1 / 37
プロローグ
しおりを挟む
絹を引き裂くような女の子の悲鳴が、日の落ちた宵の児童公園に響く。
尻もちをついたまま恐怖で立てない女の子の胴体に、蛇頭の手が翳される。
「ぐへへ、俺と一緒に来てもらおうか」
両手が蛇頭の二本足で立つ全身に鱗を纏った怪人が、恐がる女の子ににじり寄っている。
女の子は腰に力の入らぬまま、身体を後ろに引きずる。
怪人は蛇らしい大きな口を開けて笑った。
「おとなしく、巻きつかれるんだな」
蛇頭の手が長く伸び生きているようにうねると、女の子の胴体に迫る。
「そこまでよ!」
公園中に鋭い女性の声が響き渡った。
「この声は、まさか」
怪人は蛇頭の手を止めて、途端に周辺を警戒する。
「どこを見ているの、こっちよ」
怪人は頭上からの声に振り仰ぐ。
胸の真ん中に赤いハートを飾った赤いワンピース型の水着を着た女性が、滑り台の最も高いところに立ち、怪人を見下ろしていた。
怪人が憎ましげに女性に蛇頭の手を向ける。
「お前はグラビアレンジャー!」
「グラビア~、レッド」
腰に手を当てたポーズをとる。
グラビアレッドの後ろから、同型のワンピース水着の青いのを着た女性が姿を現す。
「グラビア~、ブルー」
覇気のない声で胸の前で腕を交差させる。
「グラビア~、イエロー」
グラビアレッドの背後から出てきて、選手宣誓みたいに片手を真っすぐ上げる。同型の水着で今度は黄色い。
「グラビア~、グリーン」
グラビアイエローの隣からフェンシングのようなポーズで登場する。これまた同型の水着で緑色。
「グラビア~、パープル」
ボクシングに似たポーズで横に並ぶ。またまた同型の水着で色は紫。
五人が名乗ったところで、レッドがポーズをといて怪人を指さす。
「怪人ロリコンダ。女の子から離れなさい」
「何をほざく。このロリコンダ様に攫えぬ女児などいぬのだ。女の子を助けたくば、俺様と勝負しろ」
怪人の恥ずかしげのない台詞に、レッドは背筋に悪寒を走らせる。
「うわあ、気持ち悪い。さっさと片づけてしまいましょ」
「グラドルレンジャー、俺様の攻撃を喰らえ!」
「ちょちょ、待って」
怪人が片方の手を引いて蛇頭を突き出すのを、レッドが慌てて制した。
怪人は手を引いた状態で問い返す。
「なんだ」
「滑り台からすぐ下りるから、それまで攻撃しないで」
「……早くしろよ」
怪人は心広く申し出を諾した。
レッドは四人の仲間を振り返り指示する。
「みんな、滑り台から下りましょ」
レッド以外の四人は無言で頷き、各自近い順に滑り台を滑って地面に降りていく。
「おい、まだか?」
二人目のイエローが降りている最中に、怪人が尋ねた。
「あと三人だから」
レッドが怪人の方を見もせず答える。
「……そうか」
怪人は痺れを切らして襲いかかることはなく聞き入れた。
四人目のブルーが滑りきって立ち上がったところで、またしても怪人は尋ねる。
「おい、どれだけ待たせる気なんだ?」
さっきより少し怒気を含ませた問いにも、レッドは平然として、
「あとは私だけだから」
と滑り台の坂に足を伸ばしながら返した。
五人全員が滑り台から下りて横一列に並ぶと、やっと臨戦の構えを取る。
怪人が蛇頭の手を引いて攻撃の態勢に入る。
「ようやく戦闘に入れる。グラビアレンジャー、お前達をこの手で巻き……」
「必殺……」
中央に立つレッドが片手を銃の形で怪人に向ける。ブルー、イエロー、グリーン、パープルも同様に怪人に照準する。
「「「「「グラドルショット!」」」」」
五人揃って叫び、指先から水着と同じ色の光弾が発射された。
「喰らえ、え、マジ、ズル、ギャアアアアアアアア」
攻撃を仕掛けようと怪人が手を突き出した時には、彼の眼前に五つの光弾が迫っていた。
光弾は一つに収斂し、怪人の胸に目掛けて射出され直撃した。
怪人は胸を押さえながら倒れ伏し、跡形も残さず泡沫となって爆発した。
怪人に攫われかけた女の子は、現実ではないものを見るように自分の前で起きた戦闘を眺めていた。
必殺技の構えを解いたレッドが、少女に歩み寄り微笑みかけた。
「もう安心していいよ、変な奴はやっつけたから。ケガはなかった?」
うん、と女の子は状況の理解が追いつかず、頷き返すことしかできなかった。
「なら良かった」
レッドは女の子に傷のないのを知るとそう言って、仲間の四人の方に顔を戻した。
「みんな、帰ろう」
レッドが促すと、四人は何の言葉を返すでもなく公園の出口に歩き出した。レッドも後に続く。
ブルーは一仕事終えたっぽく、肩を回す。
「ああ、これでまた報酬金で打ちにいけるぜ」
「また打ちにいくんですか。お金なくなっちゃいますよ」
イエローがブルーを心配して言った。
「イエロー、心配したって無駄よ。ブルーは依存症も同然だから」
グリーンが呆れたようにけなす。
「これで映画の続きが観られるわ」
パープルは中断してきた映画の展開に思いを馳せる。
「お風呂、冷めちゃっただろうなあ」
レッドは自宅の湯船のお湯が冷たくなったであろうことに、少し気を落とす。
五人のレンジャーが口々に喋りながら公園を去っていく。
しばらくして女の子がお礼を言おうと五人を追いかけて公園を出た時には、路地の左右どこにも五人の姿は見当たらなかった。
彼女ら五人によって、今日もまた平和は保たれた。
