グラドル戦隊グラドルレンジャーズ

青キング

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第四話 NO MORE 盗撮怪人カメラーン!

防犯グッズをお求めに

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 部屋から歩いて十五分、新城と光那は各々の目的のためショッピングセンターに買い物に訪れた。

 平日のショッピングセンターは有閑の老夫婦や専業主婦、さらには夏休暇中の学生などの姿がちらほらと見えるだけだ。

「ええと、防犯グッズの店はどこからしら?」

 エントランスのエレベーター傍の店内マップで、新城は防犯用品店の表示を探す。

 食料品の重い荷物を持って歩き回るのを厭い、先に光那の目当ての物を購入するつもりでいる。

「ここね」

 階を一つ上がった二階の左隅に防犯用品の販売店は位置するらしい。

 二人はエレベーターで二階へ上がると、服飾や雑貨や書籍の店の前を歩き過ぎ、目指していたお店に着く。

 通路側から見ると狭いブース内に客らしい人は見当たらず、店名とロゴのプリントされた前掛けを着た壮年の男性店員がカウンターで暇そうにスマホをいじっている。

 ブースに入ってきた新城と光那に気付くと、店員はスマホをジャージのズボンのポケットに仕舞い急に気を張った。

 二人で相談を話し合いながらひと通りブース内を見回った後、店の人に訊くのが恥ずかしいと言った光那に代わって新城がカウンターに近づいて店員に声をかける。

「あの、すみません?」

「はい。なんでしょうか?」

 店員は二人の元へ歩み寄って用件を訊き返す。

「あまり力が必要なくて痴漢や盗撮に防ぐのには何がいいかしら?」

「それでしたら商品の前まで行きましょうか」

 営業スマイルで答えて、二人を先導する。

 ブースの中央列の陳列棚の前で止まり、店員は二人に話を振った。

「力のない女性などが痴漢などを防ぐには、やはり防犯ベルがおススメです」

 フック付きの陳列棚に色んな形状の防犯ベルが掛けられている。

 店員は注文をされてもいないのに、スプレー缶型の防犯ベルを一つフックから外して二人に見せる。

「これは昨日入荷されたばかりのニュータイプです。スプレー缶と同じ形をしており、頭の部分を押すと音が鳴ります。そして音が従来の防犯ベルより数倍大きいので、相手を怯ませ周囲に助けを知らせるには万全です」

