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42話 カレーなる食卓

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「よし。とりあえず、ここに座って、座禅組め」

安藤は自分の前の床を指差した。ツバサは言われた通りに腰を下ろす。

「おー、じゃあ、目瞑って静かにしてろ。背中触るぞ」

「う、うん」

ツバサが目を瞑ると、安藤の手がゆっくりと背中に触れた。

(なにか、入ってくる?じんわりするなあ)

背中から伝わる温もり、それが体の中をぐるぐると回っている。これは安藤の魔力だ。しばらくの間、何かを探るように、身体中をぐるぐると巡り、ふいに止まった。

(アレ、………何か有る?)

ツバサは目を瞑っている筈なのに、暗闇の中に何かが有るのを感じた。

「おい、目開けて良いぞ」

安藤の言葉にハッとして、ツバサは目を開けて振り向く。何故か安藤は額から汗を流していた。

「安藤君?どうしたの?大丈夫?」

「おー、まあ大丈夫だ。つーかお前、マジで人工精霊?とか言うのなんだな」

「え?わかるの?」

ツバサからの問いかけに、小さく頷くと、安藤は大きく息を吐いて呼吸を整えている。

「あー、………兄貴が、……昔、良く魔力暴走起こしててな。俺が無理やり外からコントロールしてたんだよ」

「ふーん?そうなんだ。それで、どうしてわかるの?」

ツバサは、首を傾げた。

「俺は魔力量が少ねえから、コントロールとか細かい事だけは、これでも一応頑張ってんだよ。んで。今お前の中探ってみて、決定的に人と違うもん見つけたからなぁ」

「え?」

「なんつーの?芯とか、核とかみてえなモン。しかもなんか無理やり外から魔力抑えつけられてんぞ、こりゃ、俺だけじゃ無理だな。下手に魔法使うと、暴走するぜ、お前」

核。その言葉にツバサは、ミライが言っていた事を思い出す。

「あー、ちょっと園田さん呼ぶよ。多分、話したほうが良いから」

ツバサは立ち上がり、ちゃぶ台を囲んで談笑しているミライに声を掛けた。

「園田さん。ごめん。ちょっといいかな?」

「園田出番だぞ。こっち来い」

すぐに、嬉しそうにミライはこちらへ近づいて来た。

「なに?どうしたの?」 

とりあえず、今有った事を簡単に説明すると、ミライは、うーんと唸っていた。

「うんうん。なるほどね。因みに核って何処にあった?」

ミライはツバサへ尋ねるが、それには安藤が答える。

「何処とか、そーいうもんじゃねえよ。アレは」

「えっと、核が壊れるとツバサ君が死んじゃうんですけど、そーいうのじゃ無いって?」

「あー?まあ、普通にしてりゃあ、ほぼ不死身だなありゃ。なんつーか魂とかそんな感じだ。並大抵の事じゃ傷つかねえよ」

その言葉にミライはホッとした様に息を吐いた。

「それでね。園田さん、その抑えつけられてるって、何か心当りある?」

今度はツバサがミライへ尋ねる。

「………あー、まさかとは思うけど、ツバサ君のおじいさん絡みかなあ?アニメでは普通に全属性使えてたし」

「あー、お祖父様かあ」

「ジジイがなんだよ?」

「えっとね………」

三人は円になり、コソコソと珍妙丸達に聞こえないように話す。







◇◇◇◇◇◇







(お祖父様は、僕が傷つくのを凄く嫌っていたし、戦えないようにされていてもおかしくは無いよね)

「じゃあ、魔法は諦めるしかないのかな?」

「いや、アテが有るぜ、それ」

諦めムードの中、安藤が言った。

「アテって?」

「お前ら、昨日一緒に居ただろー?廊下でちらっと見たぜ」

「え?」

「昨日、ですか?」

首を傾げる二人に、安藤は呆れた顔だ。

「は?……あのガキ。……マロン・ルージュだよ。あいつなら、なんとかすんだろ。あの魔法オタクなら絶対話に、乗ってくんぜ」

「あ!!なるほどね!!確かに、そうかも。それに、ツバサ君の正体も知られるのが少し早まるだけだし、アニメでもマロンは誰よりも早く気づいてても、誰にも言ってなかったから、大丈夫だね」