尻もちをついたまま恐怖で立てない女の子の胴体に、蛇頭の手が翳される。
「ぐへへ、俺と一緒に来てもらおうか」
両手が蛇頭の二本足で立つ全身に鱗を纏った怪人が、恐がる女の子ににじり寄っている。
女の子は腰に力の入らぬまま、身体を後ろに引きずる。
怪人は蛇らしい大きな口を開けて笑った。
「おとなしく、巻きつかれるんだな」
蛇頭の手が長く伸び生きているようにうねると、女の子の胴体に迫る。
「そこまでよ!」
公園中に鋭い女性の声が響き渡った。
「この声は、まさか」
怪人は蛇頭の手を止めて、途端に周辺を警戒する。
「どこを見ているの、こっちよ」
怪人は頭上からの声に振り仰ぐ。
胸の真ん中に赤いハートを飾った赤いワンピース型の水着を着た女性が、滑り台の最も高いところに立ち、怪人を見下ろしていた。
怪人が憎ましげに女性に蛇頭の手を向ける。
「お前はグラビアレンジャー!」
「グラビア~、レッド」
腰に手を当てたポーズをとる。
グラビアレッドの後ろから、同型のワンピース水着の青いのを着た女性が姿を現す。
「グラビア~、ブルー」
覇気のない声で胸の前で腕を交差させる。
「グラビア~、イエロー」
グラビアレッドの背後から出てきて、選手宣誓みたいに片手を真っすぐ上げる。同型の水着で今度は黄色い。
「グラビア~、グリーン」
グラビアイエローの隣からフェンシングのようなポーズで登場する。これまた同型の水着で緑色。
「グラビア~、パープル」
ボクシングに似たポーズで横に並ぶ。またまた同型の水着で色は紫。
五人が名乗ったところで、レッドがポーズをといて怪人を指さす。
「怪人ロリコンダ。女の子から離れなさい」
「何をほざく。このロリコンダ様に攫えぬ女児などいぬのだ。女の子を助けたくば、俺様と勝負しろ」
怪人の恥ずかしげのない台詞に、レッドは背筋に悪寒を走らせる。
「うわあ、気持ち悪い。さっさと片づけてしまいましょ」
「グラドルレンジャー、俺様の攻撃を喰らえ!」
「ちょちょ、待って」
怪人が片方の手を引いて蛇頭を突き出すのを、レッドが慌てて制した。
怪人は手を引いた状態で問い返す。
「なんだ」
「滑り台からすぐ下りるから、それまで攻撃しないで」
「……早くしろよ」
怪人は心広く申し出を諾した。
レッドは四人の仲間を振り返り指示する。
「みんな、滑り台から下りましょ」
レッド以外の四人は無言で頷き、各自近い順に滑り台を滑って地面に降りていく。
「おい、まだか?」
二人目のイエローが降りている最中に、怪人が尋ねた。
「あと三人だから」
レッドが怪人の方を見もせず答える。
「……そうか」
怪人は痺れを切らして襲いかかることはなく聞き入れた。
四人目のブルーが滑りきって立ち上がったところで、またしても怪人は尋ねる。
「おい、どれだけ待たせる気なんだ?」
さっきより少し怒気を含ませた問いにも、レッドは平然として、
「あとは私だけだから」
と滑り台の坂に足を伸ばしながら返した。
五人全員が滑り台から下りて横一列に並ぶと、やっと臨戦の構えを取る。
怪人が蛇頭の手を引いて攻撃の態勢に入る。
「ようやく戦闘に入れる。グラビアレンジャー、お前達をこの手で巻き……」
「必殺……」
中央に立つレッドが片手を銃の形で怪人に向ける。ブルー、イエロー、グリーン、パープルも同様に怪人に照準する。
「「「「「グラドルショット!」」」」」
五人揃って叫び、指先から水着と同じ色の光弾が発射された。
「喰らえ、え、マジ、ズル、ギャアアアアアアアア」
攻撃を仕掛けようと怪人が手を突き出した時には、彼の眼前に五つの光弾が迫っていた。
光弾は一つに収斂し、怪人の胸に目掛けて射出され直撃した。
怪人は胸を押さえながら倒れ伏し、跡形も残さず泡沫となって爆発した。
怪人に攫われかけた女の子は、現実ではないものを見るように自分の前で起きた戦闘を眺めていた。
必殺技の構えを解いたレッドが、少女に歩み寄り微笑みかけた。
「もう安心していいよ、変な奴はやっつけたから。ケガはなかった?」
うん、と女の子は状況の理解が追いつかず、頷き返すことしかできなかった。
「なら良かった」
レッドは女の子に傷のないのを知るとそう言って、仲間の四人の方に顔を戻した。
「みんな、帰ろう」
レッドが促すと、四人は何の言葉を返すでもなく公園の出口に歩き出した。レッドも後に続く。
ブルーは一仕事終えたっぽく、肩を回す。
「ああ、これでまた報酬金で打ちにいけるぜ」
「また打ちにいくんですか。お金なくなっちゃいますよ」
イエローがブルーを心配して言った。
「イエロー、心配したって無駄よ。ブルーは依存症も同然だから」
グリーンが呆れたようにけなす。
「これで映画の続きが観られるわ」
パープルは中断してきた映画の展開に思いを馳せる。
「お風呂、冷めちゃっただろうなあ」
レッドは自宅の湯船のお湯が冷たくなったであろうことに、少し気を落とす。
五人のレンジャーが口々に喋りながら公園を去っていく。
しばらくして女の子がお礼を言おうと五人を追いかけて公園を出た時には、路地の左右どこにも五人の姿は見当たらなかった。
彼女ら五人によって、今日もまた平和は保たれた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる