轢いたそいつは、そのまま轢き逃げをし、ドロンしちまったんだよ。
正確には、二人かな。確かに、車内には二人いたような気がする。だけど、二人の性別や特徴までは、
覚えていない、ただ人らしき姿が運転席と助手席にあったぐらいしか。
しかし、クソっ!
まったく、ツイテない!
それにだ、気を失いかけていた俺は、
その車のナンバーを目撃する余裕もなく、その後、轢き逃げ犯も捕まらないまま、
数週間が過ぎてしまったという最悪の顛末というわけさ。
だから、ここ最近はずっと、日々葛藤の連続だった。
それまでは、休むことなく練習していたピアノの個人レッスンも中断を余儀なくされちまったし、
気分はどんどん黒鍵のような音色に包まれていき、ダウン、ダウン、ダウン。
で、俺の毒舌にも、拍車が来て、昨日のミーティングでの、こじれへと繋がる。
いい加減、この神経が、まいりそうだよ。
気持ちを鎮められるものが、どうしても今は、見つからない。
俺は、暗い目を、店内にあるグランドピアノに向けて、
テーブル上のアメリカンを飲み干した。
そして、翌日も、その店に一人で行き、席に座らぬままに、
カウンターにいるマスターへと、アメリカンをオーダー。
相変わらず仲間は、誰一人、姿を見せない。
LINEの返事さえなくなっちまった。
もうバンドも解散か……・
ふといつも俺が腰かける、俺の中では、定番にしているテーブルの端に、
一羽の折鶴が置かれていた。
「誰かの忘れ物だろうか?
だけれど、
この時間帯にここへ座るのは、マスターも気遣ってくれているせいか、
優先的に俺を座らせてくれるし、
ここ半月、この時間帯に、ここに座れなかったこともなかったから。
この時間帯に来た常連が忘れていったわけでもないだろう。
まさか、怪我をした俺に宛てて、千羽鶴のお見舞いでもこっそり誰かが残してきたとでも?
まさか」
折鶴を見つめ、掌に載せてみる。
「いや、メンバーか、誰かが、お見舞いに置いていったんだろう。
俺がいつも立ち寄る時刻を知っている誰かが。その少し前に来店して、
ここに置いていったんだ。きっと」
んっ、何だろう。
この紙質。何かザラザラしている?
気になってしまい、後で戻せばいいかと、
その折り鶴を、元の用紙の形に戻している自分がいた。
もし、この折り鶴が、俺に宛てたお見舞いでないのなら、よくはない行為だが、
おそらくは、お見舞いだと予感したし、
何故かそうしたくなったのだ。
すると、その折鶴はレシートを折った物であった。
その合計金額は三百五十円。
ここのコーヒーの値段ピタリだな。
「だけど、レシート製の折鶴だなんて、安上がりなお見舞いと来たもんだ」
そう呟いた俺だったが、
内心はまんざらでもなかった。
背後のBGMに「くるみ割り人形」のジャズバージョン。
それが何故か、大きく聴こえた。
一通のLINE
メンバーか?
中身は、隣町に住む叔母からの伝達だった。
花の里で、今度、お茶会をするから、お茶の好きな同級生がいたら、伝えて。
それに、あなたも久しぶりに、よければ顔を見せて。娘の恵理子も今回は、お茶をたてるから。
とあった、そうか、恵理子が。
だけど叔母さん、俺は生憎、茶道には興味ないんだ。
だけど、花の里かぁ、いいところでやるんだな。
「花の里」とは、俺の住む街で一番大きい花園だ。
そして、大きな括りでも有名で、先月は全国的に取り上げていて、
今月から、大規模なキャンペーンをし始めたのか、最近、しょっちゅう、
テレビで、花の里を観る機会が多いことを、ふと思い出した。
とはいえ、茶道の会は、ちょっとね。
しかし、結局、今日も誰も来ない様子だな……。
珈琲を飲み干し、店を出る際、俺はマスターに折り鶴のことを尋ねてみた。
が、マスターの返答は、期待するものではなかった。
「今日、そこには、ここ一時間は誰も座ってない。
第一、その一番端の席はさぁ、
君が来るまで、人を通さないよう気遣ってやってること、この間も、話しただろう」
「あ、あぁ、マスター。それには、感謝していますよ。
じゃあ、その前に座った人は?」
「君が来る前、一時間ぐらいは、そこは空けているけど、その前は、確か、カップルが座ったように思う。
そうだ、そういえば、そのカップル、ジープ愛用者だから、また今度、ジープを買うとかで、少しお金のことでもめていた様子だったな。
そうだ、色にもこだわりがあって、白い車は汚れが目立つから乗ったことがない、アウトドア派には、ジープが一番だとか、俺もジープが好きだからさ、ちょっと、気になっちゃって」
「ありがとうございます。では、そのカップルがまた来たら、この折り鶴を、忘れてないか、
尋ねてもらえますか?」
俺は、元の形に戻した折り鶴をマスターへと預けて、店を出た。
翌日もジャズ喫茶「スウィング・へル」へ顔を出す。
相変わらず、仲間は一人も姿を見せやしない……。
気分はロンリー。
まるで、蓮の葉に包まれてるとでも言えばいいか?
黄昏れた、刹那感が、俺の心を綴んでいく。
んっ!
お、折鶴だ!
今日も俺の座るテーブルに折り鶴が置かれている!?
俺の半指定席である、このテーブルの上に、
また何故に?
今日も丁寧に折られている真っ白い折り鶴が!
人一倍好奇心旺盛な俺は、何故か、
また折り鶴を広げてみた。
すると、またレシートで、
店名に『ブリキ館』とあった。
ブリキ、あぁ、駅前の雑貨屋だな。
商品名の記録はないが、合計金額は五百十円であった。
ふと、そのレシートに、品のいい香りがほんのり残っていた。
これは、女ものの香水だな。
一体、どんな女が置いていったのだ?
