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「遥さん、まだ良い報告は聞けないのかしら?」
定期的に掛かってくる義母からの
代わり映えのない電話の内容に対して
ため息を吐きたくなるのを我慢しながら
「申し訳ありません」と謝る青年。
青年の名前は千堂遥。
この世にオメガとして生を受けて、
18歳で千堂家に嫁いでもうすぐ5年が経つ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
side.遥
「千堂家に嫁いでから
5年も経つというのに
貴方はなぜ妊娠しないのかしら。
千堂家に嫁いだからには
後継ぎを産んでもらわないといけないのに…
まさか、龍樹が囲っている
貧しいオメガに先を越されるなんて事は
有り得ないでしょうね?」
「申し訳ありません…」
「大体、貴方達の間に
愛情が無いことなんて
結婚する時から分かっていたでしょう?
龍樹は昔から自分で決めた事は
絶対に譲らない性格だったけど
千堂家の将来を考えて
貴方と結婚したのよ?
それなのに貴方が妊娠しないって
どういうことかしら?
貴方、龍樹から少しでも
情を抱いて貰えるように
努力をしなくてはダメよ?
囲っているオメガなんて
放っておきなさい。
貴方が後継ぎを産めば
全てが解決するんだからーーー」
「はい。申し訳ありません。」
毎回このやり取りをしている気がする。
口を開けば後継ぎのことばかり。
僕の事を子を産む道具にしか思っていない。
( 僕が妊娠なんて…ありえない… )
なぜなら僕と龍樹さんは
昔の言い方で例えるなら白い結婚だ。
義母は無意識かわざとか
僕の心を抉るワードを必ず口にする。
僕の実家の加賀美家は
政界の大臣達とも関わりがある
親族経営の大企業で、
龍樹さんの実家は
日本屈指の大企業である。
この結婚は
龍樹さんの父を政界に入れる代わりに
経営状態が傾いている
僕の実家に対して金銭的に支援して貰う
政略的な結婚である。
" 龍樹が囲っているオメガ "
義母がよく口にするワードだ。
龍樹さんには僕と結婚する前から
番にしたいと思っているオメガがいる。
高校を卒業した後に番になるために
龍樹さんは千堂家を捨てようとしていた。
しかし義母が
そのオメガの存在を認める代わりに
僕との結婚を提案した。
認めると言っても
社会的に手出ししないという事である。
龍樹は千堂家から最愛のオメガを
守るために僕と結婚することを選んだ。
選ばされたという言葉の方が
正しいのかもしれない。
義父は龍樹さんがこれ以上
千堂家に牙を剥かないようにするために
政略的な意図を隠して
"遥が龍樹との結婚を強く望んだ"と
龍樹さんに対して伝えた。
それを聞いた龍樹さんは、
同じ高校に通い自分が大切にしている
オメガの存在を知っているにも関わらず
家の力を利用して結婚を強請ったと
僕の事を嫌悪している。
僕は本当ならば
龍樹さんと番になるはずだった湊さんを
陽の当たらない場所に陥れた存在だ。
龍樹さんから嫌悪されて当然だ。
□□□□□□□□
結婚初夜、龍樹さんから
「話がある」と言われて
リビングのソファーに
向かい合わせで座った。
遥はその時に自分の夫となった龍樹から
嫌悪感を丸出しにした視線を浴びた。
龍樹の恵まれた容姿も相まって
凄みが増していて遥の身体は震えた。
龍樹はその視線を和らげる事なく
「俺の恋人のオメガの事は
昔から知っているな?」と言った。
「……はい」
「俺と湊は、番になる約束をしている。
だが今回のお前との縁談によって
湊は世間的に妾という立場になった。
この縁談が無ければ
俺の隣に立つのは湊だったのにだ。
お前に対して愛情など抱かないし
それを期待する事はするな。
俺が身体を重ねるのも愛するのも
湊だけだということを忘れるな。」
責められる事は覚悟していたが
想像以上に容赦の無い言葉を
龍樹から投げつけられた。
政略結婚をさせられるのが僕の運命だと
小さい頃から気付いていた。
それでもまだ見ぬ将来の伴侶に対して
自分と誠実に向き合ってくれる
相手でありますようにと
ずっと心の中で密かに願いながら生きてきた。
しかし、遥の希望は
龍樹の言葉により粉々に打ち砕かれた。
「分かりました。
僕が何らかの原因で後継ぎを
産めないということを理由に挙げて
離婚出来るようにしましょう。
世間体も考えて6年ほどは
僕との離婚は我慢してください。
僕との結婚生活と並行して
湊さんとの関係は
これまで通り続けて頂いて大丈夫です。
しかし、湊さんが妊娠しないように
細心の注意を払ってください。
湊さんが子を宿せば
千堂家は黙っていないでしょうから。」
湊さんが妊娠をすれば
千堂家は黙っていないだろう。
婚外子を後継ぎになど認める訳もなく
湊さん諸共消し去ろうとするはずだ。
僕のことを拒絶した龍樹さんに対して
僕がしてあげられることは
これ以上、龍樹さんの愛する人である
湊さんを傷付けないことだけ…
定期的に掛かってくる義母からの
代わり映えのない電話の内容に対して
ため息を吐きたくなるのを我慢しながら
「申し訳ありません」と謝る青年。
青年の名前は千堂遥。
この世にオメガとして生を受けて、
18歳で千堂家に嫁いでもうすぐ5年が経つ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
side.遥
「千堂家に嫁いでから
5年も経つというのに
貴方はなぜ妊娠しないのかしら。
千堂家に嫁いだからには
後継ぎを産んでもらわないといけないのに…
まさか、龍樹が囲っている
貧しいオメガに先を越されるなんて事は
有り得ないでしょうね?」
「申し訳ありません…」
「大体、貴方達の間に
愛情が無いことなんて
結婚する時から分かっていたでしょう?