ミライは声を弾ませる。

「でも、連絡先知らないよ?園田さんもだよね?」

ツバサがそう言うと安藤は、にやりと笑った。

「あー、あいつ等なら研究所にいんだろ」

「研究所?」

「あー、なるほど」













「ここが研究所なんだ?」

安藤に案内されて着いたのは、こぢんまりとした、白い建物だ。入口にベルがあるので、鳴らすことにする。チャイムの後、暫くすると、エプロン姿のブランが出て来た。

「ん?ミライか?それと貴様か……」

ブランは、ミライとは昨日打ち解けて、名前呼びになっていた。ツバサには、色々と思う所が有る様で眉を顰めている。それから安藤を見て怪訝そうな顔をした。

「誰だ?見ない顔だな」

「はあ?安藤だ。同じクラスだろがぁ、今更、何言ってんだ?」

「何?!貴様が安藤だと?!」

安藤のイメチェンに、ブランも声をあげて驚いている。無理もない。

「急に来てごめんね。今、大丈夫ですか?」

ミライは尋ねる。奥から微かにカレーの匂いがする。少しタイミングが悪かったかも知れない。

「今、料理中だ」

思った通りの返事をブランがすると、その後ろからひょこりとマロンが顔を出した。

「あにさま。かれー。皆で食べると。おいしい………よ?」

今日のお昼はカレーになった。





◇◇◇◇◇◇







「とりあえず上がるといい。もてなしは期待するなよ」

ブランは料理の途中だったので、また暫く台所にこもるようだ。ミライ達をマロンに任せて、奥へと消えていった。

通された部屋は普通の生活空間に見える。奥に機械的な大きな扉があるので、その先は研究施設になっているのだろう。

「二人でここに住んでるの?」

ツバサがマロンを膝に乗せて尋ねる。

「ん。りょうは。あにさま。いやだって」

「そうなんだ?寮も結構楽しいよ?でも兄妹一緒の方が良いもんね」

ツバサはニコニコして、マロンの頭を撫でている。

(妹と離れたくなかったんですね。わかります)

ミライは遠い目になった。

とりあえずマロンに、かいつまんで、ここへ来た理由を説明した。マロンは、うんうん頷いている。好奇心からか、いつもより、少し目が輝いていた。

「ん。りゆう、わかった。どうすれば。いい?」



安藤はマロンにツバサの手を握らせるとまたツバサの背に手を当てた。

「二人とも、目つぶれ」

「!!」

目を閉じたマロンが、すぐに飛び上がった。

「お前にも見えただろがぁ?どうだ。なんとか出来そうか?」

汗だくの安藤がマロンに尋ねる。

「うん!うん!ちぃあにさま。すごい!!」

マロンはめずらしく頬を上気させて興奮している。大興奮だ。こうしていると、見た目相応の年齢に見える。実際は18だが。




料理を終えてやって来たブランが、ツバサに抱きついて、はしゃぐマロンを見て。複雑そうな顔をしていた。だがマロンが嬉しそうだからなんにも言えないようだ。

「……姫。カレーが出来たぞ」


とりあえずカレーを食べることになったので、皆で机を囲む。

「すごいなあ、皆、ちゃんと料理できるんだなー」

ツバサはライアンの事を思い出しながら、ブランにそう言った。

「ふん!!当たり前だ」

ブランは得意そうな顔で鼻を鳴らしている。

だが、すかさずマロンが言う。

「あにさま。うそはだめ。かれーしか。つくれない」



マロンの好物がカレーだからである。

 

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