今日は、そのレシートを写メしてから、
マスターに尋ねる。
「マスター、今日も折り鶴が……」
マスターも、不思議がり、今日は昨日のカップルもいないし、
もし、今日の折り鶴もカップルが忘れたなら、今日も来店しているはずだし、
カップルからは、香水の香りはしなかったと言うので、今日、置いた人物は別人のはずだ。
いや、あるいは、
同じ人物で、それはカップルではなく…だからカップルが来店せずとも、
その人物が置いていったのでは?
では、この席に今日座った人物は?
それが、マスターの話では、数時間、誰も座っておらず、
実は今日は、用事でバイトのミキちゃんに任せていたので、そこに座った人を把握できないと。
俺は、メイドのミキちゃんに尋ねたが、そこに座った人は、今日は高齢男性一人ぐらいで、
その人は、手が震えている人で、とても、そんなに綺麗な折り鶴を折れるように見えないと。
手にした雑誌でさえ、綺麗にページがめくられていなかったので、
少し雑誌が傷んで、それを記憶していたと。
では、テーブルはよく拭いたかを尋ね、雑誌のことを記憶しているぐらいだから、
それは、当然との返答であった。
翌日。
やはり折鶴がいつもの席に置かれていた!
そして、さらにその翌日も!
そして、翌日も、折鶴が置かれてあったのだ。
そして、またどの日も、その席に座った人はいないか、テーブルは意識して拭くようにしているので、
俺が来る前には、誰もそこに何かを置いて帰った者はいないはずだと。
これは絶対に、俺へ宛てたお見舞い。
にしては、遠回し過ぎる。
だけどメッセージには違いない。
そして、その人物は、俺と今、顔を合わせたくないことで、
他のテーブルにいたのに、途中、席を立ち、そこに折り鶴を置いていったんだ。
そういえば、初日は、カップルがその席に座っていたと言ってたな。
いや、違う。そのカップルは、白い車には乗らないと言っていたらしいから、
轢き逃げした輩ではないだろう。
あの時のスポーツカーに色は、白だったのだから。
折り鶴が置かれて一週間を経た。
そして、テーブルに置かれた折鶴は、その日で終わった。
そう、一週間目で、ぷっつりと途切れたのだ。
ただ、ここ一週間で、少し気になった人物がわかった。
マスターが言うには、
いつもサングラスに帽子を被った女性が、毎日そういえば、夕方頃、来店していたと。
俺が来店する一時間ぐらい前に。
でも、そのテーブルに座ることがないので、特に気に留めなかったと。
では、その女性は、マスターがトイレに行ったり、目の届かない時に、そこに折り鶴を置いたのだろう。
ミキちゃんは、毎日いないので、今週は三日しか出ていないらしく、その女性に、気を留めることもなかったと。
しかし、俺が来る前に、折り鶴を置いて去る
なんて、用意周到すぎるだろう。
その夜。
ワンルームマンションの中央に、自分で折り鶴を折って、
並べてみた。
そうだ。
ここ一週間、折り鶴は全てレシートであった。
そのレシートの写メを確認してみよう。
なにか、わからないだろうか?
一日目は、コーヒーと同額で、写メは撮影していないが、合計額だけは記憶している。
テーブルにオブジェのように並べた七つの折り鶴の頭をポンポンポンと、叩いていって、
俺は、写メを、眺めた。
だけど、何故、レシートなんだ?
しかも、店は不統一だ。
んっ、そういえば値段が高いのがあったな。
レシートを整理してみよう。
一日目のレシート
合計金額は三百五十円だった。
二日目
五百十円
三日目
千四百五十円
四日目
七千円
やはり、急に高くなっている!?
五日目
一万円
六日目
一万七千円
七日目
五万一千円
五万!
いや、その五万の買い物をして、それでレシートを折り、
あのテーブルに置く意味は?
おかしい。
しかし、記録オタクだから、レシートの金額を写メした俺だけど、
でも何故に、日を追うごとに増えているんだ?
店も商品も、どれも関連していない!
そうだ、特に四日目辺りから急に金額が増えている。
何故だろう?
独り言を繰り返した。
だけど、不思議なことに、折鶴を見ていると、
何か心の底から癒される、そんな魔法のようなパワーに、俺は包まれるようであった。
そうだ、最後のレシートの合計金額の横に、
小さな文字で+と記載してある。
そして、そういえば、そのレシートの裏には手書きで「fountain」と「30日」と書かれていたんだ。
だけど、意味がわからない。
噴水、何のことだ?
しばらく考え込んだ俺は、
ふと、
もしや、これを足せってことなのでは?
早速、計算機アプリを開き、計算してみる。
そして、30日と言えば、三日後だ。
あっ!
三日が過ぎた。
月日は、六月三十日
午後の講義が終わり、
今日に限って俺は、ジャズ喫茶「スウィング・へル」には立ち寄らず、
喫茶とは逆の方角にある駅へと向かった。
そして、駅前で「花の里」方面行きのバスへと乗り込んだ。
車窓には、雨粒。
降ってきたな。
バスは、しばらく、荒い道へと入り、かなり先の停留所である「花の里」に着いたので、
俺は、片手で料金箱に小銭を投げて、傘を差しながらバスを降りた。
そして、花壇の続く道路沿いを進む。
そして、花園の入口前へと立った。
入場料を払い「花の里」へ入る。
ここには、久しぶりに来た。
雨の方は、小降りになってくれた。
しかし、歩く度に、まだまだ靴のつま先辺りは濡れてしまうが、
そういえば、この靴は、
今のバンドを結成した時にさ、
記念品として買ったコンバース・ワンスター。
それが、今やボロボロだ……。
俺は、行先を念頭に、前方へ前方へと足を進めていく。
噴水の辺りまで来た頃だった。
赤い傘を差す二〇代半ばぐらいのサングラスの女性が立っていた。
そして、その女性の立つ少し前で足を止めた俺は、
噴水の芯の方へと視線を向けて、
雨と絡み合いながら落下。
そして、浮上を繰り返す
水しぶきを見つめた。
一分ほどの静寂。
地面に響くハイヒールの足音が、俺の方へ近付いてきた。
「どうも、すみませんでした。
そして、ここがわかってくださり、感謝いたします」
赤い傘に、赤いスーツを着た長身女性は、サングラスを外して、深く頭を下げた。
「じゃあ、やっぱり、あなたが、この俺と接触した、白いスポーツカーのドライバー」
「はい、本当に、申し訳ありませんでした」
「しかし、何故、逃げたりしたんです!
