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龍樹が病院から立ち去ってから
少し時間が経った頃、
遥が病室で目を覚ました。
すぐに主治医が駆けつけて
軽い問診を受けたが
遥は記憶を失っていた。
遥が記憶を失ったのは
脳が現実から逃げることによって
身体を守ろうとした結果だろう。
記憶喪失が判明してからは
身体的な精密検査も行われた。
記憶を失う前の遥は
フェロモン数値が異常に低かったが
今では正常値に戻っている。
因果関係は分からないが
この状態であれば
龍樹にも遥のフェロモンが届いて
運命の番だと立証されるだろう。
しかし、主治医は
遥にこの事をどう伝えるか悩んでいた。
遥は高校に入学してからの記憶を
全て失ったため、龍樹のことも
千堂家の人間のことも覚えていない。
遥が入院していることや
記憶を失っていることを
遥の家族に連絡をしたのだが
家族からは千堂家の人間になった息子を
自分達の家に
戻らせるつもりはないと言われた。
八方塞がりだ。
先程、龍樹には遥と
関わらないことを言及したが
遥の家族から拒絶されたことにより
退院後は龍樹と住んでいる家に
帰らなければならないという状況になった。
成人しており
番契約も結んでいないオメガが
オメガシェルターに入る事は出来ない。
職も家もないオメガが
病院から放り出された場合に
生きていける可能性に賭けるよりも
龍樹との家に帰る方が安全なのだ。
今の2人に残された道は
遥と龍樹がきちんとお互いと向き合い、
過去と将来の事を考えていくことだけだ。
辛い過去のことを振り返って
相手のことを受け入れるのは
決して容易では無いが
お互いの想いをぶつけ合うことで
中和されるケースも少なくない。
これからはカウンセリングを通して
今まで以上にサポートしていこうと
主治医は決意を新たにしたのだった。
□□□□□□□□
side.遥
カーテンの隙間から差し込む
西日が眩しくて目を覚ますと
毎月僕が通っている病院だった。
見慣れた先生の顔が見えて
少し安堵したがそれも束の間だった。
前に会った時と比べて先生の見た目が
随分と歳を重ねたように感じたのだ。
それを先生に伝えると
僕の年齢や
最近ニュースで観たことなどを聞かれたが
僕が答えたものは
中学3年生の頃の記憶だった。
先生からは精神的ショックによる
記憶喪失だと診断された。
僕は高校卒業後に結婚をして
現在23歳になっているらしい。
結婚から5年経っているが
子どもは居らず
夫とは番の契約を結んでいないことも
先生が教えてくれた。
先生は言葉を選びながら
僕の過去を教えてくれたけど
結婚をしてから5年も経つのに
夫と番契約を結んでいない時点で
夫婦関係は良くなかったんだと察した。
それと同時に、
なぜ自分が病院にいるのかが
とても気になったので聞いてみると
考え込むように言葉に詰まってしまった。
そして先生は
僕の表情を確認しながら原因を話し始めた。
先生の話によると、
僕はヒート中に錯乱状態に陥り
自暴自棄になって食器を投げ散らかし
足を何ヶ所も切っていたため
夫が病院に連れてきたとのことだった。
僕はヒート中に錯乱状態になったり
そんな事をしたことは今までになかった。
どうしてそんな行動を起こしたのか
いくら考えても分からない。
先生にそのことを追求しても
言葉を濁すだけだったので
それ以上追求するのもやめた。
その後も次々と検査を受けたが
異常は見つからなかった。
そうしている内に先生が呼んだのか
僕の夫が迎えに来てくれたので
一緒に帰ることにした。
□□□□□□□□
side.龍樹
主治医から
遥の目が覚めたという連絡を受けた。
俺は迎えに行く事を少し躊躇ったが
自分が原因で起こった出来事だったため
迎えに行くことにした。
病院に着くと診察室に通されて
遥の記憶が無いことと
フェロモン数値が
正常になったことを聞かされた。
遥の記憶が無いという事に衝撃を受けたが
愚かな俺は神様がくれたチャンスだと思った。
病室に遥を迎えに行くと
そこには足を包帯で巻かれて
ベットに横になる遥の姿があった。
そして病室の中には
オレンジの匂いが溢れていた。
遥のフェロモンの匂いだ。
少し酸味のある匂いだが
他のオメガのフェロモンとは
比べ物にならないほどいい匂いがする。
もっと匂いを嗅いでいたかったが
遥の心境を考えると我に返り
歩く事が出来ない遥を優しく抱き上げて
病院を出て車に乗せて自宅に帰った。
