グラドル戦隊グラドルレンジャーズ

青キング

文字の大きさ
上 下
24 / 37
第四話 NO MORE 盗撮怪人カメラーン!

戦闘

しおりを挟む
 新城が降り立ったのは、緑の葉を付ける銀杏の木が並ぶ、何処かの学校の体育館沿いだった。

 体育館の格子窓にレッドとグリーンが張り付いて、中を覗いている。

「中で何か起きてるかしら?」

 新城もといパープルは背後から話しかけると、レッドがぎょっと肩を強張らせて振り向く。

 パープルの姿を目に入れて、レッドは幾分身体の力を抜いた。

「なんだ、パープル。驚かせないで」

「驚かすつもりはなかったのよ。ごめんなさいね」

「静かにして。気付かれるじゃない」

 レッドとパープルの会話の声量を、体育館の中に意識を集中したままグリーンが咎める。

「グリーン、中で何が起きてるの?」

「男性教師が怪人とピンクタイツに拘束されてるのよ」

「助けに行かないの?」

 パープルの質問に、グリーンは苦々しい顔を向ける。

「助けに行こうと思っても、五人揃わないと必殺技が使えないでしょ」

「それであたしとグリーンはさっきからここで敵の様子を見張ってる」

 理解ある表情でレッドは付け加えた。

 二人が窓に張り付いている訳を納得したグリーンは、自分も二人の頭の間から中を覗いた。

 教師は怪人たちが設置したのか、バレーボールのポールに身体を縛り付けられ、口はガムテープで塞がれている。

 ポールを囲んでいるのはピンクタイツ二人、そこから三歩ほど離れて監督官のような立ち姿で、リーダー格らしき金縁の腕章をつけた全身ブルータイツが立っている。

 ピンクタイツ三人は男性教師に、しばらくは脅迫のような問答をさせていたが、涙目ながらも頑として首を縦に振らない教師にしびれを切らしたのか、がブルータイツがピンクタイツに脇へ退くよう手を払って指示した。