「あまり音が大きいと声とかが聞き取りにくくならないかしら?」

 新城が首を傾げて質問する。

 店員は問題ないというように顔の前で手を振る。

「人の声とベルの音はトーンが違うので、声を聞きとれなくなる恐れはありません」

「だそうよ、光那ちゃん。どうする?」

 新城は使用する本人に問いを向けて、光那を対話に引き入れる。

 数々の種類がある防犯ベルを眺めて吟味していた光那は、突然の問いにやや遅れ気味に答える。

「ええと、あたしはもっと小さいのが欲しいです」

「例えばどれくらいを?」

「ポケットに収まるくらい、ですかね?」

「それでしたら……これなんてどうでしょうか?」

 スプレー缶型の物をフックに掛け直し、防犯ベルコーナーの端の小判型を手にして光那に差し出す。

 光那は手の平に載せて、しげしげと見つめる。

「他の色ありますか?」

「はい。ありますよ」

 そう言って頷くと色の違う同じ型の防犯ブザーをフックから外す。

「その色がいいです」

 店員の手にしたうちの水色の物を指さした。

「出来たらですけどどんな音なのか試しに鳴らしてもいただいてもいいですか?」

「わかりました。見本が取りに行って来ますので少しお待ちください」

 店員は光那の要望に応え、バックヤードの方へ向かった。

 しばらくして店員は水色の小判型防犯ブザーを手に戻ってくる。

「お待たせしました。こちらが見本となります。どうぞ試しに鳴らして見てください」

 光那は小判の真ん中部分の沈み彫りのボタンを押し込んだ。

 ビルビルビル、という心臓を脅かす音が鳴り響く。

突然聞こえてきたブザー音に、同じフロアのブース外の人達がきょろきょろと音源を探した。

 音が鳴り止むと、光那は驚いた目で防犯ブザーを見る。

「思ったより音が大きいですね。自分で鳴らしたのにびっくりしました」

 反射的に耳を手で塞いでいた新城は、耳から手を離して衝撃を受けた声で言う。

「今の防犯ブザーって音が大きいのね。私が小学生の時付けていたのなんて、耳元での囁きに思えてきたわ」

「これ買います」

 光那は店員に告げた。

 持ち合わせのない光那に代わり新城がカウンターで支払うと、光那は待ちきれない様子で開封した。

「帰るまで待てないの?」

「今日からこうして持ち歩くようにするんです」

 そう言ってハイウエストスカートのポケットに防犯ベルを入れた。

「くれぐれも落とさないようにしないとね」

 新城は柔らかく釘を刺す。

 気を付けます、と光那は素直に聞き入れた。



 二人は一階に降りてフードコートで昼食を摂り一服した後、もう一つの目的のため食料品売り場へ向かった。

 昼時の食料品売り場は朝の盛時を過ぎて買い物客が少なく、商品棚の整頓をしている店員の姿が目立った。

 その中を新城は買い物かごを提げながら、商品を見て回る。

「ねえ、綾乃さん」

 何かを目に留めて不意に歩きを止めた光那が、商品棚のカニカマを手に取ろうとした新城の腕をつついた。

「なあに?」

 カニカマを買い物かごに入れてから、新城は振り向く。

 光那は通路反対側のパンコーナーで熱心に物色している、赤いTシャツの女性に注視して尋ねる。女性は時々、二人をちらちらと横目に見て来る。

「あの人、何をしてるんですか?」

 新城も女性に目を遣った。その女性の横顔を一目見て、あっという声が漏れた。

 漏れた彼女の声を聞き、光那は続けて問う。

「あの人、綾乃さんの知り合いなんですか?」

「知り合いには違いないんだけど」

 グラドルレンジャーの仲間である楠手だ。どう紹介すればいいものか、新城は悩んだ。

 自分への視線を感じたのか、パンを買い物かごに入れながら楠手は二人に顔を向ける。

 新城の存在に気付くと、途端に悪さでも見つかったような微妙な顔になった。

「こんにちは、楠手さん。こんなところで何をしてるのかしら?」

「こんにちは、新城さん。ちょっと買い物を……」

「どういう知り合いなんですか?」

 新城と楠手の会話に割って入って、光那が訊く。

「そうねぇ、仕事仲間かしらねぇ」

 グラドルレンジャーの仲間ということは秘して、新城は答えた。

 綾乃の同業者だと聞き、光那は表情を明るくして楠手に向き直る。

「はじめまして。あたしはその、綾乃さんの姪で水森光那です」

 短く自己紹介する。

 姪なんだ、と楠手はあからさまに安堵してみせた。

「てっきり娘さんだと思ってた」

「結婚もしてないのに、こんな大きな娘がいるわけないじゃないの」

 心外だと言うように、新城は楠手の勘違いを詰った。

 そうですよ、と光那も新城に同調する。

「それにお母さんより綾乃さん方がずっと綺麗ですし」

「そんなことないわよ」

 やんわりと否定しながらも、姉と比較されて褒められ新城は満更でもない顔だ。

「そういえば二人も買い物だよね。何を買いに来たの?」

 楠手が話の角度を戻す。

「私は食品の買い出しだけど、光那ちゃんも欲しい物があったから一緒に来たのよ」

「光那ちゃん、何を買ったの?」

「防犯ブザーです」

 スカートのポケットから取り出して、楠手に見せる。

 楠手は不思議そうに防犯ベルに目を落とす。

「なんで防犯ブザー。そういうのって小学生とかが付けるやつだよね?」

「実は一昨日に盗撮被害に遭ったんです。それで防犯の意識を持ったんです」

「なるほど、納得納得」

 光那から事情を聞き、楠手は腑に落ちた様子で言った。さらに続けて、

「最近、盗撮被害が多いらしいね。昨日にも高校教員が女子更衣室の盗撮で捕まったっていうニュースやってた」

「あら、そうなの。それは物騒ね」

 世事に疎い新城は話を聞いて身震いしてみせる。

 盗撮事件の暗い話題を嫌った新城がそこで打ち切り、三人で売り場を廻りながら、楠手と新城はグラビア仕事の話が尽きなかった。グラビアを知らない光那も、さまざまに質問をぶつけて会話の輪に加わった。

 目的の食品を買い物かごに詰め終え、カウンターまで行こうとした時、唐突に光那が気恥ずかしそうにして新城の肩をつついた。

「お手洗い、行ってきていいですか」

 そんなことか、と思いながら新城は頷いた。

 光那は頷き返して、カウンターを抜けて通路右手の化粧室へ入っていった。

 会計を待つ間、楠手が羨ましがる調子で口にした。

「新城さんの姪だけあって、将来すごく綺麗になるだろうねぇ」

「楠手さんもそう思うのね。私と一緒だわ」

 ニンマリと笑って、新城は同意を示した。

 しかしその見込み在りの光那が、会計を終えてしばらくしても戻ってこないことに、二人は俄かに不安になり、化粧室を入ってみると、中には誰一人の姿も見られず、水 新城と楠手が化粧室に入り込む数分前の事。

光那が便室から出ると、化粧室の隅で彼女に背中を向けて、デッキブラシで床をこすっている掃除婦がいた。

 いつの間にいたんだろう、と疑問を覚えつつも、光那は掃除婦を気にせずに洗面台の前に立った。

 洗面台の鏡で軽く前髪を整え、防犯ブザーが入っているのとは反対のポケットから水色と白の縞柄のハンカチを取り出し、唇の間で弱く咥える。

 そして蛇口のつまみに手をかけようとした時だった。

 頭部を木の棒みたいな物で抜き打ちに殴られた感覚がして、すぐに意識が朦朧とし出し、ふらりと床に倒れる。

 状況が何もわからぬまま光那は気を失った。

 色と白の縞柄のハンカチが洗面台の下の床に落ちていたのみであった。

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