グラドル戦隊グラドルレンジャーズ

青キング

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第二話 ストッキングが盗まれた。破廉恥!百足怪人ムカデラス

楠手のアルバイト

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 怪人との戦闘から一夜明けて、楠手は寝不足のまま早朝からシフトを入れていたカラオケ店のバイトに出向いた。

 カウンターで大きな欠伸をしている彼女を見て、四十を越した店長が気づかわしげに訊く。

「楠手くん、昨日寝れてないのかい?」

「はい、いろいろありまして」

 楠手は答えて、また口を開け欠伸した。

 店長は勝手に想像して、訳を探る。

「深夜バイトでも始めたのかい?」

「そういうわけではないですけど、いろいろあるんです」

「そんなものかね、最近の若い子は」

 店長は老人じみた台詞で楠手の問題を片づける。

「若いって言っても、もう二十六ですけどね」

「俺から見たら、充分に若いよ。でも若いからって、無理して身体を壊さないようにするんだよ。おっと、厨房の新人に呼ばれた」

 楠手は気遣いの言葉をかけてくれた店長が、厨房の方へと消えていくのを何の気もなく眺めた。また欠伸が出た。

「疲れてるのもあの怪人のせいだ」

 ぽつりと不満をかこつ。

 その折、店の入り口の自動ドアが開いた。

いらっしゃいませ、と言いかけて楠手は口を止めた。昨夜に共闘したばかりのレンジャーグリーンが、くびれた細いウエストを隠すゆったりした紺のワンピース姿で入店してきた。

 レンジャーグリーンもとい西之森麻美が、楠手に気付く様子もなくカウンターに近づく。

「一人、三時間をお願い」

 それだけ告げて楠手の顔を見ようともしてせず、ハンドバックの中に手を入れる。

「かしこまり、ました」

 楠手は動揺して、ぎこちなく応じた。

 彼女が精算機で会計している時、西之森はようやく目の前の店員を見て首を傾げた。

「はい、ドリンクバー付きで700円になります。部屋は一階の13番になります」

「あなた、楠手さんよね?」 

やっと気がついたか、と楠手は憮然とした表情になる。

「こんなところで働いてるなんて思わなかったわ」

「バイトよ、バイト。それより700円」

 にこりともせず楠手はカウンターの台を指で叩いて、料金を催促した。

 驚いた表情のまま、西之森は料金を支払う。

「それにしても、奇遇ね」

「そうね、奇遇よ。喋っている間もカラオケの時間は減ってるわよ」

「確かに時間がもったいないわね。それじゃ、バイト頑張ってね」

 笑いかけてから、西之森は部屋の並ぶ通路に歩いていった。

 しばらく楠手は注文の電話も一人の客も来ず、カウンターに突っ立ってぼんやりと過ごしていた。

 何度か漏れそうだった欠伸をかみ殺したところで、店長が厨房から出てきた。

「楠手くん、さっき知り合いが来てたね」

 先程の会話が聞こえていて、店長は楠手にそう言った。

 はい、とだけ楠手は返す。

「なんの知り合い?」

 悪の組織と戦う仲間、とは当然言えない。少し間を空けて答える。

「高校の同級生です」

「ふーん、そうなんだ」

 これといった感想もなく店長は頷いた。

 話を広げないなら訊かないでもよくない、と楠手は反感を持って思った。

「知り合いのことはおいといて、今日バイトの終わりに予定ある?」

「いいえ、ありませんよ」 

唐突な質問に、店長の考えを汲み取れない。

「新人に他のスタッフと顔合わせさせたいから、帰りに残っててもらっていいかな?」

 そういうことか、と納得する。

「いいですよ」

「わかった、それじゃ場所は帰りに伝えるよ」

 そう言うと店長は厨房に戻っていった。

 どうせすぐにバイト辞めちゃうのに、どうしてわざわざ顔合わせなんかするんだろう。と、そんな社会の人間関係の煩わしさをつくづく感じた。

 閉店時間を過ぎて店長は楠手を含むスタッフ全員を、いきつけのおでん屋へ誘った。

 付き合ったのは楠手と彼女と同時期から務めている男性スタッフの速水と大学生で新人のアルバイトの遠藤だけ。他のスタッフはめいめい私用があるからと断って帰途に就いた。

 人数が少なかろうと店長は上機嫌で、おでん屋の店主にお願いして座敷部屋を借りる。

「さあ、当初の予定より人が少ないが、四人でも盛り上がろうじゃないか」

 新人に他のスタッフと顔合わせさせるのが目的であったはずだが、店長にとって顔合わせは口実に過ぎないようだった。

 座卓の前に腰を下ろして、店長は楠手と速水と遠藤を向かいの座布団に促す。

「まずは座ってくれないと、始まらんぞ」

 遠藤は、店長に言う。

「店長、今日は随分ご機嫌ですね」

「そうか、そう見えるか?」

「はい、そうとしか見えません」

 遠藤が頷くと、店長はもともと少し緩んでいた口元をさらに緩ませて満面で笑った。

「ついにこの日が来たなあ、と思ってな」

「この日?」

 遠藤は首を傾げる。楠手も何の日ですか、と尋ねる。

「実はなうちの店舗を経営していくにあたって重要な決定を下さねばならないのが今日なのだよ」

「はあ、でその重要な決定というのは」

「俺が聞いてても大丈夫なんすか?」

 遠藤は腰を浮かせかけた体勢で、三人に目を向けて訊いた。

「構わんよ」

 店長は承知する。

 新人は申し訳ないっすと頭をペコペコしながら、座り直した。

 向かいの楠手と速水に向き直って、店長が切り出す。

「それで大事な話とはな。楠手くんと速水くんには正式に従業員として勤めてもらたい、とそういう旨だ」

 前触れのないの申し出に楠手と速水は顔を見合わせる。

「うちに正規で働くつもりはなかったかな?」

「いきなりだったもんですから」

 速水は申し訳なさそうにしている店長に苦笑いを返す。

 だが彼はすぐに真剣な顔になって、申し出を受け入れる意思で頷いた。

「店長から直接頼まれるなんて、嬉しいです。いずれは自分から願い出ようと考えてましたから」

「楠手くんは、どうかな?」

 楠手は戸惑いを顔に浮かべる。少し前からヒーローの仕事を始めたばかりなのに、正規雇用だと急な作戦行動に支障が出かねない。

「えっ、私は、うーん。いきなり過ぎて考えが決まってないんです」

「そうかね、考えるなら何か条件とかについて訊きたいことはあるかい?」

「訊きたいことですか」

 座卓に目を落として気になる事柄はないか考え始める。それに被さるように彼女のネックレスが、本人以外気付かない程度に振動する。

「あっ、ちょっとお手洗いに行ってきます」

 気になる事柄が思いつかないまま立ち上がって、幸い空いていたお手洗いに駆け込んだ。

 ドアをぴたりと閉めて会話を聞かれないように配慮しながら、ネックレスを身体から持ち上げて回線を開いた。

 回線が開くなり、木田がしかつめらしく口達する。

(怪人の次の出現場所を特定できた。至急現場に向かってくれ)

「どこ?」

(丸山靴下工房だ)

「了解」

 錦馬は回線を切った。

 お手洗いから出て職場仲間のいる座敷には上がらず、声を大きくして告げる。

「急用が出来てしまったので、お先に失礼します」

「ん、楠手君急用ってなんだい……」

 店長が質問を言い切る前に、ダッシュでおでん屋を退出した。

 おでん屋の傍の人気のない路地に入り込み、楠手は怪人出現予測地へとへとテレポートした。
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