それに、逃げたと思えば、暗号のように、折り鶴を、俺に贈り、しかも、正体を明かすこともなく、
一週間も。だけど、一つわからないことがあります。
あの車には、二人で乗っていましたよね?」
「……顔も、観たんですか?」
「いえ、観てないんですよ。だけど、あの時、二人でいたでしょう? もう一人は」
「実は運転していたのは、私の彼の方だったのです。
そして、その彼が、行方不明になってしまって。あれから」
「……そ、そうなんですか。では、あなたは、あの時、助手席にいた人ですね」
「は、はい」
「だけど、行方不明とは。この俺を轢き逃げしたことが原因ですか?」
「そ、それが、そうではないんです。
登山に行った折に、遭難してしまったんです」
「そ、遭難」
「はい。でも彼がいなくなったからというわけではなく、
私はずっと、彼に謝罪すべきと言い聞かせたんですが、聞いてもらえなくて」
「それで、俺に、謝罪のメッセージを、残した」
「はい。しかし、直接、会う勇気がなく、
それでも、何かしなくちゃあと。そして、その折り鶴のメッセージが届かなくても、
また、その時は、時を開けて、他のメッセージを送ろうと、思っていたんです」
「そう…だったんですか」
「でも、よく、わかってくださいましたね」
「えぇ、
最初は、レシートで作った折鶴なんて、
変わってるな。
そんな感想を持ったぐらいでしたがね、
最後のレシート。
その合計金額の隣に書いていた+というマークを見た時、もしやとひらめき、
数字を足してみてから、
すべてを理解しました」
「頭の良い方で、よかったです」
「……。だけど、本当に、遠回しな謝罪ですね。
そのシートの合計部分を足すと、
計八万七千三百十円だった。
この場所を示す暗号文の答えであるということに、たどり着いたんです。
八万七千三百十円=87310
はなさと?
もしや、この街で有名な
花の里
そして、その横の「fountain」「30日」
噴水。
ここ、花の里の 噴水
ではないかと、直観したのです。そして、月日は一番近い30日。そう、今日だと」
「お見事です」
「だけど、肝心の轢き逃げ犯本人がいないんじゃあ……」
「本当に、申し訳ありませんでした。彼に代わり、心からお詫びいたします」
「あなたが、そこまで謝ることはないですよ。
悪いのは彼の方でしょう」
「……」
「あなたからの謝罪は、もういいです。
そうえば、あの折鶴、綺麗に折られていましたね。
芸術的センス。を、俺は感じました」
「さすが、ミュージシャンですね」
「それも、ご存知でしたか」
「はい。篠原聡一郎さんのアルバムも、買わせて頂きました。素敵なピアノです」
「CDをですか?」
「はい」
「そ、それは、どうも。しかし、プロではないですし、そこまで褒められたものでも……」
「いえ、とても素敵でした。そして、自分でもわからないんですが、
あなたの音楽に、とても惹きつけられてしまって。
彼があなたのような素敵なピアニストだったら、どれほどよかっただろうかと、思ったほどです」
「いや、そこまで言ってくれるとは。
じゃあ、俺を、男としても?」
「はい。素敵な方だと思います」
「それなら、唇を奪ってもいいですか?」
「えっ?」
「いや、無理とは言わないですよ」
「……」
しばらく沈黙が続いた。
「……は、はい。どうぞ、私を思いのままに、抱いてください」
「そ、それは、エッチも出来ると?」
「……あなたに惹かれているのは、事実です」
俺は、その言葉が終わった瞬間、彼女を抱き寄せ、唇を重ねた。
そして、彼女もそれに応えてくれるのがわかった。
熱いキスを繰り返し、激しく彼女を抱いた。
その後、「花の里」を後にした俺は、近くのホテルに行き、
彼女を俺だけの女にした。
しばらくして、二度目に会う約束をしたのだが、
待ち合わせの映画館に、彼女
花村あかりは何故か、現れなかった。
仕方がないので、俺は一人で映画を観ることにした。
今の俺は彼女のことで、頭がいっぱいだった。
そして、俺を轢いた男のことも、もう、どうでもよくなっていた。
彼女の笑顔と、これまでの
七つの折り鶴
それが俺を癒し、
俺を慰め、
そして、すべてを忘れさせてくれた。
そして、彼女も、いなくなった、そんな男など忘れて、俺と付き合うと、
LINEもあったし、
今の俺にとって、あの事故は、
災い転じて福となすだ。
あんなに美人で素敵な子と付き合えたこと、
そして、彼女も俺を好んでくれて、
旧バンドのメンバーより誰より俺の音楽的才能を、
認めてくれた。
いや、今年は、なんてハッピーな七夕を迎えることだろう。
しかし、本日の七夕のデートには、彼女は、何用か、
来ない様子だけど。
映画の途中だった。
主人公が、ある女性に騙されて、
借金を抱えてしまうが、彼女に尽くしたお金、貸したお金は返ることなく、
彼女は姿を消した場面で、ふと、
なんだか、似ていないか?
まさか、彼女に限って、まさかな。
そういえば、LINEで、彼女から、
今回の件は、謝罪も受けましたし、すべて、なかったことにして、
忘れますと、手書きの文章に印を押したものを、彼女の、
弱弱しい声での頼みから、その画像はLINEにて送ったけれど。
まさかね?
あの俺に惚れてくれると、言ってくれて、
体まで重ねたあの子がね。
いや、こんな映画なんて造り物じゃないか!
リアルとは、いや、リアルこそ素敵なものなのだ。
物語なんて、けったくそ悪い。
俺は、その映画を途中で投げて、映画館を後にした。
彼女からは返事がない。
翌日もなかった。
しばらくして、LINEも、
どうも、ブロックされている様子だった……。
そういえば、彼女の連絡先、正確な住所は、
聞いていなかったことに、
俺は、気付いてしまい。
ふと、まさか、彼女は、芝居を打ったんじゃないだろうか?
