グラドル戦隊グラドルレンジャーズ

青キング

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第五話 遊泳場の決戦。グラドルレンジャー変身不可能?

ネックレス奪取大作戦

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 光那は塾で夏期講習の真っ最中であった。

 担当講師の説明を聞いて、さあ設問に取り掛かろうという時に、光那さんに用事があると言っている、訪問者の二人の男性が塾の受付に現れた。

 受付の女性職員が、水森光那さんですね。只今講習中なので、とロビーの待合室に二人の男性を促す。



「そんな余裕はない。こちらは仲間の危機が迫っているのだ」



 軍服の方の男性が高調子に主張した。

 厄介者だ、と受付の女性職員は判断して、仕方なさをあからさまに見せながら教室へ光那を呼びにいった。

 不意な訪問者に光那は戸惑いながら、誰だろうと疑問を抱いてロビーへ出る。

 ロビーには顔見知りの軍服と浴衣の二人の男性が焦れた様子で受付に張り付いていた。

 二人は光那と視線が合うと物凄い早足で近づいてくる。

 木田が切迫した顔で光那の両肩を掴んだ。



「今すぐ着いてきてくれ。五人が危ないんだ」

「どどど、どういうことですか?」



 急に同伴を願われ、事情を知らない光那は困惑した。

 浴衣姿のミスターKが声量を抑えた冷静な口調で説明する。



「グラドルレンジャーの五人は敵に変身具を奪われ、変身できずに怪人と交戦している。しかし僕と木田君の二人では敵の制圧に尽力しなければならない。そこで光那君に変身具の奪還後に五人へ届ける役をしてほしい、というわけだ」



 順を追った説明に光那は納得したが、でも、と言葉を返す。



「あたしなんかがそんな大役を全うできる気がしません」

「大丈夫。僕と木田君が護るから。今頼れるのは光那君だけなんだ」



 ミスターKは重大事の任を託す時の表情で、光那を見つめた。



「俺からも頼む」



 木田も縋るように懇願した。

 急を要している大人二人の申し出に、光那は恐さを押さえつけるように一息を吐いてから返事をする。



「五人のためになるなら、あたしやります」

「ありがとうっ」



 ミスターKは礼を言って、塾の出入り口に足を向ける。



「光那君。急ぐよ」

「はい」



 光那は頷いて、受付の女性に振り向く。



「用事が出来たので、あたし帰ります」

「あっ、そ、そう。それじゃあね」



 受付の女性は女子中学生とは思えない決然たる顔つきを前に、謎の二人の男性について追及する気がなくなってしまった。

 木田とミスターK加えて水森光那は、ネックレス奪還作戦に赴くため、もはや駆け足のスピードでロビーを横切り、学習塾から走り去る。

 路肩でタクシーで呼び止めて、森尾文化広場との行き先を告げて急がせた。

 運転手が冷や汗をかくほど急かして急かして、森尾文化広場の近くで降りると正門とは反対方面へ向かった。

 男性二人の歩調になんとか離れずに光那は着いていく。

「光那君。今から奪還作戦の段取りを説明するよ」



 彼女の右隣でミスターKが話し始める。

 ミスターKの考案した作戦はこうだ。



 まず敵が変身具を保有している貴重品預り所に裏口から目指す。預り所に入ったら中にいる三人の敵を二人で戦闘不能にさせるかもしくは取り押さえる。この時光那はドア付近で待機。隙をついて木田か彼のどちらかが変身具を光那に投げ渡す。受け取った光那がグラドルレンジャー五人がいるプールを見下ろせて、変身具を遠くまで投げられそうな位置へ向かう、といったものだ。



「わかりました」



 光那は了解の顔で首を縦に振った。

 プール施設の裏口駐車場に到着しいざ突入という時、光那は後方の藪から呻き声を聞き取って、ひいっと肝を冷やした。



「どうしたんだい?」



 と裏口のドアノブに手を掛けていたミスターKとその傍にいた木田が、光那を振り返る。



「今、藪から声が」



 ううううう、と助けを求めるように切羽詰まった呻き声が、また聞こえる。



「ほら、人の声がします」

「うん。僕も聞いたよ。木田君、藪に誰かいるのか確認してきて」



 指示を受けた木田が腰まで背丈のある叢中へ入っていく。

 入ってすぐ、木田は足を止めた。愕然としてミスターKに振り向いた。



「男性が服を剥がれて拘束された状態で倒れています」

「シキヨクマーの仕業だね。何の関係もない人まで巻き込むなんて許せない」



 ミスターKは敵組織への憎しみで、奥歯を軋むほど噛みしめる。



「男性は自分が解放させておきます」



 木田は手早く青年の拘束を解いていく。ものの数十秒で拘束から青年を解放すると、男性に申し訳ない顔で言う。



「今から自分はしないといけないことがある。戻ってくるまでここで待っていてくれ」



 青年は残り少ない体力で木田に頷いた。

 木田がドアまで帰ってくると、ミスターKは感謝の目を寄越す。



「木田君がいて良かったよ。僕じゃ拘束が解けなかった」

「日頃の訓練の賜です。感謝されるほどのことではありません」



 ミスターKの言葉に木田は謙遜した。



「それじゃあ、行こう」



 ミスターKがドアノブを捻って開き、三人は施設内へ踏み込んだ。

 幸い通路には敵の姿はなく。ミスターKと木田は護衛するように光那を間に挟んだ陣形で、貴重品預り所に足を急がせた。

 預り所の札が見えると、ミスターKは木田と光那を腕で制した。

 部屋の中からは特別自分達に気付いたような足音や声は聞こえてこない。ミスターKはそう判断すると、腕を降ろした。



「よし。あとは作戦通り。行くよ」



 木田は全身に戦意を漲らせて、光那は緊張の面持ちで頷く。

 ミスターKと木田が、開いたままのドアから罠も覚悟で突入。

 光那はドアの傍で言われた通りに待機した。

 木田が動揺していたグリーンタイツ一人をまずは背負い投げで壁に投げ飛ばし、事態を理解して背後から襲おうとしたピンクタイツも、振り向きざまに足元へ払いを掛けて、床に倒れたところを覆いかぶさった。

 ミスターKもネックレスの保持に気を取られたグリーンタイツに、後頭部からテーブルに置いてあった灰皿で殴りつけた。

 グリーンタイツの手から落ちた、ネックレスの入った袋を床から拾い上げると、ドアの方角に光那を呼んだ。

 光那が少しだけ部屋に踏み入ると、袋を二つ彼女目掛けて投げた。

 掌の上で躍らせて危うく落としそうになりながらも、光那は二つの袋を受け取る。

 そこで木田に投げ飛ばされた一人が、身を起き上がらせ光那に視線を留めた。

 変身具が彼女に手にあるのを見て、途端に血相を変えて襲い掛かろうとした。



「させるか」



 木田がピンクタイツを床で押さえたまま、片手を伸ばしてグリーンタイツの足首を掴んでやると、つんのめって転倒し顔面を床に強打した。



「何で袋が二つあるんですか?」



 光那は、木田が足首を掴んでいるグリーンタイツを取り押さえようとしているミスターKに訊ねた。



「ああ、一つはダミーだよ。誰の物かは知らないけど、拝借させてもらった」

「ダミーって言われても、どうすれば?」

「ダミーで怪人を誘い出して、五人がネックレスを装着できる時間を稼いでくれ」

「は、はい」



 光那は首肯したが、でもどうやってという明確な方法は思いつけない。



「君なら大丈夫だ。光那君」



 ミスター家の励ます言葉に背中を押されたように、光那は五人の居るプールの方へ足取りを速めた。
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