少し時間が経った頃、
遥が病室で目を覚ました。
すぐに主治医が駆けつけて
軽い問診を受けたが
遥は記憶を失っていた。
遥が記憶を失ったのは
脳が現実から逃げることによって
身体を守ろうとした結果だろう。
記憶喪失が判明してからは
身体的な精密検査も行われた。
記憶を失う前の遥は
フェロモン数値が異常に低かったが
今では正常値に戻っている。
因果関係は分からないが
この状態であれば
龍樹にも遥のフェロモンが届いて
運命の番だと立証されるだろう。
しかし、主治医は
遥にこの事をどう伝えるか悩んでいた。
遥は高校に入学してからの記憶を
全て失ったため、龍樹のことも
千堂家の人間のことも覚えていない。
遥が入院していることや
記憶を失っていることを
遥の家族に連絡をしたのだが
家族からは千堂家の人間になった息子を
自分達の家に
戻らせるつもりはないと言われた。
八方塞がりだ。
先程、龍樹には遥と
関わらないことを言及したが
遥の家族から拒絶されたことにより
退院後は龍樹と住んでいる家に
帰らなければならないという状況になった。
成人しており
番契約も結んでいないオメガが
オメガシェルターに入る事は出来ない。
職も家もないオメガが
病院から放り出された場合に
生きていける可能性に賭けるよりも
龍樹との家に帰る方が安全なのだ。
今の2人に残された道は
遥と龍樹がきちんとお互いと向き合い、
過去と将来の事を考えていくことだけだ。
辛い過去のことを振り返って
相手のことを受け入れるのは
決して容易では無いが
お互いの想いをぶつけ合うことで
中和されるケースも少なくない。
これからはカウンセリングを通して
今まで以上にサポートしていこうと
主治医は決意を新たにしたのだった。
□□□□□□□□
side.遥
カーテンの隙間から差し込む
西日が眩しくて目を覚ますと
毎月僕が通っている病院だった。
見慣れた先生の顔が見えて
少し安堵したがそれも束の間だった。
前に会った時と比べて先生の見た目が
随分と歳を重ねたように感じたのだ。
それを先生に伝えると
僕の年齢や
最近ニュースで観たことなどを聞かれたが
僕が答えたものは
中学3年生の頃の記憶だった。
先生からは精神的ショックによる
記憶喪失だと診断された。
僕は高校卒業後に結婚をして
現在23歳になっているらしい。
結婚から5年経っているが
子どもは居らず
夫とは番の契約を結んでいないことも
先生が教えてくれた。
先生は言葉を選びながら
僕の過去を教えてくれたけど
結婚をしてから5年も経つのに
夫と番契約を結んでいない時点で
夫婦関係は良くなかったんだと察した。
それと同時に、
なぜ自分が病院にいるのかが
とても気になったので聞いてみると
考え込むように言葉に詰まってしまった。
そして先生は
僕の表情を確認しながら原因を話し始めた。
先生の話によると、
僕はヒート中に錯乱状態に陥り
自暴自棄になって食器を投げ散らかし
足を何ヶ所も切っていたため
夫が病院に連れてきたとのことだった。
僕はヒート中に錯乱状態になったり
そんな事をしたことは今までになかった。
どうしてそんな行動を起こしたのか
いくら考えても分からない。
先生にそのことを追求しても
言葉を濁すだけだったので
それ以上追求するのもやめた。
その後も次々と検査を受けたが
異常は見つからなかった。
そうしている内に先生が呼んだのか
僕の夫が迎えに来てくれたので
一緒に帰ることにした。
□□□□□□□□
side.龍樹
主治医から
遥の目が覚めたという連絡を受けた。
俺は迎えに行く事を少し躊躇ったが
自分が原因で起こった出来事だったため
迎えに行くことにした。
病院に着くと診察室に通されて
遥の記憶が無いことと
フェロモン数値が
正常になったことを聞かされた。
遥の記憶が無いという事に衝撃を受けたが
愚かな俺は神様がくれたチャンスだと思った。
病室に遥を迎えに行くと
そこには足を包帯で巻かれて
ベットに横になる遥の姿があった。
そして病室の中には
オレンジの匂いが溢れていた。
遥のフェロモンの匂いだ。
少し酸味のある匂いだが
他のオメガのフェロモンとは
比べ物にならないほどいい匂いがする。
もっと匂いを嗅いでいたかったが
遥の心境を考えると我に返り
歩く事が出来ない遥を優しく抱き上げて
病院を出て車に乗せて自宅に帰った。
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