そう考えて、常連の
「スウィング・ヘル」の前で、茫然と立ち尽くしてしまった。
ヘル。
今日ほど、この店に、入りたくないと思った日はない。
一年は過ぎた。
もう、事故のことも忘れかけていた俺は、
「花の里」に、久しぶりに訪れて、
ふと、噴水に寄ってみた。
彼女なんて、いるわけがない。
帰宅すると、一通の手紙が届いていた。
そこには、花村あかりの家族らしき人の筆で、
花村あかりは、恋人が行方不明となった同じ山で遭難。
おそらくは後追い自殺をしてしまい。
遺書に篠原聡一郎様、嘘を付いてごめんなさいと、書いてあったと、
記述されていた。
あぁ、やはり彼女は、俺を好きになったのではなく、
彼のために、あの日、俺に抱かれにきたのか、
そして、それが彼女なりのお詫びであって、それを果たして……消えた。
そうだったのか。
俺は、その場で立ち尽くした。
数か月が過ぎた。
一年前に、危機的状況を迎えたバンドも、復活を遂げて、
その日はバンドのライブを行う日であった。
ライブ終了後。
俺の元へ、駆けてきた女性の姿があった。
「聡一郎さ~ん」
「あ、あかり?」
死んだと思っていた、花村あかりが、
俺の目に再び現れた!?
ゆ、夢か幻か?
いや、亡霊か?
いや、そうじゃあない、
あかりだ!
一年数か月前に、風のように俺の前に現れて、
風のように去っていった容姿端麗の美女。
「あかり、君は、何故、そして、死んだんじゃあなかったのか?」
「ううん、ごめんなさい。
聡一郎さん、
実はあの後、
登山で遭難したと思った彼が、戻ってきてしまったの。
それで、私があなたに謝罪に行ったことをひどく怒ってね、
電話も取り上げられて、
殴る蹴るで、私に手錠を掛けて、
家の中に閉じ込めたの。
食事だけは与えてくれたけど、ほぼ監禁同然で。
そして、あなたが、自分たちを探さないように、事故は忘れると、
私に成りすまして、念書を書くようLINEをして、
だから、あのやり取りは、私が頼んだことじゃあないのよ、
だから、彼はあなたに住所も教えることもなく、
惚れ切っているような文章だけを送り付けた後、
LINEをブロックしたの」
「そ、そうだったのか?」
「はい、だから私も、マンションからね、
何度も何度も逃げようとしたのわ、
でも駄目だった。
でもね、彼は少し安心したのか、久しぶりに一緒に外出していいと言ってくれたの。
そして、レストランでトイレに行くと言って、
彼が待っている隙に、トイレに行く振りをして、
トイレから一番近いドアから店を出て、こうして、逃げてきたの!
そう、心から会いたかったあなた、
あなたにこうして、会いにきたの」
「あかり。じゃあ、君の家族、名前から親だろうか、から来た手紙に書いていた、
君は彼の後を追って自殺したというのは」
「全部、彼の作り話よ」
「そ、そうだったのか。
それなら、安心した。ありがとう。生きていてくれて。
ありがとう」
「そんな、それは、私の台詞よ」
俺はあかりと再会できた。
そして、俺の心の中に幸福感が蘇ってきた。
「よし、すぐに俺を轢いた、逃走犯を、警察に突き出そう。いいね?」
「はい。私も、監禁され、酷い目にあってきた。それに、元々、
彼と付き合った理由も、私の友人の彼で、彼女が病死してしまい、
彼が弱り果てていたから、同情で付き合ってあげただけなの。
元々、愛もなかったの。
だから、私の心は、あなたに惹かれたと言った、
あの日からずっと同じなんです。
信じてください、聡一郎さん!」
俺は、花村あかりの童心を思わせる瞳を見下ろし、
彼女を強く強く抱きしめた。
よかった。
彼女が嘘を付いていなくて、
本当によかった。
そして、もう一度、俺の前に現れてくれて、
本当によかった!
そして、初めて彼女が俺のために折ってくれた
お見舞いの折り鶴が、フラッシュバックした。
そう、あの雨の日の忘れ物だと思った、
折り鶴のことを。
そして、そのことがあり、作った曲
「雨の日の忘れ物」という曲を、初披露した日に、
彼女と再会できた奇跡。
ふと、俺たちを映す
脇の白い壁に、
隣り合う二つの ♪(音符)
のように、
俺たち二人の影が、
映っているように見えて、
♪♪
俺は、これから俺たちは、
三つ目の音符を、探す旅を始めるんだ。
まだどの映画でも言ってない台詞だぞ。
そう思い、彼女を、
つよく、
強く、
抱きしめた。
END♪♪♪
そこで俺たちジャズバンド「ザ・レッドパークジャズ」は、ミーティングを行なっていた。
「おい、ランボー、お前はさ、ジェリー・マリガンみたいに、そのバリトンサックスを、
吹きまくれねぇのかよ」
「だ、駄目なのか?」
「いや、駄目じゃない。が、その胸板で支えるサックス、まだ、熱い息吹が何か足りないんだよな。
こう、もっと、
サディスティックにさ、吹きまくってくれよ」
「あぁ、イエッサー」
「フェリー、お前もさぁ、トロンボーン吹く際のスタンスって、パワーよりもスピードだぜ」
「イ、イエッサァァ」
「お前ら、ホント、頼むぜ。音楽ってやつを、ホント、わかってんのかよ。そんなこと、俺に言わせないでくれ」
俺、篠原聡一郎は、拳を振り上げて、テーブルを叩いた。
「イ、エ…ッサ…」
力無き声が響く。
そして、その声の後、メンバーたちは、沈黙に沈黙を重ねている様子だった。
静寂だけが重い空気と共に広がっていく。
スッと立ち上がったドラムのダンクこと松原武が、
スティック片手に店の出入り口へと歩きだす。
続いてフェリーこと竹中幸二。
サリーこと麻衣子も続いた。
どうも、俺のスタンスが気に入らない様子だ……。
その場に残ったのは、トランペットのハックこと村上繁だけだった。
と、俺が彼に視線を向けた途端、靴紐を直し、席を立った。
「いいさ、いいさ、俺の、この混沌に紛れながらもな、
純度を保ち続けようとする
熱いソウルのわからないやつらなんて、
どこにでも、いっちまえ」
バンド・メンバーたちの背を見送りながら、
俺は毒を口にしてしまった。
しかし、実は、毒舌な俺が最近、嫌われている理由は、毒だけではないんだ。
……それは、この左腕のせいだ……。
わかってる、みんな、わかってるけどさ、仕方がないだろう。
う、うぅ。
一時間後、飲んだくれちまった俺に向かって、マスターが、「そろそろ閉店だよ」と、肩をゆすった。
