上 下
93 / 160
のんびり高速移動旅

093、白き者が泣く 3(男泣き)

しおりを挟む
そんな注意をしていると、リンが森の方に視線を移した。
「……シラツェーラ、話は変わるがご兄弟は何人かな?」
人を感知したようで、リンがシラツェーラに尋ねる。
「えっ?あの、にいちゃんとねえちゃんがいるよ」
「探しに来てるぞ、ご両親とご兄弟も」
「えっ?どこに?」
「この方角にみんないるよ。もしかして、この場所はシラツェーラの好きな場所かな?」
「うん、にいちゃんと二人だけの秘密の場所なんだ」
「そうか、先導している彼がお兄さんなのだろうな。みなこちらを目指して歩いてきているよ」
ようやく、耳を澄ませば微かに名前を呼んでいるような気もしてきて、今更になって状況を見返した。
「あっ、どうしよ、コレ?」
「治療してしまったのだから、説明はしないといけないだろう」
「だよなー。えーっと、あとは頼んだ」
「そう言うと思ったよ。少しだけでっち上げるがいいか?」
「何を?」
「コウが精霊に呼ばれたとかはどうだい?」
「うーん、なら俺じゃなくてお前が治したことにして」
「それは無理だな。人の手柄を横取りする性分ではなくてな」
「いや、手柄じゃねぇし、そこをなんとか」
「すまないな」
「うー、俺はあいつらのとこに戻る、じゃっ」
ラウ達は少し離れたところに置いてきた。
従魔を見慣れてる子供はそういないだろうし、怖がらせてしまう可能性もあると、魔除けと目隠しの魔法もしてある。
「コウ、いるだけでいいから、いてくれ」
「うー……分かった」
シラツェーラーと呼んでいる声がはっきりと聞こえ、シラツェーラが声の方を向いた。
「あの、僕はどうすれば?」
「ここだと答えてあげるといい」
リンの言葉に頷き、ここだよーっと大きな声を出した。

「心配したのよ」
「無事だったんだな」
母親がシラツェーラを抱き締め、その上から父親か二人を抱き締めた。
そして、兄と姉はシラツェーラと両親を見たあと、俺らをじっと見た。
「あなた方は?」
お兄ちゃんがキリッとした目で吟味している。
「わたしは、リン。こっちはコウと言う。旅の途中なのだが、ここを通りかかりってシラツェーラに会ったんだ」
「こんな夜更けに?」
「宿がこの先でね。それで、ご家族に無断で悪いがシラツェーラを治療してしまった、すまない」
その言葉に皆、一斉にこちらを見て、次にシラツェーラを見た。
「何を……えっ、目が……」
「ど……どうなって……」
「彼は口下手なので、私が代弁するが、いいだろうか?」
皆の視線がリンから俺に代わり、居たたまれなくてリンの陰に隠れると、誰かが頷いた気配。
「話してもらえますか」
シラツェーラの父親がリンに向き、リンが頷いた。
「彼は魔法の制御が出来ないが、治療師としては優秀なんだ。私の古傷も一瞬の内に治せる程でね。彼がシラツェーラの話を聞き、白き者の状態を考えいる内に治療魔法を作り出してしまった。また同じものが出せるか分からないからと、シラツェーラに許可を取って治療したというのが大まかな流れだ」
でっち上げは却下で、ざっくりとした説明にまとめたリン。
「本当に、治ったのですか?」
そりゃごもっともな質問、シラツェーラの瞳の色が変わったからと言っても、治ったとはまた別の話。
「本当に治ったかは、明日の朝、日の光の下を無事に歩けてからだろう。それにシラツェーラの目の見え方は治ったと本人から聞いている」
その言葉にリンに向いていた視線がシラツェーラへと戻ると、シラツェーラが頷き、真ん中だけじゃないんだ、周りも全部見えるよっと嬉しそうに話す。
その言葉に家族の俺らへの警戒心が薄れてきたが、兄ちゃんだけはまだ厳しめな表情。
「治療魔法を作り出した?」
「信じられないと思うが、彼は作り出せてしまう、しかも演唱もなしに、これは口外しないで欲しい案件だがね」
その言葉に兄ちゃん少し考えた後、歩きだし、俺の前に来た。
「……完全に納得した訳ではないが……シラツェーラが笑顔なのは、あなたのおかげだ、本当にありがとう」
その言葉に他の家族も集まり、俺の周りに来ては口々に感謝を述べる。
「いや、あの、だから明日にならなきゃ、本当に治ったかは、あの……」
そんな状況に、俺は後退りしながら、しどろもどろに応えるとまたもや兄ちゃんが一歩踏み出した。
「だとしても、しっかりと目を見開いて笑っている。それだけでも凄い治療だ。治療師に診せても治らないと言われ。物知りだと言われる旅人の神父でさえも無理だと言っていた。それが……」
過去に色々とシラツェーラの為に尽力したのは、この兄ちゃんのようだ、目頭を押さえての男泣き。
父親も兄ちゃんの肩に手を置き、労っている。
「私たちが働いている間、シラツェーラの為にと色々と動いてくれたのはこの子です。この子の苦労もこれで報われました。ありがとうございます」
「いや、だから、明日にならないと本当に治ったかは……」
「……そうですね。明日ですね」
短く男泣きを終わらせた兄ちゃんは、少し潤みの残った目を擦ると、一度深呼吸し、今度はリンに向いた。
「明日、また会えますか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

処理中です...