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明かされる真実と復讐の始まり

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柔らかな日差しに包まれながら静かに目を開けると見慣れた景色が目の前に広がった。
いつも寝る時に見ていた天井、視線を横に移すと窓があって赤いバラが咲き誇る庭も見えた。

自分は死んだはずなのになぜここにいるのか分からなくなり、呆然としていたら部屋の外から「お嬢様」と声が掛けられた。
返事が無いことをおかしく思ったのか
一人の侍女が静かに扉を開けて部屋の中に入ってきた。
その侍女には見覚えがあった。
私が八歳の時に邸にやってきて十六歳の時に馬車で轢かれそうになった私のことを庇ってこの世を去ったリアだ。

そこでやっと自分が過去に戻ってきたのだと理解した。
不思議そうな顔で私の顔を見ているリアに向けて「鏡を取って欲しい」と告げて
用意された鏡を手に取ると、そこに映されていたのは幼い自分の姿。
リアに今は西暦何年?と聞くと○○○年五月三日だと教えてくれた。
奇しくも今日は私の十歳の誕生日だった…

着替えを済ませて一人で食事をしていると執事から「公爵様がお呼びです」と声を掛けられた。

途中で食事を切り上げて執事の後ろをついて行くと父の部屋の前で止まった。
執事から一人で入るようにと言われてドアをノックすると、すぐに「入れ」という声が掛かり部屋の中に足を踏み入れた。

前回の人生の中で父の部屋に足を踏み入れた事は一度もなかった。それに今日だって仕事で家に居なかったはずなのに…次々と謎が深まっていく。

部屋に入ってボーッとしていると父から「何をしている。早く座りなさい。」と言われてしまい恐る恐るソファーに座った。

「どうされましたか?お父様」

私の問いかけに父は眉を顰めた。

「どうしたではない。
自分の人生が巻き戻っていることに既に気付いているだろう?」

父の予想外の答えに私の表情が固まった。
もしかして、全員の人生が巻き戻り私のように前回の記憶があるとしたら同じことが繰り返されるのではと恐怖で身体が震えた。
その様子を見ていた父は声を和らげながら私に少しづつ説明を始めた。

「まず、時間が巻き戻ったのはステラと私だけだ。この国では魔法が使えるのは知っているな?」

問いかけに対して私は静かに頷いた。
この国では十歳の誕生日を迎えると自分が生まれ持った魔法の属性や適性を神官によって王都の広場で判定される。
しかし、私はその機会を与えられなかった。
この頃には既に今と同じように別邸で生活をしており、必要最低限の教育しか受ける事が出来なかったからだ。
適性検査は国民の義務であったが、義母は神官に賄賂を渡して私から検査を受ける機会を奪った。
私の考えていることが伝わったのか、父はそのまま発言を続けた。

「時間が巻き戻ったのは、私が魔法を使ったからだ。
他の者たちの時間も巻き戻っているが私たちの他にこの事を認識している者は居ない。
ネヴィル家には百年に一人、時を操れる能力を兼ね備えた魔法使いが生まれる。
この事は王家の人間にも知られてはならない。
そして、その能力は人生で一度しか使うことが出来ないが私はその能力を使って時を戻したのだ。」

王家に知られてはならないというのは、能力を悪用される事態を防ぐために決めたことだろうとすぐに察しがついた。
しかし、なぜ私が記憶を持ったままなのだろうかと不思議に思い父の顔を見ると
「質問はあとにしてくれ。」と言われた。
どうやら私の顔に感情が出ていたようだ。

「前回の記憶があるのは私が記憶を持たせたまま時が巻き戻るようにステラに魔法をかけたからだ。
そもそもあの能力を使ったのはステラとネヴィル家を本来の姿に戻すためだ。

お前は適性検査を受けれなかっただろう。
ネヴィル家の血筋の人間は光属性の魔法が使える。

反対にベラ義母とジュードは闇属性の魔法が使える。
いきなり使用人たちがお前の元を離れてベラたちに付くようになったのは、あいつらが精神を操る闇魔法を使ったからだ。
使用人たちはベラやジュードより魔法の魔力が低く大きく影響を受けているが、私やステラはその影響を受ける事は無い。

お前がベラたちから虐待されているのは、あいつらを監視するために設置した魔法器具で見て把握していた。

動かぬ証拠を押さえたと思っていたら、あいつらが一足先にお前を断頭台に送り私は次の人生に全てを託すために自分の手で娘の息の根を止めてしまったがな…」

次々に明かされる真相に自分の身体が震えるのを感じた。
それでもまだ多くの謎が残っている。
父の目を真っ直ぐに見つめ話の続きを求めた。

「ジュードは私の子ではない。
私はお前の母を心から愛しているが、ベラの事は何とも思っていない。むしろ憎いとまで思っている。オーロラステラの母との美しい思い出が詰まった部屋を踏み荒らしお前のことも排除したのだからな。
そもそもこの再婚はほぼ王命だ。
ベラは現在の国王の従姉妹にあたる。
ここ二十年ほど関係が冷えきっていた公爵家と王家の関係を元に戻すために、国王が私に後妻としてベラを娶ることを勧めたんだ。
私はそれを一度拒否したが、ステラの身の保証は無いと脅された事で再婚することになった。
ベラとは寝室を別にしているにも関わらず、何度も夜這いに来られて気持ち悪かった。
ついに耐えきれなくなり使用人の一人に金を握らせてベラの事を何度も抱かせた。魔法で使用人の顔を私に変えて私が抱いているように錯覚させた。
つまり、ジュードは私の子ではなく使用人とベラとの間に生まれた私生児だ。」

まさか魔法を使って使用人に自分の妻を抱かせて孕ませるなんて…
驚きのあまり言葉も出てこない。
そして何より人としてどうなのか…

「それでお父様は今回、何をするつもりなのですか?」

「決まっているだろう。お前を断頭台に送った親子とお前の無実を知っていながら処刑を指示した国王を断頭台に送ってやる。」

前回、裏切られたという記憶は簡単には消えないが父が時間を巻き戻してまで復讐をしようとしている事を知り私は協力することを決めた。

「しかし、それはいつ決行するのですか?ジュードはまだ幼いので改心させることも十分に可能だと思いますし今の状態では断頭台に送るための材料も弱くこちらが不利になりますよね…」

父はまたもや衝撃的なことを口にした。

「子というものは親の背中を見て育つ。
反面教師という言葉もあるが、性根の腐った親に育てられた子は大抵親に似た大人になるものだ。
ジュードは恐らくベラの生き写しのように成長するだろう。
例えそうならなくてもお前を断頭台に送るきっかけを作った張本人のジュードのことは何回殺しても殺し足りない。

この復讐を決行するのはジュードの十歳の誕生日だ。

前回はベラが神殿側に賄賂を渡し、光属性だと偽の証明書を作らせたが今回はそうはさせない。これからは今まで距離を置いていた神殿との関わりを深めていく。

その為にはステラ、お前の協力が必要だ。
これから私と共に広場に行き適性検査を受けてもらう。
ベラが前と同じように賄賂を渡しているだろうが今回は私が連れていく。
賄賂を渡す公爵夫人より私の方が優先されるからな。
周りからは風邪を引いている娘に見えるようにリマに頬紅をさしてもらえ。
続きは馬車の中で話そう。」

そうして一時間ほどに及ぶ父との会話が終了した。その後は父の指示通りにリマに化粧をしてもらい昼過ぎに父と一緒に馬車に乗り込んだ。
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