そして、こう続けた。
「聡一ちゃん、今日のはまずいよ、ありゃ」
酔ったせいか、マスターの髭が二重に見えて、それが、さらに俺を酔わせる。
「マスター、これが俺なんですよ、情けないことなんて、わかってるんですよ……情けないことぐらい」
翌日。
大学帰りには必ず立ち寄るジャズ喫茶「スウィング・ヘル」へと今日も立ち寄った。
本当はカタカナでベルだが、いつしか誰かが看板の濁点を何かで消す悪戯をして、しかし、
マスターが、それも面白いと、字をそのままにしているから、今では、
俺たちの間では、スウィング・ヘルと呼ばれている。
そう、昨日、酔いつぶれた店さ。
ここまでの道中、少し雨があり、俺は濡れた紙を、自分のイニシャル入りの青いハンカチで拭いた。
そして、定番と呼んでいる一番隅の席に腰かけた。
「痛っ」
左腕を、数度ほど撫ぜる。
包帯を巻いたこの左腕を……。
この包帯の原因となる出来事が起きたのは、調度、半月ほど前のことだ。
見通しの悪い交差点を、愛車のべスパで走っていた時さ、
ちょうど交差点を左折した時だった。
右折してきた白いスポーツカーに衝突されちまって、
この俺の黄金の左腕にさ、全治一ヶ月の傷を負ってしまったんだ。
さらにね、悪いことに、俺を轢いたそいつは、そのまま轢き逃げをし、ドロンしちまったんだよ。
正確には、二人かな。確かに、車内には二人いたような気がする。だけど、二人の性別や特徴までは、
覚えていない、ただ人らしき姿が運転席と助手席にあったぐらいしか。
しかし、クソっ!
まったく、ツイテない!
それにだ、気を失いかけていた俺は、
その車のナンバーを目撃する余裕もなく、その後、轢き逃げ犯も捕まらないまま、
数週間が過ぎてしまったという最悪の顛末というわけさ。
だから、ここ最近はずっと、日々葛藤の連続だった。
それまでは、休むことなく練習していたピアノの個人レッスンも中断を余儀なくされちまったし、
気分はどんどん黒鍵のような音色に包まれていき、ダウン、ダウン、ダウン。
で、俺の毒舌にも、拍車が来て、昨日のミーティングでの、こじれへと繋がる。
いい加減、この神経が、まいりそうだよ。
気持ちを鎮められるものが、どうしても今は、見つからない。
俺は、暗い目を、店内にあるグランドピアノに向けて、
テーブル上のアメリカンを飲み干した。
そして、翌日も、その店に一人で行き、席に座らぬままに、
カウンターにいるマスターへと、アメリカンをオーダー。
相変わらず仲間は、誰一人、姿を見せない。
LINEの返事さえなくなっちまった。
もうバンドも解散か……・
ふといつも俺が腰かける、俺の中では、定番にしているテーブルの端に、
一羽の折鶴が置かれていた。
「誰かの忘れ物だろうか?
だけれど、
この時間帯にここへ座るのは、マスターも気遣ってくれているせいか、
優先的に俺を座らせてくれるし、
ここ半月、この時間帯に、ここに座れなかったこともなかったから。
この時間帯に来た常連が忘れていったわけでもないだろう。
まさか、怪我をした俺に宛てて、千羽鶴のお見舞いでもこっそり誰かが残してきたとでも?
まさか」
折鶴を見つめ、掌に載せてみる。
「いや、メンバーか、誰かが、お見舞いに置いていったんだろう。
俺がいつも立ち寄る時刻を知っている誰かが。その少し前に来店して、
ここに置いていったんだ。きっと」
んっ、何だろう。
この紙質。何かザラザラしている?
気になってしまい、後で戻せばいいかと、
その折り鶴を、元の用紙の形に戻している自分がいた。
もし、この折り鶴が、俺に宛てたお見舞いでないのなら、よくはない行為だが、
おそらくは、お見舞いだと予感したし、
何故かそうしたくなったのだ。
すると、その折鶴はレシートを折った物であった。
その合計金額は三百五十円。
ここのコーヒーの値段ピタリだな。
「だけど、レシート製の折鶴だなんて、安上がりなお見舞いと来たもんだ」
そう呟いた俺だったが、
内心はまんざらでもなかった。
背後のBGMに「くるみ割り人形」のジャズバージョン。
それが何故か、大きく聴こえた。
一通のLINE
メンバーか?
中身は、隣町に住む叔母からの伝達だった。
花の里で、今度、お茶会をするから、お茶の好きな同級生がいたら、伝えて。
それに、あなたも久しぶりに、よければ顔を見せて。娘の恵理子も今回は、お茶をたてるから。
とあった、そうか、恵理子が。
だけど叔母さん、俺は生憎、茶道には興味ないんだ。
だけど、花の里かぁ、いいところでやるんだな。
「花の里」とは、俺の住む街で一番大きい花園だ。
そして、大きな括りでも有名で、先月は全国的に取り上げていて、
今月から、大規模なキャンペーンをし始めたのか、最近、しょっちゅう、
テレビで、花の里を観る機会が多いことを、ふと思い出した。
とはいえ、茶道の会は、ちょっとね。
しかし、結局、今日も誰も来ない様子だな……。
珈琲を飲み干し、店を出る際、俺はマスターに折り鶴のことを尋ねてみた。
が、マスターの返答は、期待するものではなかった。
「今日、そこには、ここ一時間は誰も座ってない。
第一、その一番端の席はさぁ、
君が来るまで、人を通さないよう気遣ってやってること、この間も、話しただろう」
「あ、あぁ、マスター。それには、感謝していますよ。
じゃあ、その前に座った人は?」
「君が来る前、一時間ぐらいは、そこは空けているけど、その前は、確か、カップルが座ったように思う。
そうだ、そういえば、そのカップル、ジープ愛用者だから、また今度、ジープを買うとかで、少しお金のことでもめていた様子だったな。
そうだ、色にもこだわりがあって、白い車は汚れが目立つから乗ったことがない、アウトドア派には、ジープが一番だとか、俺もジープが好きだからさ、ちょっと、気になっちゃって」
「ありがとうございます。では、そのカップルがまた来たら、この折り鶴を、忘れてないか、
尋ねてもらえますか?」
俺は、元の形に戻した折り鶴をマスターへと預けて、店を出た。
翌日もジャズ喫茶「スウィング・へル」へ顔を出す。
相変わらず、仲間は一人も姿を見せやしない……。
気分はロンリー。
まるで、蓮の葉に包まれてるとでも言えばいいか?
