グラドル戦隊グラドルレンジャーズ

青キング

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第五話 遊泳場の決戦。グラドルレンジャー変身不可能?

ウォータースライダー

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 五人は各々持参した水着に着替え、更衣室を出た。



「水着になったはいいが、何をすればいいんだ?」



 可愛さ成分が何一つない濃紺の競泳水着の栗山が他の四人に訊ねる。



「別に何をしたっていいんです」



 メンバーカラーである黄色の正統派ビキニの上司が、ニコニコして答えた。



「好きなように遊べばいいんです。ちなみに私はこれから開幕ウォータースライダーを滑ってきます」

「そうか。私は隅でタバコでも吸って……」

「喫煙所が無いのに吸うな」



 すぐさま楠手の現実的なツッコミが飛ぶ。楠手は大人しい暗色系でボトムがパンツスタイルの大人しいビキニだ。



「それに煙が他に人に迷惑だし」

「上司が何をしたっていい、って言うからさ」

「なんでもしていいって訳じゃない」

「知ってるよ、冗談だ冗談」



 ばつの悪い顔をして、栗山は前言の真剣度を下げた。



「栗山さんの気持ちもわからないではないわ」



 と、顎に指を当てがって決めかねている声音で、モスグリーンのビキニの上に白のパレオを腰に巻いている新城が言った。

「いざ、遊ぶとなっても何をすればいいのか、判断がつかないし、かといって自分がやりたいこともないわ」

「私も新城さんの悩みに同意ね」



 くびれの部分が空いた空色のモノキニを着ている西之森が、腕を組んで頷いた。



「それなら誰か私と一緒にウォータースライダーに乗りませんか、私も小学生以来ですけど顔に水がかかってきて面白いですよ」



 一人愉快そうな上司は同行者を募った。



「どうせ暇だしな、あたしもウォータースライダー滑ってみるか」

「上司ちゃん。私も滑るわ。せっかく来たから、少しでも楽しむわ」



 退屈しのぎの栗山と、無為に時間を費やしたくない新城が誘いに乗る。

 上司は迷っている様子の楠手と西之森に、事を頼むみたいに言う。



「楠手さん西之森さんとも一緒に行きたいです」

「そこまで言うなら、あたしも行こうかな」



 おねだりのように誘われて楠手はあっさりと応じた。



「グリーン、じゃなかった西之森さんはどうする?」

「行くわよ。私一人だけここに居残るなんて、付き合い悪い寂しい人みたいになっちゃうじゃない」



 ちょっと怒った風に西之森も応諾する。

 他の四人が自分に同行してくれることが嬉しくて、上司は弾けるような笑顔を浮かべた。



「楽しさを皆で分かち合えます」



 滑る前から楽しそうな上司を筆頭に、五人はウォータースライダーに足を向けようとした時だった。

 五人を目敏く見つけて、唾つけに余念がなかったチャラチャラ男三人組が彼女らに背後から歩み寄る。



「そこの姉ちゃんたち」



 軽々しい声音で話しかける。

 五人は三人に気付いて足を止める。男三人は口の端が弛んでニヤケ面をした。

 三人のうち、真ん中の金髪がニヤケ面を抑えて訊く。



「よかったら、俺らと遊ばない? 姉ちゃんたち暇そうだしさ」

「暇そうでしたか、私達?」



 男達に下心があるなど微塵も考えていない上司が、小首をかしげて尋ね返す。



「うんうん、暇そうだった。だから声掛けたんだよ」

「でも私達、これからウォータースライダーを滑りに行くんです。だから暇ではないです」



 上司は自分達の目的をただ述べただけのつもりだったが、男三人には遠回しに断られていると受け取った。



「ちょびっとだけでいいから、遊ぼうぜ。ダメか?」



 手を合わせて金髪が上司に頼み込む。



「お前達なんかに興味はねぇんだよ。邪魔だ」



 上司の背後、栗山が険のある声で男達に言い放った。

 男達は一斉に栗山に視線を向ける。



「もうちょっと言葉遣いってものがあるだろ」



 少しイラっとして金髪は言い返す。



「うるせえ。あたしは元からこういう口調だ」



 見た目だけなら文句ないのにもったいねえなあ、と金髪の右斜めにいた茶髪男が、幻滅したように小さく呟いた。

 栗山は男の呟きを聞き漏らさずに、吊り上がった眦の下の眼をギロリと呟いた男に移す。



「悪かったな。もったいなくて」

「ところで後ろの三人はどうする、俺達と遊ぶ?」



 茶髪の隣にいる肌が褐色に焼けたサーファー風の黒髪の男が、先程から口を出していなかった楠手、西之森、新城に水を向ける。

 三人は揃って頭を横に振った。



「そうか。それはがっかりだ」



 黒髪はあからさまに残念そうに言った。



「私達、もう行ってもいいですか?」



 上司が三人の誰にともなく尋ねる。



「いいよ。ごめんね、邪魔しちゃったね」



 黒髪は頷いて、くどくどと誘う金髪と茶髪の連れ二人の腕を引っ張って道を空ける。

 五人は彼らの横を通って、ウォータースライダーのある方へ駄弁りながら歩いていった。



 バイトの職員になりすまして、施設内に侵入したピンクタイツは、真っ先に貴重品預り所に足を進めた。

 誰にも見咎められずに預り所まで来ると、ピンクタイツはスチールドアをノックする。

 交代か、と中から僅かに嬉しく思っている声音が返ってきた。

 内側からドアが開き、無精髭のガタイの良い中年が顔を出す。