龍樹は昔から自分で決めた事は
絶対に譲らない性格だったけど
千堂家の将来を考えて
貴方と結婚したのよ?
それなのに貴方が妊娠しないって
どういうことかしら?
貴方、龍樹から少しでも
情を抱いて貰えるように
努力をしなくてはダメよ?
囲っているオメガなんて
放っておきなさい。
貴方が後継ぎを産めば
全てが解決するんだからーーー」
「はい。申し訳ありません。」
毎回このやり取りをしている気がする。
口を開けば後継ぎのことばかり。
僕の事を子を産む道具にしか思っていない。
( 僕が妊娠なんて…ありえない… )
なぜなら僕と龍樹さんは
昔の言い方で例えるなら白い結婚だ。
義母は無意識かわざとか
僕の心を抉るワードを必ず口にする。
僕の実家の加賀美家は
政界の大臣達とも関わりがある
親族経営の大企業で、
龍樹さんの実家は
日本屈指の大企業である。
この結婚は
龍樹さんの父を政界に入れる代わりに
経営状態が傾いている
僕の実家に対して金銭的に支援して貰う
政略的な結婚である。
" 龍樹が囲っているオメガ "
義母がよく口にするワードだ。
龍樹さんには僕と結婚する前から
番にしたいと思っているオメガがいる。
高校を卒業した後に番になるために
龍樹さんは千堂家を捨てようとしていた。
しかし義母が
そのオメガの存在を認める代わりに
僕との結婚を提案した。
認めると言っても
社会的に手出ししないという事である。
龍樹は千堂家から最愛のオメガを
守るために僕と結婚することを選んだ。
選ばされたという言葉の方が
正しいのかもしれない。
義父は龍樹さんがこれ以上
千堂家に牙を剥かないようにするために
政略的な意図を隠して
"遥が龍樹との結婚を強く望んだ"と
龍樹さんに対して伝えた。
それを聞いた龍樹さんは、
同じ高校に通い自分が大切にしている
オメガの存在を知っているにも関わらず
家の力を利用して結婚を強請ったと
僕の事を嫌悪している。
僕は本当ならば
龍樹さんと番になるはずだった湊さんを
陽の当たらない場所に陥れた存在だ。
龍樹さんから嫌悪されて当然だ。
□□□□□□□□
結婚初夜、龍樹さんから
「話がある」と言われて
リビングのソファーに
向かい合わせで座った。
遥はその時に自分の夫となった龍樹から
嫌悪感を丸出しにした視線を浴びた。
龍樹の恵まれた容姿も相まって
凄みが増していて遥の身体は震えた。
龍樹はその視線を和らげる事なく
「俺の恋人のオメガの事は
昔から知っているな?」と言った。
「……はい」
「俺と湊は、番になる約束をしている。
だが今回のお前との縁談によって
湊は世間的に妾という立場になった。
この縁談が無ければ
俺の隣に立つのは湊だったのにだ。
お前に対して愛情など抱かないし
それを期待する事はするな。
俺が身体を重ねるのも愛するのも
湊だけだということを忘れるな。」
責められる事は覚悟していたが
想像以上に容赦の無い言葉を
龍樹から投げつけられた。
政略結婚をさせられるのが僕の運命だと
小さい頃から気付いていた。
それでもまだ見ぬ将来の伴侶に対して
自分と誠実に向き合ってくれる
相手でありますようにと
ずっと心の中で密かに願いながら生きてきた。
しかし、遥の希望は
龍樹の言葉により粉々に打ち砕かれた。
「分かりました。
僕が何らかの原因で後継ぎを
産めないということを理由に挙げて
離婚出来るようにしましょう。
世間体も考えて6年ほどは
僕との離婚は我慢してください。
僕との結婚生活と並行して
湊さんとの関係は
これまで通り続けて頂いて大丈夫です。
しかし、湊さんが妊娠しないように
細心の注意を払ってください。
湊さんが子を宿せば
千堂家は黙っていないでしょうから。」
湊さんが妊娠をすれば
千堂家は黙っていないだろう。
婚外子を後継ぎになど認める訳もなく
湊さん諸共消し去ろうとするはずだ。
僕のことを拒絶した龍樹さんに対して
僕がしてあげられることは
これ以上、龍樹さんの愛する人である
湊さんを傷付けないことだけ…
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