黄昏れた、刹那感が、俺の心を綴んでいく。
んっ!
お、折鶴だ!
今日も俺の座るテーブルに折り鶴が置かれている!?
俺の半指定席である、このテーブルの上に、
また何故に?
今日も丁寧に折られている真っ白い折り鶴が!
人一倍好奇心旺盛な俺は、何故か、
また折り鶴を広げてみた。
すると、またレシートで、
店名に『ブリキ館』とあった。
ブリキ、あぁ、駅前の雑貨屋だな。
商品名の記録はないが、合計金額は五百十円であった。
ふと、そのレシートに、品のいい香りがほんのり残っていた。
これは、女ものの香水だな。
一体、どんな女が置いていったのだ?
今日は、そのレシートを写メしてから、
マスターに尋ねる。
「マスター、今日も折り鶴が……」
マスターも、不思議がり、今日は昨日のカップルもいないし、
もし、今日の折り鶴もカップルが忘れたなら、今日も来店しているはずだし、
カップルからは、香水の香りはしなかったと言うので、今日、置いた人物は別人のはずだ。
いや、あるいは、
同じ人物で、それはカップルではなく…だからカップルが来店せずとも、
その人物が置いていったのでは?
では、この席に今日座った人物は?
それが、マスターの話では、数時間、誰も座っておらず、
実は今日は、用事でバイトのミキちゃんに任せていたので、そこに座った人を把握できないと。
俺は、メイドのミキちゃんに尋ねたが、そこに座った人は、今日は高齢男性一人ぐらいで、
その人は、手が震えている人で、とても、そんなに綺麗な折り鶴を折れるように見えないと。
手にした雑誌でさえ、綺麗にページがめくられていなかったので、
少し雑誌が傷んで、それを記憶していたと。
では、テーブルはよく拭いたかを尋ね、雑誌のことを記憶しているぐらいだから、
それは、当然との返答であった。
翌日。
やはり折鶴がいつもの席に置かれていた!
そして、さらにその翌日も!
そして、翌日も、折鶴が置かれてあったのだ。
そして、またどの日も、その席に座った人はいないか、テーブルは意識して拭くようにしているので、
俺が来る前には、誰もそこに何かを置いて帰った者はいないはずだと。
これは絶対に、俺へ宛てたお見舞い。
にしては、遠回し過ぎる。
だけどメッセージには違いない。
そして、その人物は、俺と今、顔を合わせたくないことで、
他のテーブルにいたのに、途中、席を立ち、そこに折り鶴を置いていったんだ。
そういえば、初日は、カップルがその席に座っていたと言ってたな。
いや、違う。そのカップルは、白い車には乗らないと言っていたらしいから、
轢き逃げした輩ではないだろう。
あの時のスポーツカーに色は、白だったのだから。
折り鶴が置かれて一週間を経た。
そして、テーブルに置かれた折鶴は、その日で終わった。
そう、一週間目で、ぷっつりと途切れたのだ。
ただ、ここ一週間で、少し気になった人物がわかった。
マスターが言うには、
いつもサングラスに帽子を被った女性が、毎日そういえば、夕方頃、来店していたと。
俺が来店する一時間ぐらい前に。
でも、そのテーブルに座ることがないので、特に気に留めなかったと。
では、その女性は、マスターがトイレに行ったり、目の届かない時に、そこに折り鶴を置いたのだろう。
ミキちゃんは、毎日いないので、今週は三日しか出ていないらしく、その女性に、気を留めることもなかったと。
しかし、俺が来る前に、折り鶴を置いて去る
なんて、用意周到すぎるだろう。
その夜。
ワンルームマンションの中央に、自分で折り鶴を折って、
並べてみた。
そうだ。
ここ一週間、折り鶴は全てレシートであった。
そのレシートの写メを確認してみよう。
なにか、わからないだろうか?
一日目は、コーヒーと同額で、写メは撮影していないが、合計額だけは記憶している。
テーブルにオブジェのように並べた七つの折り鶴の頭をポンポンポンと、叩いていって、
俺は、写メを、眺めた。
だけど、何故、レシートなんだ?
しかも、店は不統一だ。
んっ、そういえば値段が高いのがあったな。
レシートを整理してみよう。
一日目のレシート
合計金額は三百五十円だった。
二日目
五百十円
三日目
千四百五十円
四日目
七千円
やはり、急に高くなっている!?
五日目
一万円
六日目
一万七千円
七日目
五万一千円
五万!
いや、その五万の買い物をして、それでレシートを折り、
あのテーブルに置く意味は?
おかしい。
しかし、記録オタクだから、レシートの金額を写メした俺だけど、
でも何故に、日を追うごとに増えているんだ?
店も商品も、どれも関連していない!
そうだ、特に四日目辺りから急に金額が増えている。
何故だろう?
独り言を繰り返した。
だけど、不思議なことに、折鶴を見ていると、
何か心の底から癒される、そんな魔法のようなパワーに、俺は包まれるようであった。
そうだ、最後のレシートの合計金額の横に、
小さな文字で+と記載してある。
そして、そういえば、そのレシートの裏には手書きで「fountain」と「30日」と書かれていたんだ。
だけど、意味がわからない。
噴水、何のことだ?