「ちょっと待ってろ。まだ弁当食い終わってねえんだ」



 無精髭はドアを開けたまま中に引っ込むと、右隅のスチール机で食いかけのコンビニ弁当をかきこみ始める。

 隅っこのガリだけ残して弁当をゴミ箱に捨てると、汚れを払うように手を叩いてから、バイト学生に成りすましているドアの前のピンクタイツのところに戻ってくる。



「それじゃあな、あとは頼んだぞ」



 無精髭は相手が不法侵入者であることに気付きもせず、ピンクタイツの傍を過ぎて預り所から去っていった。

 ピンクタイツは無精髭の姿が完全に見えなくなると、預り所に足を踏み入れる。

 手始めにセキリュティや防犯センサーが取り付けられていないか、室内全体に隈なく眼を走らせた。

 防犯器具の類がないとわかると、来場客が預けた装身具の入ったポリ袋が整然と置かれた中央のテーブルまで進む。

 並べられたポリ袋にはそれぞれ二桁の番号が書かれた付箋が貼ってあり、ピンクタイツは手当たり次第に袋の中身を検分した。

 番号27の袋を手に取ったところで、袋の中に目的物を発見した。グラドルレンジャー五人の預けたネックレスが中に入っている。

 ピンクタイツは付箋を剥がして袋ごと、服の間に忍ばせた。

 並んでいる袋のうち一番新しく預けられた、45番の袋の付箋を剥がして手で潰し、先程剥がした27番を貼って、空いた番号を埋める。潰した45番は手近なゴミ箱に捨てた。

 作戦通りに事を済ましたピンクタイツは、そのまま無用な疑いを招かぬよう職員に成りすまして部屋に留まることにした。



 小学生や親子連れの列に混じって五人は少し目立っているのに感じながらも、ウォータースライダーを滑った。

 誰が決めたわけでもないがたまたま滑る順番が年齢順になって、今ちょうど新城を残して楠手が滑り終えた。

 楠手は勢いを落としながら腰から下をプール底に沈ませる。

「こんなに速かったんだね」



 プール底に手をついて、先に滑り終えていた上司、西之森、栗山に笑いながら言った。

 しかしどうしてか、上司が浮かない顔をしている。



「どうしたの上司さん。どこか怪我でもした?」



 楠手が立ち上がりながら心配げに訊くと、上司は浮かない顔のまま答える。



「そういうわけじゃないですけど、想像していたのとちょっと違っただけです。」

「ウォータースライダーが? どういうところが?」

「その、滑ってる時に顔に水がかからないんです」



 不思議な記憶違いであるかのように言う。



「おい、楠手。察しろ」



 理解に及んでいる物言いで、栗山が上司に聞こえない小声で横合いから口添えした。

 察しろ、と言われても情報が少なすぎて無理がある。楠手は訳がわからないという表情になった。

 栗山は察しの利かない楠手に近づいて、彼女の耳に口を寄せる。



「上司の身体をよく見ろ」

「別に特別変わったところは……え、もしかして」



 上司のたわわな胸部に楠手は目が行く。訳を解した瞬間、口がぽかんと開いた。



「ようやくわかったか。実りが良すぎて水を堰き止めてたんだぜ。おそらくな」



 ウォータースライダーの迫ってくる水に対して、上司の量感豊かな双丘は堤防のような働きをしたのだ。

 あまりにもくだらなくも考えつかない事実に、楠手は上司にショックを与えないように不必要なコメントは避けた。



「上司さん。あなた、気付いてないの?」

 物を知らない生徒と話すように、西之森が親切心ある顔で上司に尋ね返す。

 ほんとうに気づいていない上司が首を傾げると、西之森が恥ずかしげもなく答えた。



「あなたの胸が水を堰き止めてたのよ」

「ええっ。そ、そうなんですか?」



 予想だにしない驚きに打たれて、慌てて確認するように自分の胸を見下す。

 西之森は続ける。



「あなたが最後にウォータースライダーを滑ったのは小学生の時よね。その時はまだ成長しきってなかったから、胸を超えて顔に水がかかったのよ」

「そうですね。言われてみたら納得できます」



 残念に思いながらも、理由を聞かされて上司は腑に落ちた。



「ありゃ、思ったよりも気落ちしてねえな」



 上司が小恥ずかしい事実を素直に受け止めるのを見て、栗山が意外そうに言う。

 その時、新城がウォータースライダーを滑り切って水しぶきを上げた。

 今しがたウォータースライダーを滑った新城は、水から身体を立ち上がらせて四人のところまで歩いてくる。



「初めて滑ったけど爽快感があるわね。そう思わない?」



 四人に向けて微笑しながら問う。

 しかし四人はウォータースライダーがどうこうよりも、別の事が気になった。



「なあ、新城?」



 栗山が四人を代表するように口を開く。



「なあに、栗山さん?」

「滑ってる最中に顔に水かかってきたか?」

「かからなかったわ。それがどうかしたの?」

「いや。ちょっとな」



 返答を濁して、横目で上司に視線を注いだ。



「なんですか?」



 栗山に見つめられて、上司は少し顔を赤らめて尋ね返す。



「新城とお前がお仲間だな、と思ってよ。羨ましいぜ」

「そんな、羨ましがられることなんてありません」



 人から羨望される所など無いと思っている上司は、手を前で振って否定した。

 楠手からも同じ念が籠った目を向けられ、新城からは上司ちゃん私仲間ね、と仲間認定され、上司は理解は出来ていなかったが、あまりの恥ずかしさに返す言葉が見つからなかった。
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