 ブルータイツはなんとか恐怖に耐えている教師の目前まで歩み寄った。

 ブルータイツが何かを問い教師が首を横に振ったが、そこまで大きな声ではないのでグラドルレンジャー三人には内容が聞こえてこない。

 教師の答えが不満だったらしく、ブルータイツが教師の腹部に拳を打ち込んだ。

 憂さ晴らしのようにその後も、抵抗できない教師にブルータイツは暴行を加える。

「助けに行きましょ」

 レッドが意を決した声で、グリーンを促す。

 グリーンはレッドに顔を合わせて頷いた。

待てないと言わんばかりにグリーンとレッドは走り出し、近くの引戸から中へ突入する。パープルも一足遅れて二人の後に続く。

「そこまでよ」

 体育館に踏み入ると、レッドが威風堂々とした声を張り上げた。

 ブルータイツとピンクタイツはグラドルレンジャー三人を振り向く。

「なんだ、お前達は!」

 ブルータイツが突然の闖入者に、叱責に似た語調で誰何した。

「グラビア~、レッド!」

「グラビア~、グリーン!」

「ええと、グラビア~、パープル」

 レッドとグリーンは登場ポーズなど取らずに、あたかも号令の返事のような大声で名乗った。

 パープルは二人の怒るような名乗り方に合わせられず、戸惑いながら名を告げる。

「ふん」

 ブルータイツは鼻で笑った。

「察するにこの男を助けに来たんだろうが、こちらにも目的があるんだ。身柄を渡すわけにはいかない」

「あたし達は力づくだっていいんだけど?」

 レッドは刃のように鋭い目で言って凄む。

 レッドの凄みを歯牙にもかけずない様子で、ブルータイツはまたも鼻を鳴らした。

「腕っぷしに自信があるのか知らんが、俺もシキヨクマーの一員だ。お前達が俺と戦うと言うなら逃げはしない」

 形勢不利を理由に敵前逃亡をしたムカデゴロンよりも胆力が備わっている。

「交渉の余地はない、覚悟しなさい!」

 レッドは鬨の声をあげると、拳を固めてブルータイツとの間合いを急速に詰めた。

 グリーンとパープルもレッドに倣い、ブルータイツとの距離を縮める。

 攻勢に入った三人を相手に、ブルータイツはたじたじの体で忙しなく上半身を動かし視線を走らせた。

「おりゃ」

 ブルータイツの薙ぎ払おうとする腕の下を潜り、レッドが懐に入り拳を突き出した。

 拳はブルータイツの腹部にめり込む。

苦しげな息を漏らしながらブルータイツは後ずさる。

 攻撃に間断はなく、右手からグリーンの手が迫り、ブルータイツの右腕を掴んだ。

「離せっ!」

 ブルータイツは力任せに掴まれた右腕を力任せに振り払う。

 しかし死角になった左から、パープルが横腹に拳を抉り込んだ。

「うおっ」

 拳打の勢いを殺せずにブルータイツは横様に倒れた。

 距離を詰めてなおも攻撃を続けようとする三人に、ブルータイツは倒れた姿勢のまま、両腕を力なく掲げた。

「ま、まいった」

 逃走経路を頭の中に描きながら、ブルータイツは降参の意を示す。

 三人は怪訝そうな表情で、ブルータイツに訊ねる。

「ほんとに負けを認めてるの?」

「もちろん。この通りだ」

 掲げている腕を伸ばして、戦う意思のないことを強調する。だが気付かれないように茫然と突っ立っているピンクタイツ二人に目を配る。

 ピンクタイツ二人はブルータイツの目配せから、お前達どうにかしろという簡易な指示を受け取った。

二人は互いの考えを確認するように顔を合わせ、その後にブルータイツに頷き返した。

 あわよくば形勢逆転を、と目論んだブルータイツだったが、次の瞬間ピンクタイツ達は足音を忍ばせて手近の引戸へ向かって走り出した。

「おい、待て!」

 追い詰められている身であることを忘れて、ブルータイツは部下を怒鳴りつけた。

 びくりとピンクタイツ二人は離脱の足を止めて硬直した。

 ブルータイツの目線と唐突な叱責に、グラドルレンジャーの三人も同じ方に揃って顔を向けた。

 針のむしろに晒されたピンクタイツは、自棄のように視線を振り切って、引戸を開けて這う這うの体で体育館の外へ逃れ出る。

「私が追うわ」

 パープルは追跡を自ら引き受け、ピンクタイツを追って体育館を後にする。

 ブルータイツがピンクタイツの逃走の差し金であるかのように、レッドはブルータイツを憤慨の目で睨みつけた。

「逃げた二人に何を指示したの?」

「俺にだってあいつらが逃げ出した意味がわからないんだ」

「とぼけないで!」

「とぼけてなどいない」

「レッド?」

 ブルータイツと怒鳴り合うレッドに、グリーンが落ち着いた声をかけた。

「――何?」