しばらく考え込んだ俺は、
ふと、
もしや、これを足せってことなのでは?
早速、計算機アプリを開き、計算してみる。
そして、30日と言えば、三日後だ。
あっ!
三日が過ぎた。
月日は、六月三十日
午後の講義が終わり、
今日に限って俺は、ジャズ喫茶「スウィング・へル」には立ち寄らず、
喫茶とは逆の方角にある駅へと向かった。
そして、駅前で「花の里」方面行きのバスへと乗り込んだ。
車窓には、雨粒。
降ってきたな。
バスは、しばらく、荒い道へと入り、かなり先の停留所である「花の里」に着いたので、
俺は、片手で料金箱に小銭を投げて、傘を差しながらバスを降りた。
そして、花壇の続く道路沿いを進む。
そして、花園の入口前へと立った。
入場料を払い「花の里」へ入る。
ここには、久しぶりに来た。
雨の方は、小降りになってくれた。
しかし、歩く度に、まだまだ靴のつま先辺りは濡れてしまうが、
そういえば、この靴は、
今のバンドを結成した時にさ、
記念品として買ったコンバース・ワンスター。
それが、今やボロボロだ……。
俺は、行先を念頭に、前方へ前方へと足を進めていく。
噴水の辺りまで来た頃だった。
赤い傘を差す二〇代半ばぐらいのサングラスの女性が立っていた。
そして、その女性の立つ少し前で足を止めた俺は、
噴水の芯の方へと視線を向けて、
雨と絡み合いながら落下。
そして、浮上を繰り返す
水しぶきを見つめた。
一分ほどの静寂。
地面に響くハイヒールの足音が、俺の方へ近付いてきた。
「どうも、すみませんでした。
そして、ここがわかってくださり、感謝いたします」
赤い傘に、赤いスーツを着た長身女性は、サングラスを外して、深く頭を下げた。
「じゃあ、やっぱり、あなたが、この俺と接触した、白いスポーツカーのドライバー」
「はい、本当に、申し訳ありませんでした」
「しかし、何故、逃げたりしたんです!
それに、逃げたと思えば、暗号のように、折り鶴を、俺に贈り、しかも、正体を明かすこともなく、
一週間も。だけど、一つわからないことがあります。
あの車には、二人で乗っていましたよね?」
「……顔も、観たんですか?」
「いえ、観てないんですよ。だけど、あの時、二人でいたでしょう? もう一人は」
「実は運転していたのは、私の彼の方だったのです。
そして、その彼が、行方不明になってしまって。あれから」
「……そ、そうなんですか。では、あなたは、あの時、助手席にいた人ですね」
「は、はい」
「だけど、行方不明とは。この俺を轢き逃げしたことが原因ですか?」
「そ、それが、そうではないんです。
登山に行った折に、遭難してしまったんです」
「そ、遭難」
「はい。でも彼がいなくなったからというわけではなく、
私はずっと、彼に謝罪すべきと言い聞かせたんですが、聞いてもらえなくて」
「それで、俺に、謝罪のメッセージを、残した」
「はい。しかし、直接、会う勇気がなく、
それでも、何かしなくちゃあと。そして、その折り鶴のメッセージが届かなくても、
また、その時は、時を開けて、他のメッセージを送ろうと、思っていたんです」
「そう…だったんですか」
「でも、よく、わかってくださいましたね」
「えぇ、
最初は、レシートで作った折鶴なんて、
変わってるな。
そんな感想を持ったぐらいでしたがね、
最後のレシート。
その合計金額の隣に書いていた+というマークを見た時、もしやとひらめき、
数字を足してみてから、
すべてを理解しました」
「頭の良い方で、よかったです」
「……。だけど、本当に、遠回しな謝罪ですね。
そのシートの合計部分を足すと、
計八万七千三百十円だった。
この場所を示す暗号文の答えであるということに、たどり着いたんです。
八万七千三百十円=87310
はなさと?
もしや、この街で有名な
花の里
そして、その横の「fountain」「30日」
噴水。
ここ、花の里の 噴水
ではないかと、直観したのです。そして、月日は一番近い30日。そう、今日だと」
「お見事です」
「だけど、肝心の轢き逃げ犯本人がいないんじゃあ……」
「本当に、申し訳ありませんでした。彼に代わり、心からお詫びいたします」
「あなたが、そこまで謝ることはないですよ。
悪いのは彼の方でしょう」
「……」
「あなたからの謝罪は、もういいです。
そうえば、あの折鶴、綺麗に折られていましたね。
芸術的センス。を、俺は感じました」
「さすが、ミュージシャンですね」
「それも、ご存知でしたか」
「はい。篠原聡一郎さんのアルバムも、買わせて頂きました。素敵なピアノです」
「CDをですか?」
「はい」
「そ、それは、どうも。しかし、プロではないですし、そこまで褒められたものでも……」
「いえ、とても素敵でした。そして、自分でもわからないんですが、
あなたの音楽に、とても惹きつけられてしまって。
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「……」
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俺は、その言葉が終わった瞬間、彼女を抱き寄せ、唇を重ねた。
そして、彼女もそれに応えてくれるのがわかった。
熱いキスを繰り返し、激しく彼女を抱いた。
その後、「花の里」を後にした俺は、近くのホテルに行き、
彼女を俺だけの女にした。
しばらくして、二度目に会う約束をしたのだが、
待ち合わせの映画館に、彼女
花村あかりは何故か、現れなかった。
仕方がないので、俺は一人で映画を観ることにした。
今の俺は彼女のことで、頭がいっぱいだった。
そして、俺を轢いた男のことも、もう、どうでもよくなっていた。
彼女の笑顔と、これまでの
七つの折り鶴
それが俺を癒し、
俺を慰め、
そして、すべてを忘れさせてくれた。
そして、彼女も、いなくなった、そんな男など忘れて、俺と付き合うと、
LINEもあったし、
今の俺にとって、あの事故は、
災い転じて福となすだ。
あんなに美人で素敵な子と付き合えたこと、
そして、彼女も俺を好んでくれて、
旧バンドのメンバーより誰より俺の音楽的才能を、
認めてくれた。
いや、今年は、なんてハッピーな七夕を迎えることだろう。
しかし、本日の七夕のデートには、彼女は、何用か、
来ない様子だけど。
映画の途中だった。
主人公が、ある女性に騙されて、
借金を抱えてしまうが、彼女に尽くしたお金、貸したお金は返ることなく、
彼女は姿を消した場面で、ふと、
なんだか、似ていないか?
