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来世邂逅

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貴方と10年もの間、政略結婚としては珍しく愛を育みながら過ごしていたからこの婚約が私と貴方を個人的に結ぶものではなく家同士を結びつけるものだったと忘れてしまっていました。

我儘な姉と姉ばかりを優遇する両親。
侯爵家の長女として家督を継ぐ為に生きてきた姉と伯爵家の長男として生きてきた貴方。

ことある事に「お前は穀潰しだ!」と詰っていた両親は態度を一変させて、「お前はこれから侯爵家を継ぐ為の教育を受けるんだ!甘えは許さない!」と私を消耗品のように扱います。

本来であれば姉が侯爵家を継ぐはずなのに伯爵家の跡継ぎである、貴方と結婚させる為にそれすらもねじ曲げてしまう両親。

その両親の姿に感動しながら涙ぐむ姉。

そして、私の婚約者は貴方の親友である伯爵家の三男に決まってしまいました。

どうしてこうなるのでしょう。

貴方が姉を虐げている元婚約者をどれほど恨んでいても、親友が悪女と結婚すると嫌悪感を露わにしても…

月が美しい夜には貴方の微笑みを…
柔らかい陽射しを浴びると貴方の優しさを…
大地を潤す雨が降ると貴方の慈しみを…

いくら季節が巡ろうとも私の気持ちは変わることなく、今でも貴方をお慕い申し上げております。

最後にこの手紙を貴方に送ってしまった浅はかな私を許さないで下さい。
恨んでいてもかまいません。

ただ、貴方を最期まで愛した一人の女がこの世に居たことを忘れないで…

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

貴方と婚約を解消して二年。

貴方が一番信頼していた侍女から訃報連絡が入った。それと同時に侍女から渡された手紙を開くと最初から涙が止まらなかった。

僕は貴方を心から愛し、生涯を共にできることを誇りに思っていたのに何故こんなことになってしまったのか。

新しく婚約者になった貴方の姉には、嫌悪感しか抱いていない。

正しく傲慢で癇癪持ちな貴方の姉とは生涯分かり合うことはできないだろう。

そして、僕は分かり合う気も無い。

王命で認められて愛し合う二人を自分の感情だけで引き裂き、自分が生まれ持った使命を放棄して妹に押し付けるような女に僕の子を産ませる気もない。

婚約解消の騒ぎに乗じて貴方の婚約者となった過去の親友にも怒りしか湧いてこない。
彼もこの件での被害者だが、貴方の最期の婚約者になった彼のことは一生許す事は出来ないだろう。

僕がこれからする事に貴方はきっと反対するだろうね。
それでも貴方を死に追いやった自分と関係者が許せそうに無い。

せめて、貴方の不名誉な噂だけでも払拭して貴方の元に向かおうと思うよ。

「なんで来たの!!」と貴方は怒るだろうか。
それとも優しく迎え入れてくれるだろうか。

きっと、どっちの貴方も美しい。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

彼は元婚約者を長年虐げていた格上の侯爵家の罪を明らかにし、自分と元婚約者の姉の間に結ばれた王命での婚約を白紙に戻すように王と交渉をした。

王は侯爵家の罪を認めて婚約を白紙に戻し、一家を伯爵家へ降格させて事実上の社交界からの追放を後押しした。

そして、断罪を見届けた彼は元婚約者を追うようにこの世を去った。

彼が亡くなったベッドの上には、ウエディングドレスが横に置かれていて左の薬指にはサイズの違う二つの結婚指輪が嵌められていた。

第一発見者である執事は、主を失った悲しみよりも先に主の最期の美しさに涙を流したそうだ。

【おしまい】
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