 ポールに縛り付けられたまま気絶している男性教師を、グリーンが指さす。

「男性の拘束解いてくるわよ。いい?」

「あっ、忘れてた。ありがとうグリーン」

 グリーンは男性教師の拘束を外してポールから降ろすと、体育館隅の壁にゆっくりともたせかける。

 目論見を潰され部下にも見放されたブルータイツは、保身の考えを放棄した。やおら立ち上がり、捨て鉢の覚悟を漲らせる。

「おのれ、お前ら!」

 うぉぉぉと雄たけびをあげながら、正面にいたレッドにラグビー選手を思わせるタックル姿で突進した。

 降参を告げられ、少し気を抜きかけていたレッドは、からくもブルータイツの捨て身の攻撃を躱す。

 ブルータイツはタックルの勢いを床への受け身で殺しながら、片膝立ちの体勢になった。息を吐く暇もなく、再度レッドへ突進する。

 真っ直ぐに突っ込んでタックルを喰らわせにいく一辺倒の攻撃だが、レッドも躱すのに精一杯で反撃の余裕はなかった。

 だが防戦一方も束の間、男性教師を安全な位置に運び終えたグリーンが戦闘に加わり、形勢はグラドルレンジャー側に傾いた。

 レッドとグリーンを相手に、タックルの標的が二手に分かれてことでブルータイツの動きは鈍り、タックルの勢いも徐々に減じていった。

 ピンクタイツ二人に撒かれて、パープルが体育館に戻ってきた時には、すでにブルータイツはバスケットゴールの下でうつ伏せに力尽きていた。

「青いタイツの人はどこに行ったの?」

 引戸を開けて目の前にいたグリーンに、パープルは尋ねる。

「私とレッドで倒したわよ」

「そうなの。私の方は取り逃がしちゃった、ごめんね」

「仕方ないわよ。右も左もわからない場所だから」

「グリーンの言う通り」

 体育館の隅から男性教師を負ぶって歩いてくるレッドが、グリーンに同意した。

 グリーンとパープルの横を通り過ぎて、銀杏の木に男性教師をもたれかけさせる。

「男の人の意識が戻る前に帰りましょ」

 ひとまずの出動任務を終えたグラドルレンジャー三人は、各々テレポートをした場所へとテレポートで戻った。



 パープルの追跡を撒いたピンクタイツ二人は、同学校の南棟の屋上へ帰り着いた。

 部下の帰還を胡坐の姿勢で、自身の眼に当たる部位であるレンズを拭きながら待っていたカメラーンが、ドアの開く音で二人に気付いて振り向く。

「二人だけか?」 

 カメラーンは不可解そうに下問する。

「はい。不測の事態が起きまして」

 ピンクタイツの一人が答える。

「不測の事態とは、なんだ?」

「はい。不測の事態というのは、その、厄介な敵が現れまして……」

「厄介な敵だと、それはどういう奴だ?」

「グラドルレンジャー、です」

「それで、倒したのか?」

「……」

 ピンクタイツは言葉に詰まった。グラドルレンジャーと遭遇しながらも逃亡してきたとは、畏怖のあまり言い出せない。

「どうなんだ?」

「その……班長が身動きできない状態にあります」

 班長とはブルータイツのことで、ピンクタイツ戦闘員の直属の上司で、ギャルゲ大佐の下で、現時点で任務を受け持っていないピンクタイツ達を統括していた部隊長だった。

 戦闘員のリーダーに当たる相当する隊員の危機を、カメラーンは諦念とともに受け入れた。

「彼一人では太刀打ちは不可能だな」

「どうなさるのですか?」

「彼には無慈悲だが、我らだけで退こう。今はまだグラドルレンジャーと戦う時機ではない」

「承知しました」

 敵前逃亡が看破されずに、ピンクタイツは安堵しながら頷いた。

 カメラーンはレンズを取り付け直すと、胡坐から立ち上がった。

 屋上の柵に手をかけたところで、思い出したように尋ねる。

「ところで。ターゲットの男はどうなった。姿が見当たらないが?」

「さあ、自分には」

「まあ、いい。所詮は大量のターゲットの内の一人にすぎない。しばらくは逃がしておいても問題ないだろう」

 そう言って許容したカメラーンの頭の中でギャルゲ大佐の命令が反芻されている。“シキヨクマーを抹殺しろ”

「今すぐ、基地に戻るぞ」

 ピンクタイツ二人に告げると、カメラーンは柵を飛び越え、地上十数メートルから降り立った。

 任務隊長であるカメラーンに続いて、ピンクタイツ二人も柵を飛び越える。

 日中の学校近辺に、彼等の姿を認め得た者はいない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

熱砂のシャザール

春川桜
キャラ文芸
日本の大学生・瞳が、異国の地で貴人・シャザールと出会って始まる物語

処理中です...