まさか、彼女に限って、まさかな。
そういえば、LINEで、彼女から、
今回の件は、謝罪も受けましたし、すべて、なかったことにして、
忘れますと、手書きの文章に印を押したものを、彼女の、
弱弱しい声での頼みから、その画像はLINEにて送ったけれど。
まさかね?
あの俺に惚れてくれると、言ってくれて、
体まで重ねたあの子がね。
いや、こんな映画なんて造り物じゃないか!
リアルとは、いや、リアルこそ素敵なものなのだ。
物語なんて、けったくそ悪い。
俺は、その映画を途中で投げて、映画館を後にした。
彼女からは返事がない。
翌日もなかった。
しばらくして、LINEも、
どうも、ブロックされている様子だった……。
そういえば、彼女の連絡先、正確な住所は、
聞いていなかったことに、
俺は、気付いてしまい。
ふと、まさか、彼女は、芝居を打ったんじゃないだろうか?
そう考えて、常連の
「スウィング・ヘル」の前で、茫然と立ち尽くしてしまった。
ヘル。
今日ほど、この店に、入りたくないと思った日はない。
一年は過ぎた。
もう、事故のことも忘れかけていた俺は、
「花の里」に、久しぶりに訪れて、
ふと、噴水に寄ってみた。
彼女なんて、いるわけがない。
帰宅すると、一通の手紙が届いていた。
そこには、花村あかりの家族らしき人の筆で、
花村あかりは、恋人が行方不明となった同じ山で遭難。
おそらくは後追い自殺をしてしまい。
遺書に篠原聡一郎様、嘘を付いてごめんなさいと、書いてあったと、
記述されていた。
あぁ、やはり彼女は、俺を好きになったのではなく、
彼のために、あの日、俺に抱かれにきたのか、
そして、それが彼女なりのお詫びであって、それを果たして……消えた。
そうだったのか。
俺は、その場で立ち尽くした。
数か月が過ぎた。
一年前に、危機的状況を迎えたバンドも、復活を遂げて、
その日はバンドのライブを行う日であった。
ライブ終了後。
俺の元へ、駆けてきた女性の姿があった。
「聡一郎さ~ん」
「あ、あかり?」
死んだと思っていた、花村あかりが、
俺の目に再び現れた!?
ゆ、夢か幻か?
いや、亡霊か?
いや、そうじゃあない、
あかりだ!
一年数か月前に、風のように俺の前に現れて、
風のように去っていった容姿端麗の美女。
「あかり、君は、何故、そして、死んだんじゃあなかったのか?」
「ううん、ごめんなさい。
聡一郎さん、
実はあの後、
登山で遭難したと思った彼が、戻ってきてしまったの。
それで、私があなたに謝罪に行ったことをひどく怒ってね、
電話も取り上げられて、
殴る蹴るで、私に手錠を掛けて、
家の中に閉じ込めたの。
食事だけは与えてくれたけど、ほぼ監禁同然で。
そして、あなたが、自分たちを探さないように、事故は忘れると、
私に成りすまして、念書を書くようLINEをして、
だから、あのやり取りは、私が頼んだことじゃあないのよ、
だから、彼はあなたに住所も教えることもなく、
惚れ切っているような文章だけを送り付けた後、
LINEをブロックしたの」
「そ、そうだったのか?」
「はい、だから私も、マンションからね、
何度も何度も逃げようとしたのわ、
でも駄目だった。
でもね、彼は少し安心したのか、久しぶりに一緒に外出していいと言ってくれたの。
そして、レストランでトイレに行くと言って、
彼が待っている隙に、トイレに行く振りをして、
トイレから一番近いドアから店を出て、こうして、逃げてきたの!
そう、心から会いたかったあなた、
あなたにこうして、会いにきたの」
「あかり。じゃあ、君の家族、名前から親だろうか、から来た手紙に書いていた、
君は彼の後を追って自殺したというのは」
「全部、彼の作り話よ」
「そ、そうだったのか。
それなら、安心した。ありがとう。生きていてくれて。
ありがとう」
「そんな、それは、私の台詞よ」
俺はあかりと再会できた。
そして、俺の心の中に幸福感が蘇ってきた。
「よし、すぐに俺を轢いた、逃走犯を、警察に突き出そう。いいね?」
「はい。私も、監禁され、酷い目にあってきた。それに、元々、
彼と付き合った理由も、私の友人の彼で、彼女が病死してしまい、
彼が弱り果てていたから、同情で付き合ってあげただけなの。
元々、愛もなかったの。
だから、私の心は、あなたに惹かれたと言った、
あの日からずっと同じなんです。
信じてください、聡一郎さん!」
俺は、花村あかりの童心を思わせる瞳を見下ろし、
彼女を強く強く抱きしめた。
よかった。
彼女が嘘を付いていなくて、
本当によかった。
そして、もう一度、俺の前に現れてくれて、
本当によかった!
そして、初めて彼女が俺のために折ってくれた
お見舞いの折り鶴が、フラッシュバックした。
そう、あの雨の日の忘れ物だと思った、
折り鶴のことを。
そして、そのことがあり、作った曲
「雨の日の忘れ物」という曲を、初披露した日に、
彼女と再会できた奇跡。
ふと、俺たちを映す
脇の白い壁に、
隣り合う二つの ♪(音符)
のように、
俺たち二人の影が、
映っているように見えて、
♪♪
俺は、これから俺たちは、
三つ目の音符を、探す旅を始めるんだ。
まだどの映画でも言ってない台詞だぞ。
そう思い、彼女を、
つよく、
強く、
抱きしめた。
END♪♪♪
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